表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/604

第340話 戦乱 57

 目指す場所は玉座の間。

実にそれらしい場所で待ってくれてるらしい。


「王道だね。決着を着けるに相応しい場所!フフ…燃える」


「こういうのに王道とかあるのか?」


「さぁ…私は知りませんが…」


「アイ様も時々ジュン様と同じでわかんない事言いますよねー」


「うっ…ふ、ふふん。ま、夫婦は似て来るって言うしね~」


「「「む」」」


 まだ夫婦じゃないけどね…とっ、そんな事よりもだ。


「玉座の間へはあの階段かな」


「ああ。しかし、あんたら。この状況で余裕だな」


「そう見えます?」


 ヴェルリアの騎士達の間を抜けてボク達を狙って来る相手は僅かだがいる。

それらはリリーの弓とシャクティの糸で即座に鎮圧。

もしくはアイが一瞬で気絶させてる。


「ここから更に奥に階段があって、その階段を昇って真っ直ぐ進んだ先が玉座の間だ」


「ふうん。お城だけあってそこそこ広いけど、ヴェルリアやエルムバーンの城に比べると小さいよね」


「うん。所詮は小国」


「そうなのか?俺は城に入った事なんてないからわからないが…これで充分な大きさじゃないのか?というか、よくこんなデカい建物に住む気になるもんだ」


 転生したての頃はボクも似たような事思ったな。

しかし、思ったより敵兵が少ない気がする。

一階に集中してたか?それとも…玉座の間を護ってるか。


「ご主人様、そこの部屋誰か居るよ」


「ん?何人居るかわかる?」


「うんとね~…3人くらい。金属の匂いはあんまりしないから騎士さんじゃなさそ~」


 という事は、非戦闘員…メイドとか執事か。

避難が遅れて逃げ遅れたか、見捨てられたか。


「如何しますか、ジュン様」


「メイドさんとかなら見逃してあげれば?」


「本当にメイドならいいけど。ノエラみたいに暗殺者の技術を持ってたら放置は危険かもよ?」


「ん~…でも、ちょっと泣いてる声が聞こえるですぅ」


 泣いてる?子供?

…このまま放置してると、戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれない、か。


「ん~…取り合えず」


「ノックって…」


「ノックは無用でしょ」


 何かそんな番組あったな~日本で。

ユウは知らないと思うが。


「失礼しまーす。…ハティ、何処かな?」


「あの奥の窪みかなぁ~」


 扉の向こうは…リネン庫か。

ベッドシーツや毛布やらが置かれてる部屋。

ハティの指摘が聞こえたのだろう、ヒッと息を呑む声が聞こえた。


「出て来てくれないか。君達が此方を襲わない限り、此方も君達に危害を加えたりしない」


「……」


 やはり子供…と言っても成人はしてるか?

女の子ばかり…が三人。メイド見習いといったとこか?

見た目通りの年齢なら、だが。

一番気の強そうな女の子がナイフを構えてる。


「…まず、その物騒な物を下げてくれないか。落ち着いて話を…」


「く、来るな!人殺し共!」


「人殺し共って…」


「お、お父さんは…私達のお父さん達は国を護る騎士だ!お父さんを殺したお前達を決して許さない!」


「…そうか。ならどうする?此処でボク達に戦いを挑むのか?そうは見えないかもしれないが、ボク達は結構強いぞ?こっちの女の子は勇者だし、こっちのオジさんは剣聖級だ」


「うっ…」


「悪いけど、君の復讐心を満たす為に殺されてあげる事は出来ない。それに厳しい事を言わせてもらうが、君のお父さん達だってヴェルリアの人を何人も殺してる。一方的な被害者ではないだろう?家族を失った悲しみは解るけど、相手も同じだという事を忘れちゃいけない」


「……」


「何て月並みなセリフじゃ、割り切れやしないよね。理屈じゃないもんね、憎しみや怒りは。だけど今は生き延びる事を優先しなさい。そして力を着けて、その時改めて復讐を遂げるか決めなさい」


「うっ、うぅ…」


 わかってもらえた…かな?

取り合えず、この場で無謀な真似は諦めてくれたようだ。

しかし、この子達はどうするか…誰かを見張りに残す訳にもいかないし。

いや、ゴーレムでいいか。後は…結界も張ろう。


「君達はこの結界の中にいなさい。それから君達の守りにゴーレムを置いておく。結界から出なければヴェルリアの兵に襲われる事は無い。いいね?」


「…はい」


「……君達のお父さんは、何処で?」


「…私のお父さんは…王都の門を護ってた」


「私のお父さんも…」


「私は…お姉ちゃんが一階を…」


 王都の門を護ってた?なら…生きてるんじゃないか?

半数は捕虜にはなってる筈だが…確実じゃないし、言わないでおこう。

あと…お姉ちゃん?

この子、さっきから誰かに似てると思ってたんだけど…捕まえて情報を聞きだした犬人族の女性の妹か?もしかして。


「君のお姉ちゃんて、もしかしてこんな感じの人?」


「あ!お姉ちゃん!」


 立体映像を出す魔法で、あの犬人族の女性騎士を出してみた。

やはり、あの人がこの子のお姉ちゃんらしい。


「この女性なら大丈夫だ。ボク達がさっき捕虜にした。怪我一つさせていない。今すぐには会えないけど、いつか必ずまた会えるよ」


「ほんとですか!…ああ、よかった、お姉ちゃん…」


「…心に傷は負ったかもしれないけどね~」


「え?」


「不安にさせる事は言わなくていい。大丈夫だからね。それじゃ、ボク達は行くから。その結界から出ちゃ駄目だよ」


「…はい。あの、その張り紙は?」


「ん?『この子達はジュン・エルムバーンが捕虜としました。手出し無用です』って書いてるだけ。これで他の人が君達を襲う事は無いはずだよ。結界から出なければね。じゃあね」


「はい…エルムバーン?」


 女の子の疑問の声を背に部屋を出た。

さて、後は玉座の間まですんなりと行けるといいのだけど。


「意外だな」


「何がです?」


「あの子に復讐を諦めろって言わなかった事が、だ。てっきり魔王子さんは、『復讐なんて無意味だ』とか『復讐は何も生み出さない』とか。そういう事を言うタイプかと」


「……」


「……」


「アイシス…バルトハルトさん…」


「…その考えも否定はしませんよ。でも、ボクは無意味だとは思いませんね。生きている人だけが大切なんじゃない。大切な人が死んでしまったら、大切じゃなくなるわけじゃない。仮にボクにとって大事な人が殺されたら…怒りと憎しみに囚われ、復讐者になると思います。ボクだってね」


「…そうか。よかった、安心したよ。魔王子さんとはこれからも上手くやれそうだ」


「ディノスさんの目的は復讐でしたね。では、そろそろ聞いてもいいですか。ブラドを追う理由を」


「…ああ。ブラドは俺の恋人を…サリアを殺したんだ。だから奴を殺す。わかりやすいだろう?」


「そう、ですか…何故、ブラドはサリアさん…ディノスさんの恋人を?」


「ブラドもサリアに惚れてたのさ。俺と別れて自分の下に来るようにずっとしつこく言い寄ってた。あんまりしつこいんで俺が殴り飛ばしてやったのさ。そしたら、その日の夜。奴はサリアの血を吸い、殺した。そして行方をくらませたってわけだ。やっと奴を殺せる…」


 という事はディノスさんとブラドは、それまでは普通の知人だった?吸血鬼と?

…おかしくはない、か。大昔に淘汰されて以来、吸血鬼は隠れるように生きている。

ブラドも、ブラドに従う他の吸血鬼も。

この戦争に参加するまで、何処かで大人しくしていたのだろうし。


「もうすぐだ…もうすぐだぞ、ブラド…」


 復讐を止める気は無いけど…怒りに我を忘れて足元を掬われる事がなければいいけど。

ボク達でフォローするしかない、か。


「テオ叔父さん…」


 アイシスも、テオさんが死ぬ事になった原因を作ったエスカロンを許しはしないだろう。

勿論バルトハルトさんも。


 そしてボクも、大勢の人を実験台にしたあのマッド爺を許すわけには行かない。

ルーとクー、レヴィさんとヒーノの為にも必ず此処で倒す。


「着いたぞ、ジュン様。この扉の向こうが玉座の間だ」


 ようやく、この戦争の最終決戦の場に辿り着いた。

この扉を開けた時、この戦争最後の戦いが始まる。


「ジュン…」


「お兄ちゃん…」


「…行こうか」


 早く戦争を終わらせて…日常へ戻ろう。


 決着の時だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ