第332話 戦乱 49
「いよいよだね」
「うん…なんていうか、人が集まってるだけだけど、大迫力だね」
「うん。映画みたい…」
アイが思わず、この世界には無い映画なんて言葉を口にしてしまうが、無理も無い。
今、ボク達は戦場の上空に浮かんで様子を見ているのだが、味方が約十六万。敵軍が約八万。
合計で約二十四万の騎士や兵が睨み合ってるわけだ。
こんなの、前世では映画くらいでしか見ない光景だし、この世界でも初めて見る光景だ。
「で、やっぱりいるか、ドラゴン」
「え~と5、6、7、…10匹かな」
「今度はワイバーンもいるね。20くらいかな」
そして敵兵は全てでは無いが大半が魔獣兵。
数はこちらが圧倒してるが質は向こうが上。
…苦戦しそうだな。
「ジュン様、そろそろ時間だ」
「ヴェルリア軍本営に参りませんと」
「わかった。戻ろうか」
ヴェルリア軍本営にはヴェルリア王家の面々に、各指揮官。
アイシスやバルトハルトさんもいる。
エルムバーンからの参加者はボクとカイエンとロレンタ。
セバストとノエラは後ろで控えている。
ちなみにセリアたんは本営テントの前で体育座りしてた。
「すみません、ボク達が最後ですか」
「いや、クアドラ魔王国とサンドーラ王国の者がまだだ」
「サンドーラ?サンドーラ王国も参加するのですか?」
「うむ。こちらが優勢だと知ると慌てて軍を出して来たのだ」
「それでも出さないよりはね。僅か千の天馬騎士団だけど」
たった千…あの国王と王子らしいな。
それでも敵に空中戦力がいたら任せる事が出来るだろうか。
「お待たせしました。クアドラ魔王国軍指揮官、メリッサ・クアドラです」
「同じく、指揮官補佐のマリーダ・クアドラです」
メリッサとマリーダさんの二人と、クアドラ魔王国の騎士と思しき二人。
その後すぐにサンドーラ王国の指揮官も来たので開戦前の最終打ち合わせを行う。
「始めるわね。敵の布陣は私達から見て左側を手薄にしてるわ。代わりにドラゴンやらゴーレムやらを多く配置してる。魔王国軍はまともに相手にする気が無いって事でしょうね」
ヴェルリア側の軍は左・中央・右の三つに別れ、左にエルムバーンとクアドラの軍を含む約四万の軍が。右にも約四万。中央に約八万の配置だ。
対して、敵は左に一万の軍と多数のゴーレムやらドラゴンを。
右に二万、中央に五万だ。
「それでは、左から攻めますか?」
「罠の可能性もあります。何せ此処は敵地ですからな」
「数は圧倒的にこちらが上なのです。小細工なしの正面からぶつかりましょう」
「いいえ。先ずは相手の出方を見るわ」
「何故です?」
「まだ敵の新兵器の正体が分かってないからよ。迂闊に攻め込むのは危険だわ」
敵の新兵器…アンナさんもスパイを送って調べようとしたらしいが、まだ何も判っていない。
「そこで、だ。先ずは各隊、防御陣形を引け。サンドーラの天馬騎士団は機動力を活かして空中から各方面を遊撃支援を頼む」
「「「はっ」」」
「ジュンちゃんと親衛隊は好きに動いていいわ」
「はい?」
「状況を見て、ジュンちゃんがいいと思うように動いてくれたらいい。多分それがジュンちゃんの高い能力を一番活かせると思うから」
丸投げ…とも言えなくも無い気がするけど…恐らくはボクに対する気遣いもあるのだろう。
それと何か不足の事態に陥った時や、間違った判断をした時にフォローしてくれる存在も欲しいといったとこか。
「では…我々は先ず、敵のドラゴンやワイバーン、ゴーレムを排除に動きます」
「わかったわ。それじゃ他に無ければ撤退時の合流場所なんかの最終確認をするわよ」
会議は一時間も掛からず終わり。
太陽が戦場の真上に来た頃、戦いが始まった。
「向こうから距離を詰めて来ましたね」
「とはいえ、まだ距離があるから魔法と弓の撃ち合いか」
敵軍は魔法と弓を撃ちながら前進してくる。
ある程度距離を詰めたら最前列に配置してるゴーレムや重装騎士を先頭に突っ込んで来るだろう。
「カイエン、何か怪しい物見える?」
「いえ、これと言った物は」
「そっか…」
開戦前に、当然偵察はしてある。
カイエンの千里眼と、インビジブルバードを使った偵察。
その両方の偵察では、新兵器は発見出来なかった。
戦いが始まっても何も見えないって事は新兵器は実は存在しない可能性もあるか?
「ジュン様、ワイバーンが向かって来ます」
「おっと。じゃあ先ずはワイバーンから片付けるか」
空中から攻撃を続けるサンドーラの天馬騎士団を攻撃させるつもりなのか、ワイバーンが突っ込んで来た。
ワイバーンニ十匹程度なら天馬騎士団で何とでも出来るだろうが、魔獣は引き受けると断言したんだ。
責任を持って倒すとしよう。
「ニ十匹程度なら、ボクとリリーとハティだけで充分だろう。行こうか」
「はいですぅ」
「は~い!」
「お待ちを、ジュン様。今気が付きましたが…ワイバーンをよく見て下さい」
「ん?…あれは…」
「ワイバーンが鎧着てる?」
本当だ、ワイバーンが何やら防具を付けてる。
流石にアダマンタイトやオリハルコンなんて事は無いだろうけど…鋼鉄製くらいの防具かもしれない。
「そうか…支配してるなら鎧を着せるくらい出来るか」
「それよか、ジュン。早く行かないと迎撃が間に合わないよ」
「うん。転移する。皆で行くよ。ルチーナはハティの背に乗せてもらって」
「はい!」
天馬騎士団に向って飛ぶワイバーンの前方に転移。戦闘を開始する。
「ワイバーンは我々が倒します!そちらは攻撃を続けてください!」
「はっ!頼みます!」
天馬騎士団の一人に告げてから、攻撃を開始する。
ワイバーンは頭部・胴体・翼・足に防具が装備されている。
「だがしかし!ボクには通用しない!」
「リリーにも通用しないですぅ!」
「ウチにも通用しない!」
ボクには鎧を無視して斬る事が出来る【アトロポス】がある。
リリーはワイバーンが防具を付けてない部分を弓矢で打ち抜く事が出来る。
アイには拳聖の闘気を叩き込めば鋼鉄の鎧だろうと粉砕出来る。
ワイバーンが防具を着けた所で今更苦戦する事は無い。
他の皆も、普通のワイバーンより多少時間が掛かった程度だ。
「おお…あれが噂のエルムバーンの魔王子様と側近の人達…」
「凄く強いけど、戦場でメイド服と執事服はどうなんだ?」
傍で見ていた天馬騎士団からそんな声が聞こえる。
うん、確かに戦場でメイド服と執事服の戦士が居るのはどうかと思う。
「よし、戻るよ」
「「「はい」」」
ワイバーンは問題無く始末出来たのでエルムバーン軍の配置場所へ戻る。
いっそこのままドラゴンを倒しに行くのもいいかと思ったが…ボク達だけ突出する形になるので控えた。
「ただいま、カイエン。何か動きあった?」
「いえ。まだ魔法と弓矢での牽制のみです。双方防御結界を張ってますので、互いに大きな被害は出ていません」
「それと総指揮官から、少しずつ後退するように指示が出ました。敵の動きが少し妙なのが気になるんでしょうね」
「あれ、ロレンタ。どうしたの」
「はい。今言ったように敵の動きが妙だと感じましたので。カイエン隊長の意見も聞こうと」
「妙?どこが?」
敵はまだ魔法と弓矢で攻撃しつつ前進してるだけに見えるんだけど…
「はい、前進する速度がゆっくり過ぎます。それに、敵の中央の部隊が少しずつ左右に流れて中央が薄くなって来てます」
「言われてみれば…」
確かに、敵軍の配置が最初より横長になってる。
中央も…まるで後ろから来る何かの為に道を空けているような…
「ん?通信が来てる?」
『魔王子さんか!?聞こえるか!?』
「ディノスさん?無事でしたか!」
『話は後だ!戦場に居るなら逃げろ!全軍を撤退させろ!』
「!? どういう事です?」
『奴らとんでもない物用意してる!そのまま戦場に居たらとんでもない被害が出るぞ!』
とんでもない物…新兵器か?
「新兵器の情報を掴んだんですか?」
『新兵器?違う!新兵器じゃない、古代兵器だ!奴ら神族の遺跡からとんでもない物発掘したんだ!いいから早く逃げるんだ!』
「ジュン様、アレを!」
あれは…何だ?
「巨人?いや…違う。超巨大なゴーレム?」
『遅かったか…』
敵軍の背後の山間から姿を見せたのは全長百mはありそうな巨大な人型ゴーレム。
だが、魔法で作った物では無く…恐らくは以前の地下墳墓で見たドラゴン型のゴーレムと同様、手で作られた物だ。
「ヤバいな。突っ込んで来る」
「ジュン様、全軍撤退命令が出ました。撤退しましょう」
「うん。カイエン、ロレンタ、撤退を。ボクは時間を稼ぐ」
「はっ!…は?」
「ま、待ってください。アレをジュン様が何とかすると?」
「いいや、撤退の時間を稼ぐだけだよ」
なんの足止めもせずに撤退すれば間違いなく大きな被害を受ける。
無防備となった背後から攻撃を受ける事になるのだから。
そこで…
「スーパーギガントロックゴーレム!」
サイズを相手の巨大ゴーレムに合わせただけのギガントロックゴーレムだが…足止めは出来るだろう。
「アイも出して。それから撤退するよ」
「うん!」
アイもスーパーギガントロックゴーレムを出し、二体で足止めさせる。
動きからして性能は向こうの方が格段に上だが…足止めだけなら充分…
「て、うそん」
「拳一発で破壊された!?」
ボクが出したゴーレムはただのパンチで胴体を貫かれて崩れ落ちた。
アイのゴーレムは、アイが操作してなんとか攻撃を躱してる。
「…カイエン、ロレンタ。早く撤退させて」
「はっ!ジュン様もお早く!」
「わかってる。ボクには転移魔法があるから、心配しないで」
追加でスーパーギガントロックゴーレムを二体出した。
スーパーギガントロックゴーレムを三体も出すと流石に消費魔力も大きい。
転移して逃げる分を考えるとこれ以上は出せないな。
「ヴェルリア軍はとっくに撤退を開始してるね?」
「はい。もう少し時間を稼げば何とかなるかと」
「うん。ボクのゴーレムは壁にする。アイは何とか時間を稼いで…何か仕掛けて来るぞ!」
敵の巨大ゴーレムの眼が赤く光りだし、光が増して行く。
これはもしかして…
「眼に魔法兵器!?」
「狙ってるのは…天馬騎士団か!避けろぉー!」
ゴッ
と、ゴーレムの眼から、まるでビームのような魔法が放たれサンドーラの天馬騎士団を襲う。
直撃を受け、生き残った天馬騎士団の数は二百にも満たなそうだ。
まるで神獣のドラゴンのブレスだ。
「くっ…アイ、もう撃たせるな!」
「うん!」
あれが撤退中の地上部隊に放たれたら…想像を絶する被害が出る。
もう撃たせるわけには…ん?
「何か…ゴーレムが手を振ってるよ?」
「まるで『行け』って言ってるような…」
見逃すつもりか?
圧倒的に有利になったのに?
「…皆、いつでも転移で逃げれるようにボクの傍に。味方が充分に離れるまで待機する」
「「「はい」」」
巨大ゴーレムと敵軍は前進を止め。
結局その後、こちらの撤退が完了するまで何もして来なかった。
あれはヤバい。
何らかの対抗策を用意しないと…




