第327話 戦乱 44
「それでは交渉は?」
「はい、全て問題無く。強いて言うなら…」
「ポ、ポーラさんが僕の婚約者になりました…」
「え?あれ?ポーラ殿には婚約者が…あ」
「ええ…ポーラさんの婚約者も小国同盟内の国が相手ですから…」
「モラン王国の時と同じです…」
エーゼオン王国の王城に到着した日には結局、交渉は行わず翌日となった。
交渉は恙無く進み、大きな問題も無く終わったらしい。
シルヴァン君に新たな婚約者が増えた以外は。
「やっぱり貴女の情報は当てにならないわね」
「い、いや、間違いを言ったわけじゃないじゃないですか!ポーラ殿に婚約者は居たのは確かですよ!ね?そうですよね、師匠!」
「そうだけど、城内では静かにしてなさい。変装してても君が誰なのか知られたら、面倒くさいんだから」
今回も、ボク達は勿論だが、メリッサも引き続き変装してある。
今の所バレてないと思うが、用心はしないと。
「でも、もういいんじゃないの?交渉が纏まったならウチらが此処にいるってバレた所で…」
「ボクらは良いけど、メリッサはダメ。まだクアドラ魔王国は小国同盟側なんだから。エーゼオン王国にも余計な疑問を持たせる事になりかねないし」
「うぅ…父上、早く決断してください…」
そう遠くない話だと思うけどね。
小国同盟は十二の小国が手を組んで出来た同盟だ。
十二の小国の力を併せて戦えばヴェルリア王国だけを相手にするなら、戦力は上かもしれない。
だからこそ、宣戦布告無しの奇襲もあって最初は優勢だった。
だが現在は、エルムバーン魔王国をはじめ、ヴェルリア王国の同盟国も参戦。
ミトラス王国の同盟離脱。
更にモラン王国とエーゼオン王国の同盟離脱となれば、クアドラ魔王国もこちらに付かざるを得ないだろう。何せ、次にヴェルリア王国が狙うとしたら位置的にクアドラ魔王国かガリア魔王国になるのだから。
「それで、マークスさん。直ぐに戻りますか?」
「はい、明日にでも。ですが、ライアン陛下の要望で、ポーラさんとシルヴァンが一緒に過ごす時間を作って欲しいとの事で」
「未来の夫婦となる二人ですもんね」
「しっかりな、シルヴァン」
「嫌われるような事するんじゃないわよ」
「プ、プレッシャーを掛けないでください…」
「シルヴァン君はジュンと同じで婚約者が三人かぁ。弟二人にも先を越されそうだね、カタリナ」
「う…言うじゃないか、アイ。…だが、そう思うなら協力してくれないか?」
「そうよ。友達でしょ?私達なら同じ夫を持っても仲良くやっていけると思うんだけどなぁ」
「あのねぇ…」
「ジュン様には婚約者候補も妾候補もハーレムメンバー候補も沢山いますから。御友人だからと簡単に婚約者に認められはしません」
「ノエラはそんなにお仕置きされたいのかな?ハーレムなんて作らないってば。あと、妾も」
どうしてそんなにハーレムを作らせたいのか。
ボクにそんなつもりは…ん?
「失礼します」
「ポーラさんですか。何か御用ですか?」
「はい。あの…シルヴァン様と御話しがしたくて。よかったらお庭でも散歩しませんか?私が育ててる花壇があるんですけど…」
「あ、はい。よ、喜んで」
「行ってらっしゃい。仲良くね、シルヴァン」
「アイシス、セリア」
「あ、うん。りょーかい」
「ん」
城の庭を歩くだけとはいえ、護衛は必要なのでアイシスとセリアさんが付いて行った。
クリステアとルチーナに行かせても良かったんだけど、二人はエルムバーンの騎士。
カタリナさんも頼みにくいだろう。
それにしても…
「ポーラさんはなんというか、積極的ですね。十歳の女の子にしてはしっかりしてるみたいですし」
「そうだね。それに婚約者がシルヴァン君に変わった事もアッサリと受け入れてるみたいだし」
「昨日は年相応の女の子にしか見えなかったけど。今日は少し大人びて見えるね」
「同意だが…それを君達が言うか?」
「本当よね。アンナお母様も言ってたけど、ジュンだけじゃなく、ユウとアイも見た目よりずっと大人よね」
「そう?ふっ、早くも大人の色気を身に付けてしまったかしら」
「お兄ちゃんが私の色気に堕とされるのも時間の問題かしら」
「色気があるとは誰も言ってないかしら」
妹に色気なんて感じないから。
感じたとしても堕ちたりしないから。
「ポーラ殿は小国同盟内では有名だそうですよ。天才少女だとか。アンナお母様からの情報にありました」
「へぇ?そうなの?メリッサ」
「え?ええと…確か…読み書きと簡単な計算なら七歳までにはほぼ完璧に出来るようになって、十歳となった今は政を手伝っているとか。私とは違うタイプの天才ですね!」
それは確かに凄い。
十歳で政の手伝いとか。前世のボクにはどう足掻いても無理だな。
「ていうか、今、サラッと自分を天才と言ったわね」
「い、いいじゃないですか。皆そう言ってくれたし。剣と魔法なら自信ありますよ?」
「いいけどさ。ねぇ、そういえばお姉さんのマリーダさんには何か異名は無いの?」
「あ…有るには有るんですが…姉上はあまり嬉しくないそうなので。出来れば訊かないで下さい。私が教えたって姉上にバレたら…怖いですし」
「ふ~ん…じゃあ、マークスさん。どうぞ」
「え?ああ、はい」
「ちょっと?ユウ殿?私の話聞いてました?」
「マークスさんから聞いたならメリッサは怒られないでしょ。ささ、どうぞ」
「はぁ…マリーダさんは『クアドラの美魔女』と呼ばれてるそうです」
「「「美魔女」」」
美魔女て。
十五歳の女の子に美魔女て。
いや、流石に日本で使ってた美魔女とは違う意味か。
読んで字のごとく『美しい魔女』だろうか。
「…はぁ。姉上は魔眼の力で嘘を見抜けます。つまりは犯罪者を見つけるのにこれ以上の力はありません。ですので、犯罪者を見つけ、不正を暴いて来た姉上を犯罪者どもは魔女と呼んだのです。それが始まりとなって、いつしか『クアドラの美魔女』と呼ばれるようになったのです」
「美しい魔女で美魔女か。メリッサ殿とマリーダ殿は性格だけじゃなく、容姿も似てないのか?双子なのに」
「む!?それはどういう意味ですか、カタリナ殿!姉上は美人で私は違うとでも!?」
「そうは言ってない。だがメリッサ殿の異名は『クアドラの戦姫』だろう?随分違いがあるじゃないか」
「そ、それはそうですが…姉上と私はそっくりですよ。ただ…胸は姉上の方が大きいですが…それだけです!」
「そうか胸か…それは悪い事を聞いたな。すまない」
「う…いえ…」
そうなのかぁ。
四年前は差なんて無かったけど、この四年で差が付いてしまったのか。双子なのに。
「師匠…今、私の胸に視線を送ってませんでしたか」
「いいえ、全く」
「う~…言っておきますけど、私の胸は小さいわけじゃないですよ!普通です!」
「逆に言えば大きくもないって事よね」
「年下のウチらと同じくらいだもんね。来年にはウチらは巨乳の仲間入りね」
「ぐ…ぐぬぬぬ…し、師匠~…」
そこで助けを求めるような眼で見られても。
ボクにはどうしようもない。
その日はそんな話をして過ごし。
夜にはマークスさん達はエーゼオン王家と会食をし、翌日の朝に、ヴェルリア王国に戻る事となった。
しかし…
「マークス殿!大変だ!」
「ライアン陛下?どうされたのです?」
「妻が…妻がまた危篤状態になった!もう一度、治癒魔法をかけて欲しい!」
「え?そんな…」
そんな筈は…病は完全に治った筈。
昨日の朝に王妃の意識が戻ったとも聞いている。
なのに、何故…兎に角、治癒魔法をかけるしかない。
急がないと…




