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第324話 戦乱 41

「それで、レヴィさん。何が変なんです?」


「あ、はい。この魔獣達です」


「そりゃ変でしょ。謎の実に寄生されて操られてるんだから。だからこそこうやって調べに来たんだし」


「いえ、そうじゃなくて…この森には普段こんなに魔獣がいないんです。この森にはトレントが居ませんから」


 襲って来た魔獣を倒した後。

レヴィさんに何に気付いたのか聴くとそんな返事が返ってきた。

トレントが居ないから?それは確か…


「どういう事?魔獣が少ないのとトレントが居ないのに何か関係があるの?」


「レティシア…お前も教わっただろう。トレントが居ない森にはトレントの実を餌とする弱い魔獣が集まって来ない。弱い魔獣が居ないという事は弱い魔獣をエサとする強い魔獣も集まって来ない。だからこの森には強い魔獣が居ないし、数も少ないという事だ」


「そういう事です。でも、今日倒した魔獣だけで普段の森に居た魔獣全部くらいになりそうな数です。それにこの森に居ない筈の魔獣まで混じってますし。この黒い実の主がこの森に居て、森の魔獣や動物を操ってるのだとしたら、この魔獣達はどこから来たんでしょう?」


 それは確かに妙だ。

この黒い実の主が魔獣だとしたら、それは恐らく植物型魔獣。

植物型魔獣の特徴として、移動能力を持たない、或いは殆ど移動しない者が多い。

各地を移動しながら手下の魔獣を増やしてる訳じゃないだろうし。


「多分…この匂いのせいだと思うよ」


「匂い?この黒い実の?」


「ううん。さっきから少し…なんていうか誘うような、いい匂いがするの。あたしで微かに感じるくらいだから、鼻の良くない魔獣にはかなり近くまで行かないと感じないだろうけど…偶々近くに来た魔獣を匂いで釣って捕まえてるんじゃないかな」


 つまり…食虫植物に似た性質を持ってると。

魔獣を誘き寄せて寄生させて操り人形に…ん?


「もしかして、この黒い実って寄生させて操るのが目的じゃなくて、繁殖が目的?寄生された魔獣を放って置けば、その内芽が出て増えてくのか?」


「うあぁ…それって…」


「あんまり楽しくない未来予想図だね…」


 全くだ。しかし、これは想像以上に厄介な事態かもしれないな。


「急いだ方が良さそうだ。でも危険だと判断したら一時撤退するから、そのつもりで」


「「「はい」」」


 それから何度か魔獣、或いは動物を撃退し。

魔獣がやって来た方向、そしてハティが感じる匂いの下へ進む。

すると、程なくして。少し開けた場所に出た。

そこに居たのは黒い木のような魔獣。

そして周辺には魔獣や動物の死骸。

死骸には黒い芽が出てきている。

やはり放って置けば、あの黒い木の魔獣は増えるらしい。

魔獣を送ってきたんだから、ボク達が縄張りに侵入したのは気付いてるだろうけど、結界を張って観察を続ける事にした。


「誰かあの魔獣の正体を知ってる人は?」


「私は知らない。マークスはどうだ?」


「知りませんね…ヴェルリア王国で確認された魔獣の資料なら一通り目を通したんですが…」


「ウチも知らない。セバストは?」


「知らない魔獣だな。食材にはならなさそうだし…」


「私もわからない。新種で間違いないと思うよ、お兄ちゃん」


 ユウにもわからないって事はやはり新種か。

賢者の紋章で検索したんだろうから、間違いないだろう。 


「……僕、何処かで見た事あるような気がする」


「私も、そんな気がする」


「え?でも新種でしょ、あれ」


「うん…それは間違いないと思うけど。以前何処かで…ん~…」


 アイシスとセリアさんが見た事あるという事は…ボク達と合流する前に行った勇者の遺物探索の時か?

ならフランコ君かバルトハルトさんに聞けば判るか?


「ん~…ねぇメーティスは?覚えてない?」


『ちょい自信無いけど…多分、レヴィはんの村を襲った魔獣モドキにあんな感じのん居たと思うで?」


「魔獣モドキって…」


 あのマッド爺によって造られたキメラか。

でも、キメラは動いてはいても魔獣や人としての生命はほぼ終わった存在だったはず。

あんな風に繁殖する事が出来るだろうか?

そもそも、その時のキメラは全滅させたって聞いたけど。

村の護衛に残した親衛隊からもそう報告を受けたし。


「あ、あ~!居た居た!僕が斬り飛ばした魔獣の中に!何かトレントと人が混じったような奴!」


「うん、確かに。でも、アレより植物っぽい」


『推測に過ぎへんけど…多分、マスターが倒したあの時の魔獣モドキはトレントと人を混ぜた奴で、死に際に種…実をどっかに飛ばしたんちゃうかな。そんでその実が芽を出して、新種の魔獣として活動を始めた。村の周辺で根を張らんかったんはエサが少なかったからやろうな。で、此処に辿り着いて根を張った』


「え?そう?魔獣は人を襲うもんでしょ?」


『そりゃ成長した今なら襲うやろうけどな。芽が出て動けるようになったばかりのこいつからしたら人は驚異的な存在でしかないやろ。だから弱い魔獣しかおらん此処に根を張ったんちゃうか』


「そっか。魔獣とはいえ生まれたばかりなら、大概の魔獣は弱いもんね」


 メーティスの推測が正しいとすると…そこそこの知恵は持ってるわけか、こいつ。

トレントには知恵と呼べるモノは無いが…人と混じった事で知恵を付けたか。


「しかし、そうだとするなら…この異常事態の元凶はあのマッド爺か。つくづくクソ爺だな、あいつは」


「本当にね。まさかここまで計算してたわけじゃないでしょうけど…それで、どうするの?お兄ちゃん」


「倒す。こいつもあのマッド爺の犠牲者と言えるかもしれないけど…放置しておくには余りに危険すぎる」


 既にこの森の魔獣と動物はほぼ寄生されていると見ていいだろう。少なくとも魔獣は全滅に近い筈だ。

こいつがこのまま成長と繁殖を続けたらどうなるか。


「ならば師匠!ここは私にお任せを!新種の魔獣だろうとたかがトレントモドキ!師匠から戴いたこの聖剣があれば!」


「ダメ。未知の魔獣にいきなり接近戦は無いでしょ。まだ支配された魔獣がいるかもだし。それと、聖剣なんかあげた覚えは無いよ。高価な剣ではあるけど」


「じゃあ、どうすんの?魔法で攻撃?」


「先ずは情報収集かな。というわけで、アイ」


「あ、うん。いつものヤツね」


 ナイトゴーレムを出して突撃させる。

今回は自立型ではなく操作型。

結界内で操作し、様子を見る。


「アイは右。ボクは左」


「オッケー」


「し、師匠!今度そのゴーレムの出し方教えて下さい!」


「メリッサ殿、お静かに。ジュンさん達の集中を乱してはいけません」


「う…すみません…」


 うん、マークスさんの言う通りに静かにして欲しい。

いくら結界内とはいえ騒ぎ過ぎたら気付かれる。


「さて、どう出るか…って、あ」


 ボクのゴーレムは枝から伸びた複数の触手に貫かれて破壊されてしまった。アイのゴーレムは…ゴーレムとは思えない軽やかな動きで躱している。


「凄いな、アイのゴーレムは」


「本当にね。本物の騎士より軽やかに動いてるじゃない」


「凄い集中力が必要だけどね…あっ」


 しびれを切らしたか、触手の数を二倍に増やしたトレントモドキの攻撃に、アイのゴーレムも捕まってしまった。

操作型のゴーレムなら『人形使いの紋章』があるアイの方が上手く扱えるらしい。ボクのゴーレムとは動きにかなりの違いがあった。


「触手の攻撃がメインか。数も多いし、パワーもある。接近戦は避けた方が無難かな」


「うっ…ならば師匠!私が魔法で!」


「自然と魔法攻撃になるけど…今回はレヴィさんに頼もうか」


「あ、はい!」


「「む~…」」


 メリッサだけでなくハティも唸ってるけど…仕方ない。

何事も安全第一だ。燃やす対象を選べるレヴィさんなら森の中でも火が使える。植物型魔獣には有効なはずだ。

マザーマンイーターの時もレヴィさんが居たら楽だったろうな。


「それではいきます!燃えろ!ファイヤー!」


 レヴィさんの掛け声と同時に火柱が立つ。

トレントモドキだけじゃなく、芽が出てる魔獣の死骸にもだ。

だが周りの木々や地面の草花は燃えていない。


「どうだ?」


「魔獣の死骸と芽は灰になったけど…」


「トレントモドキは元気…って言うか全然平気そうじゃない?」


「葉っぱすら燃えてませんねー」


 シャクティの言うように、葉っぱすら燃えてない。

本体も、火柱の中にあって平気みたいだ。

記憶が確かなら、トレントは植物型魔獣の例に洩れず火が弱点だった筈だが…


「性質を歪められた事で弱点も変わったのかな?」


「そうかもしれませんね…ジュン様!攻撃が来ます!」


 おっと。流石に攻撃を仕掛けたら結界内に居ても居場所がバレたらしい。こちらに触手を伸ばして来た。


「結界を防御結界に切り替える!マークスさん達は結界内から出ないで下さい!」


 ギリギリで結界は間に合った。

それにしても触手の数が多いな。


「さて、どうするかな。…リリー、必殺技をお願い」


「はいですぅ!必殺のぉ!アローレインですぅ!」


 トレントモドキの頭上に降り注ぐ矢の雨。

トレントモドキは触手で防ごうとするが、防ぎきれず触手は何本か落ち、本体にも刺さった。だが…


「痛みは感じないのかな。全然平気そう」


「うん…ん?」


 枝から落ちた触手は…既に動いていない。

タコやイカの足のように、切り離されてもしばらくは生きてるということは無さそうだ。


「よっ、と」


「ジュン?」


「そんなの拾ってどうするの?」


 【フレイヤ】の蛇腹剣モードでトレントモドキの触手を拾い上げた。ちょっと実験をしてみようかな、と。


「アイ、ユウ。ゴーレムを出してけしかけて時間稼ぎを。その間に、この触手で弱点を探してみる」


「あ、うん。了解」


「わかったよ、お兄ちゃん」


「師匠!私もやります!」


「ああ、うん。お願い」


 さてさて…火がダメなら雷はどうだ?


「雷は…ダメですか」


「なら…風魔法はどうだ?」


「効果はあるみたいですが…弱点と呼べる程じゃなさそうですね」


「ではジュン様。氷属性の魔法はどうでしょう」


「氷属性?ルチーナ、トレントは確か氷属性の魔法に高い耐性が…」


「でも、トレントの弱点の火には強くなってるから。なら逆なの氷には弱くなってるかもしれないじゃない?」


「成る程。やってみよう」


 そして氷属性の魔法を触手にぶつけた結果。

下位の魔法でもアッサリと氷結し、砕け散ってしまった。


「弱点は氷属性か。ならボクの魔法で…」


「ご主人様!あたし!あたしがやる!」


「ハティ?氷属性の攻撃なんて出来るの?」


「うん!最近覚えたの!お母さんに教えてもらって!魔力を使う技!」


 ほう?ハティが持つ『太陽と月の紋章』を活かす為か。

月が出てる間は魔力が向上するんだったか。

…今は昼なので、月は出ていないが…


「あたしなら触手は避けれるから!任せて!」


「…わかった。無理はしちゃダメだよ?」


「うん!行って来ます!」


 狼の姿に戻ったハティはトレントモドキの正面に出る。

触手がアイとユウのゴーレムを攻撃してる間に、ハティは仕掛けた。


『ウウッ…ウゥゥオオオオン!』


 ハティが雄叫びを上げる。

すると、ハティの前方、十数メートルの範囲に冷気が収束されていく。あっと言う間にハティの前方は一面氷の世界だ。

トレントモドキは勿論、範囲内の木々や草花。

岩石までもが。


『えいっ』


 ハティが軽い掛け声と共に石を蹴り、凍り付いたトレントモドキにぶつける。それだけでトレントモドキは粉々に砕け散ってしまった。


『どう?ご主人様!あたし凄い?』


「ああ、うん。凄いね…」


『でしょー?「アイシクルハウリング」って技なんだよ!月が出てたらもっと凄い威力になるんだぁ~』


 もっと凄い威力になるんですか。

既にボクが「アブソリュート・ゼロ」並なんだが…勿論、『魔神王の紋章』を使えば話は別なんだが。

しかし…


「凍り付いた木々は全滅だな…」


「うん…鳥の巣なんかも巻き込まれてるだろうね…」


『あ…』


「えっと…その…だ、大丈夫だよ、ハティちゃん!森全体で見れば駄目になった木は一部だし!鳥はきっと逃げてるよ!」


「レヴィさんは黙ってて下さい」


「あ、はい…」


 ハティは良い子だ。

きっと言わなくても判ってると思うけど…


「いいかい、ハティ。今回は仕方ない。ハティに任せたんだし責める事はしない」


『うん…』


「でも力を使う時は周りに与える影響を考えて使わなきゃいけない。強い力なら尚更だ。今回、巻き込まれた動物達はただ殺されただけだ。生きる為に食料にされた訳でも、身を守る為に返り討ちにあった訳でもない。ハティだって巻き込まれて死ぬなんて嫌だろう?」


『うん…』


「なら、次からは気を付けるんだよ。優しいハティなら判るね?」


『うん…ごめんなさい、ご主人様…』


 しょんぼりとするハティの頭を撫でておく。

ハティは優しく賢い子だ。一度言って注意しておけば同じ失敗はしないだろう。


「ああ、でもね、ハティ。優先順位を間違えてもいけないよ」


『優先順位?』


「そう。もしも、そうするしか助かる道が無いってなったら。躊躇う事はない。自分にとって大切な物を守る時なんかもね。周りの自然を守ろうとするあまり、ハティが死ぬなんてボクは嫌だからね?」


『ご主人様…うん!』


 人型に戻って甘えて来るハティ。

甘えん坊のハティはやっぱり可愛いい。


「「「むぅぅぅ…」」」


 メリッサだけでななく、女性陣は全員唸ってるけど…そんなに羨ましいモノじゃないよ?頭ナデナデは。


「そ、それにしても、ジュン様は狩人の掟も知ってるんですね。リリーさんから聞いたんですか?」


「狩人の掟?」


「はい。必要以上に獲物を狩らない。無意味に命を奪わない。無意味な自然破壊をしない。これは全部、森や山に入る狩人の掟、最初に教わる事です。ジュン様が仰った事と同じですよね」


「まぁ…そうですね。そういう事です」


「ふ~ん…無意味に命を奪わないって考えは判るんだけどさ、自然破壊ってそんなに気にしないとダメ?自然なんてそこらにいくらでもあるじゃない」


 レティシアには自然の大切さが判らないか。

いや、他にも何人かは判ってなさそう。この世界は自然豊かだし、危険な魔獣達の住処でもある。

大切に想えないのもわからないではないけど…


「あ~…例えば…山にある木を全て伐採したとするよ?」


「ん?うん」


「そうなると、山は地面が剥き出しのハゲ山になる訳だけど…そうなったら大雨なんかで地表の土が流され地滑りや土石流なんが起こりやすくなるんだ」


「え?そうなの?」


「そうなの。後、無闇に植物を減らすとそれを餌にしてた動物が餓死して数が減る。すると次はその動物を捕食してた動物が餓死する。悪循環が始まるんだ。この世界から姿を消してしまう動物だって出て来るだろうね。だから無意味な自然破壊は避けなきゃいけない。川の氾濫を防ぐ為の治水工事みたいに考えて開発しないとね」


「は~…あんたって色々考えてんのねぇ。とても私と同い年とは思えないわ」


「うむ。アンナお母様も言っていたが、年齢よりずっと大人の考えをしてるし、知識もあるしな」


「ふふん。自慢のお兄ちゃ…」


「自慢の師匠ですから!当然ですね!」


「……」


「はいはい、ユウ。そんな事で怒らない」


「…くーん…」


「ハティの真似して甘えようとしてもダメ」


「ぶー!」


「はいはい、拗ねない拗ねない。さ、念の為、他にもトレントモドキが居ないか森の中を確認するよ」


「は~い…」


 森を探索した結果。

トレントモドキは発見出来なかった。

黒い実に寄生された魔獣や動物は、トレントモドキが死んだ為か黒い実の支配から脱したみたいだ。

念の為、襲って来た魔獣を解体したら、体内の黒い実は枯れていた。


「どういう事だろう?」


「さぁ…もしかしたら何らかの型で親木であるトレントモドキと繋がってたのかもね。もう調べようが無いけど」


「安全が確認出来たって意味では良かったんじゃない?」


「そうだよ。さ、帰ろ?僕、お腹ペコペコだよ…」


「うん。そうだね…」


 今回は最悪の事態になる前に何とか出来たけど…あのマッド爺のキメラが現れた場所は調べた方がいいな。

トレントモドキより危険で厄介な存在が生まれてないとも限らないし。父アスラッドに報告して頼んでおこう。


 その後はモラン王国の王都だ。

アンナさんはミトラス王国よりは問題が少ないって言ってたけど。どうせ何かあるんだろうなぁ…

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