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第315話 戦乱 32

「それじゃ早速行って来ます!朗報をお待ちください師匠!」


「ああ、待って待って。流石にいきなり御父上に小国同盟を抜けてヴェルリアに付くように言うのは無茶よ。いくらメリッサちゃんが魔王女でクアドラ魔王国で人気者でも、切り捨てられないとは限らないのよ?」


「大丈夫です!父上は私に甘いですから!御金にはうるさいですけど!それじゃ!」


「だから待ちなさいってば。大体貴女武器も何も持ってないじゃない。それなのにどうやって戻るの?」


「あ…そうだった…私の剣は師匠にバラバラにされたんだった。というわけで師匠!責任とって新しい剣ください!」


「……色々腑に落ちないけど、剣を弁償するのはいいよ。でもまだ聞きたい事もあるし、此処に居なさい。部下だっているでしょ」


「あ、はい!わっかりました!」


 この子…良く言えば素直。悪く言えば考え無し、単純。

思い込みも激しいみたいだし…だからこそ短期間で魔法もあそこまで上達したし、『双剣豪の紋章』まで獲得出来たのだろうけど。


「それで、聞きたい事とは?」


「小国同盟はこれからどういう行動に出る?これからの作戦内容は聞いてる?」


「知りません!私に与えられた任務は船で河を越えて橋を架けて砦を建設する事のみです。橋を架けた後はクアドラ魔王国軍本隊が進攻する予定でした。私の失敗はもう伝わってるでしょうし、本隊は来ないでしょうね」


「そう…」


 敵の具体的な作戦は解らない、か。

解れば楽に…いや、メリッサが知っててもメリッサが捕まった時点でバレたと見なし、作戦は変更するか。


「それじゃ、エスカロン・ガリアは何か言って無かった?具体的な作戦内容は口にしてなくても、何か気になるような事とか」


「さぁ…私はエスカロンと会った事は殆どありませんので。開戦後は全くと言っていい程です。あ、ですが噂ですが、ガリア魔王国は何か新兵器を用意したとか」


「新兵器?」


「それは多分、魔法道具の通信を阻害する物ね。それのせいでリュバーンからの連絡が遅れて危機に陥ったのよ」


 そう言えばそういう物があるかもしれないって話だった。

その為にテオさんは…


「あ、いえ、それだけじゃなくてですね。まだ何かあるらしいですよ。どんな物かは知りませんが、その新兵器にエスカロンは凄い自信があるらしいです」


「まだ何か新兵器が…」


 厄介だな。未知程怖い物は無いし。

迂闊に攻め込めなくなったかな…


「他に何か?」


「そうだなぁ…これは個人的な事だけどメリッサさん。君、あの決闘中の魔法詠唱やおかしなポーズは何?」


「おかしなポーズなんて言わないでくださいよ!師匠が教えてくれたんじゃないですか!」


「ボクはあんなポーズで魔法を使った事は無いよ…」


「でもでも!魔法を使う上で重要なのはイメージと集中力!だから魔法を習得する時にはイメージしやすいように魔法を詠唱したり自分にあった方法で集中力を高めるといいって教えてくれたじゃないですか!」


「それは確かに言ったけども。それはあくまで訓練の時の話で…実際の戦闘であんなのやってたら死んじゃうよ?というか今までよく無事だったね」


「そ!そうなんですけど…何だかアレをやらないと魔法がイマイチになっちゃうんですよね。なんかスッキリしないし…」


 所謂…ルーティンって奴か?

プロのスポーツ選手なんかがよくやってて人気プレイヤーのポーズは子供がよく真似たりする。

彼女にとってあの詠唱とポーズがそれに当たる、と。


「理由は解った。でも実戦じゃ命とりになるから詠唱とポーズ無しでも普通に魔法が使えるようになりなさい。死にたくないならね」


「はい!師匠!」


 師匠ねぇ…まぁ師匠呼びはもういいよ。

また泣かれそうだし。


「それと君が双剣なのは?ボクは剣は教えて無いよ?」


「あ、はい!これは師匠が噂で双剣使いで一流だと聞きまして!これは弟子としては私も双剣使いにならねばと始めました!」


「……防具がデザインまで同じなのは?」


「これは師匠がちょっと変わった防具を身に着けていると聞きまして!エルムバーンの冒険者ギルドに人をやって調べた所『ジュン様ファンクラブ』というパーティーがあり、そこのメンバーに詳しく聞いてスケッチさせました!」


 あのパーティーか…いや、いいけどさ防具のデザインを漏らすくらい。

でも何か重要な事バラされても困るし、一度釘を刺しておこう。


「ねぇ、メリッサさん?貴女、そこまでするほどお兄ちゃんに心酔してるのに、今まで婚約の話とか持ち出してないよね?少なくともクアドラ魔王国からはお兄ちゃんに婚約の打診は無かったって聞いてるけど」


「あ、はい。それは私が成人したら申し込みしようって話になってまして。ですがその前に戦争が始まってしまったので…」


「どうしてその時に止めなかったの?ヴェルリア王国と戦争になったらヴェルリア王国と同盟関係にあるエルムバーン魔王国とも敵対関係になるのは明らかだったでしょ?」


「はい…ですがエスカロン・ガリアはエルムバーン魔王国と戦争をする気は無いと言っていたそうで。ヴェルリア王国を落としたらエルムバーン魔王国とは即時停戦交渉及び和解に向けて動く、と」


「へぇ?でも、うちにも余計な事してくれたみたいだけど?」


「エルムバーンが軍を動かさないように足止めはするとも言ってたようです。それとヴェルリア王国と同盟関係にある他の魔王国にも極力手を出さない、と」


 ん?それはつまり…


「魔族が治める国には手を出さないって事?」


「あ、はい。そうですね。そういう事だと思います」


「それ、さっきの小国同盟内の王国…人族が治める国を攻めるって話を助長する情報じゃない。さっき思い出しなさいよ」


「あ」


 確かに。しかし、御蔭でエスカロンの目的が見えて来たな。

つまり奴は…


「エスカロン・ガリアは魔族が支配する世界を作ろうとしてるのか、な?」


「そういう事なんでしょうね。聖エルミネア教国とは真逆ね。モラン王国とエーゼオン王国との交渉で役立ちそうな情報だわ」


 もし、モラン王国とエーゼオン王国が小国同盟内の国から狙われていると知ったら。

そりゃあヴェルリア側に付きたくなるだろう。

そして何となく勘付いてるんだろうな。だからミトラス王国のようにこちらに付きたい、と。


「いい情報が聞けて良かったわ。じゃあジュンちゃん。ヴェルリアに送ってくれる?」


「はい」


「え!師匠、ヴェルリアに行っちゃうんですか?じゃあ私も行きます!」


「ダメ。君は一応捕虜何だから大人しくしてなさい」


「え~…でも師匠がヴェルリアに行ったら、またしばらく会えないじゃないですか」


「転移魔法ですぐだよ。じゃ、行ってくる」


「「「行ってらっしゃい」」」


「え?師匠も転移魔法を?あ、ちょっと!」


 師匠も?

他にも転移魔法を使える人物を知っているのかな。

あのマッド爺かな?

帰ってから聞くとするか。


「ありがとうね、ジュンちゃん」


「いえ。それで、これからどうするんです?」


「先ずはモラン王国とエーゼオン王国を味方に付ける。クアドラ魔王国は後回しね」


「そうですか…」


 となると、メリッサは捕虜のまま居てもらうしか無い、か?

いや、しかし…此方に味方するつもりになってるしなぁ。

アンナさんに騙されて、だけど。


「メリッサちゃんの事?」


 悩んでるのが顔に出てたらしい。

あっさりとアンナさんに看破されてしまった。


「はい。アンナさんに騙されて、とは言え味方するつもりになってる彼女を捕虜のまま扱うのはどうかと思って」


「騙されてって…人聞きの悪い。メリッサちゃん達の事はジュンちゃんの好きにして良いわよ」


「え?良いんですか?」


「ジュンちゃんが捕虜にしたんだし、捕虜をどうするかはジュンちゃんが決めたら良いわ。訊きたい事は訊けたしね。ミトラス王国も余計な口は出さないわよ。ミトラス王国に三千人の捕虜をどうにかする余裕は無いし。任されても困ると思うわよ?」


「…判りました」


「あまり気負わず決めていいわよ。メリッサちゃんの言うようにクアドラ魔王国を説得出来るならしてもいいわ。ジュンちゃんなら悪い事にはならないでしょ。それじゃあね」


 あんまり信頼して任されても困るのはボクも同じなんだが…まあ他人に任せたら戦争の道具にされかねないし、良いとする。





「だがしかし、相談はさせて貰いたい。メリッサさんを含む、捕虜となったクアドラ魔王国軍をどうしたら良いと思いますか。各自意見を述べて下さい」


 皆の所に戻って直ぐ。相談させて貰う。

当人である、メリッサも居るのでやりにくい事この上ないが。


「はい、師匠!私達は師匠に味方します!」


「簡単に言うがな、メリッサ殿。それはクアドラ魔王国を裏切るという事だぞ?判っているのか?」


「大丈夫です!えっと…」


「ん?ああ、私はカタリナ・エレオノーラ・ヴェルリア。ヴェルリア王国の第三王女だ」


「あ、はい!初めまして!で、大丈夫ですよ!直ぐに父上を説得してヴェルリア側になりますから!」


「それが実現出来れば良いけどさ。そんな簡単にいかないでしょ。だからこそジュンも悩んでるんだし」


「大丈夫ですって!えっと…」


「レティシアよ。ヴェルリア王国の第四王女」


「あ、はい!よろしくお願いします!で、大丈夫ですよ!父上は師匠の事を気に入ってますし!私と師匠の頼みとなれば必ず聞いてくれます!」


「え?ボク、気に入られるような事したっけ」


「ほら!四年前にエルムバーンに私達が訪ねた時!魔獣との戦いで失った父上の右腕を元通りにしてくれたじゃないですか!その見事な魔法を見て、私も弟子入りしたんですし!」


 そういえばそんな事もあったような?

しかしなぁ。だからといって解放とは…いかないよなぁ。

解放するならクアドラ魔王国が味方になってからだな。


「じゃあさ、取り敢えず魔法道具で通信させてみたら?」


「それが宜しいかと。確かメリッサ殿の荷物に通信用魔法道具があった筈です」


「あ、それを返してくれたら父上と話し出来ますよ」


「じゃあ、カイエン。それ、持って来てくれる?」


「はっ」


 クアドラ魔王国がメリッサの進言だけで寝返るとも思えないけど…取り敢えずの方針を決める判断材料にはなるはず。


「道具が来るまではこの話は中断ですよね!じゃあ師匠!私に転移魔法を教えて下さい!」


「え?メリッサさんに?空間魔法適正があるの?」


「はい!一応、転移魔法は使えるんですが…目の前、せいぜい1mの範囲内でしか転移出来ません。発動にも時間が掛かるし、戦闘中にはとても使えません」


「それでも牢屋から脱出するには十分じゃない。どうして脱出しなかったの?」


「脱出しても武器も無い状態ではすぐ捕まってしまいますし。部下を置いて一人で逃げる訳にもいきませんから。やるなら絶好のタイミングでないと」


「意外と考えてるのね…」


「む!ユウ殿?もしかして私の事をバカだと思ってませんか?私はこれでも三千の兵を任される能力があるんですよ?」


「人手不足なんじゃなくて?」


「酷い!…ま、まぁ良いです。将来の義妹の言う事です。大目に見ましょう」


「貴女はまだお兄ちゃんの婚約者じゃないからね。そこは間違えないように。それに私もお兄ちゃんのお嫁さんになるんだからね」


 そんな予定は無いぞ、妹よ。


「そうか…ジュンと結婚すればユウは妹になるんだな。よし、私の事はカタリナお姉ちゃんと呼んでいいぞ」


「僕も!アイシスお姉ちゃんて呼んでいいよ!」


「私、セリアお姉ちゃん」


「私はシャクティお姉ちゃんですね!」


「私は…レティシアお姉様で良いわよ」


「ぜっーたい、呼ばない!」


 うん。シャクティ以外はそんな予定無いね。


「師匠はやっぱりモテるんですねぇ。姉上は無理でしょうか、やっぱり」


 姉上に限らず、メリッサも婚約する気は…今言うとクアドラ魔王国との話し合いが出来なさそうだから言わないけど。

というか姉上?


「姉上って…ええと確か、四年前にエルムバーンに来てたよね」


「はい。姉上の病気を治して貰うのが目的でした。師匠の御蔭で姉上は元気ですよ」


 メリッサには双子の姉がいる。

名前は確か…マリーダ・クアドラ。第一魔王女だ。

活発な妹と違って物静かな女の子だった。

見た目は双子だけあってそっくりなのだが。


「ていうか、お姉さんまでボクの婚約者にしようとしてんの?君は」


「姉上も望んでると思いますよ?何せ人生で初めて見たのが師匠の顔ですから」


「ん?それはどういう事だ?」


「姉上は眼の病だったのです。それを師匠が治してくれて…師匠が姉上に光を与えてくれたんですよ」


 それで最初に眼にしたボクの婚約者に成りたいって?そんな、雛の刷り込みじゃあるまいし。

病気を治してくれた人に感謝するのはわかるけど。


「ジュン…君は本当に…」


「あんた、モラン王国とエーゼオン王国の王女にも何かしてないでしょうね」


「それは大丈夫。その二国の王女とは会った事は無い筈だから」


「そうか、よかった…」


「あんた自分で思い出せないの?」


「記憶力は人並みだと思ってたんだけど、ここ最近で自信が無くなって来た…」


「大丈夫ですよ、師匠!モラン王国とエーゼオン王国の王女はもう婚約者がいますから!」


「それはほんとーに良かった!」


 流石にそれならボクと王女がどうこうと言った話にはならないだろう。


「お待たせしました。メリッサ殿、こちらで間違いありませんか?」


「あ、はい!それじゃ早速!」


 クアドラ魔王国…メリッサには悪いけど、メリッサが進言したからってこの場で交渉が纏まる事は無いだろう。

しかし、クアドラ魔王国の考え、方針は判るはず。

出来る事なら戦わずに済ませたいけど…

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