表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/604

第312話 戦乱 29

 盗賊討伐に来て思いがけず敵軍とかち合ってしまったけど…これは多分向こうにとっても想定外。

不意遭遇戦って奴か。

先ずは情報がもう少し欲しい所だけど…カイエンの千里眼に期待だな。


「というわけで、敵軍の様子は見える?カイエン」


「はい。敵船の数は三隻。大きさから推測して…乗れるのは一隻に最大で千人まででしょう。既に上陸して展開してる部隊もありますが…此方に気が付いてる様子はありません」


「つまり敵軍は最大で三千?思ったより少ないね」


「その三千の内数百は砦や橋を建設する為の工作兵の筈だから、戦える兵はもっと少ないと思うよ、お兄ちゃん」


「恐らくは砦と橋を建設する為の先遣隊に過ぎないのでしょう。どうされますか?敵が部隊を展開中の今なら、奇襲が有効だと思われますが」


「奇襲…」


 確かに、奇襲を掛ければいけるかもしれない。

でも、数は圧倒的にこちらが少ないんだ。

犠牲者が出るのは必至…


「悩む事無いよ、お兄ちゃん」


「え?」


「お兄ちゃんの好きなゴーレム戦術で行けばいいんだよ」


「ゴーレム…ああ、そっか」


 よし、それで行こう。

工作兵も含めて三千しかいないのなら、ゴーレムによる攻撃でかなりの打撃を与えられる筈だ。


「親衛隊各員へ伝達。各々が最も数多く出せるゴーレムを出せるだけ出して敵陣へ突撃させろ。狙うは敵の船と、砦と橋を建設する為の物資だ」


「はっ!」


「ユウはガーゴイル型を出して空から急襲させて。アイはタイプKを出して。ボクも出す」


「オッケー」


「わかったよ」


 本命はタイプKのランスチャージによる物資の破壊だ。

タイプKの装備はアダマンタイト製でお高いので出来れば回収したいが…敵兵の強さ次第、かな。


「ジュン様、準備が整いました」


「よし。じゃあ作戦開始!ゴーレムを突撃させろ!」


「はっ!各員、ゴーレムを突撃させろ!」


 合計で千体近いゴーレムが突進して行く。

本命のタイプKは少し後で出撃だ。

他のゴーレムとは足の速さが違うのでタイプKだけ突出してしまう。

それでは簡単にやられてしまうから、勿体ない事になるし。


「いや、しかし。ゴーレムとはいえこれだけ数が揃うと壮観だね」


「本当にね~。一番多いのがマッドゴーレムなのが残念な所だけど」


「魔法兵団が居たらもっと凄い数だせたのにね」


 エルムバーンの王城付きの魔法兵団五千名は全員、ナイトゴーレムを出せるようになっている。

五千ものナイトゴーレムなら、三千の敵兵くらいなら一掃出来たかもしれないな。


「そう言えば、エルムバーンからの援軍二万を率いてるのはロレンタなんでしょ?今は何処にいるの?」


「西側の防衛線の予備戦力として後方にいる筈だよ」


 ニジェール王国とアルジェント公国の戦争はニジェール王国を支配していた吸血鬼の暗殺に成功した事で集結。よって西側の防衛線は南部に比べて安全と言える。


「っと、そんな事よりも、だ。そろそろタイプKを動かすよ、アイ」


「オッケー!行ってらっしゃーい!」


 ボクとアイが出した、合計四体のタイプK。

本命の出撃だ。


「敵軍の様子はどう?カイエン」


「まだ此方にもゴーレムにも気が付いた様子はありません。あ、今先頭のゴーレムが到着しました。戦闘開始です」


「此処から見えるって便利だねぇ、千里眼…ていうか、ジュンもインビジブルバード出して偵察させればいいじゃん」


「あ」


 うっかりしてた。

こういう時の為のインビジブルバードの筈なのに…


「ま、まぁ今回はカイエンに頼るとするよ。それで、どう?奇襲は成功かな?」


「はい。敵軍は混乱しています。奇襲は成功です。あ、今…ジュン様とアイ様のゴーレムが敵物資を破壊しました。戻って来ます」


「船は?」


「船は…ユウ様のガーゴイルが破壊した模様です。沈みます」


 作戦は完全に成功。

となれば…


「じゃ、全員砦の中へ。援軍が来るまで籠城だ」


「はっ!」


 船を失い物資も失った敵兵に残された道。

それはこの砦の奪取。

敵の数は多いけど…援軍が来るまで持ち堪えるくらい出来るだろう。

ゴーレムもまだまだ出せるし。


「ジュン様、来ました。正面です」


「来たか…結構ゴーレムにやられたみたいだね」


「ほんと。半数近くはダメージを受けてるんじゃない?」


「そうでも無いわよ。一番多いのはマッドゴーレムの攻撃で泥塗れになってるだけの人だもん」


 マッドゴーレムは弱いしね。

でもあれ、結構精神的にはダメージがあるんだよね。


「ん?誰か出て来たね」


「敵の指揮官でしょうか?随分若く見えますが…」


 出て来たのは女の子。

見た目十五歳くらいの有翼人族の女の子だ。


「私はクアドラ魔王国軍指揮官、メリッサ・クアドラ!そちらの指揮官と一騎討ちの勝負がしたい!」


「一騎討ち?」


「私が勝ったら、その砦は戴く!だが諸君らは解放しよう!私が負けたら、此方は即時武装解除し投降しよう!」


 成る程、上手い手かもしれない。

まともにやり合えば、どうしても被害は受けるし、それじゃこの砦を落とせたとしても、援軍が来るまで持ち堪える事が出来ない。


 一騎討ちに勝っても此方を捕虜にしないのは一見慈悲深く、此方にとっていい話に思えるけど、捕虜にすれば食糧などを余分に消費しなくてはならないし、人員も割かなくてはならない。

そんな余裕は無いのだろう。


「返答は如何に!」


「受けよう!しばし待たれよ!」


 ここは受けるとしよう。

勝っても負けても互いに死者を出さずに済む。

願っても無い話だ。

勿論、相手が約束を守るなら、という前提だが。


「宜しいのですか?ジュン様」


「うん。此方を騙そうって気配も無いしね。ところであの子…クアドラって名乗ったって事は…」


「覚えて無いの?あの子にも会った事があるよ?お兄ちゃん」


「え?」


「思い出しました。メリッサ・クアドラ、クアドラ魔王国の第二魔王女ですね。確か四年程前でしたか、我が国に来られたのは」


「あ~…ウチも思い出した。確かジュンが魔法の手解きをしてなかった?」


「そうそう。それでお兄ちゃんにやたら懐いてたね」


「ああ~…思い出した。あの時の子か」


 やたら元気な女の子で『魔王の紋章』を持っているのに魔法の訓練が上手くいかないのを嘆いていたので少し教えたんだった。

それで多少魔法が上手くなってやたら喜んでたっけ。

あの白い翼も、天使みたいで綺麗だねって褒めたら凄く喜んでた。


「大きくなったなぁ」


「ジュン様…久しぶりに会った親戚のおじさんみたいですね」


「失礼な」


「そんな暢気な事行ってないで誰が行くの?ウチが行こうか?」


「私が行きましょう」


「いや、ボクが行くよ」


 アイでもカイエンでも勝てるだろうけど。

一騎討ちに婚約者を出すのは論外だし、部下にやらせるのもどうかと思うし。


「ジュン様、メリッサ・クアドラはクアドラ魔王国では『クアドラの戦姫』と呼ばれ賞賛される程の腕前だとか。くれぐれもお気を付けください」


「なにそれ、カッコいい」


 あの時の女の子がなぁ。

魔法が不得手だったあの子が、そんな風に呼ばれる程に成長して今目の前にいるのか…敵同士だというのに、ちょっと感慨深いな。


「成長したんだなぁ」


「弟子の成長を喜ぶ師匠みたいだね」


「ほんと。ところで止めないの?ノエラ」


「そういえば、いつものノエラさんなら止めそうなのに」


「勿論、いつでも助けに入れるようにしますが…ジュン様なら問題無く勝てるでしょう。何せ…」


「おい!早くしないか!いつまで待たせるつもりだ!」


「おっと。お怒りだし、行ってくるよ」


 砦から出て、メリッサ・クアドラの前に立つ。

彼女の装備は…何だかボクに似てるな。

武器は右手に長剣。左手に小剣。

防具はサーコートで動きやすさを重視してる所も同じだ。


「待たせてすまない」


「ようやく来たか…貴殿何処かで会った事は無いか?」


「いいや」


 一応、ボク達はミトラス王国には居ない事になってるので変装は続行中だ。それにしても、カツラをかぶっただけじゃ効果は薄いみたいだなぁ。いっそ仮面でも着けた方がいいだろうか。


「そうか、失礼した。では名を名乗られよ」


「名を?あ~…」


 どうしよっかな…偽名までは考えて無かったな。


「あ~、カ、カイエンだ」


 後ろの方でカイエンが、コケッとコケてるような気配を感じる。ごめんね、咄嗟に思い付かなかったんだ。


「カイエン殿か。ではカイエン殿!いざ尋常に!」


「勝負!」


 一騎討ちか…どうやって勝つかな。

出来るだけ怪我とかさせたく無いんだけど…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ