第308話 戦乱 25
「きゃあああ!」
「ひゃははははは!」
盗賊達は女子供関係なく襲って…いや、若い女性は捕まえているようだ。
捕まえた女性は馬車に乗せて攫うつもりか。
盗賊の人数は三十人くらいか。
「…アイシスとセリアさんは馬車に残ってマークスさん達の護衛を。リリーは馬車から援護射撃。ハティは馬に乗ってる奴を優先して倒して」
「うん、了解」
「ん」
「はいですぅ」
「はーい」
「あとはボクと一緒に突撃だ。相手の方が人数は多い。油断しないように」
「「「はい」」」
「今更盗賊に負けるウチらじゃないよ!」
「早く助けてあげようよ、お兄ちゃん」
「うん。攻撃開始!」
村の中は…酷い有様だ。
抵抗を試みた人は容赦なく殺されてる。
「…これ以上殺させるな!」
「「「はっ!」」」
今までも何度か盗賊を捕らえたりやり合った事はある。
だけど…こういう殺戮の現場に立ち会った事は無い。
ダメだ、これは。ああ、ダメだ。
「んだぁ!てめぇらは!」
「俺らの楽しみを邪魔すんなぁ!」
「お前達こそ。真面目に生きてる人達の邪魔をするな」
楽しみだと?
村人を襲い、奪い、殺すのが?
ふざけるな!
「遠慮はいらないな。死んでも恨む…いや、自業自得だ。自分の愚かさを恨め」
「何言って…あがっ!」
盗賊達の武器を持った腕を斬り飛ばし脚も斬っていく。
殺人はしたくはない。だが、これで死んでたとしても後悔はしない。
…死んでなきゃ、後で治してから然るべき場所に突き出してやる。
「や、やめろ!やめてくれ!」
「うるさい」
お前達は命乞いをする村人を殺して来たんだろう?
なら、お前達に命乞いをする資格など無い。
盗賊達の強さは大した事は無い。
注意すべき力量を持った存在はいないな。
これなら誰も傷付く事無く殲滅出来る筈だ。
「ジュン様、馬車が逃げます」
「! ハティ!」
『はーい!』
ハティに馬車の前に出てもらう。
ハティに驚いた馬は急停止。
馬車の足はこれで停めた。
「ち、近づくんじゃねぇ!」
「それ以上近づいたら女どもを殺す!」
「わかったらあのデカい狼をどかしやがれ!」
「五月蠅い」
交渉する気など微塵も無い。
さっさと魔法で眠らせる。
捕まった女性達も眠ってしまったが…問題無いだろう。
「これで最後かな?」
「はい。これで全てかと」
「なら、まだ息が有る村人を集めて。潜んでる盗賊がいるかもしれないから、気を付けて」
「「「はい」」」
生き残った村人は…傷を治して助かった人も含めて八十三人。
死者は…二十二人。元々百人程の規模の小さい村で、戦争が始まってこの村からも若い男は徴兵されてしまったらしい。
「本当にありがとうございます。貴方方が居なければどうなっていた事か」
「いえ…それで村長さん。これからどうされるのですか?」
「残ってた男手は殆ど殺されちゃったんでしょ?」
「…戦争に行った男衆が戻ってくれば、何とか…なると思うのですが…」
それは…希望的観測でしかないな…残念ながら。
ミトラス王国の軍が何処に配置されてるのかは知らないが…既に死んでしまっている可能性だって…
「じゃあ、このまま此処に残るの?戦争がいつ終わるのかもわからないのに」
「しかし…戦争に行った者が帰って来る場所を無くす訳には…」
ん~…仕方ない。
あまりボク達が来たという痕跡は残すべきじゃないんだが…
「では…この村の防衛にゴーレムを置いて行きます。魔獣や盗賊に対しては戦うように命令しておきますが…あまり柔軟な対応は出来ませんから、過度な期待はしないでください」
「は、はい。ありがとうございます」
ナイトゴーレムを置くのは無理だな。アレを置くとボク達が来たとバレかねない。
アイアンゴーレムをメインに数十体とガーゴイルを数体置いておけば盗賊や弱い魔獣相手なら何とかなるだろう。
「本当にありがとうございます。ですが、その…ここまでして戴いたのに我々には返せる物が…」
「対価は不要です。勝手にやった事ですから、気にしないでください」
「え…ほ、本当ですか?」
「ね、ねぇ…あの人もしかして…」
「美形…治癒魔法が使えて、強い。慈悲深い性格。もしかして噂のエルムバーンの魔王子様じゃ…」
「でも噂の魔王子様は黒髪だって話じゃなかった?」
「そうね…執事やメイドも居ないし…」
ミトラス王国に潜入するにあたって。
ボクだけじゃなく皆にも簡単に変装してもらっている。
セバストやノエラ、リリーにシャクティも普通の旅人、或いは冒険者の恰好をしてもらった。
流石に今回は執事服やメイド服では困る。
クリステアやルチーナも、いつもの紋章が入った鎧じゃない。
カタリナさん達も旅人の服装だ。
「で、でも…あの狼。噂の魔王子様は神獣フェンリルを従えてるって話よ?」
「あ、そうよ、そうだったわ」
「フェンリルを従えてる冒険者なんて他にいないわよね」
あー…ハティは誤魔化しようがないな。仕方ない。
「あー…対価は必要ありませんが、ボク達の事は他人に漏らさないでもらえますか。誰かに聞かれても通りすがりの冒険者が助けてくれたと言ってもらえると助かります」
「は、はい。承知しました」
「頼みます。それじゃ」
捕まえた盗賊達は冒険者ギルドに引き渡した。
ミトラス王国の冒険者ギルドでは無く、エルムバーンの王都の冒険者ギルドに、だ。
ギルドマスターなら事情を話しても問題無い。
それからボク達は予定外の事に時間を取られ、ルート変更を余儀なくされたのでアンナさんと相談する為に一度ヴェルリアに戻った。
「そう、そんな事が…仕方ないわね」
「すみません、アンナさん」
「責めたりしないわ。ジュンちゃんがそういう人だから、私達も助かったし、信頼もしてる。さて…時間をロスした事によるルート変更に問題は無いわ。元々想定外の事が起こっても大丈夫なようにルートを考えているし。でも…ミトラス王国の現状は聞いてた通りみたいね」
「というと?」
「ミトラス王国は元々兵力の多い国ではないわ。なのに戦争に兵力を割かれて国内の治安維持が追い付いて無いのよ。国境の警備に冒険者の力を借りるくらいだもの」
「…その辺りに同盟離脱の理由があると?」
「あるでしょうね。だから今後も襲われてる村があったら助けて構わないわ」
「アンナお母様、それは…」
「わかってるわ。勿論ジュンちゃん達の安全を最優先。次に目的の達成。それらを守れるなら、それ以外は好きにしてくれて構わないわ。ううん、むしろ今回のようにミトラス王国の国民を助けるのは貸しになる。交渉で有利になるわ。だから、今回の事はむしろ有難いのよ」
「いえ、ですから…そんな風に便利な部下のようにジュンさん達を扱うのは…」
「いいんですよ。今回は冒険者として雇われているのですし。…追加報酬も出るらしいですし」
「うっ…も、勿論出すわよ?ヴェルリア王家自慢の…」
「美女とか美少女とか、人以外でお願いしますねー」
「うっく…ジュンちゃんは私に厳しいわね…」
そりゃあもう、余計な気苦労も増やされてますから。
警戒もするし、牽制もします。
「そ、それじゃ新しいルートを考えるわ。ちょっと待ってね」
「はい」
しかし…ミトラス王国の治安は悪くなってるのか。
グンターク王国の時のような事になるのかな…場合によっては親衛隊を呼ばなきゃいけないかもな。
そして、それは現実となった。
少々、想像とは違う形で。




