第30話 癒しを求めた結果
「癒しが欲しい」
転生してからというもの調べ物や魔法や剣術・体術の訓練。
治癒魔法であちこちで人々を治癒して周り、学校の設立に向けて働く日々。
まだ十歳だと言うのに働きすぎではなかろうか。
それが嫌というわけではない。
自分の為だしみんなの為にもなる。
しかしこの世界には娯楽が少ないのだ。
ゲームやマンガを人並に愛していた元日本人としては中々に厳しい。
「なーによ。ウチらじゃ癒しにならないって言うの?」
「お兄ちゃん、ひどーい」
「そうじゃなくてね。ストレスが発散できるものがもう少し欲しくない?」
アイは体を動かすことで発散できるタイプだし、ユウはなんだかんだとこの世界を満喫してるようだし。シルヴィさんと服のデザインを考えるのも楽しいようだ。
「例えばどんなの?」
「遊び道具が欲しいよね。みんなで遊べるような」
この世界にはカードゲームも将棋やチェスといったゲームも存在しない。
サッカーや野球なんていうスポーツもない。
楽器はいくらかあるけどボクには楽器を扱う才能はないようだ。
前世でとっくに諦めていた。
将棋とかチェスとかは作ってみてもいいかもしれない。
「言われてみれば遊び道具ってほとんどないかな」
「作るしかないと思うけど。でもそれってまた仕事が増える事になるんじゃない?」
「う…」
確かにチェスや将棋をいつか作るとして、本格的に作ろうと思えばやはり職人に作ってもらうのがいい。自分で遊ぶだけなら不格好なものでもいいだろうけど、それはそれで時間が掛かるし。
「じゃあ、せめてさ、ペットが欲しいな。前から欲しかったんだ」
「ペットかあ。ウチも飼った事ないなあ」
「私も無い。あまり手の掛からないのなら欲しいかも」
ペットを飼うという案には賛成なようだ。
じゃあどんなのがいいかな。
「じゃあペットを飼おう、どんなのがいいか…」
「私にお任せください、ジュン様」
今まで黙って話を聞いていたノエラが話に入って来る。
なんだか目がキラキラしてる気がする。
ノエラもペットが欲しいのかな。
「なにかツテでもあるの?」
「はい。御金はそこそこ掛かってしまいますが」
まあ日本でも犬や猫を買うとなると十万やそこらはしたし、血統書付きの人気種だともっと吃驚するような値段だったし。
しかし、まあ今のボクはそこそこ御金持ちなのだ。
ペットを買うくらい問題ない。
「御金は問題ないよ。どんなのが買えそうなの?」
「どのようなタイプでもジュン様が御望みの者を揃えて御覧に入れます」
「そう?じゃあねえ、やっぱり子供の内から飼いたいかな。それから大人しくて人懐っこいかわいい仔がいいな。あまりヤンチャだと手を焼きそうだし初めて飼うしね」
「初めての調教ならそれでよろしいかと思います」
調教?躾の事かな。
「うん。それから~なにかある?」
「一匹だけじゃかわいそうだし二匹飼おうよ。兄妹で飼うといいかも。離れ離れになると可哀そうだし」
確かに。
兄妹で離れ離れは悲しいよな。
「そうだね。じゃあ二匹飼うか。そのくらいかな。あ、御金はこれだけあればいい?」
ジャラッと金貨が入った袋を一つノエラに渡す。
百枚くらいあればどんな高級品種でも大丈夫だろう。
多すぎると思うけどこの世界での相場がわからないので多めに出した。
「充分です。それでは行って参ります」
あ、今から買いにいくんだ。
行動が早いなあ。
「うん。頼むよノエラ」
ノエラってあまり城の外での交友関係は広くなさそうだと思ってたけど。、
自信あり気だったし大丈夫だろう。
「ねぇ義父様と義母様に許可を貰ったほうがいいんじゃない?」
「そうだな。貰ってくるよ」
普通、許可を貰ってから買いにいくんだろうけど。
もう買いに行かせちゃったし自分の御金で買うのだ。
一国の魔王子だしペットを飼うくらい問題ないはず。
事後承諾で構わないだろう。
問題があるならノエラが止めただろうしね。
リリーを連れて両親に会いに行く。
そのリリーだけどなんだか表情が曇ってる気がする。
いや怒ってるのか?
なにかあったかな?
「リリーどうかした?」
「え?」
「なんだか元気ないよ? またマリアになにかあった?」
「ち、違いますぅ。お母さんはもうすっかり元気です。今はちょっと考え事をしてただけなんです」
「そう?ならいいけど」
一時期は本当に危なかったマリアだけど今では仕事に復帰している。
マリアの病気が治ってからはリリーにも元気が戻り今みたいな顔をすることは無かったんだけど。
両親の許可はあっさり貰えた。
ただ二人の反応が妙に嬉しそうというか楽しそうというか。
なんだかニヤニヤしてた気がする。
「そうかそうか。お前もそういうのが欲しくなる年頃になったか。いいぞー好きにしろ」
「どんな子を連れてくるのか楽しみねえ」
といった反応だった。
なんだか勘違いしてそうな気がするけど。
まあ許可は貰えたのでよしとする。
部屋に戻って少し待つとノエラが戻って来た。
戻って来たのだが…連れていたのはペットではなく。
人族の女の子二人だった。
そっくりな容姿なので双子だろう。
不安そうに二人はぴったりとくっついてオドオドしている。
首輪をしてる事から奴隷だと思われるが…
「ノエラ、その子達は?」
「ペットです」
「はい?」
「愛玩奴隷です。お気に召しませんでしたか?」
ハッハッハッ。
ナンデヤネン。
まさかそう来るとは…。
この世界には奴隷が存在している。
犯罪を犯して奴隷になった犯罪奴隷や借金を返せずになった借金奴隷。
誘拐等で無理やり奴隷にするのは売るのも買うのも法で禁じられている。
その点はエルムバーンでは大変厳しく破った場合は重い罰が下される。
なので違法な手段で手に入れた奴隷ではないのだろうけども。
「ノエラ、あのね。ボクが言ってたペットと言うのはね、犬や猫の事でね。いや普通ペットと言えば犬や猫の事だと思うのだけども」
犬や猫を飼う習慣がないという事はないはずだ。
犬の散歩をしてる人を見たことがあるし家の窓に猫がいるのを見た事がある。
「そうでしたか。申し訳ありません。買い直して参ります。この二人は如何しますか?」
「買って来ちゃったんでしょ? 二人の主は誰になってるの?」
「もちろんジュン様の名義になっております」
デスヨネー
「じゃあ二人はメイド見習いとして働いてもらうよ。リリー、まずは二人を御風呂に入れて綺麗にしてから着替えさせてあげて。話はそれからしよう」
「はい、畏まりました」
リリーがまだ不安そうにしてる双子を連れて御風呂にいく。
まだ六歳くらいに見えたしいきなり城に連れてこられたらそりゃ不安になるだろう。
無理もない。
「しかし、いきなり奴隷を持つことになるとは…」
想像もしてなかった。
奴隷という制度には元日本人としては、やはり忌避感があるのだ。
「まあ落ち着いたら解放してあげればいいんじゃない?あの年齢なら犯罪奴隷ってわけじゃないだろうし」
「そうだな、そうするよ」
犯罪奴隷は基本的に奴隷からの解放は認められていない。
例外はなんらかの功績を上げる等して恩赦が認められた場合のみだ。
借金奴隷は身売りされた際に借金は消えているので主が認めれば奴隷から解放可能だ。
あの二人は恐らくなんらかの事情で親元から離れ身売りして奴隷になる他なかったのだろう。
まだ小さいのに苦労してるなあ。
不憫でならない。
「ノエラさんてたまに思考がズレてるよね。主にエロ方面に」
「サキュバスだから仕方ないのかもしれないけどね。私もサキュバスだけど」
「愛玩奴隷ってこの場合つまりアレでしょ?エロ奴隷にするつもりで買ってきたんでしょ?」
恐ろしい事である。
十歳の子供がエロ奴隷を所望するはずなかろうに。
とゆうかそうか、両親も同じ事を考えてあの反応だったのか。
母エリザの弟子でもあるせいかノエラの思考もそっちよりなのかもな…
そして綺麗になって帰って来た二人から話を聞いてると。
帰った来たノエラを見て絶句した。
「お気に召しませんか?」
「いや…お気に召す召さないじゃなく…」
ノエラが次に連れてきたのは猫人族と犬人族の女の子だった。
ハッハッハッ。
笑わしよる。
今度はそう来たか。
この短時間でよく見つけてきたな。
聞けばこの二人も双子だとか。
年齢も先の二人と同じくらいか。
姉と思しき猫人族の女の子が妹と思しき犬人族の女の子をかばうように前に出ている。
首輪をしてる事からこの二人も奴隷のようだ。
「ノエラ、ペットはもういいからその二人もメイド見習いになってもらうから御風呂に入れて綺麗にしてから着替えさせてあげて」
「畏まりました」
ノエラと女の子達が出て行ったあと溜息を吐く。
「ノエラはもう…凄いんだか凄くないんだか」
「アハハ。でも人だって以外は言った通りだったんじゃない?」
「確かにねぇ。子供で、大人しそうだったし。可愛かったし」
「あの、ジュン様」
先にやって来た人族の女の子二人の相手をしていたリリーが話に入って来る。
「なに?リリー」
「ジュン様はそのぉ…エッチな事をする愛玩奴隷が欲しかったんじゃないんですか?」
「違うから。普通にペットとして動物の犬や猫が欲しかっただけだから。人をペット扱いにするような趣味はないから」
何とゆう事でしょう。
まさかリリーまでそっち方面に誤解してるとは。
「でもでもぉ、ノエラ先輩が『ジュン様も男の子ですからいつか必ずそうゆう事を求められますから覚悟を決めておきなさい』って。奥様も同じような事おっしゃってたし。それにジュン様は時々リリーの胸を見てるし、それにそれに」
「すみません。謝りますのでそれ以上は勘弁してください。リリーさん」
確かにね、正直リリーの胸には時々視線をやってました。
だっておっきいんだもの。
リリーは今十三歳。
十三歳にしては小柄だがお胸はとっても大きい。
ノエラより大きいのだ。
Eは堅い。
そして容姿も優れている。
そんな子がメイド服を着て傍にいるのだ。
それでも中身は四十歳越えのボクだ。
鋼の精神でできるだけみないようにしていた。
でも、つい見ちゃう。男の子だもん。
「フフ、ジュンも男の子だものね。おっぱいに興味があるのはしょうがないよね」
「そうね。お兄ちゃんも男の子だもんね。しょうがないね」
「しょうがないから」
「ここは」
「ウチが」
「私が」
「「一肌脱ぎましょう」」
そう言って自分の胸とトントンと叩き両腕を広げるアイとユウ。
打ち合わせでもしたの?
「いや、そんなペッタンコなお胸の七歳児に言われてもな」
「「ブーブー」」
なんだかちょっぴり似てきたね君達。
「とにかくリリー、それは本当に誤解だから。普通のペットが欲しかっただけだからね」
「そうですかぁ。よかったですぅ」
ホっとした様子のあと機嫌がよくなるリリー。
しかしそうかママ上とノエラに余計な事を吹き込まれていたか。
思えばパパ上とママ上にペットを飼う許可をもらいにいった時のあの反応。
二人共そういう捉え方をしていたのね。
そのうちいらんこと吹き込まないよう釘を刺しておこう。
「じゃあジュン様、可愛い犬や猫がいないかリリーも探しておきますぅ」
「あ、うん。お願いするよ」
リリーも勘違いしてたし一抹の不安を感じなくはない。
あまり期待せずにおこう。
と、思っていたのだが想像以上の事を、ある意味ノエラ以上の事をリリーはやらかしてくれるのだった。




