表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/604

第296話 戦乱 13

「あ、ああ…ああああああああああ!!!」


「テ…テオォォォォォォォォォォォ!!!」


 テオさんの首が…落ちた。

周りに居る住民達からも、悲鳴と泣き声が聞こえる。

なのに…アイシスとバルトハルトさんの声は誰よりもはっきりと聞こえた。


「ジュン様…」


「…アイシスとバルトハルトさんの援護を。住民の避難も忘れるな」


「はっ!ランスロット殿!」


「…うむ!総員!住民の保護を最優先とし、敵を殲滅しろ!リュバーン守備隊の諸君!君達にも協力を要請する!」


 戦いが始まった。

リュバーンの住民に化けていた守備隊も即座に参戦。

奇襲を受けたガリア魔王国軍は即座に追い込まれて行った。


「セバストさん、ノエラさん。貴方方は此処でジュン様を守って頂きたい。アイ様も」


「了解だ」


「ご武運を、カイエン隊長」


「はい。クリステア、ルチーナ。二人もジュン様を守れ。リディアとユリア、お前達もだ」


「はい」


「必ずジュン様を御守りして見せますわ!」


「ウチは暴れたい気分だけど…アイシスとバルトハルトさんに全て譲るかな…」


 ボクも…こんな気分は初めてだ。

でも、これは確かに、暴れたい気分と言える。

だけど…体はまだ重い。

魔力回復薬も飲んだし、クリステアとルチーナから貰った指輪も使用して、ある程度魔力は回復したけど、一度完全な魔力切れを起こすと魔力が回復しても、直ぐに万全な体調にはならないみたいだ。


「ジュン様、これを」


「私達の指輪も使って魔力を回復して下さい」


「ありがとう」


 クリステアとルチーナ。二人の指輪も使って魔力を回復。

魔力は…三割くらい回復したか。だいぶ体調も戻ってきた。


「戦況はどう?」


「圧倒的に此方の優勢かと」


「シャクティの歌もあるし、アイシスとバルトハルトさんが…暴れてるからね」


 アイシスとバルトハルトさんは…二人で敵の中央に突撃、戦っている。完全に囲まれる事なく戦えているのはセリアさんとメーティスのフォローとカイエンとランスロットさんの采配の御蔭だろう。


「悲しいね…」


「…そうだね…あの二人を見ていると…とても悲しくなる」


「あの二人…アイシスさんとバルトハルトさんですか」


「うん…」


 あの二人はきっと…


 悲しくて、哀しくて…泣き出しそうで。


 辛くて、苦しくて…押し潰されそうで。


 憎くて、狂おしくて…張り裂けそうで。


 目の前の敵に、怒りをぶつける事しか出来ない。


 そんな…とても哀しい姿だ。


「ジュン様、アレを」


「アレは…レッサードラゴンか」


 どうやって操って…いや、あのマッド爺は魔獣を支配出来るんだったか。あのドラゴンに、『この者達に従え』とでも命令しておけばこの場に居なくても問題無いんだろう。


「アイシス達は気が付いて無い、か」


「ウチが行くよ。ウチに任せて」


「…頼んだ。気を付けて」


「うん、大丈夫。ドラゴンを倒したら直ぐ戻るし。…今日のウチはいつもより強いし」


「…そっか。そうだろうな。リリー、アイの援護をお願い。リリーならここからでも届くでしょ?」


「はいですぅ!今日はリリーも頑張るですぅ!」


 リリーの援護射撃を受け、アイがレッサードラゴンを仕留めに行った。ドラゴンの周りにも敵兵は居るが…今のアイは止められ無い。


「はあぁぁぁぁ!」


 敵兵は無視し、瞬時にドラゴンの懐に入り込み、渾身の一撃でドラゴンを仕留めた。ドラゴンがアッサリ死んだ事で敵兵に更に動揺が広がる。


「流石はアイ様ですね」


「うん。それにしても…」


「どうかされましたか?」


「魔獣兵がいないね」


「そう言えば…」


 魔獣兵…あのマッド爺の研究成果、人族や魔族に魔獣の特徴を取り入れ、強化された兵士。

その魔獣兵が見当たら無い。


「街の外で陣取ってる連中に魔獣兵が集中してるんじゃないか?」


「そうなんだろうね。という事は外の軍と戦闘中のアロイスさんは苦戦してるかな?」


「数の上では有利な筈ですし、大丈夫だとは思いますが…」


「あたしが見て来ようか?ご主人様」


「いや…今、ハティが狼に戻ったら皆ビックリするだろし、止めておこう。…ハティも暴れたい気持ちなのは解るけど、今は堪えて」


「…うん」


 どちらにせよ、街中の敵を排除しないとボク達は応援に行けないのだし。先ずは目の前の敵を排除する事に全力を注ごう。




 それから一時間もしない内に、逃げ場も援軍も見込め無い敵兵は次々に降伏。街中の戦闘は終結した。


「ジュン様、敵兵の殲滅及び捕縛、完了しました」


「うん。…此方の被害は?」


「我々親衛隊とリュバーンの住民に死者はいません。しかし、ヴェルリアの騎士団とリュバーンの守備隊に合わせて二百名程の戦死者が…」


「そうか…」


 戦死者約二百名…やはり死者は…犠牲は出てしまう。

住民に死者が出なかったのがせめてもの救いか。


「…アイシスとバルトハルトさんは?」


「…あちらです」


 アイシスはテオさんの首を抱えて泣き崩れ…バルトハルトさんはアイシスの傍で茫然と立ち尽くし…セリアさんはそんな二人を眺めて涙を流していた。


「セリアさん…」


「ジュン様…どうして…私の紋章はこの事態を教えてくれなかったの?教えてくれてたら、きっと…」


「それは…ボクにも解らない。でも、セリアさんに責任は無い。それは解る。だからセリアさんが責任を感じる事は無いよ」


「うん…」


「バルトハルトさん…こんな時、何て言えばいいのか…ボクには解りません。でも今は…外で戦っている貴方のもう一人の息子を助けに行きましょう」


「…そう、ですな…アロイスまで、死なせるわけには…」


 バルトハルトさんは…どこかでこうなる覚悟をしていたのかもしれない。もう顔を上げて、次の戦場に眼を向けた。


『ジュンはん…わい…こんな時に涙を流す事も出来ん体が…ほんま辛いわ…』


「そうか…ボクもメーティスと同じ体だったら、辛かっただろうな…」


『泣きたい時に泣ける体…欲しいなぁ…』


 涙を流せなくても、メーティスが哀しんでいるのはよく解る。

ボクも、周りの人皆、同じ気持ちなのだから。


「アイシス…」


「ジュン…あっ…ジュンなら叔父さん治せるよね?叔父さんを助けて!」


「ごめん…ごめんね」


「な、何で謝るの?早く叔父さんを助けて!助けてよぉ!」


「アイシス…」


 この世界に、死者を蘇させる魔法…手段は存在しない。

新しく作る事も…多分出来ない。もしも死者復活の手段があるのなら、とっくに誰かが確立しているだろう。

大事な人に生き返って欲しいと願う人は、いつだって存在するのだから。


「アイシス…まだ街の外で戦闘が続いてる。戦ってるのはアロイスさんだ。助けに行かなきゃいけない。だから…厳しい事を言わせてもらうよ。死んだのはテオさんだけじゃない。騎士団にも守備隊にも多数の死者が出た。今、外で戦っている人達にも死者が出てる筈。だから…今は哀しみに沈んで立ち止まっていい時じゃない。今は剣を取って、戦う時だ。テオさんが命がけで守ったリュバーンを守り抜く為に…」


「う…ぐっ…うぅ…」


 ダメか…戦えないか。無理も無い。勇者とはいえ、まだ十六歳の女の子だ。ボクが言ってる事の方がよほど無理で、残酷だ。


「解った…行くよ。テオ叔父さんが守った街は絶対に守り抜く!」


「アイシス…」


 立ち上がったか…強いなぁ、アイシスは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ