第291話 戦乱 8
痛っ…此処までの大怪我をしたのは初めてだな。
自分に治癒魔法を使う事も殆ど無かったし…
「さて…戦う前に指輪を使わせてもらうよ」
「ああああああああああああ!!!」
女神様から貰った青い指輪。
これを着けて命令すればどんな命令でも聞くらしいけど…
「止まれ!」
「ああああああああああああ!!!」
やっぱりダメか。
正気を失ってる状態じゃな…
「ああああああああああああ!!!」
「くっ!!」
今度は完璧に躱せたけど…空振りした拳が生み出した風で雲が斬り裂かれ、雲のトンネルが出来てる。
まともにくらったら即死かな、これ。
「じゃ、今度は赤い指輪で…」
本当はレヴィアタンに渡すように言われた指輪だけど…緊急事態だ、見逃してもらおう。
ボクにも使えるといいんだけど…
「アフロディーテ様!聞こえますか!?」
『…ふに?何よ~…貴方だあれ?』
「眼を覚ましてください!ジュンです!この前、レヴィアタンの事で相談した!」
『え~?…ああ、はいはい。お久しぶり~おはよ~。でも何で貴方の声が届くの?』
「こっちの状況をっ!見て!くださ!い!」
「ああああああああああああ!!!」
『あれ~?レヴィア?どうしたの?』
「見ての!通り!正!気をっ!失って!ます!」
『えええ?何で?どして?』
「兎に角何とかしてー!」
こっちは躱すので精一杯!
神様なら早く何とか…
『えええ?無理よ。基本的に神様がそっちの世界に直接的に干渉しちゃダメなんだもの』
「そこを!曲げて!何と!か!」
『無理だってば。まぁその子頑丈だから。気絶させるなりなんなりして止めなさい。応援くらいはしてあげる。ほら、頑張れー』
ああ、もう!
せめてもう少しやる気のある応援して!
「仕方ない!本気出しますけど!やりすぎそうになったら止めてくださいよ!」
『うん?うん、わかったわ。ほら、頑張れー』
出来る事なら戦闘はしたくなかったけども!
『魔神王の紋章』を全力で使用しなきゃ勝てそうに無いし!
「なるべく早く気絶してくださいよ!」
「ああああああああああああ!!!」
『おー?なにそれ、かっくいー!』
魔神王の覇気…初めて使うが…身体だけじゃなく、剣気と合わせて剣も強化出来るし防具に纏う事も可能みたいだ。
これでレヴィアタンの拳をまともにくらっても、即死は無いか?
「兎に角、なるべく早くケリをつける!」
あまり長時間の間『魔神王の紋章』を使うとオレも正気を保てそうに無いし!
「でやぁぁぁぁあ!」
「ああああああああああああ!!!」
正気を失ってるからか、レヴィアタンの攻撃はただ拳を振り回すのみ。特殊な攻撃能力は無いのか、人の姿では使えるないのか、解らないが…
「殺すのが楽だから、その方がいいがな!ハハハ!」
『ちょっとちょっと。殺しちゃダメよ?気絶させるだけでいいのよ?』
「ハハハハハハ!」
ヤバい!何か楽しくなってきた!
こんなヤバい奴を相手にしてるのに!
「ハハハハハハ!ついでに『天地剣の紋章』も試すかぁ!」
オレの『天地剣の紋章』の能力は、剣を一度振れば見えない斬撃が追撃し、相手の攻撃は見えない剣が防いでくれる。
何でも斬れる訳じゃないし、どんな攻撃も防げる訳じゃ無いが…
「今のてめぇにはどうしようもねぇだろ!」
「が!ぎゃ!」
『ちょっと?君、そんな性格だっけ?』
「ハハハハハハ!どうしたどうした!そんなもんか!」
「う、うう…」
「んん?」
傷がみるみる塞がっていきやがる。
正気は失ってても、自己治癒能力何かには影響が無いって事か。
面倒くせぇなぁ。
「んじゃ、簡単に治らねぇように、魔法で焼くか」
『ちょっと待ちなさい!殺しちゃダメだってば!聞いてる!?ああ、もう!ちょっとフレイヤ!フレイヤー!』
「うるせぇなぁ。さっさと焼くか。じゃあな、ファイヤレイ!」
「ギャアアア!」
「ハハハ!凄ぇな!まだ生きてるのか?」
しかし、ようやく気絶したか。
落ちていきやがる。この高さから落ちたらどっちみち死ぬか?
『おい、こら!お主何やっとるんじゃ!』
「ああ?何だ、フレイヤか?喚くんじゃねぇよ、うっせぇな」
『お主、一体…その紋章のせいか?紋章を解除せい!』
「ああ?何だってんだ、たくっ…」
ま、もう殺したも同然だし、いいけどよ。
「紋章は解除したぜ。で、何なんだよ」
『早く正気に戻らんか!』
『早くあの子を助けなさい!』
「ああ?正気?助け?何の…」
……ああ!そうだった!
「レヴィアタン!」
転移なら間に合うか!?
『早く!あの子を死なせたら神罰をくらわせるわよ!』
それは本末転倒過ぎる!
間に合えぇぇ!
「ま、間に合ったぁ…」
『まだよ!早く治療しなさい!貴方の魔法が強すぎて、再生能力が追いついて無い!このままじゃ死ぬわ!』
『気絶してるから治しても大丈夫じゃ!早うせい!』
「はい!」
肌が見える部分は炭化している。
普通なら、とっくに死んでいる筈だけど…
「う…」
まだ生きてるなら、治せる!
「ヒーリングオール!」
レヴィアタンの傷と火傷は治癒されていく。
念の為、二回治癒魔法を掛けておいた。
「治せました…これでもう大丈夫な筈です」
『そうか…お主、さっきまでとはまるで別人じゃな。紋章の影響のようじゃったが?』
「はい…この紋章を使うと、どうも好戦的で攻撃的な性格に変わるみたいです…」
『紋章?そっちの世界の住人が獲得出来る特殊能力の一つだっけ。性格が変わって歯止めが効かなくなるなら、危なっかしくて使えないじゃない。…ああ、だからやりすぎそうになったら止めるように言ったのね?』
「はい…全力を出さないと勝てそうに無い相手でしたし」
『仕方ないわねぇ…その問題を解決出来るような道具を探してあげる。無ければ作るから、用意出来るまでその力は使わないようにしなさい』
「それは助かります。でも…いいんですか?」
『いいわよ。また同じ事が有ったら、次はその子は死んじゃうだろうし。それに直接力を行使するのは禁じられてるけど、物を与えるのは禁じられて無いしね』
「有難う御座います」
『本当に良いのか?お主も忙しいじゃろうに。あやつの捜索で』
『私はそうでもないわよ?私の担当世界はもう調査が終わったもの』
『何!ならば手伝ってくれ!』
『嫌よ。自分の仕事は自分でやりなさい』
『薄情者!』
薄情かどうかはともかく…バカ神を放置したら、また世界が滅びるかもしれないんだから、協力して仕事して欲しい。
「うぅ…」
「あ、気が付きました?」
おっと、まだ正気じゃないかもしれないし距離を取っておこう。
「あ…あんたは…Meはどうなったの?急に何も解らなくなって…」
「貴女の封印を無理やり解除した奴に、薬を打たれたんです。それで一時的に正気を失なって…さっきまでボクと戦ってました。服がボロボロになってますから、気を付けてください」
「服が?…ああ、ほんとだ。あんたも怪我したの?その血…」
「ご心配無く。もう治癒魔法で治してますから」
「そっか…ゴメンね…」
「怪我をさせたのはお互い様ですから。気にしないで下さい」
「でも…」
レヴィアタンは悪く無いのだが…正気を失っていたとはいえ、怪我をさせてしまい、落ち込んでいるみたいだ。
『ちょっと、早くその指輪をその子に渡しなさい。私が元気づけてあげるから』
「ああ、はい。レヴィアタン、この指輪を着けて下さい。あの人の声を聞けますよ」
「あの人?」
アフロディーテ様の声を聞いたレヴィアタンは泣き出してしまい、落ち着くまで時間が掛かった。
とりあえず…何とかなってよかった。
でも…この子どうしよ。連れ帰るしかないのかな…




