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第275話 フラワー 7

 第四戦目はアイの勝利。

次はボクとアネモネさんの出番か。


「ジュン、勝ったよん」


「見てたよ。流石アイだね」


「へへへ~!ご褒美期待してるからね!」


「え?アイも御褒美欲しいの?聞いてないなぁ~」


「え?ちょっと?ウチにはご褒美無いの!?」


「おねだりされなかったしね~」


「ひどーい!婚約者のウチには何も無いなんて!」


「んじゃ、ボクが勝ったらアイからも御褒美が貰えるって交換条件でどうだろう?」


「え?ウチも?スケスケドレスを着るだけじゃなく?」


「それはママ上からの御褒美だし。偶にはボクもおねだりしてもいいかなと」


「…わかった。じゃ、ウチからも何かジュンに御褒美あげる」


「うん。期待しとくね」


「はい、そこー!イチャイチャしない!」


「ジュ、ジュン様?偶には私に何かおねだりしても…」


 これイチャイチャに入るのか?

ノエラにおねだりは…やめておこう。

なんでもしてくれそうだけど、逆にそれが怖い。


「負けてしまいました。やはり悔しいモノですね」


「その割には清々しいといった顔ですわね」


「完敗でしたから…あっ…」


「おっと」


 元の身体のサイズに戻り、フラつきながらもカトレアさんは自力で戻って来た。

アイの奥義を受けて自力で歩けるだけでも大したモノだ。

倒れそうになったとこを支えて、ついでに治癒魔法をかけておく。

それにしても…


「あ、ありがとうございます。…あの、何か?」


「いえ、やっぱり凄い変わりようだな、と思いまして。念の為伺いますけど、今の姿がカトレアさんの本来の姿なんですよね?」


「あ、はい。そうです」


「カトレアの胸は肉体操作で大きくしてるんじゃないかって疑惑がありますけどね」


「ありましたわね、そんな疑惑」


「サフラン!失礼な事を言わないでくれるかしら?私の胸はこの大きさが本来の大きさです」


 なるほど…肉体操作で体格が変えられるのなら、胸の大きさだって自由自在なのか。


「私もいつかカトレアみたいに大きくしよう」


「ナズナ…それだとまるで私が…」


「カトレアの胸が本物か偽物かの議論は置いておきましょう。では、ジュン様。行きましょう」


「ちょっと、アネモネ!…もうっ」


「アネモネ、やる気ですね」


「…そうですね。ようやく、私達の目的が達成出来そうですし」


「そうですわね。後はジュン様が圧倒的強者であれば…」


 …ん~なんだろう。

圧倒的にな強者が必要な理由。碌な理由が思いつかないんだよね。

…まぁいい。やっぱり気になるし、勝ちに行こう。


「ジュン~?手抜きしたら、勝ったとしてもお仕置きだからね?」


「…例えばどんなお仕置きでしょう、ママ上」


「ジュンの使用人を一週間の間全員オカマさんに変えるわ~」


「全力を尽くしたいと思います、お母様」


 何て恐ろしい。

色んな意味で危険じゃないか。


「あ、でも、手加減はしますよ?矛盾した事を言ってるとは思いますが、ボクが本気で全身全霊の全力を出したら、城どころか王都全域が吹き飛びかねないので」


「…それはちょっと大袈裟なんじゃない?いくらジュンでも…」


「いえ、御義母様。ジュンの言ってる事は真実です」


「サンドーラの魔獣討伐の一件は報告したでしょ?七千匹以上の魔獣を、お兄ちゃんは一発の魔法で全滅させたって」


「…アレは本当の事なの?誇張してるとばかり…」


「わしも流石に信じられなかったんだが…本当なのか?」


「事実です。魔王様、エリザ様」


「私達も目撃しました。ヴェルリア王国に問い合わせすれば同様の回答が来るはずです」


 ヴェルリア軍の指揮官、オーバン・アングラード男爵だったか。

彼も目撃してるし、同様の回答が来る筈だ。


「本当に…」


「お前、いつの間に、そんな…」


「魔法はかなりのモノになったと自負してますよ。じゃ、アネモネさんをお待たせしてますし、行って来ます」


「あ、ああ…」


「頑張って、お兄ちゃん」


 既に戦闘準備を整えて中央でアネモネさんは待っている。

アネモネさんの装備は…なんというか武装ハリネズミとでも言うべきか。

左右の腰に剣。後腰に鞭。腰回りに投擲用のナイフもある。

手には斧槍と小盾。盾は杖代わりの魔法発動補助の効果がありそうだ。

防具は軽装だが、あれだけ装備したら相当重いだろう。

武器にも軽量化の魔法が掛けてあるのだろうか?

アネモネさんは女性だし、決して大柄でも筋肉質なマッチョにも見えないが。


「魔法一撃で七千匹の魔獣を全滅ですか。凄まじいモノですね」


「…聞こえていたのですか?」


「ええ。私、耳の良さには自信があります」


「そうですか。…随分と装備が重そうに見えるのですが、動ける…いえ、戦えるのですか?」


「はい、無論です。他に何か質問はありますか?私はジュン様の情報を聞いてしまいましたし、私の事であれば御答えしますよ」


「そうですね…では、二つほど。アネモネさん達の種族は?人族ではありませんよね?」


「……はい。私達は妖精、ニンフです」


 ザワッと周りの兵や騎士達がざわめく。

妖精族の冒険者は珍しい。というより、いないとばかり思ってた。

妖精族の中でも人型の妖精は少ないし、グリムモア魔道国以外の街中で暮らす妖精族は更に少ない。

ニンフとは妖精族の中でも強い力を持つ存在だ。


「そうですか…では二つ目。貴女達は冒険者になって何年目ですか?」


「五十年になります。生を受けたのは二百年ほど前です」


 なるほど、強いわけだ。

冒険者としても人生の大先輩でもあるんだな。


「他には何か?」


「いえ、ありません。今は」


「今は、ですか。では…始めましょう」


「はい。始めましょう」


 斧槍を手にアネモネさんが突撃して来る。

魔法も使えるようだけど、接近戦がメインの戦士みたいだ。


 で、ボクとしては手加減しつつ、本気で戦って勝たないといけないわけだが…


「先ずは様子見かな。スピリットオーブ!」


 七つのスピリットオーブを展開。

火と雷のオーブは攻撃を担当。残りのオーブには防御を担当させる。

警戒したのか、アネモネさんが止まった。

が、スピリットオーブは命令通りに動く。


「これは?んっ!」


「これは自動で攻撃・防御を魔法で行う、スピリットオーブ。ボクのオリジナル魔法です」


「自動で行動する魔法のオーブ…厄介ですがっ!」


 アネモネさんがオーブの攻撃を躱しつつ、魔法とナイフを投げて攻撃してくる。

勿論、ボクは動くことなく迎撃した。


「そっちは防御行動の命令を与えてるわけですか!ならばこちらも!」


 アネモネさんも精霊を四体呼び出した。

火・風・水・土の中位精霊だ。

更に、ゴーレムを四体。

アネモネさんは魔法の実力も高いらしい。


「ま、でも…」


「なっ!」


 今更ただのゴーレムに手古摺りはしない。

【アトロポス】の魔力剣を伸ばし、一掃する。


「なるほど、そういう仕掛けが…ならば私は!」


 アネモネさんは斧槍を地面に刺し、鞭を手に。

精霊と共に中距離戦を挑むつもりか。


「まぁ、それも…」


「なっ!今度は剣がバラバラに!?」


 【フレイヤ】を蛇腹剣モードに。

アネモネさんの鞭と絡ませ刃でズタズタにする。


「そんなっ…この鞭はドラゴンの革で作られた特別製ですよ!?それをいとも簡単に斬り裂くなんて…」


「…それはまた…お高そうな鞭をすいません…」


 ドラゴンの革で作られた鞭…レッサードラゴンの革でも結構な御値段だろう。

弁償出来なくはないけども。


「ジュンの奴、鞭の扱い上手くなったなぁ」


「私が教えたんだもの~。当然よね~」


「ああ。いつでもプレイで使えるな」


 プレイって何じゃい。

鞭を使ってプレイなんてしませんからね、パパ上!


「ところで、アネモネさん。ボクはまだ開始地点から一歩も動いてませんよ?」


「くっ…」


「貴女も他の方と同じように奥の手があるのでしょう?見せてもらえますか」


「…いいでしょう。私の紋章の力をお見せしましょう」


 アネモネさんがそう宣言すると、彼女が持つ武器全てに(オーラ)を纏った。

腰にある剣だけでなく、投擲用のナイフ、背中の斧、盾にまで。

そして、どういうわけか地面に刺したままだった斧槍が勝手に飛んで来てアネモネさんの手に収まり、斧槍にも(オーラ)を纏った。


「私が持つ紋章は『武王の紋章』と『旋風の紋章』。『武王の紋章』の力はあらゆる武器を使いこなしあらゆる(オーラ)を使用可能だという事。剣気(ソードオーラ)斧気(アックスオーラ)盾気(シールドオーラ)も。弓を持てば弓気(アローオーラ)も使えます。ただし…剣の腕は『剣聖の紋章』持ちに敵いませんし、弓は『弓聖の紋章』持ちに敵いはしません。それぞれの武器の腕前は中位の紋章持ち程度だと思って頂いて結構です」


 それでもかなり強力な紋章と言っていいだろう。

アネモネさんは敢えて口にしなかったのだろうけど、あらゆる(オーラ)が使用可能という事は『拳闘士の紋章』のように、闘気を使い肉体を強化する事も可能なのだろうし。


「そして『旋風の紋章』…こちらは御存知かもしれませんね。『風の紋章』の上位紋章です。風に対する耐性と風魔法適正の向上。そして風を操る力を得ます。此処は屋内ですので自然の風はありませんが…こんな事が可能です」


 アネモネさんが投げたナイフは明後日の方向へ…飛んで行ったのだが、不自然なまでに軌道を変更してボク目掛けて飛んで来た。

オーブが迎撃の為の魔法を放つが、(オーラ)で強化されたナイフは簡単には止まらず、ボク自身が動いて避けざるを得なかった。遂に開始時点から動かされてしまったか。


「このように、投げた武器を操作する事も可能です。避けたと思っても背後から飛んで来るかもしれませんので、お気をつけを」


「これはこれは、御親切にどうも。では今度はこちらから行きますよ!」


「はい!」


 紋章の力を使用し、アネモネさんに接近戦を仕掛ける。

アネモネさんは近接戦による高速戦闘中でも、風を操り、武器を自在に飛ばし操る事ができるらしい。

斧槍も背中の斧も空中に放り投げ、自身は両手に剣を持ち、ボクと同じ二刀流で近接戦を挑んで来た。

投げた斧槍と斧も、(オーラ)を纏い飛んで来る。

(オーラ)を纏い飛んで来る多数の武器はスピリットオーブでは迎撃しきれない。

まだ中位精霊四体も残っているし、手数は圧倒的に向こうが上になってしまった。


「流石です!これだけの連続攻撃を此処まで躱し続けたのはジュン様が初めてです!」


「それはどうも。ですがそろそろ厳しいので手を打たせてもらいますね」


 光属性魔法「フラッシュ」で辺り一面を光で満たす。

騎士や使用人達は目眩ましをもろに受けてしまったが、アネモネさんには通じず、一瞬で眼を庇っていた。

だが一瞬でも視界を奪えればそれで十分。

魔法を二つ使えればそれで十分だ。


「……な!ジュン様が五人!?」


「どれが本物かわかりますか?」


 この魔法は以前、フランコ君とエクトルさんの和解の為にジゼルさんの姿を魔法で再現した物の応用だ。

ボクの意思で動く、ボクの立体映像を魔法で出しただけだ。

以前ならボクの意思で操作する立体映像を五体(・・)も同時に動かすなんて出来なかったけど、『賢者の紋章』を得た御蔭で可能になった。発想はセバスンの『鏡の紋章』を見た時に浮かんだ。


「紋章による分身じゃない?『鏡の紋章』なら左右が逆転して再現されているはず…」


 流石Sランク冒険者。

『鏡の紋章』の事も知っているらしい。

立体映像には攻撃能力なんて無いし、コケ脅しだとバレるのは時間の問題だな。

その前に決着を着けるとしよう。


「じゃあ、行きますよ!これで決めます!」


「…いいでしょう!」


 五体の立体映像を操作し、戦闘を再開。

スピリットオーブは全て、防御では無く攻撃するように命令を変更。

アネモネさんが呼び出した四体の精霊も参加し、中々に派手な戦闘が繰り広げられている、ように見える。

立体映像には攻撃能力なんて無いので、必死で攻撃を避けているだけだ。

数分間粘ったが、遂にそれがバレた。


「!これは!?何の実体も無い、ただ魔法で姿を再現しただけの物ですか!」


 アネモネさんの攻撃を受け。一体目の立体映像が霧散。 

そこから二体目、三体目と消えていき、立体映像は残り一体となった。


「ハァハァ…最後に残った貴方が本物ですね。…残念ですが、これで終わりです!」


 全ての武器に(オーラ)を纏い、風で操り、自身も戦うのは消耗が激しいようだ。

それほど長時間戦闘はしていないのだが、アネモネさんの消耗は激しい。


 そして最後の立体映像が霧散した。


「え!?これも偽物!?」


「はい。本物のボクはここです」


 そう、アネモネさんが五人と言ったのは全てボクの魔法。

本物のボクは不可視化の魔法「インビジブル」で姿を消していた。

そして立体映像でアネモネさんを消耗させ、最後の一体を仕留めて油断と動揺を誘い隙を作った。

そこへ転移魔法で背後に回り、姿を現し剣を突き付けたのだ。


「くっ…そんなバカな…いつの間に背後に…」


「それだけじゃありませんよ」


「え?」


 【アトロポス】の能力で斬る物を選択し、アネモネさんの肌着だけを斬っておいた。

ここまでやれば敗北を認めてくれるだろうと思って。

傷付けるのが嫌だったからで、決してイヤらしい目的があったのではない。


「こ…これは…どうして?身体も、防具も斬れてないのに…」


「どうやったのかは秘密です。勿論、身体を斬る事も鎧ごと斬る事も可能でしたよ」


「……」


「敗北を認めて頂けますか?アネモネさん。怪我をさせたくはありませんので」


「…はい。私の負けです…」


「…ありがとうございます、アネモネさん」


 アネモネさんが敗北を認めた瞬間。

練兵場がドッと沸く。

Sランク冒険者パーティー同士の戦いはボク達「マスター」の完全勝利だ。

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