第274話 フラワー 6
「ジュン様!勝ちました!」
「うん。よく頑張ったね、ルチーナ」
能力的にはルチーナはサフランさんに負けてたと思う。だけどルチーナの最後まで盾の能力を隠しておける我慢強さと知略の勝利だ。
「すみません、皆さん。負けてしまいました…」
「サフラン…気にする事はありません」
「そうです。強き者を探すのが私達の使命なのですから」
使命?どういう事だろう?
「そう、ですね…ですが…初めて負けました…ま、負け…ぐすっ…うわあああああん!」
「え?サフラン?」
「ど、どうしたんですの?」
サフランさんが泣き出してしまった。
まるで子供のような大泣きだ。
「ビエエエエ!」
「はいはい、サフラン。落ち着いて」
「うぅ…カトレアァ…ぐすっ」
カトレアさんの抱擁でサフランさんは落ち着きを取り戻したらしい。
うん。カトレアさんは抱擁力抜群だろうと思ってた。
「ジュン?何かおかしな事考えてない?」
「考えてませんよ?ささっ、次はアイ殿の出番でござるよ?」
「何でござる口調なの…まぁいいけど。それじゃ行ってくるね」
自分の対戦相手がアネモネさんかカトレアさんか、どっちでも関係無いとばかりにアイは中央へ。まぁ相手の情報が有るわけでは無いし、次はアイの出番だと決まっていたから、関係無いんだけど。
「じゃ、サフラン。私の出番だから行って来るね」
「はい。すみません、もう大丈夫です。行ってらっしゃい」
カトレアさんも中央へ。
見た所、カトレアさんは武器を所持していない。
ナズナさんと同じ暗器使いなのか。
それとも格闘家なのか。
「それではマルちゃん。カトレアさんの情報を」
「あ、はい。でもどうせ聞くならアイ様が居る時に聞けば…」
「それはフェアじゃないしね」
多分、アイも嫌がるだろうし。
「なるほど。ではカトレアさんの情報ですが…すみません、サフランさんと同様に対した事は。ただ、カトレアさんは怖いそうです」
「怖い?」
カトレアさんが?あんなに美人で抱擁力があるのに?
「はい。カトレアさんが『フラワー』の中で一番怖いと」
「ああ…まぁ、そうでしょうね…」
「否定は出来ませんわ…」
御仲間も認めちゃったよ。
果たして、どう怖いのやら。
「それでは、行きます」
「よろしくお願いします」
アイとカトレアさんの戦いが始まった。
カトレアさんは、やはり武器を使わない。
アイと同じく格闘家らしい。
「カトレアはナズナの体術の師です。体術に関してはナズナ以上ですよ」
「ですが…アイ様も体術家のようですわね。カトレアの動きに付いて行けてますわ」
ボクとしてはむしろ、アイの動きに付いて行けるカトレアさんが凄いと思ったが。
そして『拳闘士の紋章』を持つナズナさん以上という事は…
「もしかして、カトレアさんは『拳聖の紋章』を?」
「よくわかりましたわね。その通りですわ」
「もしかして、アイ様も?」
「ええ、まぁ」
カトレアさんも『拳聖の紋章』持ち。
という事はアイとほぼ互角の実力者と見るべきか。
しかし、アイが若干不利な点が一つ。
「体格差が大きいですね」
「そうですねー。アイ様とカトレアさんは10㎝くらい背が違いますよね」
そう。技術が互角なら、体格差が物を言う。
残念ながら、アイよりカトレアさんの方が体格が良い。
特に胸の大きさが圧倒的に…
「お兄ちゃん?今何かやらしい事考えてなかった?」
「失礼だな、妹よ。確かに体格ではアイが不利だなーって考えてただけだよ」
「ふーん…確かに体格差は大きいけど…アイなら大丈夫でしょ」
「うん。アイなら大丈夫だ」
何せアイは前世からの天才格闘家。
自分より体格のいい相手と戦うのも慣れている。
この程度の不利はアイにとってなんら問題にならないはず。
「あ!」
「懐に入った!」
カトレアさんの長い腕から繰り出される突きを躱し、懐に入ったアイは両手で掌底を放つ。
まともに受けたカトレアさんは数m後退。
そこで一旦戦いが止まった。
「やりますね。体術で私に先制出来た人は久しぶりです」
「ふふん。伊達に天才美少女格闘家なんて呼ばれてないよん」
…いや、アイ。それは前世の話…
「アイ様ってそんな風に呼ばれてたのか?」
「さぁ…私は初耳ですが」
「リリーも初耳ですぅ」
「私も初耳ですねー」
「…ガウル様辺りじゃない?」
「「「ああ~」」」
アイめ…迂闊な事を。
誤魔化せたからよかったけども。
「さて…それでは私も本気を出すとしましょう。死なないでくださいね?」
「ふふん。天才のウチに向かっていい度きょ…う…」
何だアレ。
カトレアさんの体が筋肉隆々のムキムキマッチョに変化した。
のみならず、身長も伸びて凡そ175㎝くらいだったのが今じゃ3mはありそうな…
「な、ななな…何ですか、アレ!モンジェラさん並の変わり様ですけど!」
「…モンジェラさん?」
「モンジェラさんが何方か存じませんが…アレがカトレアの『拳聖の紋章』の能力ですわ」
「紋章の力で肉体を操作し…肉体が持つ力を限界以上に引き出す。それがカトレアの『拳聖の紋章』の能力です」
「その結果がアレですか…」
何かもう、日本のマンガのキャラみたいになってますがな。
某世紀末救世主の敵役のようだ。
「ふしゅう~…この状態になると手加減が難しくなるので…敵わないと思ったら早めに降参してくださいね」
「随分、ハスキーな声ですこと…」
物は言いようだな…アイ。
しかし、なるほど。カトレアさんは怖いわ。
「あのカトレアさんを見た人は、そりゃあ怖いと思うでしょうね」
「ええ。否定出来ませんわ」
「身内の私達でさえ、ちょっと怖いですし…」
「服もよく破れませんね」
「サイズ変更に特化した特別製です」
「カトレアの服は下着も含めて全て特別製ですわ。あの能力のおかげで鎧の類は装備出来ないのですが」
それでもロングスカートがミニスカみたいになってますけど。
長袖の服も半袖になってるし。
ちょっと切り口を入れたら弾けそうだ。
「行きますよ!」
「え!はやっ」
あの巨体から想像出来ない速さだ。
肉体能力を限界以上に引き出しているだけある。
「ぬううん!」
カトレアさんの拳をすんでの所で躱すアイ。
拳圧によって生まれた風がボク達の所まで届く。
「はぁ!」
カトレアさんのかかと落としを躱すアイ。
振り抜かれたかかとが地面を割り、クレーターを造る。
「相変わらずあの状態のカトレアは化け物じみてますわね…」
「正真正銘の化け物だと思いますが…」
クリステアの言う事に同意する。
女性に向けて言うセリフではないけど…
「あの、『フラワー』のメンバーで負けた事が無いのはアネモネさんとサフランさんだけって話でしたけど、カトレアさんは以前誰に負けたんです?」
「ああ…以前カトレアは『大魔道士の紋章』を持つ方と戦いまして」
「アレは相性が最悪でしたわ。それでも善戦してギリギリの敗北でしたけど」
「拳の風圧で魔法を迎撃したりしてたわね~」
ナニソレ、凄ーい。
アイでもそんな真似は出来ないだろう。
凄いな、カトレアさん。
でも…
「アイ様も凄いですね」
「あのカトレアの動きに反応出来てますわね」
「でも、ギリギリで躱せてる感じだし、いずれ掴まるわ」
「ちょっと違います。アイはギリギリで躱せてるんじゃなく、わざとギリギリで躱してるんです」
「え?それって…」
「カトレアの動きを見切っているとでも?」
「はい。その証拠に…二人の顔を見てください」
アイは楽しそうに笑っている。
対し、カトレアさんの表情には焦りがある。
余裕は感じられない。
「笑ってる…?」
「まるでサフランのように楽しそうに笑ってますわ」
「逆にカトレアは負い詰められたかのような…」
「そんな…まるで逆じゃない!」
「一見、アイ様は手も足も出なくて逃げ回るので精一杯な感じなのに…」
実際に戦ってる二人には解るのだろう。
どちらが負い詰められているのか。
「しかし…避けているだけでは勝てません。アイ様も攻撃しなくては」
「アイ様も魔法を使えば勝てるんじゃ?」
「アイは魔法を使わないよ。今のアイは格闘家だから。自分の技で勝つつもりだよ」
「ですが…」
「もしかして、紋章の力で?でもアイ様の『拳聖の紋章』の力では…」
そう、アイの紋章の力では殺してしまうかもしれない。
アイなら上手く使うだろうけど…
「大丈夫。アイが勝つよ」
そしてアイが動いた。
先ず側頭部に回し蹴り。フラついた所に足払い。再び側頭部に蹴り。そしてまた足払い。これを高速で繰り返す。
するとカトレアさんの体は風車のように回転する。
そして無防備になった胴体に渾身の一撃。
「奥義!月輪!」
回転する体がまるで満月のようで、そして最後の一撃で体がくの字に曲がった姿が三日月のようだという事で月輪の名が付いたらしい。
巨体のカトレアさんはそこまで綺麗に回せなかったが、一度ゴブリン相手に練習と称して使った時は正にそんな感じだった。
「が…ふっ…」
「お~意識があるんだ。凄いね」
「凄いのは貴女です…化け物ですか、貴女…」
「化け物は酷いなぁ…それに貴女には言われたくないしぃ」
「お互い様ですか……私の負けです」
「…押忍!ありがとうごさいました!」
第四戦、拳聖同士の戦いを制したのはアイ。
これでボク達の完全勝利まで後一歩となった。




