第27話 学校を作ろう 4
「というわけでね、フレムリーラからも訓練生や研修生を受け入れてほしいの」
「はい、わかりました」
「あら、なんだか妙にあっさりしてるわね?」
「昨日、ダルムダットでも同じことを頼まれたとこですので。予想してました」
ダルムダットで訓練生達を預かった翌日、予想通りフレムリーラに呼び出されていた。
フレムリーラでも重篤の患者さんを集めてあってすでに治療は済んでいる。
「ユウさん、美味しい?これ私のお気に入りのケーキなの」
「はい、美味しいです。シャンゼ様」
「もう硬いわね、シャンゼお姉ちゃんと呼んでもいいのよ?」
「いえ、それは…」
「そう?あ、ジュン君もシャンゼお姉ちゃんて呼んでいいのよ?あ、アリーゼ様と被る?じゃあハニーでもいいわよ?私もダーリンって呼ぶし」
「いえ、周りの人達の視線で殺されそうなので止めておきます」
今日のシャンゼ様はなんだかはしゃいでいるようだ。
初めて会った時は真面目そうな印象だったのだが今は結構、子供っぽいとこがあるというかいたずらっぽいとこがあるというか。
「もう、周りの視線なんて気にしなくていいのに。まあいいわ。じゃあ訓練生達を紹介するわ。コルネリアを呼んで来て」
「ハッ」
執事さんが退室し8人ほど連れて戻ってくる。
しかし、先頭の女の子、この子が恐らくはシャンゼ様のいうコルネリアさんなんだろうけど、めっちゃ睨んでくる。何もしてないと思うのだけど。
「こら、コルネリア。失礼でしょ。睨んでないで挨拶しなさい」
「…はい、お姉さま。コルネリア・フレムリーラです。よろしくお願いします」
不承不承といった感じで挨拶するコルネリアさん。
茶髪のボブカットで15歳くらいに見える。悪魔族かな?
「初めまして。ジュン・エルムバーンです。こっちは妹のユウです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「フンッ」
なんだかわからないけど非常にご機嫌斜めのようだ。
しかしフレムリーラと名乗るってことはシャンゼ様の妹?
「もう…。ごめんなさいね、二人とも。この子は私の従妹だけど遠慮なく鍛えてあげて。生意気言うようならちょっとくらいお仕置きしていいから」
「お姉さまっ」
「それからその子はコルネリアの護衛兼訓練生のユーファよ。私とコルネリアの幼馴染で信頼のおける子よ。コルネリアがなにかしたらその子に言ってもいいわ。ユーファにもお仕置きする権限をあげてるから」
「ユーファです。コルネリア様の事はお任せください」
ユーファさんは紫の髪のショートカット。
17歳くらいか。悪魔族かな。
「う~」
「コルネリア、あなたエルムバーンに行くのが不満なの?治癒魔法の育成が重要なのはわかっているでしょう?」
「う~…それはわかってるけどぉ…」
「じゃあなにが不満なの?」
「だって!なんでこんな子供に教えてもらわなきゃいけないの?」
「あなたもジュン君が治癒魔法を使うとこは見たでしょう?怪我人も病人もアッとゆう間に治してたじゃない。間違いなく魔族では最高の治癒魔法使いよ」
「でもでも~!」
「それにジュン君は私の婚約者でもあるのよ?そのジュン君に対してあなた…」
「それが一番気に入らないの!」
「え?」
子供に教わるなんて嫌ってのはまあ分からなくもないからいいんだけど、シャンゼ様の婚約者なのが一番気に入らないの?
それに関しては知らない間に決められてたので、ボクとしても多少は言いたいことがあるんだけど。
「なんでこんなどこの馬の骨とも知れないやつに!」
「馬の骨って…ジュン君はエルムバーンの魔王子よ。これ以上ない身分じゃない」
「う…そ、それにいくら治癒魔法が使えるからってそれだけじゃお姉さまに相応しいとは思えないわ!」
「ダルムダットの魔王ガウル様に一対一の勝負に勝ち、アリーゼ様にも勝ったのよ?8歳で。文句ナシの才能じゃない」
「う、ううう~、そ、それにこんな女みたいな顔したやつが美しいお姉さまの婚約者に相応しい筈ないわ!」
あ、それは傷つくなあ。
気にしてるんだけどなあ。
「コルネリア、いい加減にしなさい。エルムバーンの魔王子に対してその暴言。許しませんよ」
流石にシャンゼ様が止める。
まあ他の国の人がこの場にいたら国際問題だよね。
ボクはそこまでする気はないけど。
「それにジュン君は確かに女顔かもしれないけど大人になればかなりの美青年になるわよ。今から楽しみで、ウフフ」
「お姉さま…」
それはどうかなあ。
今のとこ髪の色がちょっと違う以外は前世と同じ感じで成長してる。
大人になっても望みは薄そうだけども。
あ、ちょっと泣けてきた。
「と、とにかく!私はそんな女男をお姉さまの婚約者なんて認めなっぶべっ」
「「あっ」」
何時の間にか立ち上がってコルネリアさんの傍に移動してたユウがコルネリアさんを思いっきり殴った。しかも補助魔法で身体強化した拳で。
コルネリアさんは鼻の骨が折れたようでひどい鼻血だ。
すでに涙目で心も折れたようである。
「黙って聞いてればこの女…私の前でお兄ちゃんの悪口を言うなど殺してくれと言ってるも同然!」
いや、悪口言ったくらいでそんな。
と、思ったけどユウのあまりの迫力に何も言えなくなる。
この場のだれもがユウの迫力に押されて委縮している。
「いいか貴様!お兄ちゃんはなあ、女顔なの実はすごい気にしてるんだぞ!鏡の前で眼鏡かけたり髪型変えたり時には付け髭付けたりして男らしく見えないか試したりしてな!そんな事してもかわいいだけなのに!すっごい気にしてるんだぞ!」
やめてくれ妹よ。
お兄ちゃん恥ずかしい。
てゆうか見てたのか妹よ。
ずっと知らないふりして黙っててほしかった。
なにもこの場で暴露しなくてもいいじゃないか。
さっきまでユウの迫力に負けて委縮してたのにシャンゼ様なんて実に楽しそうに笑っている。
他の人も笑うのも我慢してるのがまるわかりだ。
「それになあ!」
「ユウ、ストップ。どうどう」
これ以上恥ずかしい秘密を暴露されたくない。
止めるしかない。
もっと早く止めればよかった。
「でもお兄ちゃん!」
「うんうん。わかってるわかってる。お兄ちゃんはユウが怒ってくれただけで満足だよ~。だから落ち着きなさい」
まだ不満そうだがなんとかユウを座らせる。
シャンゼ様は楽しそうに笑ってる。
ユーファさんはコルネリアさんの介抱をしている。
「すみません、シャンゼ様。妹が暴れて」
「いいのよ。今のはコルネリアに原因があるしこれからはエルムバーンで訓練するんだもの。ここでガツンとやっておくほうがあとあと問題がでないわ。楽しかったし、ね」
ニコニコとボクの顔を見るシャンゼ様。
やめてください、いま聞いたことは忘れてください。
「でもまあ女の子だし顔の怪我はちょっとかわいそうかな。治してあげてくれる?」
「はい、もちろん。今すぐに」
女の子がいつまでも鼻血ダラダラはかわいそうなのは同感。
治癒魔法で綺麗に完治させる。
「すみません、コルネリアさん。妹が酷いことを」
「い、いえ!私の方こそ失礼しました!」
最初のボクへの態度はすっかり鳴りを潜め、怯え切っている。
ボクに怯えてるのではなく後ろにいるユウに怯えているのだろうけど。
「そ、それじゃシャンゼ様、訓練生達の件はお任せください。できる限りの事をさせてもらいます」
「ええ、お願いね。期待してるわ」
そう挨拶してフレムリーラを去る。
おかしなことにならないといいな、と思っていたボクの願い虚しく。
ここ最近で一番のダメージを妹から受けて帰国するのだった。




