第269話 フラワー 1
「ジュンさん、お早う御座います」
「お早う御座います、パメラさん」
「ジュンお兄ちゃん、おはよ」
「お早う、ベル」
サンドーラの一件が片付いてから数日。
パメラさんとベルの機嫌がいい。
ベルに至っては、「ベルって呼んで」と自分から言い出し、ボクの事は「ジュンお兄ちゃん」と呼ぶようになった。
最初は嫌われてたと思ったのだが、誤解が解けたのだろうか?
「嬉しかったんだと思います。マルグリット様やメラニー様より魅力的だと言ってもらえたのが」
「あ、ルシールさん」
そう言うルシールさんも毎日が楽しそうだ。
あからさまに機嫌が良い。
「ルシールさんも楽しそうですね」
「はい!ここには癒しが多くて…まさに楽園ですね!」
「癒し?」
「エリザ様を始めに、ユウ様にアイ様。ノエラさんにリリーさん。シャクティさんにハティちゃん。クリステアさんにルチーナさん。ティナちゃん達も可愛いし…他にも他国の王族や貴族の美人がいっぱい…たまりませぇん!」
あぁ~…これはアレですか、ガチ百合って奴ですか、そうですか。
「何ですかジュン様、その目は…違いますからね?私は美人を愛でるのが好きなだけで同性愛者ではありませんからね?」
「ボク、似たような事を言った変人を知ってますよ」
「ジュン殿…それ、私の事じゃないですよね?」
「あ、お早う御座います、イーノさん」
イーノさんも毎日楽しそうだ。
治癒魔法の修得も順調らしい。
「お早う御座います。で、私の事じゃないですよね?」
「いや、イーノさんの事ですけど?他にも四人ほど居ますが」
ツオーレ三兄弟と豚侯爵の四人。
あの四人に比べたら、イーノさんはかなりまともなんだが。
「非道いですよ、ジュン殿。私の事をそんな風に思ってたんですか」
「オリビアさんと結婚しようとしてたんでしょう?」
「オリビア…ヤーマン王国の?最近兄君と結婚された?」
「そうです、そのオリビアさんです」
「あ、アレは一時の気の迷いと言いますか…今はジュン殿一筋ですから!」
オリビアさんを見る度泣いてた癖に。
「そうですか?まぁオリビアさんの事を吹っ切れたならよかったですね。お風呂とか、実に幸せそうに入っているそうですね」
「あ、はい!ここのお風呂は大人数で入れますから!」
「ですね!もう女神かってくらい美しい人ばかりですし!」
「ほほう。因みに誰が最高ですか」
「エリザ様ですね!二人も子供を産んだとは思えないプロポーションです!」
「私はエリザ様とはまだご一緒した事が無いので…シャンタル様ですね!あの抱かれる為に生まれて来たかのようなスタイル!是非撫で回したい!」
やっぱりガチですやん。
少なくともルシールさんは確定だろう。
「うふふ。ありがとう、イーノちゃん」
「……」
「よかったね、お姉ちゃん。セイレンの女には最高の褒め言葉じゃない」
「「え…」」
「あ、お早う御座います」
いつの間にか、ママ上とシャンタルさんとエミリエンヌさんが近くに。バッチリ聞いてたみたいで、ママ上は嬉しそうだがシャンタルさんはドン引きしてる。
「お早う、ジュン。イーノちゃんにルシールさんも」
「「お、お早う御座います…」」
「お早う御座います、ジュンさん…」
「皆、おっはよー!」
エミリエンヌさんはいつも通りだ。
シャンタルさんは、ユウの媚薬事件でボクに触れてからというもの、何だか意識されてるみたいだ。何でもあの時、初めてまともに男性に触れたらしい。
「あ、あの~エリザ様?私はただ褒めただけで…それ以上の意味はありませんから…」
「大丈夫よ~分かってるから~。私もイーノちゃんの事好きよ~?」
「いえ、あの…本当にわかっていただけてます?」
ママ上は分っててからかってるダケだと思います。
まぁ、こっちはいいとして…
「あの…シャンタル様?私もシャンタル様の美貌を褒めただけでして…」
「そうですか。あ、すみませんが、あまり近付かないでくださいますか」
「シャ、シャンタル様ぁ!」
シャンタルさんの反応は…無理も無いかな。
ルシールさんは涙目だが…あまりフォローする気になれない。
「ほらほら、いつまでも廊下で話してないで。イーノちゃん、これから私の部屋でお茶会なの。イーノちゃんもおいで」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ルシールさんもいらっしゃい。パメラさんとベルちゃんも先に行ってるから」
「は、はい…」
「エリザ様、あたし達はもう少しジュンさんとお話ししてから行きますね」
「あら、そう?わかったわ。ジュンもよかったら来る?女の子ばかりのお茶会だけど。ユウとアイも来るわよ」
「そうですね…せっかくですし、行きます」
「なら、待ってるから早くいらっしゃい」
「はい。…それで、御話しとは?」
「ん~?別に?本当にただ御話しがしたかっただけだよん」
「そうなんですか?…あ」
「ジュン様、お早う御座います」
「あ…お、お早う、クリステア…ルチーナもお早う」
「お早う御座います、ジュン様」
クリステアとルチーナも来た。
先日のクリステアの告白以来…どうにもクリステアを意識してしまうな。
妙にドキドキしてしまう。
「ジュンさんとクリステアさんて、何かあったの?」
「何にもありませんよ」
「そっかなー?」
「…それよりも、エミリエンヌさんは此処での生活に慣れましたか?何か不満などは?」
「ん~?誤魔化したね?ま、いいけど。…此処での生活は楽しいよ!不満があるとすればジュンさんが抱いてくれない事かな~」
「その不満は解消出来そうにないですねー」
「ブー!…なら、お姉ちゃんは?抱かれる為に生まれて来たこの身体!まずジュンさんが抱いてみない?」
「エミリ!」
朝から酷い会話だな。
最早慣れたものだけども。
「ジュンさんが困ってるでしょう?止めなさい」
「…ふ~ん」
「な、何?その顔…ニヤニヤして」
「お姉ちゃん、自分で気づいてる?」
「な、何に?何が?」
「お姉ちゃん、ジュンさんの事、前は『ジュン様』って呼んでたのに今はあたしと同じで『ジュンさん』になってるよ?」
「え?」
言われてみれば確かに。
初めて会った時から『ジュン様』だったのに。
いつの間にか変わってる。別に問題は無いのだが。
「ねぇねぇ、何で?何か心境に変化でもあったの?」
「な、何もありません。さ、エリザ様達をお待たせしています。ジュンさんも…」
「お話し中、申し訳ありません。ジュン様、御客様がお越しです」
「客?今日は何も予定が無かった筈だけど…誰が来たの?ノエラ」
「それが…例の『フラワー』の方々です」
「あ~…ついに来たか」
コズンさん達が言ってたように、本当に来た。
面倒くさい事になりそうだし、居留守を使ったり、魔王子の権力をかさに着て追い返す事も可能だけど…
「仕方ない、行くよ。シャンタルさん、エミリエンヌさん。すみませんが、お茶会には行けそうにありません。お母さん達によろしくお伝えください」
「あ、はい。わかりました」
「ん~ざ~んねん。じゃあね、ジュンさん」
はてさて。用件は多分、ボク達『マスター』のメンツと戦いたいって事なんだろうけど。
どうなる事やら。




