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第251話 家出王女 5

今回は四人の視点で語られます。

~~ジュン~~



 女性二人に付いて、追手の騎士を避ける為、冒険者ギルドの裏口から路地裏へ。

往来を行き来する騎士は確かに多い。


「それで?あれはこの国の騎士ですよね?何故追われているんです?」


「……言えません。貴方方が信頼出来る方かまだわかりませんので。ですが、私達は犯罪者ではありません」


「では、ヴェルリアには何をしに?」


「…亡命です」


「は?」


「私達はヴェルリア王国に亡命を希望しています」


 ぼ、亡命?それは単なる家出とはわけが違う。

だけど、そうだとしても騎士達が殺気立ってる気がするが。


「亡命する理由は?」


「それも言えません」


「亡命の理由と追われる理由は関連が?」


「無論、あります」


「何故、ヴェルリア王国なんです?」


「縁者を頼っての事です。それ以上は言えません」


「…騎士達の目的は貴女じゃなく、そっちの子ですか」


「…そうです。最悪、私はどうなっても構いません。ベ…この子さえ逃げ切れれば」


 女性の後ろで、ずっと隠れるように身を小さくしてる女の子。

「私はどうなっても構いません」その言葉を聞いた途端に、バッと顔を上げイヤイヤと顔を振る。

ようやくまともに見る事が出来た顔には涙が浮かんでいた。


「…女の子に泣かれちゃ、引き受けざるを得ませんね。わかりました。ヴェルリアまでお送りしますよ」


「…有難うございます」


「(いいんですか?ジュン殿。亡命の手助けなんて)」


「(今ここで無理やりサンドーラに引き渡すのは違う気がしますし、亡命する理由が気になります。ヴェルリアまで行けば話してくれるでしょうから)」


 さて、となると。

少なくともパメラさん達の班とは合流してから戻るべきか。

今ここでヴェルリアに転移するのが一番安全かもしれないけど、落ち着かないだろうし。

パメラさん達は長距離馬車の方だったな。


「シャクティ、リディア。二人で駅馬車の方に行って。パ…仲間達を連れて来て。ボク達は冒険者ギルドに戻って部屋を借りて、そこで待ってる」


「はい」


「通信用魔法道具で連絡付かないんですか?ジュン様」


「それが…さっきから呼んでるんだけど、出ないんだよ」


 魔法の袋に仕舞ってるのか、街中の喧騒で気が付かないのか。

トラブルに巻き込まれてるんじゃなければいいけど。




~~カタリナ~~



「なぁ、アイシス」


「なに?カタリナ」


「私達は宿の方へ行く筈だったよな?」


「そうだね」


「なのに、何故こんな所に来てるんだ?」


「何故って…この子を家に送り届ける為でしょ?」


「それはわかってるんだが…」


 迷子になって泣いてる子を見つけたから家に送り届ける。

まぁ、それはいい。私達も人探しの最中で暇ではないが放っておくわけにもいかないからな。

しかし、此処はどう見ても…


「ここは歓楽街だろう。その子の家は無いんじゃないか?」


「そうなのかな。ところで歓楽街って何?」


『マスター…興味津々な癖に歓楽街を知らんのかいな』


 剣にそんな事を突っ込まれる勇者…中々笑える図ではあるが、女だけでこんな場所をうろつくのはよくないな。


「ユ、ユユユ、ユリアさんっ!あの人のドレス、透けてるっ見えそう!」


「お、おち、落ち着きなさい、ルチーナ!」


 真面目なこの二人はこういう場所と話には縁が無さそうだしな、落ち着きを無くすのも分かるが。


「はぁぁぁぁ…ジュン様…」


 ノエラは落ち着き過ぎ…いや、落ち込み過ぎか。

僅かな時間離れるだけだろうに。


「兎に角だ、アイシス。私達にもやらなければならない事がある。早くその子を送り届けよう」


「わかってるよぉ。ねぇ君。この辺りには来た事ある?」


「ぐすっぐすっ、無い…」


 いや、あるわけないだろう。

そんな子供がこんなとこに通うようになったら世も末だ。


「はぁ。アイシス、先ずは此処を離れよう。ここをうろつくのはよくない」


「そうなの?じゃあ取り合えず大通りに…」


「お?なんだぁ?美人の姉ちゃんがいっぱいいるぞぉ!」


「おう!新人さんか?どこの店だ?指名するから、教えてくれよぉ」


「はぁ?指名?」


 遅かったか…見た所昼間っから酔っぱらってこんなとこにいる辺り、碌な奴らじゃなさそうだ。


「んん~?なんだぁ、姉ちゃんたち、剣や斧を持ったりして。冒険者の真似事かぁ?」


「ばっか、お前、ありゃ騎士の恰好してんだよ。あっちの姉ちゃんはメイドだな。あの恰好のままヤるんだよ」


「何の話?カタリナ」


「私に聞くな。無視して行くぞ」


「おいおい、姉ちゃん。そりゃないぜ。折角だから俺達と遊ぼうぜぇ」


「私達も暇ではないのでな。この子を家まで送り届けないといけないんだ。失礼する」


「そんなガキどうだっていいじゃねえか。おら、お前はどっか行っちまいな」


「きゃっ!」


「あっ!」


 やはり、碌な奴らじゃないな。

いくら酔っぱらってるからって子供を足蹴にするなんて。

って、あ!


「何するんだっ!」


「あ?ぶげっ!」


 ああ…やってしまったか。

まぁ今のは仕方ないか。アイシスが今のを我慢するわけがないしな。


「て、てめぇ!女の癖に!」


「五月蠅い!男の癖に子供に暴力振るうんじゃない!」


「この野郎…優しくしてりゃ付け上がりやがって…お前ら!出て来い」


 これはまた。ぞろぞろと。

こいつら皆仲間か?


「へっへっへ…俺達は此処の用心棒で、此処に居るヤツは大体仲間だ。謝るなら今の内だぜ」


「今なら全員の相手するだけで済ませてやる。命だけはとらないでいてやるぜぇ?」


「五月蠅い。来るなら来い。懲らしめてやる。カタリナはこの子をお願い」


「ああ。怪我は…無理だろうけど、命は奪うなよ」


「大丈夫だよ。ノエラさん達はカタリナを守ってね。こんな奴ら僕一人で十分だから」


「はい。お任せします」


 はぁ…本当に何をやってるんだか、私達は。

しかし、この街の薬屋は儲かりそうだな。

ジュンが奪ってしまった仕事の補填は出来そうだ。




~~レティシア~~



「ねぇ、アイ」


「何かな、レティシア」


「私達、酒場で聞き込みするのよね?」


「うん」


「此処、酒場なの?」


「うん。一応ね」


 そう?かなぁ。

とてもそうは見えないんだけど…


「あらぁ、こちら渋いわぁ!お年の割に筋肉が凄いし、胸板も厚いわぁ!」


「いや、あの…余り触らないでもらえないか」


「こっちの執事さんも男前だわぁ!細身に見えて、ガッチリしてるし!」


「は、ははは…」


「こっちの騎士さんもハンサムゥ!ねぇ、あたしと結婚しない?」


「いえ、私には妻も子もいますので…」


 何だろう、此処。

四つの班の中で私達が一番来ちゃダメな気がする。

よりによって男が固まってる班だもの。

飢えた狼にエサを与えるようなモノじゃないの?


「というか、此処何なの?」


「オカマバー…かな」


 オカマバー?

あの人達がオカマなのは分るけど。

ここの従業員は皆オカマなの?


「まぁ先ずは聞き込みね。ねぇママさん。最近、こんな感じの子が大人の女の人と二人で来なかった?」


「ん?どれどれ。ん~私は覚えが無いわねぇ。人探し?」


「そうなの。そっちのお姉さん達はどう?」


「私は知らないわねぇ」


「あたしも」


「私も見た事ないわぁ。というか、流石に子供は此処には来ないんじゃない?常識で考えるなら」


 そうよね。私もそう思うわ。

オカマに常識を語られるとは思わなかったけど。


「そう。知らないなら仕方ないね。ありがとね、ママさん」


「あら、もう行っちゃうの?」


「うん。結構急ぎなの。ごめんね」


「そうなの。また来てねぇ、サービスするから」


「うん、じゃあね」


「…失礼します」


 また来る事は無さそうだけど。

男達はあからさまに助かったって顔してるし。


「さぁ次の酒場に行くわよー!」


「…うん」


 酒場は間違いじゃないかな。

せめて食堂とか喫茶店とかにすべきな気がするけど…


「お前達か。ベルナデッタ殿下を探してるというのは」


「ん?誰、あんた達」


「我々はこの国の騎士だ。怪しい奴らめ。一緒に来てもらおうか」


 私達が怪しい奴ら?

こいつは一体何を言っているのかしら。


「悪いけど、そんな暇は無いの。またにして頂戴」


「そうはいかん!大人しく付いて来い!」


 あ~…剣を抜いちゃった。

この面子を相手に。人数は…十人か。

それっぽっちじゃどうにもならないわね。

気の毒に。




~~パメラ~~



「どうでしたか、ユウさん」


「此処には来て無さそうですね。王女達が変装してる可能性もありますから、はっきりと言えないですけど」


「そうですか…なら此処で待ちますか?」


「はい。此処なら受付も出入りする人も見えますから」


 此処は、長距離馬車乗り場の受付の前にある喫茶店。

此処なら確かに受付の様子も見れるし、出入りする人も見れる。

勿論往来する人も見れる。でも…


「目立ってますよね、私達」


「そうですね…」


 さっきからナンパで声を掛けてくる男性が後を絶たない。

というか、私は一応、ついこの間までこの国の王子の妻だったのだけど。

この人達は分かっているのかしら。


「ハティちゃんの御蔭で助かってますけどね」


「本当に。ありがとね、ハティ」


「えへへ」


 しつこい人達にはハティちゃんが殺気をちょっと込めて睨むと逃げ帰っていった。

まさか目の前の女の子が神獣フェンリルだとは思いもしないだろうけど、本能で危険を感じ取れるようで皆逃げ帰って行った。

それでも機会を伺う人達が周りにいるのだけど。


「でも、誰にそんなやり方教わったの?」


「セリア!前に、セリアと街で遊んでた時も同じ事あったから」


「ん。モテる女は辛い」


 その人達も気の毒ね。

さぞ怖かったでしょう。


「あ、あれはこの国の騎士ですか?」


「え?あ、そうですね。それも…王城に詰めてる騎士ですね。あの顔は見覚えがありますし」


 ベルを探して此処まで来た?

それにしては…妙に殺気立ってるというか…自国の王女を探してる騎士というより、犯罪者を追ってるかのような物々しさがあります。

全員、武装を完全に整えていますから。


「あ、こっちに気が付いたみたいですね」


「向こうも私の顔を覚えていたようですね」


「怖い顔してるね~」


 何やら、こちらを睨みながら近づき、喫茶店まで入って来ました。

一体、私に何の用でしょう?


「これはこれは、パメラ様。クラース殿下と離縁された貴女が何故このような場所に?」


「ベルが…ベルナデッタ殿下の件は私も聞いています。故に私が此処に来た。それだけです」


「おかしいですな。パメラ様は噂ではエルムバーンの魔王子の下にいると聞いております。ベルナデッタ殿下の件を聞いてから来られたにしては早すぎるのではないですか?」


「何が言いたいのです?」


「ベルナデッタ殿下をかどわかして、何のおつもりです?今更貴女がこの国に何をしようと言うのです!」


「私が?ベルを?」


 この者は何を言って…私がベルをかどわかした?

一体何故そんな…


「貴方達は一体何を言っているのです?ヴェルリアにベルの捜索を協力するよう要請したのはサンドーラ王国でしょう?」


「とぼけないで頂きたい。貴女がかどわかしでもしない限り、ベルナデッタ殿下が外に出よう筈がない。一緒に来て頂きましょうか」


「ちょっと、離しなさい!」


「お前達はヴェルリアの者か?お前達にも来てもらおう」


 ダメですね…こちらの話を聞くつもりが無い。

それにしても、どういう事でしょう?


「その手を離しなさい」


「貴様、ヴェルリアの騎士か?邪魔建てするなら容赦せんぞ」


「いいえ。私はエルムバーン魔王国の騎士。私にはこの場にいる人を守る責務があります。もう一度だけ言います。その手を離しなさい」


「クリステアさん、かっこいー」


「本当にねぇ。普段からそんな風なら、お兄ちゃんももうちょっとクリステアになびくのに。まぁそれじゃ私が困るんだけど」


 確かに、今のクリステアさんは凛々しく、かっこよく見えます。

ですが、今はそんな事を言ってる場合じゃ…


「エルムバーンの騎士だと?何を…」


「まさか!今回の事件は裏にエルムバーンが居るのか!?」


「パメラ様!貴女の手引きですか!」


 この者達は一体…冷静な思考力を失っているのでしょうか?

とてもまともな判断が出来ているとは思えません。


「益々、あの御方の下へ連れて行かなくては!さぁ、来てもらいましょうか!」


「歯向かうようなら、手荒な真似をする事になりますよ!」


「あの御方?」


 一体誰の事を…国王陛下でしょうか?

いえ、今はこの者達に連れて行かれるわけには行きません。

何とかしなくては。


「離しなさい。貴方達は自分が何をしようとしているのか、分っているのですか?ヴェルリアを敵に回す事になりかねませんよ」


「貴女こそ!」


「ベルナデッタ殿下をどうされるおつもりか!」


 やはり、聞く耳を持ちませんか。

どうすれば…


「仕方ない」


「そうね、仕方ないわね」


「む!抵抗す…る、か…」


「大人しく寝てなさい」


 ユウさんとセリアさんが魔法で眠らせてしまいました。

怪我をさせたわけでもないですし、仕方ないですね。


「パメラさん、一旦此処を離れて、お兄ちゃん達と合流しましょう」


「その方がよろしいかと。ユウ様、新手です」


 外には、こちらに気づいた騎士達が向かっているようです。

今度は六人程。魔法兵の姿まで見えます。


「妙な事になって来たわね。兎に角、裏口から逃げましょう」


「はい」


「ん。こっち」


「あの、御主人、騒がせてすみません。御代は此処に。御釣りはいりませんから」


 要請を受けて来た筈なのに、まさかこの国の騎士に追われる事になるなんて。

一体、この国に何が起きているのでしょう?

あの御方とは…

読んで頂きありがとうございます。

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