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第250話 家出王女 4

 タリスの街を襲ってるのは…蜘蛛型の魔獣だな。

ちっちゃいのが沢山いて後方には大型の蜘蛛が数匹。

ちっちゃいのは子蜘蛛かな。

ちっちゃいと言っても大型犬くらいの大きさはあるのだが。


「あれはマラカイトスパイダーとその子蜘蛛のようだな。異常発生で集まった蜘蛛が繁殖して、エサを求めて此処まで来たのだろう。包囲網の一部が破られたのかもしれんな」


「カタリナさんが知ってるのは少々意外ですね」


「異常発生した地点で確認された魔獣のリストは眼を通したからな。それよりどうするのだ?」


「勿論、加勢します。パメラさん達は馬車の中へ。アイシス達は残って馬車を守って。あとは攻撃だ。数が多いから囲まれないように」


「「「はいっ!」」」


「よし。攻撃開始!」


 子蜘蛛の数は数えるのも嫌になるくらいいる。

千は超えるか?親蜘蛛八匹。

確か、マラカイトスパイダーは討伐難度C。

子蜘蛛はEってところか。


「フッフッフ…数も多いし、ここはジュン直伝のゴーレムの出番ね!」


 アイがタイプKのゴーレムを二体出した。

ボクのタイプKは銀色の装備なのだが、アイのは赤と青だ。

何故かアイは色に拘っていた。

勿論、アダマンタイト製の装備だ。

子蜘蛛はタイプKの突撃により、数を減らしていく。


「フッ!」


 ユウの魔闘士の紋章の紋章の力なのか、ユウが拳を振りにく度、魔力による衝撃波が起きている。

魔力を眼で視る事が出来るボクだから解るけど、視えない人には厄介な能力だ。

拳を避けたと思っても、その後に来る見えない衝撃波。

衝撃波はそこそこに範囲が広いようで、子蜘蛛を数匹まとめて吹き飛ばしてる。


「必殺のぉ!アローレイン!ですぅ!」


 リリーの弓聖の紋章の能力は弓気(アローオーラ)で出来た矢を放つ事が出来るという物。

矢を普通に一本撃つと同時に左右に三本ずつ、弓気(アローオーラ)の矢を放つ。

それを上空に向けて連射。

大量の矢が雨あられのように降って来る。

あの技のネーミングと発想は恐らくはアイの仕業だな。

日本のゲームなんかで見た気がするし。


 クリステアとルチーナは見た目は大きな変化は無い。

だけど、クリステアは攻撃力が増し、ルチーナは防御力が増した。

堅実な戦闘に磨きが掛かって来た。


「せえええい!」


 リディアのハンマーの一振りはやはり凄い。

自分の力で衝撃波を起こしてる。

強脚の紋章でスピードも増し、心眼の紋章で隙も減った。

鉄血の紋章で防御も万全。

リディアに勝てる人はそうはいないだろう。


「やりますわね、リディア。私も負けていられません!」


 ユリアもクリステアとルチーナと同じように堅実に戦うタイプだ。

剣士の紋章も剣豪の紋章に変わり、オーラフラッシュも身に付けた。

確実に強くなっている。


 無言で子蜘蛛を仕留めていっているカイエンが手に入れたのが千里眼。

戦闘力という点ではあまり役に立つ物ではないが、双剣地聖の紋章を持ったカイエンなら問題無い。

両方の剣からオーラフラッシュの乱れ撃ちで次々と蜘蛛を仕留めている。

尤も双剣地聖の紋章の真価は別にあるらしいが。


「♪~♪♫~」


 シャクティは後方で歌姫の紋章を試している。

ミザリアさんで体験済みだったけど、効果は高い。

皆の動きが確実に変わった。


「というか、シャクティ、その歌は…」


「あ、はい!作詞作曲ジュン様です!」


「別の歌でお願いします」


 やはり、ボクが歌ったのをシャクティも聞いていたか。

身体に力が湧いて来るのに、気分は盛り下がるこの矛盾した状態。

何とかしてください。


 セバストは鏡の紋章を使用。

分身体を五体だし、戦っている。

今のセバストでは五体が限界らしいが、それでも十分な性能を持っているようだ。


 ノエラは一見、以前と変わらないが、スピードとパワーも上がっているようだ。

魔法の威力も上がっていて、全体的に能力が向上している。


「ご主人様!あたしも行って来る!」


「はい。気を付けていっておいで」


「うん!」


 狼の姿に戻ったハティは蜘蛛を蹂躙していく。

以前よりかなり速度が上がっているようで、走り抜けるだけで衝撃が生まれる程だ。

太陽と月の紋章の効果だろうか。


「「「うわあああああ!!!」」」


 あ、いかん。

ハティが暴れてるのを見て街を防衛していた兵士や冒険者が怯えてる。

声を掛けて無かったな。


「我々はSランクの冒険者パーティー『マスター』です!加勢します!あの狼はボクの召喚獣ですから安心してください!」


「え、Sランクパーティー?」


「すげえ…つええわけだぜ」


「でもよ、『マスター』なんて冒険者パーティー聞いた事あるか?」


「俺は冒険者だから知ってるぜ。確か最近出来たエルムバーンで主に活動してるパーティーだ」


「ああ、何でも美男美女の集まりらしい」


「へぇ。そういや、今の兄ちゃんも男前だったな」


「兄ちゃん?姉ちゃんだろ?」


「胸が無いし、兄ちゃんだろ」


 兄ちゃんです。

胸以外でも兄ちゃんと断じて欲しい。


 と、大分減って来たし、ボクも新しい力を試すとしよう。

四つの魔神王の紋章の力を。


「これは…」


 使用して初めて解ったけど、魔神王の紋章は単に魔王の紋章と魔神の紋章の能力を併せ持った紋章ではない。あらゆる能力が増してるのが解る。身体能力や魔力だけで無く、五感も、知覚能力も増大してる。

それから、魔神王の覇気という拳聖の紋章と同じような闘気を纏う事も出来る。


 そして賢者の紋章。

魔法能力の向上と、思考加速。

ユウのようにweb検索のような能力は残念ながら無かった。

そこは今後の成長に期待するとして、思考加速が非常に有難い。


「さて、先ずは剣で戦ってみるとしますか」


 ブンッと、軽く動いたつもりだったが一瞬で蜘蛛の傍まで移動してしまった。

が、思考加速の御蔭か、全て見える。

剣で軽く一閃すると、衝撃波が生まれ数体をまとめて吹き飛ばしてしまった。


 次に魔法。

下位魔法のファイアボールを味方がいない地点にいる親蜘蛛へ放つ。

全力で最上位魔法とか放ったら、地形が変わってタリスの街にも大被害が出そうで怖かったからだ。

そして、それは正解だった。


 カッ と、ただのファイアーボールで着弾した途端に小さな爆発が起こる。

マラカイトスパイダーを数匹まとめて倒してしまった。

これ…全力で最上位魔法を放ったら、小さな山くらい軽く吹き飛ばせるかも。


「と、考える前に残った蜘蛛を始末するか」


 スピリットオーブを七つ出して戦闘を再開する。

スピリットオーブはボクの魔力を使って精霊が魔法を使うのだが、そのため魔神王の紋章使用時には威力が上がるらしい。さっきのファイアーボールには劣るが、以前より格段に威力の上がった魔法を連射するスピリットオーブ。あっと言う間に子蜘蛛は始末出来た。

残った親蜘蛛は師匠もやってたオーラフラッシュ乱れ撃ちで片付ける。

…オーラフラッシュの威力も上がっているようだ。

一発一発の威力が以前とは段違いで、マラカイト鉱石で覆われた蜘蛛が綺麗に斬れていく。


「終わったかな。皆、怪我は無い?」


「大丈夫そうだよ」


「それより、凄いね、お兄ちゃん」


「ジュン様一人でも問題無く倒せそうな勢いでしたね」


「本当に。剣の腕はともかく、実戦となればジュン様にはもう勝てそうにありませんね」


「そんな事言わずに、師匠。これからも御願いします」


「勿論、剣では負けるつもりはありませんよ。さぁ後始末は駐屯兵に任せて街に入りましょう」


「うん。そうしよう」


 馬車に戻り、改めて街へ。

街に入ると、戦闘を見守っていた人達や兵士や冒険者に盛大に迎えられた。

これじゃまるで英雄の凱旋だ、パレードでもしてるかのようだ。


「目立ち過ぎちゃったかな」


「そだね。ベルナデッタ王女を探しにくくなっちゃったかな」


「大丈夫じゃない?私達が王女を探してるのは知らないだろうし。むしろここまで目立てば追手だとは思わないよ、きっと」


 そうかもしれないな。

街中を少し進むと、蜘蛛にやられた負傷者が大勢いて、まるで野戦病院の様相を呈していた。


「ちょっと治療を手伝って来るよ」


「あ、私達も行きます。折角治癒魔法を勉強しているんですし」


「いえ、今回はボクが一気にやります。危険な状態の人も多そうですから」


 この場の責任者は…あの人かな?


「失礼、忙しい処すみません。ボクは治癒魔法が使えます。手伝ってもいいですか?」


「本当か!頼む!一人でも多く救って欲しい!礼はするから!」


「はい。全員救いますよ」


 魔神王の紋章を使用して全力の範囲治癒魔法を使用する。

治癒魔法は全力で使用しても問題ないので魔神王の紋章を試すのにうってつけだ。

と、思ったのだが。


「うぉおお!なんだこりゃ!」


「俺、さっきまで死に掛けてたのに!」


「すげえ!無くなった腕が一瞬で生えて来た!」


 と、まぁ。負傷兵が治ったのは良い。

しかし、効果範囲は周辺の人達だけで無く、街全体に及んだようだ。

もう、ついでに病気の人もこのまま治してしまおう。


「き、君!今のは一体なんだ!?」


「上位治癒魔法ですよ。もう、この街の怪我人や病人は一人もいないと思います。それじゃ」


「ま、待ってくれ。まだ礼をしていない」


「不要です。先を急ぎますので、失礼」


 このまま留まると、御礼やらなんやらで進めなくなりそうだし。


「今の治癒魔法、範囲凄すぎない?」


「うん、我ながら吃驚したよ。街全体から怪我人と病人は消えたと思うよ」


「はは、それは薬屋泣かせだな」


「本当ね。人助けには違いないんだろうけど」


 うん…確かに薬屋さんは困った事になりそうだな。

ごめんなさい。


「で、目的の街に着いたわけだけど。ここからどうする?」


「そうだな…手分けして探そう。五人一組に分かれて捜索。顔を知ってるカタリナさん達はばらけてくださいね」


「つまり、ベルナデッタ王女と顔見知りな私達が一組に一人ずつに分けられるのか」


「そういう事ですね」


「どう分けようか」


「くじ引きでいいでしょ」


「私はジュン様と…」


「一人一人の要望を聞いたら決まらないから、諦めなさいノエラ」


班分けの結果。

ボクと同じ班に、リリー・シャクティ・リディアとイーノさんだ。

カタリナさんの班にアイシス・ノエラ・ルチーナ・ユリア。

レティシアさんの班にアイ・セバスト・カイエン・バルトハルト。

パメラさんの班にユウ・ハティ・セリア・クリステア。


「じゃ、ボク達は冒険者ギルドへ行ってみるよ」


 ボク達は冒険者ギルドへ。

王女達が長距離馬車を使わずに行くとしたら、冒険者を雇って護衛してもらう必要があるだろう。


「では長距離馬車の方へは私達が行きますね」


 長距離馬車の方はパメラさん達が。

現状では一番可能性が高い場所だし、パメラさんが行くのがいいだろう。


「僕達は宿を虱潰しに探して見るよ」


アイシス達は宿の方へ。

長距離馬車の出発は明日の朝早く。

もうこの街に来てるなら、王女も宿を取る必要があるだろう。


「ウチらは酒場で聞き込みしてくるね」


「ちょっと、アイ?なんで酒場なのよ」


「情報の集まる場所と言えば、酒場が定石なのさっ」


「そうなの?」


 それは…どうなんだろう?

漫画やゲームなんかではよくそういうシーンは見たけど、現実となると違う気が。

というか、王女は子供なんだし、酒場には行かないだろう。


「まぁ、いいけどね。それじゃ行動開始で」


「リリー、私と交代して…」


「イヤですぅ」


「ほらほら、ノエラさん。行きますよ」


 ノエラは諦めが悪いな。

ちゃんと仕事してね?


「で、ここが冒険者ギルドだね」


「王都の冒険者ギルドより、大分小さいですねぇ」


「人も少ないですわ」


 恐らくは殆どが異常発生した魔獣の対処と、街の防備に駆り出されてるんだろう。

冒険者ギルドの中にはギルドの職員と依頼を出しに来たと思われる人物の数人しかいないようだ。

先ずは受付嬢に聞き込みをするとしよう。


「失礼。最近、この女の子が依頼を出しに来ませんでしたか?」


「え…さぁ?私は覚えがありません。貴女はどう?」


「私も見覚えありませんね。御存知か知りませんが、最近近くで魔獣の異常発生がありまして。この街にいる冒険者の殆どがそっちに駆り出されてるんですよ。ですから通常の依頼は滞っていますし、新規の依頼は現在受け付けてないんですよ」


「え?じゃああの人達は?」


「前に出した依頼の確認をしに来た人達です。誰も受けてないと知ってがっかりしてるんですよ。貴方方も冒険者でしたら、どうです?」


「いえ、すみませんが。どうもありがとうございました」


 王女を見つけたら、魔獣の異常発生の原因と予想されるダンジョンの方に行ってみようと思ってるし、手伝うにしてもその後だな。


「失礼。貴方達は先ほど、蜘蛛を蹴散らした冒険者の方々ですよね?」


「え?あ、はい」


 ギルドから出ようとすると、フードを被った二人組が話しかけて来た。

話し掛けて来た方は金髪の女性。

後ろの人は…背丈からしてまだ子供かな?

て、もしかして…


「とても御強いようですし、馬車を御持ちでしたよね?御願いがあります。私達をヴェルリアまで送っていただけませんか。無論、御礼はします」


「ヴェルリア、ですか。長距離馬車ではダメなのですか?」


「はい。私達は追われていますので、長距離馬車では他の人を巻き込んでしまう恐れがあります。そこで腕の立つ方に護衛をお願いしたいのです」


 他の人を巻き込む?

追っているのはサンドーラの騎士だろうし、迷惑は掛けるだろうけどそこまで…


「(ジュン殿。この女性、見覚えがあります。後ろの子も女の子のようですし…多分、王女ですよ)」


「(あ、やっぱりそうですか)」


「(はい。向こうは私の顔を覚えてないようですね)」


 ビンゴだったか。

さて、そうなると先ずはパメラさんと合流して…


「あ!おい居たぞ!こっちだ!」


「大人しくしてください!」


「!ベル様、走りますよ!貴方方もこっちです!」


「え?ええ!?」


「あ、ちょっと!」


「ジュン様!」


「何だ、お前達は!」


「邪魔をするな!」


 多分、あの二人はサンドーラの騎士だけど剣を抜いてリリーに斬り掛かろうとしてるし、悪いけどここは眠ってもらおう。


「スリープ!」


「な…」


「う…」


「よし、ねむっ…て、あれ?ちょっと!」


 騎士の二人は眠らせたのにまだボクを引っ張って走ろうとする。

どこに行くつもりなんだ?


「どこに行くつもりなんです!追手なら眠らせましたよ!」


「追手は彼等だけじゃありません!貴方達の馬車はどこですか!?」


「今は仲間が使ってて、街のどこかとしか…」


「くっ…ならばなんとか仲間の方々と合流しましょう。兎に角、今は此処を離れます」


「はぁ…」


 やっぱり、なんか事情がありそうだな。

パメラさんに会いたいってだけじゃなく、とても深刻な何かが。

とりあえず、逃亡に付き合ってみるかな。

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