第25話 学校を作ろう 2
「これから君達には治癒魔法のエキスパートになるべく訓練を始めてもらう。目標は上位治癒魔法の習得だ。最低でも中位までは習得してもらう。上位まで習得できた者は各街で病院を設立しそこの責任者になってもらい沢山の人々を救ってもらいたい。中位まで習得した者は後進の育成に携わってもらいたい。病院と同じく各街で建設予定の学校で治癒魔法を教えたり学校とは別に治癒魔法を習得するための施設を建設予定だ。そこで働いてもらうことになる。どちらも人々を救う大事な仕事だ。君達はその仕事の最初の礎となってもらうべく励んでもらいたい」
「「「「はい!」」」」
目の前の五十人ほどの治癒魔法に適正があると認められた訓練生たち。
九歳の子供に偉そうに言われても不満そうな顔をすることなく返事してくれる。
まあ仮にもボクはこの国の魔王子。
不満などもらせないのだろうけど。
「と、まあ偉そうに言ったけどボクはまだ見た目通りの子供だし、子供に教えを乞うなんて不満に感じるだろうとは思うけどそこは我慢してほしい」
「いえ、そのような不満を抱くものなどこの場にはおりません!」
と、力強く断言するのは元兵士で魔法兵団所属だったフレデリカさんだ。
二十歳のハーフ魔族。燃えるような赤髪をポニーテールにしてる。
「ジュン様はわずか二週間で上位治癒魔法を習得されたとか。ただでさえ習得の難しい治癒魔法、それも上位の治癒魔法をたった二週間で習得された。しかもメイドのマリアさんを救うために。その後も国民のために治癒魔法を使い続けさらには治癒魔法使い育成のための施設まで作ろうとされる。そんな偉大な方に師事頂けるのです。光栄でこそあれ、子供だからと不満を持つ者などこの場にはおりません!」
「私の家族もジュン様に治して頂きました!御恩を少しでも返したく思います!」
「私もです!」 「私も!」
治癒魔法育成の最初の約五十人の選定は父アスラッドと母エリザにお願いしたのだが
どうやらボクの下についても不満を持たないであろう人を選んだようだ。
あからさまに不満を持たれるとやりづらいので有難い。
大半が女性なのが気になるが。
「ではまずこれから一緒に訓練する仲間達に自己紹介をすることから始めようか。そっちの君から」
「はい。私は---」
左端から順に自己紹介を開始してもらう。
ちなみに今いるのは城にある大部屋に机と椅子を運び入れ教室の代わりにしている。
あとアイは今頃、学校で働くことになる他の教師になる予定の人達と会議中のはずだ。
どのような授業をするのか、時間割等。一年のカリキュラムを決めるのだ。
校則も決めてもらうことになってる。
ユウには授業に使う教科書の作成をお願いしている。
これはボクとアイも手伝うがメインはユウだ。
なにせ前世ではIQ180の天才。
記憶力も抜群、賢者の紋章もある。
これ以上ない適任なのだ。
自己紹介が終わったようなので
治癒魔法使いの訓練を始めるとする。
「じゃあまずは教科書を配る。これはボクが治癒魔法習得のために作った物を作り直した物だ。他国にはない知識等も載っている貴重な本なので失くさないように」
と、軽く脅しもつけて教科書を配る。
知識のほうは別に他国に漏れても構わない。
だけどこの世界では製本技術が未熟で本自体が貴重なので失くしてほしくない。
自動筆記の魔法道具があるおかげで量産はできるけど大変なのだ。
活版印刷とかそのうち広めちゃおうかな、とか思ったけど紙資源確保のために
自然破壊とか加速しそうだと思ったのでやめておく。
「では、教科書を開いて二ページ目からだ。ニコル、声に出して読んで」
「は、はい」
ニコルは十歳の男の子でこの中で最年少だ。
そしてエルムバーンではめずらしいハーフエルフだ。
髪は緑色の短髪だが耳は尖ってない。
「治癒魔法習得において重要なのは医学知識であり---」
ニコルに読んでもらっているこの教科書はメイド イン ユウ だ。
ボク達が治癒魔法習得訓練の際に作った医学書をこの世界の人でも理解できるよう
内容を修正してある。
これは今後も学校や育成所でも使えるようにと考えてある。
そして授業を開始して数日。
今日はちょっと特殊な授業だ。
城の庭に集まっている。
「今日は一日、みんなに絵を描いてもらう」
「絵ですか?どうしてそんな?」
質問して来たのは眼鏡をかけた黒髪三つ編みの日本でなら委員長キャラと見られそうな
外見をしたベリンダだ。ハーフ魔族で13歳だったかな。
「うん。説明しよう。治癒魔法に限らずだけど魔法発動に重要な要素の一つがイメージだ。そして発動する魔法のイメージを絵にして形にすることでより正確なイメージをできるようにするのが目的だ。この訓練は昔からボクもやっていた。理にかなった訓練だと思う」
「なるほど…解りました」
「じゃあ開始してくれ。最初は治癒魔法のイメージじゃなくてもいい。好きな魔法のイメージを描いてくれ」
「「「はい」」」
せっかくだしボクも絵を描こうかな。
何を描こうか迷っていると
「やっほー、ジュン」
「お兄ちゃん、どう?上手くいってる?」
「「お疲れ様です、ジュン様」」
アイとユウ、ノエラにリリーが連れ立ってやって来た。
「まぁまぁね。そっちは?」
「ウチのほうは目途がついたよ。あとは当事者達で詰めてもらって見直すだけね」
「私は休憩。でもだいぶ進んだかな」
アイとユウのほうも順調のようだ。
学校を作るなんて初めての試みだけど今のとこ順調に進んでいてなにより。
「で、今は絵を描く時間なのね」
「うん。せっかくだしボクも描こうかと思って」
「なに描くの?お兄ちゃん」
「魔法のイメージだけど、具体的には決めてない」
「あ、じゃあウチらを描いてよ。ウチら四人」
「私もですか?」
「リリーもですか?」
アイの言葉を聞いて身だしなみを整えるノエラとリリー。
意外と乗り気なのね。
「いいけど、魔法発動のイメージ訓練だから見たままを描かないぞ」
「うんうん、いいからいいから。ここで四人で座ってるから描いて描いて」
そういって四人で座っておしゃべりしだす。
あまり大きな声は出していないので一応は周りに気をつかっているようだ。
「仕方ないなあ。下手でも文句言うなよ」
「はいはい、楽しみにしてる~」
文句言うなよって言ってるのにプレッシャーが掛かるようなような事を。
仕方ないちょっとズルい気がするけど魔神の紋章を使って描くとしよう。
題材は治癒魔法の授業だし治癒魔法を傷ついたみんなに使うシーンをそれぞれ描こう。
魔神の紋章を使用し、神憑り的な集中力と身体能力を得る。
器用さも抜群に上がるのだ。
この状態で絵を描けば普通に描くより上手い絵になるに違いない。
そうして描き上げた四枚の絵を見た四人の反応は
「す、すごい」
「お兄ちゃん、こんなに上手だったっけ!?」
「流石です。ジュン様」
「すごいすごいジュン様!」
フッフッフ。ちょっとズルしただけあって満足のいく評価を得られた。
我ながらいい出来だと思う。
「でもちょっとリリーの胸大きすぎない?ウチの胸は無いのに」
「えええ、そんな事ないですよぅ」
五歳児が胸の大きさなんて気にするんじゃない。
ユウも自分の胸をペタペタと悲しそうに触らないっ。
ノエラもなんだか悲しそうな目をしてるけど触れないでおこう。
訓練生達も絵をみて感嘆の意を示してくれた。
たまにはこんな訓練もいいよね。




