第248話 家出王女 2
活動報告にて登場人物紹介、更新しました。
サンドーラ王国の王女の捜索依頼を受けたボク達は一旦、エルムバーンに戻り、準備を再度整えてから出発した。
今回は護衛対象も多いし、力試しがしたいだろうと思い、カイエン・リディア・ユリアの三人も参加。パメラさん達姉妹とイーノさんまで付いて来たので、合計二十名といつもより更に大所帯になった。
「ていうか、イーノさんは残っててよかったんですよ?何も付き合う必要は…」
「良いじゃ無いですか。私もジュン殿達と旅がしたかったのです。パメラ達も一緒なら尚更。それに私もベルナデッタ殿とは面識がありますから」
「え、そうなんですか?」
「はい。五年ほど前ですので、ベルナデッタ殿は覚えてないかもしれませんが」
それならまぁいいか。
イーノさんも魔王の紋章を持っているんだし、自分の身くらいは守れるだろう。
しかし、何だかんだでイーノさんもエルムバーンに居着いちゃったな。今更だけど。
「それで、ここは何処なんです?ジュン殿」
「地図で言うと…この辺りです」
出発点に選んだのは少し前に来た吸血鬼の森だ。ここから南西に進めばサンドーラ王国だ。
「魔獣の異常発生してる場所は?」
「ここだ。そしてアンナお母様の予想ではこの街にベルナデッタ殿は居るだろうとの事だ」
「魔獣の異常発生してる地点から一番近い街じゃない」
「そうだ。ここからヴェルリア行きの長距離馬車が出てるんだ。恐らくはこれに乗るつもりだろう」
「そんな分かり易い場所に来る?追っ手くらい意識してるでしょ?」
確かに。追い詰められた逃亡犯が利用するのはそういった場所だろう。現代地球で言えば、駅や空港、港等。こういう場所には必ず監視の眼を置くだろう。この世界でもそれは同じ筈。
「確かにな。だが他に手段があるとも思えん。何せ女二人の長旅だ。安全にヴェルリアに行く方法は限られる」
「冒険者を雇えば?」
「ギルドに依頼を出して冒険者を雇うとなると、身分を明らかにする必要があるしな。それに殆どの冒険者は異常発生した魔獣の対処に駆り出されてる筈だ。例外は長距離馬車や商人と専属契約を結んでる冒険者くらいだろうさ」
冒険者ギルドで身分を明かせば当然、連れ戻されるだろうし、個人的に雇おうにも、冒険者の手が空いてない、と。
「何にせよ、先ずは出発しようじゃないか」
「そうですね。セバスト」
「ああ。出すぞ」
サンドーラに向けて出発する。
ここからだと、三日くらいか。
「今、思いましたけど、目的地に着いてから転移でお連れしますよ?その方が皆さんは楽でしょう?」
「分かってないな、君は」
「カタリナもレティシアも皆さんと旅がしたいんですよ、ジュンさん。勿論私も」
「そうね。別に馬車での移動なんてしょっちゅうだけど、護衛に囲まれて気楽に過ごせないし楽しくないわ。だから、こういう友人との旅は初めてでワクワクするわ」
友人との旅は初めて、か。
普通の王族ってそうなんだろうな。
その点、ボク達は自由にさせてもらってる。
護衛は付いてるけど、もう友人や家族みたいなものだし。
「じゃあ今回は旅らしく、野営しますか」
「うん?普段は野営をしないのか?」
「ええ、あまり。ボクはほら転移魔法が使えますから」
「なるほどな」
「一度行った場所なら何処でも、か。でもそれじゃちょっと旅っぽくないわね」
「そうでしょう?もっと言って下さい、レティシア様」
「前から思ってたけど、私も呼び捨てでいいわよ、アイシス。カタリナ姉さんは呼び捨てでしょう?敬語も要らないわ」
「え?そう?じゃあそうするね。ありがとう、レティシア」
「あんたもよ、ジュン」
「ボクもですか?」
「そうよ。歳も同じなんだし。婚約の話は別にしても、友達付き合いはいいでしょ?」
「そうですね。わかったよ、レティシア」
「ん。よろしい」
アンナさんの思惑を考えると、少し距離を置くべきかもしれないけど…あまり邪険に扱うのもな。
「わ、私も呼び捨てで構いませんよ、ジュン殿」
「私もだ。というか、私は最初に呼び捨てでいいと言ったろう?」
「年上の方を呼び捨てにするのが、どうにも。性格的な問題なので、気にしないでください。ああ、ボクを呼び捨てにするのは構いませんよ」
精神的には年上なんだけど。
カタリナさんやイーノさんは何となく呼び捨てにしづらいな。
「ジュン様、何か近づいて来ますぅ」
「多分、猪だよ、ご主人様」
森の傍を通ってると、早速魔獣に眼を付けられたらしい。
あれは一角猪だな。美味いんだよね、あれ。
「誰がやる?」
「ジュン様、先ずは私が」
「うん。任せた」
力試し一番手はクリステア。
力の紋章を試すには打って付けな相手かな。
「かかってきなさい」
止まった馬車から少し離れた所で様子を窺ってた一角猪をクリステアが挑発する。
するとクリステアの方へ真っ直ぐに突っ込んで行く。
クリステアは剣を抜かず盾を構え、真っ向から受け止めるつもりらしい。
「ちょっと大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、クリステアなら」
大盾の紋章も使わずに一角猪の突進を盾で受け止めるクリステア。一歩も下がる事無く、受け止め切ったな。
「フン!」
少しクリステアらしからぬ声で、一角猪の角を掴み、振り上げ一角猪を地面に叩きつける。昏倒した所を剣で止めを刺した。
ああいう力任せな戦いは以前はしてなかったが、力の紋章を試すにはああいうやり方になるんだろう。
「昼食は猪肉だな」
「いいねぇ」
「襲って来た魔獣が昼食か」
「旅って感じね」
果たしてそれを一般的な感覚としていいものなのかは疑問だけど。
「じゃ移動再開で」
「了解だ。少し雲行きが怪しい。今の内に進めるだけ進んだ方がよさそうだぞ、ジュン様」
「わかった」
空を見ると進行方向の空は雨雲が見える。
野営は早めにする事になりそうだな。
「昼食に猪肉は諦めて、馬車の中で簡単に済ませた方がいいかな」
「え~…」
「仕方ない」
「文句を言うな、アイシス」
「は~い…」
気持ちはわかる。ボクだってサンドイッチだけじゃなく、出来たての美味しい料理があった方がいいし。
「でも今回は我慢して、アイシス。急いだ方が良いのは間違いないし」
「うん」
「でもさ、上手く見つけたとしてさ、そのままサンドーラの城まで送り届けるの?」
「ん?ん~…パメラさんに話をしてもらってその結果次第…かな?」
「はい。ベルの事は私に任せて下さい」
パメラさんはベルナデッタ王女をベルと呼ぶらしい。
分かり易い愛称だ。
「ねぇパメラさん。そのベルナデッタちゃんはどんな子なのか、もう少し詳しく教えてくれる?」
「そうですね…大人しくて消極的。自分に自信が無い子で…でも優しい子です。サンドーラで孤立気味だった私を気遣ったのか、自分と重ねたのかはわかりませんが…よく私を部屋に招いてお話しをしてくれました」
「自分と重ねた?」
「はい。ベルはサンドーラ王家の末子なのですが他の兄妹とは少し年が離れてまして。あまり兄妹に相手をしてもらえず寂しい思いをしていたようです。そんなあの子が心を開いていた数少ない人物が侍女のルシールです。ルシールもベルの事をとても大切に思っているのは見てわかりました。ベルが家出をするなら、彼女も付いて行くでしょう。それは理解出来るのですが…」
「何か?」
「ルシールなら、ベルが国から出ようとするのは反対すると思うんです。いくらベルが私に会いたいと願ったとしてもそれだけの為にこんな無茶をするなんて…」
つまり、ベルナデッタ王女が家出をしたのには何か別の理由があるのかもしれない、と。
引き籠もりな王女が城を飛び出すほどの理由。
気になるな。
連れ帰るのはその辺りの事情を聞いてからにした方が良さそうだ。
読んで頂きありがとうございます。
よかったら評価してやってください。
作者のモチベーション向上に繋がります。




