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第244話 最大の危機

いつもに比べたらかなり長いです。

 グリムモア魔道国から戻って三日。

ステンナさんの協力もあって転移魔法を封じる魔法道具。

「キャンセラー」と名付けられた魔法道具が完成。

ティータさんが造った物よりも小型化、持続時間の増加に成功した改良型だ。

僅か三日でそこまで出来るのだから、大したものだ。


 ティータさんは最初、ステンナさんまでエルムバーンに来ている事に驚いていたが、直ぐに落ち着いていた。

でも…


「ステンナが居るなら私も引っ越ししようかしら。その方が研究も捗りそうだし」


「何?ティータがこのままエルムバーンに残るなら私も残ろう」


「はいはい、駄目ですよ、セラフィーナ様」


「セラフィーナ様は結婚式の日取りを決めたりと戻ったら忙しいんですから」


「ティータ様も自重してください」


 ティータさんに便乗して、何故かセラフィーナ殿下と侍女三人組も付いて来た。

侍女さん達もセラフィーナ殿下を諫めてはいるが、初めて訪れたエルムバーンに凄くはしゃいでいた。


「伯母様達もエルムバーンが気に入ったのね~」


「いいとこだしね~」


 ティータさん達が来る事はシルヴィさん達にも勿論伝えた。

久しぶりにあう親戚にシルヴィさんは凄く喜んでいたが、フィーリアさんはそうでもなさそうだった。

そういえばシルヴィさんとフィーリアさんは母娘なのに、離れて暮らしてた理由は聞いてないな。

まぁ他人様の家庭の事情に興味本位で立ち入るつもりはない。

いつか必要になったら聞くとしよう。


 とまぁ以上のようなやり取りが初日にあって今日は「キャンセラー」起動実験を行う事になった。

「キャンセラー」は子供くらいの大きさの石柱で四個で一組。

四方にこの石柱を配置し、囲まれたエリアが転移魔法使用不能エリアとなる。


「そう言えばティータさんはどうして魔封じの紋章を魔法で再現出来ないか研究してるんですか?」


「…何だっていいでしょ」


「言いたくないなら聞きませんが…」


 まぁどうしても知りたいわけじゃないし…ただティータさんはあまり人付き合いが上手くなさそうなのでこちらから歩み寄ろうと、話題を振っただけだし。


「それより設置は終ったわ。試してみて」


「はい」


 今回の起動実験で囲んだエリアはエルムバーンの城のみを囲んだ。

王都ごと囲む事も可能だそうだけど、もしかしたら敵のスパイくらいいるかもしれないし念の為だ。

実験としては十分な範囲だし。


「転移出来ませんね。実験は成功ですね」


「ふん。一度完成させているのだから、再現するのなんて簡単よ。じゃあ実験は終了ね」


「はい。片付けて帰りましょう」


「あ、それは無理。この魔法道具は一度起動したら魔力が切れで止まるまで起動しっぱなしなの。壊せば止まるけど、魔法攻撃と物理攻撃にも対策を施してるから簡単には止まらないわよ」


「そうなんですか」


 まぁ確かに、簡単に止められるようなら使えないか。

転移出来なくても、「キャンセラー」の所在を知ってれば手勢を向かわせて破壊させる、何て事も出来るのだし。


「まぁ、とにかく戻りましょう。悪いけど回収は部下の人にやらせて頂戴」


「はい、それは大丈夫で…」


 ボフン!と城の一室からモクモクと煙が上がっている。

あの部屋は…ユウの部屋か?


「ティータさん!すいません、先に戻ります!」


「あ、ええ。気にしないで」


「急いで戻るよ、ノエラ!」


「はい、ジュン様」


 いつもならユウも付いて実験に立ち会うのだが…今日は傍に居るのはノエラのみ。

後は皆、休暇か自主訓練に励んでいる。

ユウは何かやりたい事があると言ってたけど…


「凄い煙だな…皆、窓を開けて」


 城に戻ってユウの部屋までいくと既に何人か集まっていた。

が、煙でよく見えない。

煙と匂いからして、火事というわけでは無さそうだが…


「ユウ!無事か!?無事なら返事して!」


「あ、お兄ちゃん?大丈夫~平気よ~。ただ煙が凄いだけ~」


 どこか籠った声がするユウが部屋から出て来た。

部屋から出てきたユウは…ガスマスクのような物を着けていた。

なるほど、変な声がするわけだ。


「無事か。よかった…でも、この煙は何?」


「あ、ごめんなさい、心配かけて。これは…その、新しい薬を作る実験をしてて失敗しちゃったの」


「新薬?それでこんな煙が?」


 何の薬を作ろうとしてたんだ。

今もまだモクモクと出てるし。


「この煙、止められないの?人体に害は?」


「ちょっと止められないかな…害は無いと思うよ?…効果はあるかもしれないけど」


「今なんか、サラッと不安になる事をボソッと言ったけど…効果?」


「え…エヘヘ」


「アハハ。笑って誤魔化すのは無理があるからね。なんかもう城全体に煙が行き渡ったようだし、皆吸っちゃった可能性が高い。一体どんな効果があるの?」


「大丈夫、他の人…お兄ちゃん以外には効果が無い筈。お兄ちゃん専用の新薬だから。というわけで、どう?身体に何か変調はない?」


「何だ、それ。ボク専用の新薬?…今の所、変化は無いけど…一体どんな薬を作ったんだ」


「……エヘヘ?」


「アハハ。誤魔化すのは無理だってば。結構な騒ぎになってるみたいだし。キリキリ白状しなさい」


「…ミザリアに貰った秘伝の媚薬のレシピ。アレを私なりに改良して、お兄ちゃん専用にする事でより強力な媚薬兼惚れ薬に…痛い!」


 何て恐ろしいモノを作ろうとしてるんだ、この妹は。

チョップで済ませちゃダメかな、これは。


「まぁ効果が無い所を見ると失敗みたいだけど…どうして急にそんな物を作ろうと?」


「……エヘヘ?」


「アハハ。無理だって言ってるでしょ。全て白状しなさい」


「…こないだ、世界樹様から葉っぱやら花やら貰ったじゃない?」


「まさか…」


「以前から、少しずつこの研究はしてたんだけど、アレの御蔭で一気に試しに作る所まで進んで…痛い!」


 皆で分けようって思ってたのに無断使用するとは…オークションの時世界樹の枝一本が金貨五百枚で落札された事を考えると、花や葉も相当な金額になりそうなのに。


「とにかく、この煙をなんとかして。いつまで出るのこの煙」


「大丈夫、そろそろ止まるよ。ほら、薄れて来た」


 ようやく煙が収まってユウの部屋の中が見えて来た。

部屋の中はまるでちょっとした研究室のような…いつの間にこんな設備を用意したんだか。


「それにしても、こんなに煙が出てるのに人が集まって来ないな」


 ユウの部屋の前にはボクとノエラが来る前に居た数人だけ。

他の人は集まって来ない。

アイとかアイシスとか、飛んで来そうなのに。


「って、あれ?ノエラ、大丈夫?煙吸い過ぎた?」


「ん…ジュン様…」


 ノエラがいつの間にかうずくまっている。

いや集まっていた他の数人も。

これは…?


「ユウ、この煙はボク以外の人に効果は無く、人体に無害なんだよね?」


「うん。成功していれば」


「……成功していれば?」


「お兄ちゃんに効果が無いんだから、失敗作だね。でも人体に有害な物は使ってないから…痛い!」


 有害な物を使ってなくても薬も効きすぎれば毒。

何かおかしな事になるかも…


「ノエラ?何か身体におかしな所は無い?」


「ジュン様…!」


 顔をあげたノエラの顔は…何だか色っぽい。

頬が上気して眼には熱を帯びている…激しくイヤな予感。


「ノエ…ンッー!!」


「ちょっ!ちょっとノエラ!」


 いきなりノエラに抱き着かれてキスされた。

何だか息も荒いし、身体も熱い。

これはまさか…


「ぷはっ、ノエラ、おちっ落ち着いて!自分を保って!」


「無理です!何か身体が熱くて…今まで我慢してきたのに…もはや我慢出来ません!」


「それ薬!多分、この媚薬の煙のせい!って…はっ!?」


「「「ジュン様ぁ~!!」」」


 ヒィィィィ!!

うずくまってた全員がゾンビのように立ち上がって襲いかかって来た!

ていうか男も混じっとるやんけ!

しかも全員ボクに迫って来るし!


「ちょっと!ユウ!これ、どうなってんの!?」


「た、多分…この薬のせいで、お兄ちゃんにのみ惚れる効果が作用してるんだと思う…」


「は!?ボクにのみ!?」


「ある意味、お兄ちゃん専用新薬だね」


 専用ってそっち!?

とか言ってる場合じゃなく!


「ユウ、早くなんとかして!薬の効果を消す薬とかないの!?」


「そんなの無いよ…でも眠らせる事なら!」


 ユウの魔法で眠らされた者達はその場で倒れた。

しかし…


「ジュン様ぁ…」


「ノエラ!?何で効いてないの!?」


「ノエラさんはいつもの対魔法装備をしてるから、極度の興奮状態もあって効かなかったみたい…」


「な、ならばボクが!」


「フン!」


「て、え?あれ?魔法が…」


「お兄ちゃん!ノエラの魔封じの紋章だよ!」


「うふふ…全力で封じさせてもらいました…今ならどんな魔法も封じる事が出来る気がします…」


「おいいい!転移魔法を封じる術を探してたここ最近の苦労は!?」


「極度の興奮状態になる事で、いつも以上に紋章の力を引き出せてるのかも…」


「何それ!?」


 普通そんな状態になったらいつもより力が出せなくなるもんじゃないの!?

しかし!魔王の紋章も使用して全力を出せば!


「どうだ!?」


「んふふ…ジュン様、さぁ観念してベッドに行きましょう!」


「効いてないぃぃ!」


 魔法は発動したけど、ユウの時と同じように効いてない!

ここは逃げるしか…ない!


「ごめん、ノエラ!」


「あっ待ってお兄ちゃん!」


「うふふ。逃がしませんよ、ジュン様ぁ!」


 いつものノエラじゃない!

なんか怖い!走り方もかなり前傾姿勢だし!


「薬のせいで理性が飛んでるんだね…つまりアレが欲望丸出しのノエラ…」


「理性って大切だなぁ!」


 普段のノエラも大概だけど、理性が飛んで我慢が効かなくなるとああなるのか…


「ユウは大丈夫なんだろうね!?」


「あ、うん。ガスマスクしてるし」


「そうか、よかった…ガスマスク?」


「うん?どうかした?」


「ガスマスクを予めしてるって事は…この事態をある程度予想してたの?」


「あ、うん。失敗する可能性も考えてたし。まさかここまで煙が出てこんな効果があるとは思ってなかったけど…痛い!」


 ユウめ…天才と何とかは紙一重と言うけど、実はユウは何とかの方だったんじゃないだろうな。


「この薬、効果はどれくらい続くの!?」


「えっと…多分1~2時間くらい」


 それまで走って逃げ続けるのは無理が…って!


「うっ!?」


「あ!ジュン様が居たの!」


「ほんとだ!ジュン様ぁ!」


「ジュン様!何故か身体が熱くてしょうがないんです!」


「どうにかしてください、ジュン様!」


 前方から薬の影響を受けたティナ達が!

やっぱり城内に居た人は煙の影響を受けてる!?


「お兄ちゃん、転移魔法で逃げようよ!」


「無理!今は例の『キャンセラー』の起動実験中だから!」


「あ!今日だったっけ!」


 全く以って間の悪い…しかし!


「ユウ、捕まって!」


「う、うん!」


「あ!待ってジュン様!」


 ボクにはまだ韋駄天の紋章がある!

脚の速さでは早々負けない…ぞ?


「ご主人様!子作りしよう!」


 ハティまでもが!

ヤバい!もしかして他のフェンリル一家も薬の影響受けてるのか!?

いくら韋駄天の紋章が有っても狼の姿のハティからは逃げきれないぞ!

って、あれ?


「待ってー!ご主人様ー!」


 狼に戻って追いかけて来ない?何で?


「多分、城内で変身して走るのは禁止って言ったからじゃない?言いつけを守ってるんだね」


「うわぁ!いい子だなぁハティ!あとで褒めてあげるからね!」


 薬が効いてるならノエラと同じように興奮状態だろうに。

ハティの方が我慢が効くとは…


「お!ジュン様!無事だったか!」


「セバスト!?」


「何か知らんが食材の買い出しから戻ったら皆、正気じゃない感じでジュン様を探して彷徨ってるし。何があったんだ?」


「よかった!セバストは正気だね!今は兎に角、安全な場所へ…」


「見つけましたよ!ジュン様ぁ!」


「ご主人様!見つけた!」


「「「「ジュン様!見つけた!」」」」


「来たー!」


 もう追いつかれた!

ていうか他にも集まりだした!


「お、おい?ノエラ?どうした一体…」


「セバスト!皆は薬のせいでおかしくなってる!ボクを狙ってるから、足止めをして!」


「お、おう!」


 セバスト、後は任せた!出来るだけ長く足止めを…


「ごめんなさい、セバストさん!」


「私の愛の前には兄さんは何の障害にもなりません」


「セバストォォォ!?」


 数歩進んで振り返ってみると、既にセバストは地に倒れ伏していた。

いや、そりゃあ人数差もあるし、ノエラ達が相手じゃ分が悪いのは分かってたけども!

ちょっと早すぎない!?


「「「「ジュン様ぁ!」」」」


「ヒィィィ!」


 どこか安全な場所は…いや、城から何とか脱出して転移で逃げなければ!


「あ、見つけたわぁ!ジュン様!」


「その声は…」


 ステファニアさん!?

今、最も会いたくない人ランキング堂々1位の人が!


「何で今日に限ってステファニアさんが此処に!?」


「んふふ~バルトハルトさんに剣のオーダーメイドを受けたんだけど~ちょっと確認したい事が出来て聞きに来たのよ~。でも…今はそんな事どーでもいいわぁ!さぁジュン様!一つになりましょう!」


「いいぃぃぃやぁぁぁぁぁ!」


 今日ばっかりは!今日ばかりは会いたくなかった!

恐ろしい!他にもオカマさん来てないだろうな!


「逃がさないわぁ!ビッグインパクト!」


「うわぁああ!城内でそんな技使わないでください!」


「お兄ちゃん!?大丈夫!?」


 咄嗟にユウに当たらないように避けるので精一杯だった。今ので服が破けてボロボロに…


「ああん!ジュン様が一段とセクシィー!に!萌えるわぁ!」


「やかましいわ!」


 どうしよう、ここは一発かまして…


「あ」


「あ?ごふぅ!」


 ステファニアさんが吹っ飛んでいった。

アイシスの蹴りによって。


「ジュン!大丈夫?」


『どういう事態なんや?これ』


「アイシス!よかった、正気だね!?」


「う、うん。僕は何時も通りだけど…ちょっと街にお菓子買いに行って戻って来たらこの有様で」


 よかった…アイシスまで正気を失ってたらどうなってた事か。

確実に逃げ切れなかっただろう。


「実はユウの実験のせいで煙を吸った皆が正気を失ってる!ボクにのみ惚れて発情する厄介な薬!というわけで助けて!」


「えええ…なにそれ…」


『ユウはん…あんた…』


「え、エヘヘ」


「「「「ジュン様ぁ~!」」」」


「う!来た!」


「逃げるよ!ジュン!」


「うん!…うん?」


 何か急に暗く…はっ!?


『ジュンはん!上や!』


「ワハハハ!父、参上!」


「パパ上!?」


「お父さん!?」


 パパ上が上から降って来た。

イヤな予感。激しくイヤな予感。

パパ上は正気を保って…


「見つけたぞ、ジュン!さぁ父と愛し合おう!」


「いいぃぃぃやぁぁぁぁ!」


「ハッハッハッ!照れる事は無い!安心して全て父に任せるがいい!」


「ていうか、お父さん!何で半裸!?」


「風呂上りだからな!久々に訓練をしていい汗をかいた後だったのだが、何故か急にジュンと愛し合いたくなったんだ!さぁ!ジュン!いい汗かこう!」


「そんな汗嫌です!」


 どうする…ノエラ達も迫って来てるし…やはり逃げるしか!


「魔王様、落ち着いてください」


「む?」


「セバスン!セバスンは正気!?」


「はい、ジュン様。凡その事態は把握出来ております。此処は私とアイシス様に任せてお逃げください」


「仕方ないね…ジュンは隙を見て逃げて」


「だ、大丈夫?」


「わかりません。…アイシス様は魔王様の相手をお願いします。私はノエラ達を抑えますので」


「うん。気合い入れてくよ!メーティス!」


『はいな!』


 まさか、こんな事で魔王vs勇者の対戦が実現するとは。

パパ上が戦う所は見た事無いけど果たして、その実力は…


「ごめんなさい、アスラッド様!いくらアスラッド様でもジュンは渡せないの!」


「ワハハハ!父の愛の前には勇者といえども無力!」


 なんか、パパ上のテンションがおかしな事になってるな。

いや、理性が飛んで素の部分が強く表面に出てるのか、ノエラと同じように。


「なるべく怪我させないように、気絶させ…へ?」


『なんやて?』


「うそん…」


 紋章を使用したアイシスの一撃をパパ上は弾いた。素手で。

そんなバカな…


「ワハハハ!わしの魔王の紋章、その能力の一つ!魔力を肉体に巡らせれば巡らせるほど!肉体の強度と身体能力を増す!限界まで込めればオリハルコンの剣とて弾く!」


 今明かされる、パパ上の能力。

魔王の紋章にそんな事が可能だったとは…いや、個性で左右される部分で獲得した能力か。

実にガチムチのパパ上らしい能力だ。


「ううっ…ほ、本気で行くよ!メーティス!」


『は、はいな!』


「ワハハハ!来るがいい!」


 激しい戦いが繰り広げられる。

パパ上ってこんなに強かったのね…


「セバスンの方は…」


「6対1で互角に戦ってるよ、セバスン…」


「6対1?6対6に見えるんだけど…」


 ノエラ・ハティ・ティナ・ニィナ・ルー・クーの六人を相手にセバスンのみ。

なのだが…


「セバスンが六人に増えてる?」


「紋章…の力だよね?」


「はい。私が持つ紋章は『鏡の紋章』。紋章の力で分身体を作る事が出来ます。鏡に写ったように左右が逆転してますでしょう?」


「てっうおおう!」


 いつの間にかセバスンが傍に…そして言われてみれば確かに左右が逆転している。

分身体を作る紋章か。そんな紋章があったとは…


「勿論、万能ではありません。一度に出せる分身は十体まで。一度使用したら一時間は再使用が出来ません。分身体の能力は数を出せば出す程、低くなります。六体も出せばノエラ達を抑えるので精一杯ですね」


「十分凄いよね、それ」


 流石はセバスン。

只者じゃないとは思っていたけど…


「で、本体のセバスンはどうするの?」


「私はこの場からあまり離れる事が出来ません。離れすぎると、分身が消えてしまいますので。ですのでアイシス様の援護を致しましょう。すぅ~…魔王様!いい加減にしないと昔付き合ってた女性の名前をエリザ様にバラしてしまいますよ!」


 ガッチン!と音が聞こえそうな程に固まるパパ上。

理性が飛んでる筈なのに…そこまでママ上が怖いのか。


「チャンス!」


「ぬぐぁぁぁ!」


 アイシスの全力の蹴りをまともにくらって後ろに飛ばされるパパ上。

この隙に逃げ出そう!


「ジュン、今のうちに!」


「ジュン様、エリザ様をお探しください!エリザ様は恐らくこの薬が効いていません!安全な場所を御存知の筈です!」


「わ、わかった!」


 正直、この状況でママ上に会うのは怖かったけど…セバスンが言うからには大丈夫なんだろう。


「お母さんは…自分の部屋かな?」


「そうだね、先ずはそこに向かうと…う!」


「見つけた!ジュンさーん!」


「「「見つけましたよ!ジュン様!」」」


 今度はエミリエンヌさんとミズンさん達、人魚チームが!

なんか既に半裸状態だし!


「ちゃんと服を着てください!」


「どうせ脱ぐんだからいいじゃん!さぁさぁ!ジュンさんもそんなボロボロの服なんて脱いで!」


「「「私達が脱がせて差し上げます!」」」


 やっぱりダメかー…他国の王族まで巻き込んで…これ問題にならないかな?


「後でユウには謝らせますから!すいません!」


「あ…」


 エミリエンヌさん達は魔法に抵抗出来る装備を今はしていない。それにノエラの魔封じの紋章によって魔法の効果も低下していないし、極度の興奮状態であっても通用し睡眠魔法であっさり眠りに落ちた。


「さ、先に進むと、ぐへあ!」


「あ、お兄ちゃん!」


 襟首を掴まれて部屋の中に引きずり込まれた。

そしてベッドに放り投げられた。

この部屋は確か誰も使ってない部屋の筈だけど…


「イーノさんですか…それにパメラさんとシャンタルさんも…」


「うふふふ…ジュン殿捕まえましたよ」


「ジュンさん…どうしようもなく身体がうずくのです…助けてください」


 いかん!大人の色気ムンムン過ぎてヤバいですよ!

も、もし手を出してしまったなら、なし崩し的にイーノさんとパメラさんだけでなくカタリナさんとレティシアさんとも婚約させられる!間違いなくアンナさんの手で!


「そこまでよ!お兄ちゃんに手を出させはしない…って、ええ!?」


「父上直伝の簀巻き殺法です!」


 イーノさんがどこからかロープを取り出しユウを一瞬で簀巻きに…確かにヴァルターさんも同じ事してたな。

って今は感心してる場合じゃないな。


「さぁ!ジュン殿!お邪魔虫は排除しました!」


「ジュンさん…」


 くっ…正直このまま流れに乗ってしまいたい気持ちもちょっぴりあるけども!


「おやすみなさい!」


「「あ…」」


 イーノさんとパメラさんも、あっさり眠ってくれた。

後は…


「ええ~と…シャンタルさん?シャンタルさんは正気ですか?」


「はい…今はまだ、何とか…でも近づかないでください。傍に来られるとどうにかなってしまいそうです。ジュン様の顔を見ただけで心臓がバクバク言ってるんです…」


「わ、わかりました。ユウの縄を解いたら直ぐに出ていきます」


 シャンタルさんも息が荒いし、顔も赤い。

薬の効果はバッチリ出てるようだ。

男性恐怖症が幸いして、ギリギリ理性を保ってる感じか。


「ほら、聞こえますか?ジュン様。私の心臓の音…」


「へ?あ、ちょっと、シャンタルさん!?」


「ほら…聞こえないなら耳をくっつけて…」


 ユウの縄を解いてると、いつの間にか背後に来ていたシャンタルさんに頭を抱えられ胸を押し付けられた。確かにすっごいバクバク言ってるぅ。


「じゃなくて!理性失ってる!シャンタルさん!正気を保って!」


「ハァハァ…ジュン様ぁ…」


 ダメだー!シャンタルさんも堕ちた!


「うちのユウがごめんなさい!」


「あ…ふぁ…」


 本当にすみません。

せめて三人共ベッドで眠ってもらおう…


「ユウ…今回のは酷すぎる。お仕置きは覚悟しておくように」


「はい…」


 さて…ママ上を探さなければ。

しかし、あと見つかったら厄介そうなのは…


「そう言えば、アイがまだ出て来てないね。あとはクリステアとか親衛隊の皆と…」


「あとはフェンリル一家がヤバいな…て、あっ」


「うふふふ…」


「見つけた…見つけましたよ、ジュン様ぁ!」


 クリステアとルチーナ…姉妹コンビの登場だ。

バッチリ理性が飛んでるみたいだ。

しっかりフル装備状態で。

スリープは効きそうに無いな…


「ジュン様ぁ…調教の御時間です…」


「さぁジュン様…愛し合いましょう!」


「クリステアは不思議な事にいつも通りな気がするけど…ルチーナ!君の仕事の一つにクリステアの暴走を止める事があった筈だけど~?」


「今はそれどころじゃないんです!さぁジュン様…」


「ジュン様!お助けします!」


「ジュン様!今度こそお役にたってみせます!」


「おお!」


 ユリアとリディアが救援に来てくれた。

二人は正気なのかな?


「ユリアとリディアは正気?煙は吸ってない?」


「はい。私達は非番でしたので街に出ておりました」


「事情は途中で会ったセバスンさんから聞いてます。クリステアさんとルチーナさんは私達で止めます。ジュン様は行ってください」


「ありがとう!お願いね!」


「あ、ジュン様!」


「待ってください!」


「クリステア!貴女の相手は私がします!」


「ルチーナさんの相手は私が!」


「ユリア?私にその気はありませんよ?同性愛は不毛です」


「私も、リディアは嫌いじゃないけど…」


「そうじゃないわよ!」


「そうじゃありませんわ!」


 クリステアは…薬で理性が飛んでもブレないな。

流石と言うべきか。


 クリステア達の戦闘が始まったらしい。

というかあの四人が城内で戦えばえらい被害が出そうだが…あとの事考えると怖いな。


「あ。居た居た。お~い、ジュン~!」


「う!アイ!」


「あ!」


 ヤバい…アイが正気じゃなかったら…肉弾戦じゃアイに勝てる気がしないぞ。


「ああ、大丈夫大丈夫。ウチは正気だから。御義母様のとこに行くんでしょ?こっち」


「よかった…お母さんも正気なの?」


「うん。ついでに言うと、親衛隊や他の騎士や使用人達は外を探してる。ウチがデマを流して城の周りに隠れてるって言っておいたから」


「素敵過ぎるぜ、アイ!」


「へっへ~、でしょ~?あとセリアたんも無事。外で少しずつ魔法で眠らせて行ってる。リリーは狩に行くって言ってたし、バルトハルトさんは多分街の酒場でまだ飲んでるよ。ウチも街に買い物に行って見かけたから。フェンリル一家もハティ以外は部屋でしばらく籠ってるってさ」


「ん?どうして?正気なら助けに来てくれないの?」


「いや、ばっちり薬は吸っちゃったみたいで。でも神獣だけあって薬に抵抗出来てるみたい。ギリギリで。実際に顔みたら我慢出来ないかもしれないから部屋で大人しくしておくってさ」


「助かるわー、それ」


 助けてくれないのか、とか考えてごめんなさい。


「それにしても、ユウ。今回のは拙いでしょ。流石にウチもフォローしきれないかも」


「う、うん…ごめんなさい…」


「……兎に角、お母さんと合流して安全な場所に隠れよう」


「そだね。あ、この部屋だよ」


「此処は…お父さんとお母さんの寝室か」


「そ。失礼しますー」


「あ、来たわね。こっちこっち」


「ジュン様、御無事でよかったです」


「あ、シャクティも来てたんだ」


「シャクティも正気か、よかった。しかし、お母さん?その通路は…隠し部屋ですか」


 この部屋には何回か来た事があるけど、そんな物があるとは知らなかった。


「ところでお母さんは外出でもしてたんですか?」


「ううん。私もあの煙は吸ったわよ?でも私にはああいう媚薬の類は効かないのよ。サキュバスだしね」


 サキュバスなら耐えられる物なんだろうか…ノエラとかバッチリ効いてましたけども。


「ノエラは修行不足ね~また今度鍛えてあげようかしら」


「今回は見逃してあげてください…ノエラに落ち度は無いので。シャクティは?」


「私もアイ様と一緒に買い物してたので。城に戻って直ぐに異常事態なのはわかったので、二手に別れてジュン様を探してました」


「そっか。でも二人で買い物って珍しいね?何を買いに?」


「え?エヘヘ…」


「シャクティったら、また下着履いてないし、新しいの全然買ってないから。増やしに行ってたの」


「今日のアイの仕事ぶりは素晴らしいなぁ」


 後で御褒美に特製マフィンを作ってあげよう。


「まぁ御話しはこっちの隠し部屋でしましょ?入って入って」


「はい。こんな部屋があったんですね」


「まぁ、王族の部屋だしね~。閉めるわよ~」


 隠し部屋はそれほど広くはない。

だけど、五人程度が入る分には問題無い。


「この部屋の事を知ってるのは?」


「私とお父さんとセバスンくらいよ」


「という事は…お父さんが此処に来たらマズいですね」


「大丈夫よ~お父さんなら私が何とでも出来るわ~。仕込んであるもの~」


 ナニを仕込んだのかは…聞かないでおこう。

それよりも…


「この部屋…隠し部屋にしては生活感がありますね?なんかよく使ってるような…」


「確かに。本も沢山ありますし」


「ん~…」


「これは…小説の原稿?お母さんが書いたんですか?…ていうか、これ!魔王子様シリーズじゃないですか!」


「「「え」」」


「ん~…まぁ仕方ないかしらね~。この部屋に入れたならバレるのはわかってたし。そ、私が魔王子様シリーズの作者よ~」


「えええええ!」


 何という事でしょう。まさかママ上が…

い、いやでも…それならノエラやセバスト達の捜索から逃れられたのも理解できる。

何せ国のトップの一人が探してた作者なんだもの。


「因みに、パパ上はこの事を…」


「勿論知ってるわ~。何度かジュンが嫌がってるって事は伝えて来たから、お父さんは怒らないであげてね?」


「……お母さんはどうしてやめてくれなかったんです?」


「だって~既に人気シリーズとして不動の地位を築いてしまったもの~多くのファンが待っている以上、簡単にはやめられないわ~。でも、ジュンが嫌がってるのを聞いてからは、過激な内容や、男同士の絡みは無くなったのよ?」


「はぁ…もういいです。これからも過激な内容や男同士の絡みは無しでお願いしますね」


「あら!怒らないの?」


「ええ。行く先々の国で販売されてて人気なのは知ってますし…もう半ば諦めてましたから」


「ありがとう~ジュン!」


 まぁ…作者が誰か判ってスッキリしたし。それでよしとしよう。

本音を言えば、出来る事ならやめて欲しいけど…無理っぽいし。


「さて。じゃあ、あとの問題は…ユウのお仕置きかな」


「う…」


「待って、ジュン。それは母親である私の役目よ~」


 …まぁ、そうか。

前世からの癖でユウを叱るのはボクだとばかり思い込んでた。

こういうのは母親に任せるべきかもしれない。


「はい。お任せします」


「任せて~。ねぇ、ユウ。反省してる?」


「はい、反省してます…」


「沢山の人に迷惑を掛けたわね?」


「はい…」


「じゃあ、どうすればいいのか、分かるわね?」


「はい…後で皆に謝りに行きます」


「うん。ならいいわ。ちゃんと謝るのよ?」


「え?」


「お母さん、それでいいんですか?」


「だって~お母さん、ユウの気持ちも分かるもの~。ユウはお兄ちゃん大好きっ子だもの。お兄ちゃんがモテモテで焦ってたのよね~?」


「え、ええと…」


「ジュンも、貴方を想って仕出かした事だから、今回はこれで許してあげて、ね?」


「……三日間の外出禁止もプラスで」


「う…はい…」


「あらあら。ジュンは厳しいわねぇ」


「他国の王族も巻き込んでしまってますし。せめてそれくらいはしないと」


「そう?許してくれると思うけど~」


「…ま、ボク達もグリムモアで大変だったし、しばらく城でゆっくり休もうかな。三日間くらい。ね、アイ、シャクティ」


「お兄ちゃん…!」


「しょうがないなぁ。付き合ってあげる」


「うふふ。ジュン様は何だかんだでユウ様には甘いですね~」


「最後には優しいのよね~ジュンは」


 まぁ…今回はこれでいいとしよう。

あくまで今回は、ね。


 それから約1時間後。

騒ぎは収まったと、セバスンが迎えに来た。

皆、正常に戻ったはいいが…


「中々に酷い有様だな…これ…」


「うん…ごめんなさい」


「ごめんね、ジュン…」


『流石、エルムバーンの魔王様やなぁ。手加減する余裕が無かったわぁ』


「ワハハハ!薬のせいとはいえ勇者と戦えて、わしは楽しかったぞ!」


 他にもクリステア達が戦ってた場所なんかも結構な荒れようだったけど、アイシスとパパ上の戦場痕が一番酷い。柱が何本か折れてるし、壁に穴が空いている。

しかし、アイシスに非は無い。


「そして二人はほぼ無傷…」


「決着はつかなかったよ…」


「アイシス殿は強いな!勇者なだけはある!」


 よほどアイシスとの戦いが楽しかったのか、まだハイテンションな父上。

アイシスと互角に戦えるとは、パパ上強かったんですね。

半裸で互角なら、ちゃんとした装備を付けたらパパ上の方が強いのかもしれない。


 今回は何人かの意外な能力を見れたりしたのが、収穫だと言えるかもしれない。

魔王子様シリーズの作者が判明したのが一番の収穫なのは言うまでも無いと思うが…

読んでくださりありがとうございます。

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