第242話 解決
世界樹様の神殿に居たのは二人。
一人は見た目十歳以下の一見普通の女の子。
緑の長髪に緑の瞳、神秘的な雰囲気を纏った子だ。
そして、もう一人は四年前にインビジブルバード捕獲の時、ユニコーンが居る森で会ったシャルルさんだ。
「君は確か、ジュンだったかな。君達が此処に来たという事は君達が世界樹様が仰っていた者達なのかな?しかし、だとするなら何故、セラフィーナ伯母様が同行を?大御祖母様はどうされたのです?」
「ああ、説明する。そしてお前にも御祖母様を説得を手伝って欲しい。それにしても、何だ?ジュン殿達と知り合いだったのか?」
「…ジュン殿?ええ、以前少し。それにしても何だか外も騒がしいですね。緊急事態のようですし、とにかく説明してもらえますか」
「うむ。実はな…」
セラフィーナ殿下がシャルルさんに事情を説明する間、女の子がジッとボク達を見つめている。
何だか色んな事を見透かしてくるかのような眼だ。
「そうですか、大御祖母様がそんな事を。災難だったな、ジュン。いや、ジュン殿」
「ジュン、で呼び捨てで結構ですよ。それでどうでしょう?テレサ様を説得してもらえるでしょうか?」
「うん、私も勿論協力するが…一番いいのは世界樹様に説得してもらう事だ。ですので、お願いできますか?世界樹様」
「うん、いいよ」
「「「え?」」」
世界樹様と呼ばれ返事をしたのは先ほどからこの場に居た女の子。
この子が世界樹様?どういう事だ?
「どうかしたか?」
「あの…この女の子が世界樹様なのですか?ボクはてっきりこの木の事を指してるのだと思っていたのですが…」
「ああ、そうか。君達は…いや、外国の者は知らなくて当然か。この方が世界樹様、世界樹、ユグド・ラ・シル様だ。我々は世界樹様と呼んでいる」
「「「ユグドラシル様?」」」
「うん?いや、ユグド・ラ・シル様だ」
「そうですか…失礼しました」
ユグドラシルじゃないんだ…いや、まぁ別にいいんだけども。
「この女の子の姿は世界樹様の現身…あるいは化身と言った所か。私達とコミュニケーションを取る為に御創りになられた身体で、本体はもちろんこの木だ」
「そして私達、グリムモアの王族は世界樹様を御守りする役目を頂いた一族。その証として世界樹様と同じ『ラ』の名を頂いている。っと…それよりも、だ。世界樹様、御祖母様の説得をどうかお願いします」
「うん。行こう」
世界樹様はセラフィーナ殿下とシャルルさんを連れて神殿の外へ。
外ではボクが張った結界を破れない事に苛立ったテレサ様が、魔法を連発していた。
「こんのぉおおお!世界樹様!今お助けしますぅぅぅぅ!!!」
お~…アレは雷属性の上位魔法「サンダーブラスト」。お次は水属性の上位魔法「アクアランス」。
流石はハイエルフ、上位魔法をこれだけ連発出来るのは中々だ。
「て、テレサ様!世界樹様です!出てこられました!セラフィーナ様とシャルル様も御一緒です!」
「何!?…ああ、世界樹様!よくぞご無事で!はっ!賊は!?」
「テレサ、あの子達は賊じゃない。謝って?」
「……は?え?あの者達が世界樹様に何かをして不調をもたらした者なのでしょう?」
「違う。テレサの早とちり。勘違い。おっちょこちょい」
「そ、そんな…」
「そういう事です、大御祖母様。むしろジュン達は世界樹様を救ってくれる存在だという事です」
「そうでなくても、ジュン殿達は我が国の恩人。さぁ御祖母様、謝罪を」
「う、うぅ…」
世界樹様と身内に責められ、ガックリと膝をついて項垂れるテレサ様。
その姿にはもう高圧的な態度など微塵も無く、見た目は若いのに老人のような雰囲気を感じさせる。
「誠に、申し訳ない。この通り、深く謝罪する」
場所を神殿内に移し、テレサ様から謝罪を受ける。
この場に居るのはボク達とテレサ様にシャルルさん。セラフィーナ殿下に女王エヴァ様。
そして世界樹様だ。
グリムモアの騎士達はこの場に入る事は許されず、宮殿へ引き返して行った。
「全く…どうしてそこまで頑なにジュン殿達を罪人だと決めてかかったのです?」
「それは…受け入れたく無かったのだ…我らこそが、長く世界樹様を御守りしてきた一族。その誇りがある。なのに世界樹様の危機を御救いするのが他国の…それもほんの十数年生きただけの若造だ、などと…だから、わかぞ…ジュン殿達を調べた結果、その理由は女神様からの祝福を受けた剣にあると思ったのだ。それがあれば私が世界樹様を救えると…」
「要は嫉妬ですか。御祖母様ともあろうお方が…世界樹様の事となると盲目的過ぎます。結果、まるで逆の事をしてしまっているじゃありませんか。反省してください」
「うう…すまない…」
周りに味方がいない上に、間違いなく自分に非があるので謝る事しか出来ないテレサ様。
世界樹様にも叱られたのが一番堪えてるみたいだけど。
「それにしてもジュンがエルムバーンの魔王子だったとはな。言ってくれればよかったのに」
「それはお互い様じゃないですか。シャルルさんだって、グリムモアの王族だとは名乗らなかったでしょ?」
「そうだったな。いや、王族が森で裸になって水浴びしてると知られたら、変に思われるかと思ってね」
「シャルル、お前、そんな事してたのか。いや、お前が変人なのは知っていたが」
「失礼ですね、伯母様は。それに伯母様には言われたくないですよ?」
まぁ、どっちもどっちですね。
間違いなく類友だと思います。仲良さそうだし。
「それにしても、エルムバーンか。それに冒険者だって?ならフィーリアという娘を知らないか?ハーフエルフの娘なんだが…」
「え?フィーリアさんを知ってるんですか?」
「ああ、知っているのか。フィーリアは姪だ。エルムバーンに行く前は此処で暮らしていたんだ」
「え?つまりフィーリアさんはグリムモアの王族?いや、シルヴィさん…シルヴィエッタさんも?」
「ああ、妹も知ってるのか。尤も二人共、王位は放棄してるから正確には元王族なんだがね」
つまり…以前フィーリアさんが言ってた、グリムモアで一緒に暮らしてたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんはエヴァ様とエヴァ様の夫の事で?伯父さんはシャルルさんの事だった、と。
でも、確か…
「あの、フィーリアさんは祖父母と伯父さんと一緒に暮らしてたと言ってましたけど、確かグリムモアの王族は沢山居ると聞いたのですが…」
「ああ、うむ。だが妹のシルヴィのように王位を放棄して国を出た者が殆どだし、国に残ってる者と関わる事も少なかったからな。あの子とよく関わっていたのが父と母と私くらいだったという事さ」
そういう事か。
しかし、あの二人も王族だったとは…シルヴィさんに至ってはエルフじゃなく、ハイエルフという事になるし。まぁ別にだからどうだと言う事も無いんだけど。
「それで、ジュン殿…散々迷惑をお掛けして、その上頼み事をするのは心苦しいのですが…世界樹様の御話しを聞いて頂けますか?」
「はい。そんな申し訳なさそうな顔しなくて大丈夫ですよ。女王陛下には怒ってませんから」
「つまり、大御祖母様には怒ってるらしいですよ」
「うう…す、すまん」
「私も怒ってますからね」
「私もだ。反省してください」
まぁ実質被害は無かったんだけど…やはり、些か不快だった。
大いに反省してもらいたい。
「それで…世界樹様?ボク達を連れて来れば問題を解決出来るとの事のようですが…ボク達に何を?」
「うん。話すけど、その前に人払いして?」
「人払い?」
「うん。貴方と貴女と貴女は残って。後は皆外で待ってて」
世界樹様が指名したのはボクとユウとアイ。
この三人を選んだという事は、やはりそういう事なんだろう。
「世界樹様、私もですか?」
「うん。テレサも外。あ、正座してて」
「そ、そんな…」
「はいはい、行きますよ、大御祖母様」
「ジュン様…」
「大丈夫、心配いらないから、ノエラ達も外で待ってて」
さて…皆出ていったし、御話しと行きますか。
「それで、世界樹様。ボク達に何を?」
「もう、わかってるんじゃない?」
「というと?」
「貴方達がどういう存在なのかは知らない。でも女神様と通じてる。それはわかる」
「……何故、分かるんです?」
「貴方達には女神様の気が纏わりついてる。それは祝福じゃなく、加護。貴方達は女神様に守られている。貴方達なら女神様の声が聞こえるはずだし、女神様も貴方達の声は聞こえるはず」
「それが貴女の…不調を改善する事と関係があるの?」
「ある。私の不調は神様の干渉によるもの。私に何かしようとして上手くいかずやめた。でも干渉による影響は残ってる。それが不調の原因。神様の力による干渉だから、治すのは神様の力が必要なの」
「それって…」
例のバカ神が世界樹に干渉した?
世界樹をこの世界の要と思って?いや、確かめる為にか。
だけど違ったから放置した。弄った箇所を直さず後片付けもしずに。
本当にどこまでも迷惑な神様だな。
「…わかりました。神様に聞いてみます。ですが、一つ約束を。ボク達が神様と会話出来る事は秘密にしてください。絶対に、誰にも。よろしいですか?」
「うん。わかった」
他人の前で神様通信をするのは初めてだけど…通じるかな。
『おふぁぁぁ…なんじゃい。なんぞようか』
「…もしかして寝てました?」
「寝るの?神様って」
「単にサボってたんじゃない?」
『いきなり呼び出しといてえらい言いようじゃな…』
まぁ、通じたので早速用件を説明する。
「というわけです。念の為に確認しますが、以前聞いた通り、世界樹はこの世界の要じゃあないんですよね?」
世界樹が世界の要なのかどうかは以前に聞いてある。
世界樹だけでなく、それっぽい物は片っ端から。
結果、全てが違ったが。
『うむ。じゃがもし、その世界樹が死ねばその大陸はどうなるかわからん。結果、連鎖的に世界の要がどうにかなる可能性はあるのう』
「不味いじゃないですか」
『不味いの。まぁその程度の干渉の影響なら問題ない。ほれ』
「あっ…」
「え?もしかして問題解決したんですか?」
『まぁの。それくらい容易いもんじゃ』
「嘘…下手したら状況をより悪化する可能性があるとか思ってたのに」
「もしくはなんやかんやで面倒くさい手伝いをしなきゃならないとか覚悟してたのに」
『ほんと、お前ら神様を敬う気持ちが皆無じゃの…』
まぁアイとユウがそう思うのも無理はないと思う。
ボクも似たような事思ってたし。
「ええと…世界樹様?どうですか?」
「うん。直った。ありがとうございます、神様」
『うむ。気にするな。神の不始末じゃしの』
「ん?世界樹の声が聞こえるんですか?確か、神様の声を聴くのと声を届かせるのは誰でも出来る事じゃないんですよね?」
『ま、そこは流石に世界樹って事じゃろ。それにしても世界樹の化身のう?初めて見るの。ふうん…』
「他の世界には居ないんですか?世界樹の化身、現身は」
『ん?あ、ああ、そうじゃな、わしは初めて知ったわい。それじゃ、あまり長く会話してられんのじゃろ?そろそろ…』
「あ、最後に一つ。ボク達に神様の加護があるそうですが、その加護とは一体どんなモノなんです?」
『ん?ああ…それは他の神がお主らに妙な干渉をせんように、わしの力で護っておるのじゃ』
「他の神の干渉…ですか?」
『うむ。それ以上は今は知る必要は無い。ではな』
なんだろう?
神の干渉についての具体的な部分は話したくないのか、少々強引な終わらせ方だったな。
まぁ…今はいいか。
さて…それじゃ、あとはどうにか転移魔法を封じる術を教えてもらって帰るとしますか。




