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第231話 テレサ様

 またなんか面倒くさい人に絡まれてしまった。

この世界の王族には面倒くさい人しかいないのだろうか。


「ええと…セラフィーナ殿下?それは隣国のフレムリーラ連合魔王国との国際問題に発展するのでは?」


「いやいや、何も婚約者の座から引きずり落そうと言うのではない。私も婚約者になって君の一番の寵愛を受けるのだ。その為の下準備だ。というか呼び方が戻ってるではないか。牽制のつもりか?」


「ええ、まぁ。それとボクには婚約者が他にもいますから。さっきから殺気が駄々洩れなボクの隣にいるアイとシャクティが。いや、別にジョークを言いたいわけではなく」


「ジュン様、センスない」


「今度のはわかりやすかったけどねー」


 だからジョークが言いたいんじゃないんだってば。

そしてセリアさんはやっぱり厳しいっスね。


「ほう、他にも婚約者が?益々燃えるではないか」


「……」


「アイ、どうどう。ていうか皆も落ち着きなさい」


 アイが一番キレそうだがユウやシャクティ、他の皆もヤバい。

意外にも冷静なのがアイシスだ。


「ちょっと、アイシス!何で落ち着き払ってるの!敵よ、敵!」


「えー…ん~だってもうこのパターン何度目?いい加減慣れちゃった」


「ジュン様に婚約者を増やす気が無いのはわかってるし。信じるのも大切」


「う…確かに」


 本当にね。

何度目だ、このパターン。


「ほう。やはりモテるのか、ジュン殿は。それは益々欲しいな」


「あの~セラフィーナ様?というかですね、セラフィーナ様には婚約者が出来たばかりでは無いですか」


「え、そうなんですか?」


「あ、はい。南の隣国、リヴェリー魔道国の王子と…」


「リヴェリー魔道国?」


「はい。リヴェリー魔道国は二千年前、グリムモア魔道国から離脱したダークエルフが主となって出来た国でして。建国以来ずっと両国の関係は険悪だったのですが、いい加減仲直りしようという事で…」


「その先ず第一歩にセラフィーナ様とリヴェリー魔道国のヴァリオ・アウノ・ル・リヴェリー第三王子との婚約が決まったのです。今回、盗賊達に襲われたのはリヴェリー魔道国に行った帰りでした」


「あれ?婚約の挨拶に行ったならセラフィーナ殿下だけでなく、御両親や他の王族の方も向かうのでは?」


「いえ、挨拶は以前済ませております。今回は結婚前にもう少しお互いを知ろうと、お茶会のお誘いに応じただけでして…」


 なるほど。

しかし、それなら話は早い。


「ならボクと婚約するなんて無理じゃないですか。あ、もしかして冗談でした?」


「ん?冗談ではないぞ?リヴェリーの王子との婚約は解消するから問題ない」


「セ、セラフィーナ様!それはいくらなんでも無茶です!」


「問題ありまくりです!女王陛下も流石に黙っていませんよ!」


「そうですよ!行き遅れのセラフィーナ様にようやく決まった縁談を凄く喜んでらしたのに!」


「誰が行き遅れだ、誰が。私はまだ二百歳だ。ピチピチだろうが。大体、私よりお前達の方が年上で独身だろうが」


「え、二百歳?」


 やっぱり見た目じゃ判断できないなぁ。

ハイエルフは二千年近い寿命があるらしいから、二百歳なら確かにまだまだピッチピチなんだろうけど。侍女さん達も勿論二百歳以上には見えない。


「何だ?歳の差が気になるか?ジュン殿が何歳なのかは知らないが、魔族も長寿なのだろう?多少の歳の差など気にするな」


「いや、相当な歳の差だと思いますけど。それとボクは婚約者を増やすつもりはありませんからね」


「何故だ?優秀な王族は何人も妻を娶って血を残す義務があるだろう?」


「三人も妻が居れば十分ですよ。一人でもいいくらいなのに」


「ふむ。我が父とは正反対なのだな。我が父には正妻と側室、妾を合わせれば三十人はいるぞ」


「それは凄いですね。真似しようとは思いませんが」


 頑張るなぁ。

三十人の嫁とか、子供も何人いるのやら。


「うむ。流石にそこまで多いのはグリムモア魔道国では父くらいだな。御蔭で私には兄妹が何十人と居るぞ。顔も名前も知らない兄妹すらいる程だ」


「え?顔も名前も知らないとはどういう事です?」


「我が国の王族は王位継承権の放棄と引き換えに国を出て自由の身になる事が認められている。私が生まれる前に国の外に出た兄や姉が居るという事だ」


「そうなんですか…」


「……」


 まるで前世のボクとアイだな。

アイも同じ事思ってそうな顔してるし。


「尤も、王位継承権があるのは純血のハイエルフのみ。他の種族との間に生まれた子には王位継承権は与えられていない。国の要職に就く事は出来るがな」


「それは…ハイエルフとエルフの間に生まれた子もですか?不満が出るのでは?」


「そうでも無い。我が王族は王になりたいと思う者の方が変わり者扱いだしな。かくゆう私も王位になど興味は無い。現女王は私の姉だが…姉のエヴァは変わり者という事だ。姉の子も変わり者だしな」


「それだと自分は変わり者じゃないって聞こえますけど、セラフィーナ様も変わり者ですからね?」


「本当ですよ。そんなんだから行き遅れるんですよ」


「セラフィーナ様が結婚してくれないと私達も結婚しづらいんですから、お願いしますよ。婚約の解消はさせませんからね」


「お前達…主の意向に背くつもりか…」


「今回ばっかりは」


「ジュン様が乗り気ならともかく…」


「私達も手段を選ばず妨害しますね。テレサ様に告げ口も躊躇しませんからね」


「なっ!それはダメだろう!御祖母様に告げ口はダメだろう!」


「なら諦めなさいませ」


「私達だってとばっちり受けるんですから、出来るならしたくありませんし」


「お互いの為にジュン様の事は諦めましょう」


「ぬぐっ…」


 テレサ様?御祖母様って事はお祖母ちゃんか。

前女王かな?


「テレサ様という方が苦手なんですか?」


「う…テレサというのは二代前の女王で私の祖母にあたる人なのだが…」


「テレサ様は女王は辞めても世界樹様の巫女は続けておられます。世界樹様の巫女とはこの国は女王と同等…いえ、それ以上と言ってもいい権力を持っているのです」


「世界樹の…いえ、世界樹様の巫女、ですか」


 ディジィさんもそうだったけど、グリムモアの人は…いやエルフは世界樹を様付けで呼ぶらしい。

エルフにとって世界樹は神様のようなモノなのだろう。実際に眼に見える存在だけに神様より近しい存在に思えるし、信仰に近い対象なんだろうな。


「世界樹様の巫女とは世界樹様が選んだ自らの世話をする者の取り纏め役の事です。代々王家から選ばられる事になっているのですが、テレサ様は歴代の巫女の中でも最長の巫女様です。故にグリムモアの者は誰もテレサ様には頭が上がりません」


「そしてとても厳しい方です。世界樹様の為になら何でもするし、世界樹様の次に国を想っている方です。セラフィーナ様が一方的にリヴェリーの王子との婚約を解消したと知ればお怒りになるでしょう。それを止められなかったら私達も罰を受ける事になるでしょうね」


「ですので絶対にさせませんからね、セラフィーナ様」


「くっ…裏切り者共め…」


「間違ってるのはセラフィーナ様でしょう。大体、ジュン様は恩人ですよ?恩を仇で返す真似しちゃダメでしょう」


 よかった。この侍女さん達とは仲良くしておこう。

是非、頑張ってセラフィーナ殿下の野望を阻止してください。


「…ほら、アレだ。恩を私の身体で返すとか?」


「ダメです」


「それなら私達の身体で返します。求められれば、ですが」


「私の胸の方が大きいですし」


「胸の大きさは言うな!ちょっと大きいからって!」


「男性は皆大きな胸が好きなんですよ?ジュン様もきっとそうです」


「そんな事は無い!ジュン殿の従者の女には胸が小さい者もいるではないか!」


「「「……」」」


「はい、ノエラ、ルチーナ。抑えて抑えて。アイとユウも。アイシスも剣から手を離しなさい」


 ただでさえ機嫌が悪いのに刺激するような事言わないで欲しい。

御丁寧に一人一人指差しだし。


「失礼ですよ、セラフィーナ様」


「ジュン様だけでなく、従者の方達も恩人に違いないんですから」


「ユウ様とアイ様も王族なんですよ?他国の王族に失礼な真似をしたとテレサ様が知ったらお叱りを受けますよ」


「くっ…失礼した。謝罪する…」


 余程テレサ様が怖いらしい。

会う機会があるかはわからないけど、会った時は味方になってもらえるよう、機嫌を損ねないようにしよっと。


 しかし、それは無駄な考えだったと後に知る事になる。

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