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第229話 救出 4

「王族…」


 まさか、こんな場所でグリムモアの王族に会う事になるとは。ハイエルフだって話だから、大臣くらいかなとは思っていたけど。


「えっと…セラフィーナ殿下とお呼びすれば?」


「うむ。それで構わない。長いし、殿下だけでもいい。で、君達は?タダの冒険者ではあるまい?」


「ボク達は…」


 どうするかな。

王族相手に下手に嘘ついたり誤魔化したりしない方がいいか。


「ボクはジュン・エルムバーン。エルムバーンの魔王子です。こっちは妹のユウと従者のノエラです」


「ほう?噂に聞くエルムバーンの魔王子か。ふむ…確かに噂通りの人物のようだ」


 また噂か…この世界の人は噂話が大好き過ぎないだろうか。


「シャンゼ・フレムリーラ殿も散々自慢していたしな。最高の婚約者だと」


「シャンゼ様がですか…」


 考えてみればフレムリーラとグリムモアは隣同士。王族なら面識があって当然か。

でも、勘弁して下さい、シャンゼ様。


「それで、何故王族であるセラフィーナ殿下が盗賊に攫われるなんて事態に?」


「それを話すのは構わないが…先ずここを出ないか?ここは息が詰まる」


「そうですね。ノエラ、外の様子を確認して来てくれる?」


「はい、畏まりました」


 多分、今頃は戦闘は終了してるだろう。

圧倒的だったし、皆大丈夫だと思うけど。


「ジュン様、外の戦闘は終了しています。ですが…」


「…どうしたの?まさか誰か…」


「いえ…こちらに被害は無さそうなのですが…どうも盗賊の一部が倉庫に立て籠もっているようです」


「立て籠もり?」


 とりあえず、外に出ても問題は無さそうなので倉庫に行く。

倉庫の前にアイ達にアイシス達、カイエンにクリステア達も居た。


「あ、ジュン」


「そっちは大丈夫?」


「うん。無事救出出来たよ。それでカイエン、こっちの状況は?」


「はっ。こちらに死者はいません。負傷者は数名。そしてこの倉庫に盗賊の首領を含め十名程の盗賊が立て籠もっています」


「なんだ、それなら倉庫ごと焼いてしまえばよかろう。どうせ廃村となった村の倉庫だ。躊躇う必要は無かろう?」


「…ジュン様、こちらの方は?」


「セラフィーナ・シグネ・ラ・グリムモア殿下だよ」


「「「え」」」


「そうでしたか。セラフィーナ殿下、焼く事は出来ません。奴らはエルフを一人、人質に取って立て籠もっているのです」


「他の場所にも攫われた人達が居たのか」


「いえ、他の場所に居たのはそのエルフの女性だけでした。恐らくは、その…」


「ああ、そう言えば私の従者の一人を盗賊の首領が何処かに連れて行ったな。あやつが人質にされているのか」


 凌辱するつもりで一人だけ連れ出していたか…ゲスめ。


「でも幾ら人質がいるからといっても、倉庫にいつまでも閉じ籠もってられないでしょ?」


「捕らえた盗賊の話では倉庫には食糧を置いてあったらしく、暫くは大丈夫だろうと」


「それにしたって…何日か寿命が延びるだけじゃない」


「倉庫に抜け道がある、何て事は?」


「申し訳ありません。それは確認してません」


「じゃ、ボクが探査魔法で…あれ?」


「どしたの、お兄ちゃん」


 魔法が上手く使えない…この感覚は前にも…


「もしかして、魔封じの紋章か」


「ああ、そう言えば、盗賊の首領が自慢げに言っておった。御蔭で私の護衛の騎士も実力を発揮出来ず、数の差に敗れ捕まってしまったのだよ」


 なるほど、それで。

以前、ノエラの魔封じの紋章を体験させて貰ったけど、中々に厄介な能力だ。

魔法がメインの人には天敵と言える紋章だ。


「だかしかし!ボクが全力を出せば!」


 以前、あのマッド爺もノエラの魔封じの紋章の影響下にありながら魔法を使って見せたらしい。大魔道士の紋章を使用して。

そして魔王の紋章を持つボクも当然、同じ事が出来る。


「…抜け道は無いみたい。でも魔方陣がある」


「魔方陣?なんだって倉庫に?」


「ジュン、何の魔方陣か解る?」


「そこまでは…カイエン、捕らえた盗賊から聞き出して来て」


「はっ!」


 流石に探査魔法で何の魔方陣かまでは解らない。

だけど、高度な魔方陣だとは解る。

そして起動しているみたいだけど…


「ジュン様、分かりました。倉庫にある魔方陣は転移の魔方陣です。盗賊にエルフを攫うように依頼した者が設置した物のようです」


 つまり、その魔方陣を使って攫ったエルフを移送するつもりだったのか。

なるほど。それなら追跡は困難だろう。

こうして魔方陣の存在がバレない限りは。


「そして盗賊達は自分達もその魔方陣を使って逃げるつもりか」


「対となる魔方陣を依頼主が起動するまで時間を稼ぐつもりなのね」


 どうやらそうらしい。

早くケリをつけた方が良さそうだ。


「どうする?ジュン」


「強攻策に出る?僕達ならやれるよ」


 強攻策…確かにやれるとは思うけど、そんな危険を冒す必要は無い。


「大丈夫。ボクに任せて」


 人質の女性は今、壁にもたれて座り込んでいる。

上手い具合に盗賊は傍には居ない。入口を固めて警戒してる奴らと相談でもしてるのか輪になってる奴らとで分かれている。


「従ってこうします」


 剣を抜いて女性がもたれてる壁のみを斬ってバラバラにする。

勿論、【アトロポス】の能力を使用した上で。


「え?きゃあ!」


「おっと」


 支えにしてた壁が消えた事で倒れそうになる女性を受け止め、倉庫から外に出す。救出成功だ。


「な、何だぁ!?壁が!?」


「どうなってやがる!?」


「見ての通りだ。人質は救出した。武器を捨てて投降しろ。そうすれば殺さないでおいてやる」


「く、くそ!まだお前らを捕まえりゃ!」


「無駄だ」


 女性を救出した時点で枷は無い。

皆いつでも攻撃可能な位置に着いている。


「……」


「か、頭…もう駄目だ…」


「ええい!投降する!」


「賢明な判断だ。カイエン」


「はっ!お任せを!」


 これで盗賊達は全て捕らえ…てはいないようだ。

やはり何人かは殺してしまったようだ。

だが責める気は無い。

たかが盗賊とはいえ人数は盗賊の方が多かった。

実戦で相手を殺すより、捕らえる方がずっと難しいのだから。


「クリステア、盗賊達は全部で何人?」


「はい。百五十程です」


「ん?それは死んだ奴も含めて?」


「含めて、です」


 三十人程足りないな。

まだ何処かに潜んでいるのか。それとも出かけているのか。


「お前が首領だったな。聞きたい事がある」


「…何だよ」


「お前達は百八十人程の集団だと聞いている。だが今は百五十人程しか居ないようだが?」


「はん!そこのエルフの女を捕まえる時、護衛の騎士に殺られたのさ」


「ああ、確かに。何人かは私の護衛が殺していた。こちらの護衛は全員殺されたがな」


 そう言うセラフィーナ殿下の顔は無表情で読めない。

怒ってるのか、哀しんでるのか。

何も感じてない訳ではないと思うが。


「次の質問だ。お前達は依頼を受けてエルフを攫っていたらしいな。依頼主は誰だ」


「知らねぇよ」


 嘘発見魔法「トゥルー」は既に使用してある。

知らないと言う首領の言葉に嘘は無いらしい。


「知らないとはどういう事だ?」


「こんなヤバい依頼をするのに、素性をバラすような奴はいねぇよ。隠すに決まってんだろ」


「だが、それではお前達のリスクが高いだろう」


「この仕事は一度やったらそれっきりにするつもりだった。元々、場所を変えるつもりだったんでな。お前らの御蔭で、一度も取り引きしないままさ」


 これも本当。

つまりはに誘拐されたエルフはいないらしい。

少なくとも、こいつらの手によっては。


「なら連絡を取る方法は?」


「無い。三日後に向こうから迎えが来る事になってる」


「相手の顔は?」


「見てない。仮面を着けてたからな」


「…よくそんな依頼を受けたな。裏切られるとは思わなかったのか?」


「報酬が破格だったんだよ。前金で金貨五百。成功報酬がエルフ一人に付き白金貨一枚だ。そんだけありゃ盗賊から足を洗えると思ったのさ」 


 攫われたエルフはセラフィーナ殿下含めて十九名。

白金貨十九枚あれば、小さな商会を開くくらいは出来るかもしれないな。


「儚い夢だったな。じゃ、お前達はギルドに連れて行く。大人しくしろよ」


「ギルドに?この人数をか?」


「ジュン殿。捕まえたの貴殿達だから、口出しするつもりは無いが殺してしまった方が楽ではないか?」


「大丈夫です。ボクは転移魔法が使えますから」


「転移魔法…そうか、配下の騎士をこれだけ連れて来ていてはさぞかし目立つだろうと思ったが…」


「騎士団を勝手に国内に入れた事に関しては謝罪します。しかし…」


「解っている。我々を助ける為に連れて来たのだろう?ならば何も言わんよ。いや、礼は言わねばならんな」


「そう言ってもらえると助かります」


 さて…危惧してた親衛隊の件も許してもらえたし、救出も上手く行った。

後は盗賊達をギルドに突き出して、エルフを攫うように依頼をした黒幕を見つけるだけ。

はてさて、どうやって捕まえようかな。

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