第222話 マザー
「というわけで。恒例の作戦会議です」
「作戦会議はいいけど、私達でマンイーター討伐をやるの?」
「此処を拠点にしてる冒険者でどうにか出来ないの?」
「それが出来ないみたいなんだなぁ」
本来、マンイーターは群れで行動する魔獣では無い。
それが何故、百も集まって行動し森の外で群生しているのかも不明だが討伐を難しくしているのは穀倉地帯の直ぐ傍に陣取ってしまった事にある。
ここの冒険者や兵士達ではこれ以上、穀倉地帯に近づかないように結界を張って現状を維持する事だけらしい。
会議を終えて出て来たギルドマスターに聞いた話だ。
「で、討伐を引き受けたの?」
「いや、まだ。被害を出さずに討伐出来る作戦を思いつかないとね」
「ウチらなら、直接戦闘でもどうにか出来ない?遠距離から魔法でどうにかとかじゃなく」
「一体や二体程度ならどうとでも出来るけど…数がそこそこいるしね。厄介な能力を持ってるし…後、何故マンイーターは群れでやって来たのか。その理由が分からない」
「マンイーターは普段はどこで生息してるの?」
「南の街道沿いにある森だってさ。マンイーターは確かに移動能力を持つけど、植物型の魔獣らしく、普段は森から出ないし、長距離移動なんて滅多にしない。ましてや群れでなんてね。その理由がわからないんだってさ」
「じゃあ、いっそ空を飛んで無視しちゃうのは?」
「それはダメ!困ってる人を見捨てるなんて勇者のやる事じゃないよ!」
まぁアイシスはそう言うと思った。
でも、空を飛んで行くのも空からの攻撃も出来ない理由がある。
「それも出来ないんだ。空を飛んで次の街に行くのも空からの攻撃も」
「何で?」
「奴ら、花粉をまき散らしてるらしいんだけど、その花粉を吸ったらマヒ状態になるんだってさ。結構上空まで届いてるらしい。そのせいで偵察も困難なんだってさ」
「ウチらの装備なら耐えれるんじゃない?」
「どうかな…あんまり吸い過ぎると無理なんじゃないかな。いくら耐性があるって言ってもね。まぁ止めといた方が無難だね。マヒ状態になったら終わりだし」
「う~ん…結構厄介な事態なのね」
全く厄介だ。
どうしてこういう事態によく遭遇するのか。
「じゃあ、またジュンのゴーレムを大量投入でどうにかならない?」
「私とセリアも出して…あとメーティスも精霊を出せばいけない?シーサーペントの時みたいに」
「うーん…でも難度Cの魔獣に勝てるゴーレムを出すとなるとな。それも百もいるし」
「何も一度で全滅させる必要も無いでしょ?数回に分けて少しずつ減らしていけば。数が減ったら一気に殲滅すればいいし」
「ふむ。なるほど」
確かに、何も一度の攻撃で全滅させる必要は無いか。
魔力残量を気にしなければ今日、明日で全滅出来るかな?
「やってみるか。早速ギルドマスターに…」
「ジュン様」
「ん?はい、セリアたん。どうぞ」
「たん…ジュン様の【フレイヤ】で操れないの?」
「ん…【フレイヤ】か…」
「ああ!ジュンの【フレイヤ】なら簡単じゃない!」
【フレイヤ】の植物を操る能力。
植物とはいえ魔獣にも適用出来るのか試した事は無いけど…
「他にどうしようも無くなったら使うつもりだけど…今回は他の人の眼があるから。それに植物とはいえ魔獣に適用出来るか試した事が無いし」
「そっか」
「あ、そっか。秘密だったね」
「忘れてた?アイシス」
「わ、忘れてないよ?」
「なら、こっちを見て言いなさい」
忘れてたな、この反応は。
本当にうっかり漏らしてくれるなよ…
「兎に角、ギルドマスターに話してくるよ」
「「「は~い」」」
ノルドの街のギルドマスターはエルフの女性でディジィさん。
見た目は二十代の美女だが二百歳を超えるらしい。
「それは…有効そうな作戦ですね。いいでしょう、他の冒険者にも声を掛けて、ゴーレムと精霊を召喚出来る者を集めましょう」
「あ、はい。御願いします」
本音を言うと【フレイヤ】を使う時を考えると人は少ない方がいいんだけど…まぁ使わずに終わらせれば問題無いし。
「というわけで、作戦開始だな」
「戦力的には五分なんじゃない?これ。一気にいけるんじゃ…」
ボクがロックゴーレムやアイアンゴーレムを合計五十体。土の中級精霊を八体。
ユウがロックゴーレムをニ十体。セリアさんもニ十体。メーティスが中級精霊を八体。
ディジイさんが集めた冒険者達が三十体のゴーレムとニ十体の精霊。
「数は上をいけたけど…どうなるかな」
「マンイーターってどんな攻撃をしてくるの?」
「セバスト、知ってる?」
「ああ。花粉にマヒ毒があるのは先に言った通りだ。あとは十本程ある触手。これが結構なパワーがある。ロックゴーレムなら引きちぎれるだろうな。あとは石のように硬い種子を飛ばしてくる。まともにくらえば人体なんて簡単に貫通する威力だ。それを連射してくるぞ」
「なにそれ、やばそう。再生能力もあるんでしょ?それで何で討伐難度Cなの?」
アイの感想もわからなくはない。
非常に強そうな能力に思えるが…これには理由がある。
「弱点が明白だからだよ。火を使えば簡単に始末出来るからだ。普段は単体で行動する魔獣だしね」
弱点の火が使えなくなるとかなり厄介な魔獣だと、今回よくわかったけど。
さて、戦況はどうだ?
「で、戦況はどうだ?」
「結構減らせてるみたいだよ。こっちの方が損耗率が激しいけど…明日も同じ規模の攻撃を仕掛ければ全滅出来るでしょ」
「ならいいけど…ところでマンイーターは此処に何しに来たんだろ?」
「そりゃあ…捕食か繁殖じゃないの?」
「こんな、だだっ広いだけの草原に?どっちも不適切じゃないか?」
「知らないよ、魔獣の考えなんて…」
ふむ…なんか理由があると思うんだけどな。
群れで行動しないマンイーターが群れで此処に群生した理由が。
「ジュン様、何か変です」
「変?何が?」
クリステアが何かに気づいたらしい。
ボクが見た所、何が変かわからない。
「マンイーターの動きが組織的です。何者かの指揮の下に動いてるとしか…」
「指揮?」
言われてマンイーターの動きを観察する。
すると確かに攻撃を開始した時の動きとは違うようだ。
二体一組で動いていたり、複数体で種子の一斉射を行ったり。
硬いアイアンゴーレムを二体の触手で抑え込み複数体の種子攻撃で仕留めている。
「本当だ。魔獣が連携をとってる…」
「まるでアーミーアント…ううん。アーミーアントより連携が執れてる」
「このままじゃ大して数を減らせないね…どうする?」
それはマズいな。
少なくとも指揮を執ってる何者かをあぶりださないと…
仕方ないな。
「皆、自然に振舞ってね。アレを使う」
「アレ?あ、アレね」
「ん?あ~【フレ…」
「アイシス、メッ」
やっぱり、うっかり口にするとこだったな、アイシスめ。
セリアたんのナイスセーブで防げたけど。
兎に角、フレイヤでマンイーターを操作して同士撃ちをさせよう。
出来るだけ目立たないよう、自然に。
「ん?んん~?」
「何?どしたの?」
「何か妙な感覚だ。マンイーターの操作が上手く出来ない」
やはり植物とはいえ魔獣だからか?
いや、干渉は出来てるし…例えるなら綱引きをしてるかのような…なら、綱引きに勝ってみるか。
「ぬぅぅぐぐぐ…」
「何?何?どしたのジュン」
「お兄ちゃん?剣もすっごい光ってるよ」
「もうちょいっ…どっせええええい!」
「…てっ!何か出て来た!」
マンイーター達の中央の地面が盛り上がったと思ったら中から何か出て来た。
土埃が晴れて、見えて来たのは…
「何あれ、でっかいマンイーター?」
「あれはもしかして…マザーマンイーターか?討伐難度Sの伝説上の魔獣じゃないか!」
「知っているのか、セバスト」
「あ?ああ。知ってる。でも、その妙な言い方は何なんだ?アイ様」
「アイの事は気にしないで。セバスト説明を」
「あ、ああ。大昔に一度だけ確認されたマンイーターの上位種でマンイーターを支配する能力を持つ。支配するだけじゃなく、繁殖もして増やせる。流石にアーミーアント程じゃないが…マザーマンイーターは他の植物の生命力を奪う力も持ってる。放っておけばこの辺りの植物は枯れ、荒れた大地になり、マンイーターだらけになるぞ」
つまり…此処のマンイーターは森から出て来た奴だけではなく、マザーマンイーターが産んだ奴もいるのか。何故、此処で繁殖したのかは不明…いや穀倉地帯が直ぐ傍にあるからか?
いや、森も傍にあるんだからそっちの方が狙わそうなもんだけど…まぁそれは後で考えよう。
今は目の前のマザーマンイーターだ。
「マザーなんて付くだけあって女体があるね」
「気持ち悪いけどね…」
マザーマンイーターは通常のマンイーターに比べて二倍の大きさ。
花びらの中央に緑色の人型の女体が生えている。
「ねぇ。なんかあいつ、こっち見てない?」
「というより…ジュン様を見てるような…」
もしかして、さっきの綱引きのような感覚はあいつがマンイーターを支配してたからか。
しかも連携させた事から考えて結構知能が高い。
なら、ボクが【フレイヤ】で支配権を奪おうとした事も理解してるだろう。
と、なると…
「なんかマンイーターがこっちに向かって来るよ!」
「ご主人様!危険!」
「皆、もう一度出せるだけゴーレムを出して足止めさせて!撤退する!」
他の冒険者達にも同様の事をさせて撤退してもらう。
マザーマンイーターなんて想定外の存在が居るならこのままやり合うのは得策じゃないだろう。
一度撤退して作戦を練り直さないと…




