第211話 何かが海からやって来る 9
ギガロドンが港に突っ込んで来る。
そうなればどれだけの被害が出るか…想像したくもない。
何とか沖で食い止めるしかない。
「皆、ギガロドンを止めに行く。急いで準備」
「「「はい!」」」
「え?」
「ミズンさん、準備が出来次第、港まで転移します。そこからギガロドンの方まで案内してください」
「ま、待ってください!本当にジュン様が自身で戦うつもりなんですか!?」
「見ての通りです。放って置けばとんでもない被害が出るでしょう?」
「し、しかし…皆さんを危険な目に合わせる訳には…」
「ジュン様、準備出来ました」
「いつでも行けるよ!」
「よし。ミズンさん、ミズリーさん。今は問答をしてる時間が惜しい、ボク達に何があってもこの国に責任を問う事はしません。だから、行きますよ」
「は、はい。わかりました」
強引にミズンさん達を説き伏せて港に転移する。
既に港はパニック状態で、避難が始まっているようだ。
「ジュン様、ギガロドンはあちらから来る筈です。御案内します」
「…いえ、ミズンさん、ミズリーさん。二人は住民の避難を手伝ってください。案内は必要ありません」
「え…あっ!」
ギガロドンは既に港から肉眼で見える位置まで来ている。
まだ距離があるから見えるのは背ビレと背中だけだが。
「セイレンの船が見えないけど…あいつは何を追ってここまで来てるの?」
「船はとっくに破壊されたんじゃないかな。今追ってるのは船を捨てて逃走中の騎士達だろう」
ギガロドンも巨体で早いが、スピードは僅かに人魚の方が上なのだろう。
しかし、引き離す事は出来ず、結果ここまで引っ張ってしまったようだ。
「出来るだけ沖で迎撃する。飛行魔法が使える者は迎撃に参加。使えない者は住民の避難を手伝って」
「ご主人様、あたしも行っていい?」
「ハティは飛べないだろう?此処で待機。戦えない人を守ってあげて」
「飛べないけど、空を走れるようになったから。戦えるよ」
いつの間にそんなスキルを。
狼の姿も大きくなって、馬より二回り大きい身体になってた。
いざという時に足場になってくれそうだ。
「よし、じゃあハティも頼む。行くよ!」
結局、港に残ったのはティナ達とルチーナだ。
後のメンバーは飛行魔法で迎撃に向かう。
メガロドンの前方には三十人程の人魚達が逃走中だ。
誰も犠牲になってないといいのだけど…
「我々で足止めする!そのまま逃げろ!」
「は、はい!」
先頭の人魚に声を掛け人魚とギガロドンの間に入る。
人魚とギガロドンの間は100m程しか離れていない。
すぐさま魔法で足止めを開始する。
「アブソリュートゼロ!」
氷系魔法の最上位魔法で、海を広範囲に渡って凍らせて壁を作る。
魔王の紋章も使用した全力で、広範囲に。
ギガロドンの進路上に分厚い氷の壁を作れた。
突然現れた、壁に対応出来ず、ギガロドンは氷の壁に突っ込んで激突し停止した。
「よし!空中から魔法を打ち込め!奴がジャンプしたら空中に居ても届くぞ!距離は常に取れ!」
「ジュン、待って!」
「氷が割れる!」
「えっ嘘!」
厚さ20m、幅200mはあるんだぞ。
一度体当たりしただけで割れるなんて。
「皆はもっと上に!ボクはもう一度壁を作る!」
完全に氷の壁が割れる前に、更に広範囲に海を凍らせる。
これで、もう一度体当たりで壁を割るには距離を取る必要があるはず。
今度こそ、足を止めた筈だ。
ただ、この辺りの海産物にはかなりの被害が出てしまっただろうが…
「攻撃開始だ!距離を取るのを忘れるな!」
空中から攻撃を開始する。
しかし、どうにも効果が薄い。
あの巨体には魔法攻撃も効果が薄いみたいだ。
いや、皮が厚く丈夫なのが一番の理由か?
しかし、ギガロドンの目標をこちらに切り替えさせる事には成功したようだ。
少し、沖に戻ったと思ったらこちらに向かってジャンプして来た。
「攻撃よりも回避に専念しろ!決して近づくな!」
一見、膠着状態に見えるだろうが…状況はこちらに不利だな。
向こうの攻撃は噛みつき…いや捕食だけだが、捕食されたらこちらは終わり。
対してこちらには今の所決定打が無い。
少々、危険を犯すしかないか。
「ハティ!ボクを背中に乗せて!」
『は~い!』
「皆は遠距離から攻撃を続けて!ボクは剣で攻撃を仕掛けてみる!援護お願い!」
「ダメです!危険です、ジュン様!」
「ボクなら捕食される寸前に転移で逃げれる!心配無い!」
「…わかりました。気を付けてください!」
このままではどの道危険だし、納得してもらうしかない。
【アトロポス】のみを抜き魔力剣を最大まで伸ばす。
これで狙うべきは…
「ハティ、次に奴がジャンプしたら奴の眼に近づいて。どっちの眼でもいい」
『うん。わかった!』
ハティの空中を走る能力。
ボクの韋駄天の紋章の力とはまた違う感じだ。
地上を走る速度と変わり無く走っている。
かなりのスピードだ。これなら…
「!何か仕掛けて来るぞ!更に距離を取って!ハティは回避に専念!」
『うん!』
空を飛ぶボク達に苛立ちを感じたのか、ジャンプ攻撃から別の攻撃へ切り替えたようだ。
ギガロドンは水を操作する力があるらしく、そこかしこから水柱が立った。
聞いた話だが、メガロドンにはこのような能力は無いはず。
やはり特殊能力を持っていたな。
「ハティはこのまま暫く回避に専念。でも奴がジャンプするのを見逃さないで」
『わかった!』
さて、どうする。
このまま水柱での攻撃だけされると、剣で斬る事が出来ないな。
囮を出すか。
バナナボートで使った鳥型ゴーレムを数体出してギガロドンの上を常に飛ばせる。
「ハティ、あの鳥型ゴーレムに奴が喰いついた時がチャンスだ。何時でも距離を詰めれるようにしてて」
『うん!わかった!』
暫く鳥型ゴーレムを飛行させていたが、未だ喰いつかない。
ゴーレムには喰いつかないか?
と、思ってたら。
「奴が沈んだ!ジャンプする気だ!ハティ!」
『うん!』
ギガロドンが鳥型ゴーレムに喰いついた。
ジャンプし、空中のゴーレムを一飲みにする。
そしてその瞬間は無防備だ。
「でぇぇええい!」
ハティは一瞬で距離を詰め、まだ海中から顔を出してるギガロドンの眼に剣が届く距離まで詰めてくれた。そこへ魔力剣で斬り付け、眼を潰す。
「やった!ハティ、距離を取って!」
『うん!』
右眼を潰されたギガロドンは逃走するようだ。
海中深くに潜り、沖の方へと逃げて行った。
『追わなくていいの?ご主人様』
「海中に潜られたら、今のボク達には追撃の方法が無い。無理だよ」
それに皆結構消耗してる。
これ以上は危険だろう。
「誰も怪我してない?」
「はい。皆無事です、ジュン様」
「よし。皆、よく頑張ったね。倒せはしなかったけど、撃退できただけ上等だ。さ、転移で港まで戻るよ。ティナ達とミズンさん達が心配して待ってるだろうから」
「派手に暴れたから津波とか大丈夫かな」
「それは氷の壁が上手い事防波堤になってくれてたと思う。兎に角戻るよ」
転移で港まで戻ると。
戦いの推移を見守っていたのか、ティナ達とミズンさん達、それにギガロドンから逃げていたセイレンの騎士達がわっと押し寄せて来た。
「ジュン様!誰も怪我は無いの?」
「ジュン様。ありがとうございます、御蔭で誰一人死なずに済みました」
皆、口々に賛辞と御礼を述べて来る。
ミズンさん達によると、逃走中だった騎士達にも、港の住民にも誰一人犠牲は出なかったそうだ。
押し寄せて来た波で船と船がぶつかって一部損壊等の軽微な被害は出たものの、人的被害は皆無。
海産物の被害も、ギガロドンが港に突っ込んでた場合を考えたら大した事無いとの事だった。
「逃走中だった騎士達も船以外は失っていないんですね?」
「はい。遠くから毒入りメガドロンを捕食したギガロドンの様子を窺っていたのが幸いして、奴が船に向かって来た時、即時船を放棄。泳いで逃走したそうです。結果、此処迄奴を引っ張って来てしまいましたが…人的被害は皆無です」
「そっか。よかった」
討伐は出来なかったが、人的被害はゼロで撃退出来た。
しかし、毒殺が失敗したとなるとどうするか。
また有効な手段を考えないと…




