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第210話 何かが海からやって来る 8

「楽しんで頂けてますか、ジュン様」


「はい。ありがとうございます」


 夜になり。今は歓迎パーティーの真っ最中だ。

転生してからというもの。前世では縁の無かったパーティーにもすっかり慣れてしまった。

ここの所、結婚式も続いたし、正直に言うとあまり刺激は無い。


「そう、断じて」


「何がです?ジュン様」


「何かに耐えてるみたいだけど」


 宴の会場で給仕をしてる人や、踊り子さんの衣装がどれだけ扇情的だったとしても。

全然、全然平気。慣れたモノさ!


「それにしても、何て言うか…料理が偏ってる気がする」


「精が付きそうなのばかりだね。美味しいけど」


「何考えてるのやら。…ナニを考えてるんだろうけど」


 あからさまだなぁ。

今まで問題は起こらなかったのだろうか。


「我が国では子作りは大事な事。当然、料理も子作りの事を考えた物が多いのです。健康にも悪くないはずですよ」


「そうなんですか…」


 子作りの為に精の付く料理が発展していったと。

筋金入りだな…。


「もしかして、踊り子さんだけでなく、給仕をするメイドさんまで過激な衣装なのも…」


「はい。勿論、子作りの為です」


 因みに護衛の為に傍で控えているミズリーさん達までもわざわざ同じ衣装に着替えている。

それ、護衛出来なくない?


「アデル様達の衣装は普通ですね。あ、いえ勿論素敵な衣装なのですが」


 とはいえ、王族が着る服装としては過激だ。

以前、イーノさんが着ていたママ上のドレス並みに扇情的ではある。


「フフフ…甘いですね、ジュン様」


「はい?何がです?」


「このドレスはボタンを一つ外せば簡単に脱げるようになっているのです」


 何それ、すごーい。

どうやって作ったの。


「試してみます?このボタンを外せば…」


「いえ!試さなくて結構です!」


 パーティー会場で脱いでどうするつもりだ。

技術や文化の進化の方向が一定だな。

まさしく性の聖地。


「う~ん…お堅いですね。我が国と他国との性事情の違いは理解していますが、据え膳という言葉もあるのでしょう?」


「ありますけどね。だからって全部に手を出してたらキリがないですよ。これまでも各国で誘惑はされてましたから」


 その全てを断ってきましたし。

自制心と理性はかなり鍛えられて来た。


「なるほど。ジュン様程の方となれば各国の女性も放って置かないでしょうしね。この程度の誘惑には慣れているという事ですか。これは更なる手を用意しなければ―――」


「強がってました、すいません。勘弁してください」


 これ以上過激な誘惑なんてされたら、どうなるか。

自制心と理性という防波堤が決壊…まで行かなくてもヒビくらいは入るかもしれん。

入ればいつか…段々とヒビが広がり、そして決壊する。

ダメ、絶対。


「お母様、ジュン様が困ってらっしゃいます。御止めください」


「もう、シャンタルは…貴女もいい加減克服しないと、結婚できませんよ」


「そだよ、お姉ちゃん。その点、あたしは成人したらいつでもOKだけど。別に今からでもOKだけどぉ」


「克服?シャンタルさんは何か苦手な事でも?」


「ええ…シャンタルは子作りが怖いんです」


「「「はい?」」」


「父親が子作りの頑張り過ぎで死んでしまったのですから、分からなくもないんですが…シャンタルはこの国の次期魔王。いつまでもそのままでは困るのです。何とか克服して欲しいのですが…」


ああ~…。

なるほど、そりゃあね。そうなるよね。

父親の死因が子作りの頑張り過ぎなんてなったら。

そりゃあ怖くもなるわ。


「それで、ジュン様は御優しいそうだから、頑張って誘惑するように言っていたのですが…ジュン様が誘惑に乗って来ないのをいい事に避けるつもりなんです、この子は。一度経験してしまえば何とかなると思うのですけど」


「だって…怖いモノは怖いんですもの…」


 う~む…こちらとしては助かるけど、不憫と言えば不憫。

だが力になれそうも無いし…


「あの…シャンタルさんは御幾つ何ですか?」


「私ですか?今年十六歳です」


「あたしは今年十四歳だよ」


「その歳なら処女でも全然普通だから、焦らなくても全然平気ですよ。ゆっくり克服しましょ」


「それに、王族の娘が結婚前に経験済みだとマズくないですか?少なくとも他の国じゃそうなんですけど。婚約者となら大丈夫でしょうけど。誰とでもいいから経験しておくって考えは流石に…」


 アイとユウのフォローが入る。

確かにボク達の常識からすればそうなんだけど。

この国じゃ通用しなさそう。

というか、十六歳と十四歳?

確かシャンタルさんの父親が亡くなったのが十五年前。

エミリエンヌさんの父親は十五年前に来たどこかの国の誰か。

旦那が亡くなって直ぐにどこかの誰かの子を作ったのか…モラル無さすぎではないだろうか。


「他国ではそうなのでしょうね。ですがこの国では子を成しさえすれば未婚のまま魔王になっても構いませんので。女しか生まれない種族の王とは、そういうモノなのです」


 ダメだー。長年の種族問題による観念は崩せそうにない。

確かにそういう種族の問題があるのだから、そうなるのは仕方ないのかもしれないけど…巻き込まれる身としては堪ったもんじゃない。


「ですが…そうですね…両者共に乗り気で無いのならせめて男性慣れしておきなさい。せめて触れられるくらいには。ジュン様も、シャンタルと友達になってやってください。私からはもう誘惑しませんから」


「ああ、それくらいなら」


「あたしも!あたしも友達になるー!ユウさんとアイさんも友達になろうよ!」


 一気に難易度下がった。

誘惑を止めるのがアデル様だけじゃなく全員だったら尚よかったのだけど。


 シャンタルさんとエミリエンヌさんと友達になった処で、パーティーは終わり。

翌日、治癒魔法で癒して欲しい人々が集まってる中央公園への案内をシャンタルさんとエミリエンヌさんが務めるそうだ。

と言っても、馬車で行くのだが。


「昨夜はすみません、ジュン様。お母様が無理を言って…」


「無理?友達になって欲しいって事なら、全然問題無いですよ?」


「いえ、それもなのですが…本来なら恩人であり、国賓でもあるジュン様を働かせるなど…」


「治癒の件ですか?それこそ問題ありません。治癒魔法を期待されるのは何時もの事ですし、魔法で民が救えるならそれでいいじゃないですか。例えそれが、他国の民でも」


「そう、ですか…ありがとうございます、ジュン様」


「ふ~ん。ミズン達が言ってたように、本当に良い人なんだ。羨ましい~」


「羨ましい?」


「うん。ミズンから聞いてない?セイレンで一番愛されている御伽噺」


「ああ、はい。聞いてます。そう言えば、その御伽噺の王子様は婚約者と結婚するんですよね?そして愛人になってハッピーエンドって事になってるらしいですけど。この国では既婚者と関係を持つのは禁止されてるのでは?」


「今はね。昔はそうでも無かったのよ。兎に角、愛する人と子を成す事が夢みたいな話なのよ、この国では。ましてや、それが他国の王子様となるとね。夢のまた夢って話で。だからミズンはかなり羨ましがられてるのよ。お母様ですら羨ましいって言ってたもの」


「王族なら、他国との縁談で王子と結婚出来るでしょ?」


「出来るけど、その人を愛せるかは別問題じゃない?ましてやセイレンはこういう国だから、結婚相手として人気無いしね。だから王族とはいえ、結婚相手を探すのは苦労するのよ」


 それはまぁ…そうかも。

婿入りするのなら第三王子とか第四王子とかになるんだろうけど、それでも子作りのし過ぎで息子を死なせたくないだろうし。

この国の事情を知ってれば敬遠するのも当然か。


「ジュン様、着きました」


 到着した公園には怪我人と病人が溢れていた。

セイレン魔王国には薬草が育つ土地は少なく貴重。

治癒魔法使いも居ないらしいから多いのは仕方ないか。


「えっと…先ず怪我人と病人に分かれてもらってください」


「はい。皆さん、誘導なさい」


「「「はい」」」


 セイレンの騎士達の誘導で別れてもらい、治癒する。

人数が多かったので何回かに分けて治癒する事になったが、問題無く終了した。

治癒後、此処でも神の如き扱いで感謝された。

多少慣れて来たけど、やっぱり神様扱いは困ってしまう。


「ありがとうございます、ジュン様。国を代表して御礼申し上げます」


「ありがとね、ジュンさん」


「いいえ、どういたしまして。それじゃ、後はギガロドンの討伐の結果待ちですね」


 聞いた話だと今頃は、毒入りメガロドンを用意して沖に向かってる頃だろう。

城に戻って吉報を待つとしよう。


 そして待つ事数時間。

昼食を終えた頃に、報告が来た。


「ジュン様、報告がありました。ギガロドンの毒殺に失敗したそうです」


「…そうですか。失敗の原因は何です?」


「ギガロドンは毒入りのメガロドンを一度は捕食したのですが…吐き出してしまったそうです」


 何と…毒入りだと気付いたって事か。

野生の勘か?何にせよ、やはり一筋縄では行かない相手らしい。

毒殺で片付いてくれれば楽だったのだけど。


「姉さん、大変よ!ギガロドン討伐に向かった船をギガロドンが追ってるらしいの!このままだと港にギガロドンが突っ込んで来るわ!」


「何ですって!?」


 それはマズい。

流石に陸に上がって来る事はないだろうけど、あの巨体が港に突っ込んだらどんな被害が出るか。

止めるしかない、何としても。

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