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第208話 何かが海からやって来る 6

とりあえず、脅威は去った。

あの魔獣…便宜上ギガロドンとでも呼ぼうか。

ギガロドンは恐らく、メガロドンの変異種だ。

大きさは桁違いだが、フォルムはメガロドンと同じだった。しかし、メガロドンに対し同族意識は無く、ただの餌として認識しているようだった。


「ヤバいね、アレは」


「うん。リリーが事前に気付いてくれなきゃどうなっていたか。お手柄だよ、リリー」


「あ、はい。ありがとうございますぅ」


「それで、ジュン様。あの魔獣をどうされますか?」


「放置?」


「現状じゃ有効な手段が浮かばないなぁ。ミズリーさん達は何か有りますか?」


「いえ…セイレン魔王国の全戦力を用いたとしても、倒せるかどうか。海中での最高戦力は私達、騎士団です。ですが、私達の武器で攻撃しても針で刺した程にも感じないでしょう」


何せあの巨大だ。

皮も厚いだろうし、サメ皮は硬いと聞く。

彼女達の武器は槍…いや矛と言うべきか。

彼女達の三叉の矛では到底貫けない。

仮に貫けたとしても、それこそ針で刺した程度にしか感じないだろう。


「どうしたモノか…何かアイディアのある人は?」


「ああいう巨大生物の倒し方は、やっぱり体内に侵入して内部から破壊がセオリーなんじゃない?」


「え…そんなの聞いた事ないですぅ」


「それはわざと捕食されるという事ですか?正気の沙汰では…」


「自殺行為」


「う…」


アイの意見は却下らしい。

日本のアニメやゲームなんかでよくあったシチュエーションだが…現実でやるとなると、確かに正気の沙汰じゃないな。

それにどっちかというと巨大生物に対する方法じゃなく、巨大兵器に対する方法だと思うし。


「他には無いかな?」


「はい、ジュン様。毒殺などいかがでしょう」


「毒…どうやって飲ませる?」


「メガロドンの死体にたっぷりと仕込めばよろしいかと」


「なるほど」


どんな毒をどれだけ用意すればいいか、全く見当も付かないけど、有効そうだ。

直接戦闘よりは安全だと思うし。


「あの…ジュン様?」


「何です?ミズンさん」


「先ほどから聞いてると、あの魔獣と戦うつもりに聞こえますが…」


「え?あ、はい。そうですね」


「な、何故です?確かにあの魔獣は危険な存在です。しかし、エルムバーンにとっては今すぐどうにかしなければならない存在では無いはずです。ましてや魔王子であるジュン様が直々に戦うなど…」


あ~まぁ確かにそうかもしれないけども。

ほっとく訳にはいかないでしょ、やっぱり。


「セイレン魔王国はあの魔獣…便宜上ギガロドンと呼びますけど、ギガロドンを討伐に動きますよね?」


「はい。そうなるでしょう。あの魔獣…ギガロドンを放置すれば我々は海に出る事が出来なくなります。それはセイレン魔王国にとって滅亡を意味します。何としても討伐せねばなりません」


「そして、ミズンさん達は死ぬ可能性が高い。そうですよね?」


「…はい。私も姉さんも死ぬ事になるでしょう。ですが私達は騎士です。国を守る為の戦いで死ねるなら本望。怖れたりしません」


「…そうでしょうね。騎士とはそうなのでしょう。ですがボクは怖いですね。友人が死んで行くのは。死ぬと分かっている戦いに行くのを見送るなんてしたくありませんね。それで充分でしょ?ボクが戦う理由なんて」


「友人…私達を友人と呼んでくださるのですか?」


「一緒に海で遊んだ仲じゃないですか。大丈夫、貴女達を死なせたりは…うぷっ」


「もう!もうもうもう!ジュン様ったらカッコよすぎ!あー、もう我慢出来ない!今すぐシましょ!さぁシましょ!」



何かスイッチでも入ったのか、突然裸になったミズンさんに頭を抱えられ胸に顔を埋められた。

何という極楽…じゃなくて!


「ちょ、ちょっと!何するんです!」


「だってだって!アンナ様からエルムバーンやヴェルリアの常識を教わってからずっと我慢してたのに!ジュン様ったら我慢出来なくなる事言うんですもん!さぁ!ジュン様も脱いで脱いで!」


「こらぁ!ジュンはウチのだかんね!手出しさせないわよ!」


「そうです!ジュン様の初めての相手は私がするんです!」


アイはともかく、ノエラさんや?

そんな事いつ決めた?


「まぁ!ジュン様は童貞なんですか!?それはますます戴かなくては!」


「待ちなさい、ミズン。ジュン様の童貞を奪えるのはたった一人。となれば譲る訳にはいきません」


「「「私達も欲しい!」」」


ミズリーさん…止めるかと思いきや。

見た目真面目そうなのに、淫乱とか。

セイレンの人達全員参加しちゃったし。


「あんた達、いい加減にしないと…」


「ジュン様、セイレンの港が見えた。出迎えも見える」


「あ!ほらほら、着きましたよ!さぁ服を着て!」


「「「チッ」」」


アイの我慢が限界を超える前に到着出来てよかった。

しかし、ガウル様の言うようにセイレンの女性全員が肉食系だとしたら。

アイがキレるのも時間の問題かもしれない。


港に到着し、船から降りると盛大な歓迎を受けた。

国を挙げて歓迎すると聞いてはいたが、本当に国を挙げての歓迎らしい。

【ようこそ!セイレンへ!】と書かれた横断幕も見える。

音楽隊もいるし、踊り子もいる。

踊り子は…何というかハワイアンの恰好でブラジリアンなダンスを踊ってる感じだ。


集まってる国民は女性ばかり。

ちらほら見える男性は、話に聞いた結婚して移住して来た男性なのだろう。子供を抱えてたり、隣に奥さんらしき人がいる人ばかりだ。


セイレン国民の人達に手を振りながら歩いてると、馬車があり。

馬車の前には三人の女性が居る。

服装から察するに、この国の女王。いや、魔王アデル・セイレンとその娘、魔王女だろう。

海中で戦う事になる人魚の騎士であるミズンさん達は水着のような肌の露出が多い服装だったけど、彼女達は一見して普通の王族の服装だ。


「ようこそ、セイレンへ。私がこの国の魔王。アデル・セイレンです」


「盛大な出迎え、感謝致します。ジュン・エルムバーンです。それから彼女はボクの婚約者、アイ・ダルムダットです」


「アイ・ダルムダットです。初めまして、アデル様」


婚約者として紹介されて嬉しかったのか、アイの機嫌が直ったようだ。普段ならボクも婚約者と強調して紹介したりしないのだけど、今回は特別だ。


「初めまして、アイ殿。この二人は私の娘です」


「第一魔王女のシャンタル・セイレンです」


「第二魔王女のエミリエンヌ・セイレンです」


アデル様は黄緑色の髪で黄緑色の瞳。肩まである髪をセンター分けした、一見お堅そうな女性だ。


シャンタルさんは水色の髪に水色の瞳。

背中まであるストレートロングで前髪を下ろしている。

何だか怯えているというか、自信無さげというか。

先ほどから、こちらと目を合わせようとしない。


エミリエンヌさんな黄色の髪に黄色の瞳。

ショートカットの活発そうな女性だ。

姉のシャンタルさんと違って、こちらは興味津々といった感じでずっとジロジロ見てくる。


今、気が付いたけど人魚族は髪の色と瞳の色が同じらしい。

ミズンさん達もそうだった。


「さて、ここでこのまま立ち話も何です。先ずは城に。馬車に乗ってください」


「はい。ありがとうございます」


「よろしければ民の声に応えて手でも振って下さい。では行きましょう」


馬車は屋根の無い、オープンタイプの馬車で丸見えだ。

港から城まで一本道で道沿いにはセイレン国民がずっと並んで手を振っている。

何だか世界的大スターになったみたいだ。

因みにミズリーさん達は護衛の騎士団に混じって着いてきている。


「ここまで歓迎されると恐縮ですね」


「ジュン様の噂は我が国にも届いていましたから。勝手ながら皆、期待しているのです」


「噂…それに期待ですか?」


またか。

こんな遠くの島国にまで届いているとは。


「はい。セイレン魔王国が誇る護衛騎士団は世界中に赴きます。自然と各国の噂は集まって来るのです。その中でジュン様の噂は素晴らしい物ばかりでした。特に治癒魔法使いとして各地に赴き無償で治癒しているという噂に、我が国にも来て欲しいという声が国民からも上がっていました」


よかった、そっちか。

まぁグンタークやヤーマン。他の国でもそうだったけど、治癒魔法使いはどこも不足しているな。

初めて来た国では必ず頼まれてる。


「そうですか。でしたら治癒を希望する人を一ヵ所に集めて下さい。ボクでよければ治癒します。対価は必要ありません」


「ありがとうございます。本当に助かります。我が国は御覧の通りの島国。国土は狭く、薬草を育てるにも苦労する有様。男手もありませんし」


「男手…そういえば、アデル様の夫君は?城ですか?」


「いえ、私の夫は亡くなりました。十五年前になります」


「それは…失礼しました」


「気にしないで下さい。私が頑張らせ過ぎたせいですし」


「頑張らせ過ぎた?何をです?」


「子作りをです」


「「「はい?」」」


「ご存知かと思いますが人魚族には女しか生まれません。ですので一人の男性に沢山子作りして貰う必要があるのです」


「あの…妻帯者には手を出さないとも聞いたのですが…」


「それは外国の男性に限った話です。外国の妻帯者である男性に手を出せば面倒な事になりますから。我が国に結婚して移住した男性には出来るだけ沢山子作りして貰う事になっています。ですのでシャンタルには異母姉妹が二百人以上います」


何という事でしょう。

ある意味で男の楽園。

しかし、種馬として生きる事を余儀なくされる島。

何て怖ろしい。


「ん?今、シャンタルには、と仰いましたか?」


「はい。シャンタルとエミリエンヌは異父姉妹です」


「ええと…ではエミリエンヌさんの父親は…」


「不明です。十四年前に来訪したある国の一団に居た男性の誰かとしか」


何てこったい。

仮にも一国の代表たる魔王に父親不明の私生児がいるとか。

しかも当人達の様子から察するにそれはこの国では普通。

それがどうしたと言わんばかり。


「ですので、ジュン様も好きなだけ子作りをなさって下さい。私や娘達でも構いません」


「辞退させて下さい」


いかん、いかんですよ。

かつて無い危険がこの身に迫っている。

一刻も早く問題を解決して立ち去らねば…子作りのし過ぎで死ぬとか嫌過ぎる。

早く何とかしないと…

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