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第207話 何かが海からやって来る 5

ガウル様から聞かされたセイレン魔王国の性事情。これが事実なら何て恐ろしい。


「しかし、それにしてはミズンさん、大人しかったですよね」


一度危ない場面があったが。


「そりゃあ私がエルムバーンやヴェルリアの普通の男女を懇切丁寧に説明したからね。命の恩人だし、自重したんでしょ」


そういえばそうだった。

アンナさんにミズンさんの教育をしてもらったんだった。


「後はずっと誰かと一緒に居れば大丈夫よ、きっと。パメラちゃんとかカタリナちゃんとかレティシアちゃんとかと一緒に居るのがオススメよ?」


「それは遠慮しておきます」


アンナさんの目的を考えると、恐らく本末転倒な結果が待ってる気がする。


「そうよね、そこは婚約者の私の出番よね」


「妹でもいいよね、お兄ちゃん」


「ウチが居れば大丈夫!絶対に守るから!」


「許嫁の私も居ます!」


何故だろう。

身の安全という意味ではあまり安心出来ない。


とりあえず、セイレンに行くのはせめてお忍びという形にした方がいいかな、と思ったのだが。


「え?それは手遅れですよ。港で連絡した時、ジュン様がセイレンに来訪される事は伝えてますし。国を挙げて歓迎するそうですよ?」


との事だった。

そういえばそういう交換条件の形にしたんだった。失策…


それからのバカンスは兎に角大変だった。

ミズンさん達に触発されたのか元々そのつもりだったのか。

シャンゼ様やコルネリアさん、ユーファさんも誘惑してきた。

ミズンさん達を連れて王都を案内した時に自由時間を作ったら皆ツヤツヤしてたし。

あげくの果てにルチーナ曰く痴女が着る水着をクオンさんが着てしまう。

確かに凄い水着だった。

Vの字状の殆どヒモと言って差し支え無い水着。

大事な所が辛うじて隠れているだけの水着。

ちょっとずらせば全て見えてしまうだろう。

クオンさんが着ると、凄い破壊力の水着だった。

当然、バナナボートに誘ったのだがアイとユウに阻止されてしまった。残念無念。


そして何だかんだと色々あったバカンスは終わり。

今はミズリーさん達の船の上だ。

メンバーは予定通り、ボクとアイ。リリーにセリアさんだ。


「凄い速さですね。これなら予定の半分の日程で到着出来そうです」


船はバナナボートで使用した鳥型ゴーレム二体で牽引。

天候にも恵まれ海が荒れる様子は無い。

行程は順調そのもの。

と、思ったのだが。


「うっ…気持ち悪い…」


「自分で操船してるようなモノなのに」


「大丈夫ですかぁ?ジュン様ぁ」


帆船をゴーレムで牽引して強引にスピードを出すこの方式。

速いのだが揺れる揺れる。

出発して三十分で酔ってしまった。

酒には酔わないのにっ。


「とりあえず、横にならさてもらうよ…」


「うん」


十人が長距離で航海出来る船だけあって狭いがベッドは一応ある。

普段使ってるベッドとは比べるべくもない堅いベッドだが…


「あんっ」


「あれ?」


なんだこの柔らかさは。

普段使ってるベッドに勝るとも劣らぬ…しかもいい匂い。

そして暖かい。


「ていうか誰かいる!?」


これは不可視化の魔法で透明化してるのか。

つまりここに居るのは…


「ノエラ?何でここに居るのかな?」


「う…」


「あ、ノエラさんだ」


港でやけに大人しく見送ると思ったら。

不可視化状態で船に忍び込んで来るとは。


「お、お叱りは受けます…ですが、やはりジュン様と離れるわけには…」


「…それで?せっかく忍び込んだのにこんな見つかりやすい場所で寝てたのは?」


「船酔いです…うっ…」


ノエラもか。

しかもボクより酷そうだ。

はぁ…仕方ないないなぁ、もう。


「お仕置きは後でするとして…リリー、ミズリーさん達にノエラの事伝えて来て」


「はいですぅ」


十人用の船にノエラが密航した事で十一人になってしまった。

何か問題が発生するかもしれない。

と、思ったのだが。


「大丈夫です。何とかなりますよ」


「え。なるの?」


「はい。ジュン様の御蔭で日程は短縮出来ましたし、食糧に余裕はあります。夜中も交代で見張りを立てますから、ベッドも問題ありません。むしろ…ノエラさん?大丈夫ですか?ジュン様も気分が優れない御様子ですが…」


「私はもうダメです…明日の太陽は見れないかもしれません…」


「大袈裟な…でもボクも結構ツラいですね。皆さんは平気なんですか?」


「はい。私達は慣れてますから。辛くてもお腹に何か入れておいた方がいいですよ。水も飲んでおいた方がいいです。しばらく何にもありませんから、ゆっくり寝ててください」


「はい。そうさせてもらいます」


ふぅ…これが約三日続くのか。

結構ツラいかも。


「うう…」


「…ノエラ、進行方向に背を向けないように。注意して。それからミズリーさんが言ってたように辛くても何か食べた方がいい。柑橘系の果物はダメだよ。あとお酒も。飲み物は水にしとくといい。水ならいくらでも出してあげるから」


「はい…」


「ノエラ、落ち着いたらお説教だよ。でも…心配してくれてありがとうね」


「…はい」


ここで甘い顔するのは間違いかもしれないけど、自分を心配して来てくれたノエラが弱ってる処にお説教やお仕置きする程、主人として傲慢にもなれない。

それにボクも今、船酔いで弱ってて威厳も何もあったもんじゃないし。


それから船酔いとミザリーさん達のお色気攻撃と戦いながら約二日。

セイレン魔王国まであと一日の距離まで来た。


「もうすぐ迎えのセイレン護衛騎士団の船と合流です」


「わざわざ迎えに来てくれるんですか?」


「はい。セイレン魔王国への国賓を海で危険な目に合わせては国の威信に関わりますから。必ず皆さんを無事にセイレンまで…」


「ジュン様」


「リリー?どうかした?」


「下から何か来ます。数は八くらいです。大きな…この船より大きな何かです」


流石リリーだ。期待通り、海中の敵の接近も察知してくれた。


「それは…恐らくメガロドンです。この辺りはメガロドンの生息域なので。しかし、御安心を。メガロドン八匹程度なら、我々でどうとでもできます。皆さんはここで、このまま待機して―――」


「待ってください、ミズリーさん。ここはメガロドンの生息域、つまり沢山いるんですね?」


「え?ええ、そうです」


「そしてミズンさん。貴女はメガロドンとの戦闘中に襲われた…そうでしたよね?」


「は、はい」


「ジュン?」


何か嫌な予感がする。

ここでメガロドンと戦闘するのはマズい気がする。


「メガロドンにはボクの魔法で対処します。船は全速力で此処から離れます。皆さん、船から降りないでください」


「しかし…メガロドンは我々の敵ではありませんが、船にとっては脅威です。このくらいの船なら奴らは簡単に…」


「兎に角、任せてください」


海中でも活動出来て目立つ魔法と言えば…ブルードラゴンスピリッツの出番だな。


「な、何ですか、アレは」


「アレもジュン様の魔法なんですか?」


「そうです。今は海中でメガロドンと戦闘中です。今の内に此処から離れましょう。何か嫌な予感が―――」


「ジュン様ぁ!更に下から何か来ますぅ!とんでもなく大きい何かですぅ!」


「! 全速力を出します!船から振り落とされないで!」


甲板に出て既に後方で戦闘中のメガロドン達の様子を見る。

ブルードラゴンスピリッツはわざと海面すれすれで戦わせているので様子がよく見える。


「リリー、新しく来てる奴の位置は?」


「メガロドン達の下です、もうすぐ…来ますぅ!」


メガロドン達の下から出て来たそれは…サメだ。

メガロドンと同じくサメ型の魔獣。

ただ、大きさがメガロドンの比じゃない。

メガロドンでさえ、この船より大きい。

そのメガロドンを…あのサメ型の超巨大な魔獣は捕食している。

一口で数匹まとめて捕食出来るあのサイズ。

100mは優に超えている。いや、下手をすれば200m超えているのか?

海面から全身を出していないので凡その推測しか出来ないが…


「アレが…ミズンさん達を襲った正体不明の魔獣…」


「うん。でも奴の狙いはミズンさん達じゃなく、メガロドンを狙っていたんだ。だからミズンさんは体当たりを受けただけで捕食はされなかった。そして…他の人達はメガロドンと一緒に捕食されてしまった…んだと思う、残念だけど」


「そんな…」


ミズンさん達には気の毒だけど…今は奴から逃げなくては。

今、襲われたらどうしようもない。

それに、ボクらを迎えに来ているセイレンの船も引き返させなくては。


「ミズリーさん、セイレンに連絡を。あの魔獣の事を伝えてください。迎えに来てる船は引き返させてください。危険です。ボク達は最悪転移で逃げれば大丈夫ですから」


「は、はい!」


あの魔獣は…食べ損ねたメガロドンを追って、ボク達とは別方向に逃げたようだ。

取り合えず、セリアさんの預言は回避出来た…はずだ。

しかし、あの魔獣はどうするか…放置するにはあまりに危険。

だけど…


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