第201話 やっぱりね
「いやぁ目出度い!」
「まさかグンタークの結婚式に続いてヤーマンでも!いや、素晴らしい!」
今は結婚式の後のパーティーの最中。
話題はやはりダーバ王子達と女神の祝福だ。
「いやぁ、まさか王子とオリビアの結婚が女神様に祝福されるなんてね」
「女神様って兄妹の結婚に寛容なのかしら」
「…ちょっとイーノ様が可哀想…」
「あぁ~イーノ様ね…」
「結婚式を挙げた段階で諦めるしか無いけど~女神様の祝福で追い打ちになっちゃったわねぇ」
「…イーノ様以外、皆、兄妹の結婚に肯定的になった…」
ターニャさんの言う通り、そういう空気が周りに広まっている。
招待客が皆、兄妹の結婚を肯定しているのだ。
式が始まる前までは兄妹の結婚を否定的に見ていた人も今では手のひらを返し肯定している。
これは拙い、実に。
ユウの歯止めが益々効かなくなる。
「フフフ…計画通り」
何かユウは悪い顔して笑ってるし。
何、その顔。
ユウってそんな顔する子だったっけ。お兄ちゃんは心配です。
「失礼。少しよろしいかな、ジュン殿」
「あ、ユーグ陛下。はい、勿論です」
今日のテーブルはカタリナさんとは別だったのだがユーグ陛下と一緒にカタリナさんとレティシアさん、シルヴァン君にパメラさん、アンナさんまで来ている。ヴェルリア王家、勢揃いだ。
「昨日はパメラの相談に乗ってもらったとか。感謝する」
「あ、いえ、大した事は言ってませんから。それに、やはり少し無責任な事を言い過ぎたかなと」
「うん?あぁパメラの離婚の事か。気にする事は無い。確かに、ジュン殿の言葉で踏ん切りが着いたのだろうが…それでも最終的にどうするか決めたのはパメラ自身だ。そして余もジュン殿の言葉には同意するしな」
「ボクの言葉ですか?」
「うむ。家族が苦しんでいるなら帰って来いと言う。そんな当たり前の事にどうして気が付けなかったのか。有難う、ジュン殿」
「いえ…因みにボクが言った事を陛下に伝えたのは…」
「私よ、ジュンちゃん。あの時のジュンちゃんの台詞は一言一句、間違える事無く言えるわ」
「言わなくていいですよ。ボクの台詞何て聞いてもしょうが無いでしょう。大した事は言って無いんですから」
「そんな事無いわよ。エリザ様は大喜びだったわよ。メモまで取ってたし」
「は?お母さんに話したんですか?」
「ええ。昨日は息子さんに御世話になりましたって、ご挨拶した時に」
「勘弁して下さい…」
後で何言われるか。
また美談が増えたとか、略奪愛とか言われそう。
いや、そんなつもりは全く無いけども。
「ジュンさん、昨日は有難う御座いました」
「いえ、ボクは何も。無責任な事を言っただけですよ」
「いいえ、そんな事は。自分の為に行動してもいい、そう言って貰えてだけで…私は十分救われました。何か御礼が出来ればいいのですが…」
「あ、じゃあアンナさんがボクに対し、何か仕掛けようとしてたら止めてもらえます?」
「すみません。それは無理です」
「アンナお母様が本気になったら私達には止められない。諦めるんだな」
「そういう事よ。覚悟してね、ジュンちゃん」
「えー…」
パメラさん、諦めるの早い。
もう少し頑張って欲しい。
「せめて昨日のような作戦は止めて貰えます?裏の目的があったみたいですけど」
「あら、何のことかしら?アレは単なる御礼よ?お気に召さなかったようだけど」
「アレがお気に召すようなら、それこそとっくに経験済みでしょうね」
「何の話し?」
「さ、さあ…」
「アンナお母様、昨日何かしたんですか?」
「カタリナさんは兎も角、レティシアさんとシルヴァン君にはまだ早いかな」
「む!何よ、子供扱いしないで!教えなさいよ!」
「アンナさんに聞いて下さい」
「お母様?」
「後でね。それじゃ、またねジュンちゃん。サンドーラの人達と話して来るから」
「え?今、ここで話しをするんですか?」
「こういう話しは早い方がいいと思うの。それに明日には帰るんだもの。お互い行ったり来たりは大変じゃない?場所は変えるから大丈夫よ。それじゃ行きましょ、ユーグ」
「うむ。それではジュン殿。失礼する」
流石の行動力だな。
まさか、今日離婚の話しを纏めるつもりだとは。
「お疲れ、ジュン」
「アンナさんて凄いね。普通もっと悩みそうだけど」
「全くだ」
「あの…何か今、サラっととんでもない会話がされてたような」
「パメラ様、離婚されるんですか~?」
「はい。そうらしいですね。あ、大きな声は出さないで下さいね」
マルちゃん達は知らなかったな。
まあ、こんな場所で話してたんだから、隠すつもりは無いのだろうけど。
「ええ~片や女神様に祝福された聖夫婦。片や普通の王族夫婦は離婚ですか…」
「…皮肉…」
「そうねぇ。そしてそのどちらにもジュン様が絡んでるのねぇ」
「ちょっと?カトリーヌさんや?何でそうなるんです?」
「何となく、そう思えちゃってぇ~」
「あながち外れてないかもね」
「略奪愛…」
「ジュン様なら本気出せば幾らでも略奪出来そうねぇ」
「いい加減にしないと三人揃って悶絶擽り地獄の刑ですよ」
「「「ごめんなさい!」」」
全く…何が略奪愛か。
そんなのはドラマや物語の中だけで充分。
リアルに持ち込んではいけない。
「ジュン殿、楽しんで貰えてますか」
「ああ、ダーバ王子にオリビアさん。改めて結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、ジュン様」
「いやぁ、まさか私達まで女神様に祝福して貰えるなんて。これもジュン殿の御蔭な気がします」
「気のせいですよ、間違いなく」
その件の主犯は恐らくユウです。
後で自白させよう。
「ところで女神様の祝福はどんなモノだったんです?」
「あ、それですか…いやぁ少し恥ずかしいんですが…」
「子宝に恵まれ、必ず健康な子が生まれるそうです」
「いやぁ!バンバン子供を作れって事ですかね!…どうしました、ジュン殿」
「いえ…何でも…」
一瞬、何て能力だって思ったけど…この二人には必要な物かもしれない。異母兄妹である二人には。
「ところでそれ、イーノさんにも言いました?」
「勿論です!一番に言ってやりましたよ!」
「イーノ様にも祝福して欲しかったのですが…何故か大泣きされてしまって」
「気の毒に…」
泣きっ面に蜂な状態な処に往復ビンタされた感じか。
「本当にイーノには優しいですね。もしかして本気で気に入りました?」
「そうですね。ダーバ王子よりは親しいかもしれませんね」
「えぇ!そんなバカな!」
「自業自得だってばバカ王子」
「当然の結果…」
「弁護の余地が無いわねぇ」
「お前えらな…」
満場一致の結果が出たので、この件は良いとして。
イーノさんがいるテーブルは…
「うわぁ…」
「何か、あそこだけ暗いね」
「空気の悪さが可視化されてるような…」
イーノさんはテーブルに突っ伏して泣き崩れている。
ヴァルターさん達は知らん顔で食事してる。
慣れてるんだとしたら、嫌な慣れだな。
仕方ない、少し慰めるか…
アイとユウにも来てもらおう。
「あ~…イーノさん。元気出して下さい」
「そうよ、元々実らぬ恋だったんだから」
「お兄ちゃんに結婚してって言うからにはオリビアさんは諦めるつもりだったんでしょ?」
この際、ユウは兎も角、アイは酷いな。
いや、その通りなんだけどさ。
「うぅ~ジュン殿ぉ~!」
「な、何ですか?」
年頃の女の子がしていい顔じゃないな。
せっかく綺麗に着飾ってるのに。
「私もエルムバーンに連れて行ってくださいぃ~!パメラさんがいいなら私だってぇ~!」
「あ、はい。構いませんよ?別に全然」
「え?いいんですか?」
「はい。パメラさんと一緒にカタリナさんも来ますし。むしろ誘うつもりでしたよ?」
「ジュン殿ぉ~!」
泣いた鴉がもう笑ったな。
本当に誘うつもりだったし、これで元気になるならそれでいいんだけどさ。
「すみませんな、ジュン殿」
「言う事聴かなかったら、お尻叩いてください。少し強めに。すぐに大人しくなりますから」
「母上!止めて下さい!私はジュン殿より年上なんですよ?威厳という物が…」
「ああ、それは最初っから無いんで大丈夫ですよ」
「えぇ!そんなバカな!」
「むしろ姉さんの何処に威厳が?」
「ジュン殿もビックリだと思うよ。姉さんに威厳とか」
「うぅ~…」
笑った鴉がまた泣いた。
ほんと、男装してないとメンタル弱いな。
「因みにエルムバーンに居る間は当然、男装禁止ですからね」
「うっ…はい…」
「約束ですよ?破ったらあのスケスケドレスより恥ずかしいの着て貰いますからね」
「あるんですか!?アレより恥ずかしいドレスが!」
「今はありません。ですが必ず用意します。エルムバーンの総力を挙げてでも!」
「いやいや、お兄ちゃん。そんな事に国の力使っちゃ駄目でしょ」
「えぇ!そんなバカな!」
「いやいや。何で許されると思ったの」
「まぁ冗談半分だよ」
「半分は本気だったんだね、お兄ちゃん」
まぁアレより凄いのを見たいと思ったのは本心です。
ま、イーノさんが元気になっただけで良しとしよう。
それからパーティーは恙無く終了し。
ダーバ王子の突然の来訪から始まった一連の出来事はこれにて終了だ。まあ、まだ新婚旅行でエルムバーンに来るらしいけど。
とりあえず終了だ。
そして夜。
神様に再び連絡を取ってみた。
「で?今日の祝福にも絡んでますよね?」
『だから何じゃい、その不信に満ちた声は。今回は要望通りじゃろうが」
「要望?」
『友人が結婚するから祝福してくれって。ユウが言うたじゃろが』
あー…やっぱり。
ボクがいないとこでこっそり頼んでたな。
『その者達は兄妹なんじゃろ?丁度良い女神像を祀っておったから、わしが頼んで祝福させたのじゃ。必要な祝福じゃったじゃろ?』
「そうですね。その点はありがとうございます」
『何じゃい、何か問題あったか?』
「いえ。後はこっちの問題ですので。では、またいずれ」
『うむ。またの』
ま、ユウが関わってるのはわかってた。
大体、動機も推察出来るけど…
「で?どういうつもりなのかな、ユウさんや」
「ん~?べっつに~?友人の安産を願うついでに兄妹の結婚に世間が寛容になればなんて思ってないよ~?」
「ああ、やっぱりね。それが目的なのね」
だよね、わかってました。
その計画は問題無く進んだようで…はぁ…




