第200話 またしても
結婚式前日のパーティーも終わり。
明日は朝から結婚式だし、早めに寝るとしよう。
「で、どうして部屋まで付いて来るんです?イーノさん」
「だって!もう今から抱いてもらうしか、オリビアは…」
「いや、もう諦めましょうよ。それに本当は分ってるでしょう?ここまで来たら止める事なんて出来ないって」
「う、うぅ…」
「イーノさんもさ、オリビアさんの幸せを祈ってあげなよ」
「イーノさんとオリビアさんは夫婦にはなれないけど、友達にはなれるんだし」
「友達…いや、ですが…」
「じゃあまた勝負します?今度こそあのスケスケドレスでパーティーに出てもらいますが」
「うぅ…ジュン殿ぉ~」
また泣くぅ。どうもイーノさんには弱いな…ん?
「ノエラ、セバスト。その人達は?」
「ああ、ジュン様。不審者だ」
「ジュン様の寝室に忍び込もうとしていましたので」
ああ~…本当に仕掛けて来たか、ハニートラップ。
確かヴェルリアのメイドさんだ。アンナさんに言われて来た人達だろう。
三人も送って来てどうするつもりだ。
「怪我はさせてない?」
「はい。勿論です」
「そう。えっと…貴女達はアンナさんに言われて来たヴェルリア王国のメイドさんですよね?」
「は、はい。ジュン様に御礼をしてくるように、と」
「御礼…一応聞いときますね。どんな御礼を?」
「その…私達の身体で御奉仕を…」
「伝言もありまして…『これは御礼だから、後で対価を要求したりしないから安心してね』だそうです」
無料…後腐れナシ…正直、心惹かれる。
だってこのメイドさん達美人だし。
でも絶対、無料じゃない。
少なくともノエラ達の歯止めが効かなくなるだろうし。
「えっとお気持ちだけ頂いておきますとお伝えください。立てますか?」
「はい、大丈夫です…」
「あ、貴女。その手のケガは?」
「あ、これは昼間にちょっと…ぶつけただけで」
「そうですか。でも…」
「あ…」
「はい、治りましたよ」
「あ、ありがとうございます。で、では…」
ふぅ…またしても誘惑に勝ってしまった。
ここまで理性的なのに何故、スケベとか女好きとか言われるのか。
「ジュン…分っててやってる?」
「何が?」
「あのメイドさん達、お兄ちゃんにホレたと思うよ」
「ナンデヤネン」
一体何処にそんな要素が。
フラグすら立てた覚えが無い。
「イケメンが笑顔で優しく傷を治す。それだけで十分なのよ」
「ま、今更だけどさ。最近、大人っぽくなって磨きが掛かって来た気がするのよね」
大人っぽくなったのはいいとして…一体何に磨きが掛かったと言うのか。
いや、もういい。兎に角寝よう。
「じゃあ、イーノさん。ここまでです。部屋に戻ってください」
「い、いえ、ジュン殿。お願いですから…ぶっ?」
「ジュン殿、御迷惑をお掛けしました。イーノは縛って転がしておきますので御安心を。それでは」
「ンー!ンー!」
何時の間にかイーノさんの背後に立っていたヴァルターさんが一瞬でイーノさんを簀巻きにして担ぎ上げて行ってしまった。何という達人技。
「今のは何かの紋章が関係してるのかな」
「さぁ…でも凄い早業だったね」
「まあ邪魔者は居なくなったし。もう寝よう、お兄ちゃん」
「うん。そうしようか。って一緒に寝るつもり?」
「いいじゃない、偶には」
「…一緒に寝るだけだぞ?変な事したら大声出すんだからねっ」
「いや、それ私達のセリフでしょ、普通」
だって普段の君らの言動を聞いてると…一抹の不安が。
「じゃ皆、お疲れ様。また明日ね」
「…あ~じゃあオレはこれで。ジュン様、また明日」
「あ、うん…ノエラ?リリー?シャクティ?どうしたの?」
「今夜は私達も御一緒させて頂く事になりました」
「は?御一緒?」
「り、リリーも一緒ですぅ!」
「ジュン様と一緒に寝るのは初めてですね。ちょっと緊張してます」
「何でさ。どうしてそんな話に?」
「先程のように夜這いに来る者がまだいるかもしれません。ならばいっそ一緒に寝てしまえば問題無いという結論に至りました」
いや、至りましたじゃないよ。
ボクは相談された覚えも許可を出した覚えもないぞ。
「いや…流石にこの人数が寝れるベッドじゃないでしょ。六人だよ六人」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。こんな事もあろうかと!私の魔法の袋にキングサイズベッドが常備してあります!」
「何を思ってそんな物を用意してたのか、今度ゆっくり聞くとして…キングサイズのベッドを置けるような広さは無かったでしょ」
「それも御安心を。クリステアさんとルチーナさんの二人が部屋を簡単に片づけている筈です」
用意周到…完全に計画の上か。
「もしかして、アンナさんから聞いてた?メイドが来るって」
「な、何の事かしらぁん。ウチにはわからないわぁ」
「ウ、ウチにもわからないわぁ」
「ウチにもわからないです」
「ウチにもわかりません!」
「り…ウチにもわからないですぅ」
何で全員一人称「ウチ」になってんの。
打ち合わせしてるの?
「皆何処見てるの?こっち見て話なさい」
「「「ほ、星が綺麗だなあと思って」」」
「今はこっち見ろぉー」
このままだと六人で…いやクリステアとルチーナも噛んでるなら八人か。
この八人で寝て何も起こらないなんてあるだろうか。
身の危険しか感じない!
「まぁまぁ、落ち着いてジュン」
「何にもしないから。ただ一緒に寝るだけだよ、お兄ちゃん」
「ほんとーだろうね」
「ほんとだよ。でも腕枕くらいはしてよ」
「腕枕…まぁそれくらいならって、どう考えても全員は無理じゃね?」
「まぁまぁ。とりあえず入ろ」
何時までも廊下で話ててもなんだし、とりあえず部屋に入るか。
部屋の中は本当に片付いてるし。
物とか壊してないだろうな。
「で、どう寝るのさ」
「まずお兄ちゃんは大の字になって」
「左右の腕に二人ずつ。左右の脚に一人ずつ。上に一人で…」
「またんかい。上はダメだろ。脚も厳しいけど、上はダメでしょ」
「何?興奮しちゃう?うふっ」
「あのね…ていうかそれじゃ寝返り一つうてないし、夜トイレ行きたい時とかどうすりゃいいの」
「あ~我慢して」
「簡単に言うけどね、アイさん。そんなわけにも行かないでしょうが」
「じゃあ今行ってきて」
「その間に誰がどこのポジションで寝るか決めとくね」
「はい…あと着替えもしといて」
今夜、ボクは無事に乗り切れるだろうか。
いっそトイレに行くフリをして逃げるか…
「あ、ジュン。転移で逃げたりしたら、お仕置きが酷いからね」
「…はい」
逃げ道を塞がれたか。覚悟を決めるしかないのか。
ていうか、この計画を知ってて逃げたな、セバスト。
やっぱりアンナさんとの話に含まれてるな、この計画。
「で、もう寝ていいの?もう好きにして頂戴」
「うん。厳正なるあみだくじの結果です」
「ウチとルチーナが左腕」
「私とリリーが右腕。ノエラさんとシャクティが脚」
「ん?という事は…」
「私が上です、ジュン様」
「チェーンジ!チェンジお願いします!」
クリステアはダメだろう!
クリステアが上なんて、絶対に何かするに決まってる!
「酷いです、ジュン様。私ではお嫌ですか?」
「そうじゃなくて!クリステアが何かするでしょ、絶対!」
「大丈夫です。私からは何もしませんよ。そういう御約束ですし」
「本当に?嘘ついたら泣くよ。もうクリステアとは遊んであげないんだからねっ」
「大丈夫です。ですがジュン様から何かするのは問題有りません」
「いや、腕も脚も抑えられてて何も出来ないけどね…」
で、そのまま灯りを消して寝た結果…何にも無かった。
意外なほど何にも無かった。
ボクが全く眠れなかった以外は…
「おはようございます、ジュン様。なんて素敵な朝なんでしょう」
「おはよう、クリステア。そだね、素敵な朝だね…」
朝焼け空が眩しいぜ。
空ってこんなに眩しかっただろうか。
「どうだった、ジュン。七人の女の子と一緒に寝た感想は」
「生殺しにも程がある…」
皆、寝巻で普段とは違う感じだし。
クリステアは胸を押し付けてくるし、ノエラは意外と寝相が悪いのか服がはだけてるし。
一晩中、理性と欲望の戦いだった。
まぁ身動きとれなかったから、理性が勝てたんだが…
「じゃ、朝食を頂いたら、結婚式場に行こうか…」
「「「はーい」」」
ボク、今日一日乗り切れるかな。
式の最中寝ちゃいそう。
「おはよう、ジュン。どうしたの?」
「おはよう、ジュン様。疲れてる?」
「おはよう、アイシス、セリアさん。ちょっとね…」
アイシスには昨日、皆で一緒に寝たなんて言ったら…何て言われるやら。
黙っとこう。危険が危ない。
朝食を頂いた後、少しゆったりしてから式場へ。
式場にはグンタークの大聖堂と同じく女神像が祭られていた。
女神フレイヤ像ともう一つの女神像は誰だろう?
「あれは女神ルキナ様の像だ。愛と出会い、子宝の女神様だ。赤子を抱いているだろう?」
「あ、カタリナさん。おはようございます」
「うむ、おはよう。君は眠れなかったのか?隈が出来てるが」
「ええ。まぁ大丈夫ですよ。カタリナさんこそ、昨日は遅くまで話し合ってたんじゃないんですか?」
「そうでもないさ。驚くほどあっさり方針は決まったからな」
「というと?」
「パメラ姉さんは、離婚する。サンドーラとは近日中に話し合いが行われるだろう」
「そう、ですか…」
「君が気にする必要はないぞ。皆最初から賛成だったし、サンドーラとの国交は現状を維持する予定だ。何も問題は無いさ。あるとすればエヴァリーヌお母様とエルリック兄さんが口煩く言うだろうという事くらいか」
「どうしてです?あの二人に何か損でも?」
「パメラ姉さんとサンドーラ王国の縁談はエヴァリーヌお母様が持って来た話なんだ。ま、それだけだ。離婚しても損失は無い」
「そうですか…」
「とはいえ、わざわざ口煩い人の傍に居る事も無いしな。離婚したらパメラ姉さんをエルムバーンに遊びに行かせてもいいだろうか。ほとぼりが冷めるまで」
「ええ。構いませんよ。その時はカタリナさんも一緒にどうぞ」
「うむ。そうさせてもらおうかな。では、また後でな」
「はい。また後で」
今日もグンタークの時と同じく、結婚式当日にヤーマン王国に着いた招待客がいる。
その人達に挨拶周りがあるのだ。
無論ボク達も。
今回はエスカロン・ガリアは来ていないし、他に危険視されてる存在も来ていないので警戒しなくていい分、前回より楽かもしれない。
そして結婚式が始まった。
場所が大聖堂と王宮内の式場という違いはあるけれど、様式はグンタークと同じらしい。
新郎・新婦がそろって女神像の前まで歩き、神父?の言葉の後に愛を誓いあう。
「うぅ~オリビア~」
まだ諦めきれていないのか、イーノさんは悔しそうに泣いている。
折角化粧してるのに、落ちちゃいますよ?
「では、指輪の交換を」
「「はい」」
二人が指輪を交換する。
あれ?何故だろう。
変な予感が…
「これで二人は正式な夫婦に…え?」
「「え?」」
指輪と女神像が光った。
これはまたしても…
「こいつは…立て続けに女神に祝福された聖夫婦が生まれるなんてな」
「本当ねぇ。凄いわねぇ。もしかしてジュンが居るから祝福されたんじゃない?二組の共通点ってジュンの友達ってくらいじゃない?」
「ハハハ…まさか…」
当たらずとも遠からずな気がします、ママ上。
本当に勘がいいですね。
今回光ったのは女神ルキナの像だから祝福したのは女神ルキナか。
また神様通信で確認しよう…




