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第189話 イーノさんと勝負

「それで、ジュン殿。この魔法でどうやってフランコ殿の誤解を解くんです?」


「喋れないなら、ジェスチャーですか?難しそうですね」


イーノさんが動きでどうやって伝えようか、自分で動いて表現してる。

一所懸命に考えてくれてるんだろうけど、その動きじゃ伝わらないだろうなぁ。

天然だな、この人。ちょっとかわいい。


「この魔法を使うのはフランコ君にではなく、エクトルさんに使います」


「エクトルさんに?」


「うん。きっと本音を喋ってくれると思うんだ」


「なるほど。そしてその場にフランコを連れて行くのだな?」


「はい。ただ、いきなりエクトルさんの前にジゼルさんを出しても効果は薄いと思うんですよね。できればジゼルさんの魂が一時的に何かを切っ掛けに目の前に現れた、何て風に信じられるような下地を作りたい所です」


「となると…都合のいい御伽噺とかあればいいんだけどね」


「御伽噺ですか?」


「例えば、流れ星に願い事を三回言えば叶うとか、そんな類の」


「おお!それであれば我がレンドに丁度いい話があります」


「父上?そんなのありましたっけ?」


ヴァルターさんは知ってるようだがイーノさんは知らないらしい。

ロマンチックなの好きじゃなかったの?


「覚えてないのか?ほら、夜空に輝く赤い星。あの星に願えば死者の魂が一時的に現世に舞い戻り、死者と逢える。何て昔話があったろう」


「あ、ああ!思い出しました。ありましたね、そんな話」


都合よく都合のいい話があったなー。

しかし、赤い星?火星?いやアンタレスかな?

現代地球と同じように星が見えるとも限らないし、ここは位置的にも日本とは違うから星に関しては何とも言えないな。


「それで行きましょう。ヴァルター様には今の話を上手くエクトルさんにして欲しいのですが…お願いできますか?」


「勿論です。娘が迷惑を掛けたお詫びもあります。上手くやってみせましょう」


「お願いします。あと…少し酔ってもらった方がいいかな?バルトハルトさん、カタリナさん」


「お任せを、ジュン殿」


「私はあまり酒は得意では無いのだが…」


「なら、宴の後にエクトルさんを上手く外に連れ出す役目を頼んでいいですか」


「うむ。それならば」


「あとは…フランコ君の誘導は…スケベ勇者とセリアさんにお願いしようかな」


「任された」


「ちょっと…ジュン。スケベ勇者って誰…」


「それじゃ、会議は以上で。あとは夜の宴の時間まで休みましょう。他の国の人も来るから挨拶にも行かないとですかね?」


「ちょっとー!」


アイシスが喚いてるけど、スルー。

少しは反省して貰わないと。


「それでは、我々も部屋に戻るとします。行くぞ、ダーバ、オリビア」


「ああ。それでは皆さん、また後ほど」


「お兄様。私、まだ挨拶の済んでいない方が…」


「やめときなさい、オリビア」


ダーバ王子達、ヤーマン組も各々の部屋へ。

マルちゃんにはオリビアさんの挨拶を頑張って止めてもらいたい。

これ以上、犠牲者が出る前に。


「それでは私達も」


「失礼します。イーノも、戻りましょ」


「いえ、私はまだジュン殿に御話しが」


「いけません。ジュン殿に、いえエルムバーンの方々に御迷惑をかけては。さぁ」


「ですが…」


レナータさんに言われても戻りたくないのか、イーノさんが縋るような眼で見て来る。

しょうがないな…どうも、この人には甘くなってしまうな。


「構いませんよ、話をするくらいなら」


「ジュン殿ぉ!」


パァァァ と笑顔になるイーノさん。

実に分かりやすい。


「すみません、ジュン殿。我儘を言うようなら放りだしてくれて構いませんので」


「よろしくお願いします」


レンド組も、イーノさんを残して部屋に戻った。

あとはエルムバーンの皆と、カタリナさんとアイシス達、ヴェルリア組だが、彼女達もこのまま残って話をするのだろう。


「それで?御話しとは何ですか?イーノさん。まぁ大体想像は付きますけど」


「あ、はい!もうオリビアが結婚するまであまり時間がありません!早く私を抱いてください!そして私達も結婚しましょう!」


予想通りの内容だなぁ。

一応、婚約者の前なのによく言えるな。

それにもう少し恥じらいを持って欲しい。

最初はあんなに顔を真っ赤にしてたのに。


「ボクと結婚するつもりなら、オリビアさんの結婚を止める理由は何です?オリビアさんを愛してるから、結婚を止めたかったんでしょう?兄妹だから止める、というのであればあの二人に関しては余計な御世話でしかないでしょう?色々手遅れっぽいですし」


オリビアさんとは知り合ってまだそれほど日が経っていないが、二人が真剣に愛し合ってるのはよくわかった。他人がとやかく言うべきではないと思う。


「う!しかしですね…」


「オリビアさんの結婚を止める理由が無いのであれば、ボクに抱かれる必要もないでしょう。ダーバ王子に勝負を挑む理由も無くなったのですから」


「ですが、勝負を挑んで敗れたのは私です。敗者の責務を果たさねばなりません」


「それはボクは巻き込まれただけですので、その敗者の責務とやらに付き合う義務はありませんよね」


「うぅ…ジュン殿ぉ~」


「う…」


またそんな…ウルウルな眼で…

うむむむ…仕方ないなぁ。


「じゃあ、こうしましょう。ボクと勝負しましょう」


「え?勝負ですか?」


「イーノさんが勝てば望み通りに、だ、抱いてあげましょう。ただしボクが勝ったら…」


「ちょっと待ったー!ジュン!それはダメ!ウチが許さない!断じて!」


「私も反対!というか、そんな美味しすぎる条件で勝負できるなら先ず私が!」


「私も納得できません、ジュン様。そういう事なら先ず私達が先に権利があるはずです」


「そうです。先ず私の調教を先に!」


まぁ、その反応は多少は予測してました。

やはり、先に説明しないとダメか。


「イーノさん、ちょっとお待ちを」


「?はい」


「皆、円陣」


全員で肩を組んで小さく円陣を組む。

そこにカタリナさんや、アイシス達も混ざってるのが気になるが…


「(あのね、皆。当然まともな勝負をするつもりなんて無いから。一見、五分の条件の勝負でも絶対にボクが勝てる勝負を受けるから)」


「(そうなの?そんな勝負出来るの?)」


「(そういう事ならわからんでもないが…それはそれで少々気の毒では無いか?)」


「(とりあえず顔を合わせてる間だけ誤魔化せればいいだけですから。流石にエルムバーンにまで追いかけては来れないでしょうから)」


「(う~ん…そういう事なら、まぁ…でもほんとーに勝てるの?)」


「(そうです、勝負に絶対は無いのでは?もし万が一負けたら、先に私達を抱いてからにしてもらいますよ)」


「(私達って…誰と誰なのさ…そんな事にならないようにするよ。万に一つも無いようにね。じゃ)」


「お待たせしました、イーノさん。じゃ勝負をしましょうか」


「はい!どんな勝負を?私が決めていいですか?」


「いいえ。ボクとの勝負に限っては私が全て勝負方法を決めさせてもらいます。勿論、公平な勝負内容にしますから、御安心を。どうです?」


「ん~…私が勝負を決めれないのは少々不満ですが…無理を言ってるのは私ですし…わかりました」


掛かった。

これで何とかなるだろう。

イーノさんには悪いけど、ゲームの景品のような扱いで女性を抱くつもりは無い。

いや、ような、では無く実際そうか。


「それで私が勝ったら…だ、抱いてもらうとして、私が負けたらどうしたら?」


「ああ、そうでしたね。じゃあボクが勝ったら、ボクに抱かれるというのは諦めてもらうという事で」


「それは無理です!」


「え?あっれ?…じ、自信が無いのですか?」


「ありません!勝負の内容もわからない、ジュン殿の実力もわからない!なのに一度の勝負で後が無くなるような約束は出来ません!」


う~ん…それぐらいの知恵と用心深さはあったか。

天然のお馬鹿さんと思ってたし、実際お馬鹿さん何だが…


「意外に用心深いですね。その割にダーバ王子との勝負には全敗してるらしいですが」


「そりゃあもう!負けた経験の多さなら負けませんよ!だからこそ負けた時の事はちゃんと考えてますとも!」


じゃあ、なんでこないだの勝負は受けたんですか…あの時は考えてなかったでしょ。


「まぁ、それなら…ん~…所で話は変わりますが、イーノさんは明日の結婚式も男装で出るつもりですか?」


「はい。勿論です」


「ならこうしましょう。ボクが勝ったらボクの前ではちゃんと女性の服を着る事。これでダメなら勝負はナシで」


「え?う、う~ん…わ、わかりました。それで勝負の内容は?」


「そうですね。簡単なゲームをしましょう」


「ゲーム?」


「ええ。説明します。ボクとイーノさんで交互に1~30までの数字を言っていきます。最後に30を言った方が負けです。一度に言える数字は3つまで。例えばボクが1だけ言ったらイーノさんは2.3.4までの数字を言えます。2で止めてもいいし3で止めても大丈夫です。わかりましたか?」


「ええっと…はい、大丈夫です」


「ふむ。単純なゲームだな。だが…」


カタリナさんは気づいたようだな。必勝法がある事に。

アイとユウは勿論知っているのだろう。「ああ~」と納得のいった顔をしてる。


「じゃあ、一度練習をしましょうか。これは勝っても負けてもお互いに何にもナシなので気楽にやってみましょう。じゃあイーノさんからどうぞ」


「はい。じゃあ、1.2.3」


ふふ~ん。

やはりイーノさんは気づいていない。このゲームの必勝法に。


「じゃあ4.5.6」


と、ゲームを続け。


「28.29」


「さ、あれ?30…」


「プッ、わ、私の勝ちですね!」


「ちょ、ちょっとジュン!負けてるじゃない!」


「ジュン様ぁ…」


アイシスとリリーは気づいてないみたいだけど、勿論ワザと負けたのだ。

これも必勝の為の布石だ。


「ま、まぁ次が本番だから。練習は終わりです。いいですか?」


「フフン、いいですよ!」


「じゃあ次はボクからいきますね。1」


「おや?慎重ですね~。2.3」


「そりゃあそうですよ。4.5」


このゲームの必勝法は日本に居た人なら多くの人が知ってるだろう。

知らなくても計算が得意で頭の回転が速い人ならすぐに気が付くかもしれない。

しかし、この世界は上流階級であっても日本に比べて算術の知識は広まってない。

何せ、エルムバーンでようやく学校が出来て数年なのだ。

こんな数字遊びも広まってる筈がない。

イーノさんも初めての遊びだろう。


「24.25」


「26…あれ?」


「27.28.29」


「さ、30…」


「はい、ボクの勝ちですねー」


「う、うぅぅ…」


アイシスとリリーがホッとしてる。

二人は最後までボクの作戦に気づかなかったらしい。


「じゃ、イーノさん。敗者の責務を果たしてきてください。今から、早速」


「い、今からですか?あ、あ~そういえばドレスを用意してませんでしたーアハハ」


「大丈夫よ~私のドレスを貸してあげる~」


「え?」


あっと言う間にママ上に捕まってイーノさんは隣室に連行されて行った。

着せ替え人形にさせられるんだろうけど…サイズは大丈夫かな?


「ふぅ。君も中々悪辣だな」


「悪辣という程じゃないでしょう。勝負自体は公平だったはずですよ?」


「だが君は勝ち方を知っていたじゃないか。その差は大きいだろう?」


「そこはそれ、負けるわけにはいきませんし。それにカタリナさんは気づいてたでしょう?勝ち方…必勝法に」


「まぁね。だが私だけじゃないぞ。他にも気づいていた者はいたさ。アスラッド様も気づいていたのでは?」


「あ?ああ、勿論」


その反応は気づいてませんでしたね?パパ上。


「悪辣?必勝法?どうゆう事?」


「必勝法なんてあるんですか?」


『わいも気づいとったでぇ』


アイシスとリリーはまだわからないか。

【メーティス】は流石に知恵の女神の名を冠するだけあって気づいてたか。


「皆~見てみて~ドレスアップしたイーノちゃんよ~」


「うぅ…エリザ様、いくら何でもこれは大胆過ぎるのでは…」


ママ上によってドレスに着替えて来たイーノさんは…控え目に言っても美しい。

今までに見た美女の中でもトップクラスの美人だ。

そして意外なのが胸のサイズだ。

ママ上も相当大きいが、そのママ上のドレスを問題無く着れてる。

リリーやクリステア並だろう。

着ているドレスは背中が大きく開いた胸元を強調しスリットも大きく入った刺激的なドレスだ。


「どうどう?一目見た時からイーノちゃんてスタイルいいなって思ってたのよ~。私のドレスなら問題なく着れると思ったわ~」


男装してる時は胸があるようには見えなかったのに。

一目で女性だと見抜き、スタイルまで把握してるとは…


「ほらほら、ジュン。女の子が綺麗に着飾ったら感想を言わないと~!」


「あ、ああ、はい。大変お綺麗ですよ、イーノさん」


「あふっ…そ、そほでふか…」


「くっ…まさかここまでの逸材だったとは…」


「とてもコルセットで無理やり押さえつけてた胸には見えない…」


アイとユウに完全に同意。

男装して生きて来た人のスタイルに思えない。


「ジュ、ジュン殿ぉ…」


「似合ってますから、照れずに堂々としてたらいいんですよ。折角ですから今日の宴はそのままで」


「そ、そんなぁ…」


顔を真っ赤にして恥じらっているイーノさんは可愛いな。

さ、後は宴の後にフランコ君とエクトルさんの仲直り大作戦を実行するだけだ。

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