第184話 神獣白猿一家
ヤーマン王国に着いて昼食を終え、夜には盛大に歓迎の宴を開いて貰った。
宴にはヤーマン王国の有力者達が参加しており、中には身内が昼間に治癒魔法で病が治ったと言う人もいて、何度も感謝の言葉を貰った。
言葉だけでいいのに、せっかく治った娘さんや家宝を渡そうとする人には困った。
マルレーネさん達の家族も来ていて、娘達の事をよろしくお願いしますと、頼まれた。
治癒魔法育成施設の件ですよね?
そして、翌朝。
神獣白猿が住む山へ向かう事に。
「綺麗な山ですね」
「そうですか?」
「山なんて、何処も似たような感じだと思いますけど」
自然が豊かなこの世界の人には、特に感じるモノは無いらしい。
現代地球の知識があって、環境問題なんて言葉を知ってる者としては、豊かな自然を見ると綺麗だと感じるのだが。
「ところでどうしてオリビアさんまで?」
「まぁ!私が居ては邪魔ですか?」
「いえ、そういう事ではなく…危険ではないですか?」
「大丈夫ですよ、ジュン殿。この山には白猿以外の魔獣はいません。白猿が直ぐに追い払ってしまいますから」
「それに私も魔法を嗜んでおります。ある程度は自分の身を守れますから、御安心を」
「だからって無茶しちゃダメよ。この山は魔獣はいないけど動物はいるんだし。あたしか、王子の傍にいなさい」
「はい。マル姉さん」
「マル姉さん?」
「あ…オリビアは私の事をそう呼ぶんです。昔から…カトリーヌがマルちゃんて呼ぶから、それで」
ダーバ王子とも友達のような関係のようだし、オリビアさんともそうなのだろう。
王女を呼びすてだし。
「それでマルちゃん。白猿に会うには何処まで行けば?」
「とうとうジュン様までマルちゃん呼びですか…いいですけど。えっとハティちゃんが居れば向こうから来ると思います。適当に歩いていれば、そのうち」
そのあたりもエルムバーンの白猿と同じなんだな。
フェンリル一家全員と一緒に訪ねた時は警戒して直ぐには来なかったけど、ハティだけの時は直ぐに来た。そこも同じなら直ぐに来るだろう。
「大丈夫だとは思うけど、もし戦闘になったら直ぐに転移魔法で逃げるから。そのつもりで」
「「「はい」」」
「大丈夫ですよ、いきなり戦闘になったりなんか…」
「ご主人様!来るよ!」「ジュン様!来るですぅ!」
ハティとリリーが視線を向ける方向。
そこから強烈な気配を放つ存在が急速に近付き、姿を見せる。
予想通り、神獣白猿だ。二頭の神獣白猿。
片方はエルムバーンの白猿とよく似てる。こちらは雄だろう。
もう片方は雌。それはわかる。胸があるから。
それはいいんだが…何でエプロン着けてるの?
『妙な気配を感じて来たんだけど、そこの狼耳の女の子かな?君は誰だい?』
『一緒に居るのは勇者のダーバちゃん?いやぁ大きくなったのねぇ』
見た目は似てるけど、口調は大分違うな。
穏やかなオジサンと、親戚のオバチャンのような…
おっと、それよりもだ。
「初めまして、神獣白猿様。私はジュン・エルムバーンと申します。この子は神獣フェンリル。ハティと言う名です」
「ハティだよ!」
『フェンリル?フェンリルと会うのは初めてだなぁ。通りで感じた事の無い気配だと』
『エルムバーン?東にある遠い国だったかしら?』
「はい。今日は私達が貴方達に用事があって来ました」
『ふぅん?私達に?わざわざエルムバーンから?遠くから大変だったろう』
『そういえば、つい最近にもエルムバーンて言葉を聞いたような…』
『ああ、それはこないだ来たホーリードラゴンだよ。彼女が言ってたね』
「え?」
『ああ!そうそう!そうだったわね!エルムバーンの魔王子はいい子だから会ったら優しくしてあげてねって言ってたわ!』
ホーリードラゴンって龍王の紋章を渡したあのドラゴンだよね。
世界中をまわって知り合いに会いに行くって言ってたけど、ここに来てたのか。
「そのドラゴンは綺麗な白い鱗を持つ神獣のドラゴンですか?」
『その通りよ。それを知ってるって事は貴方がエルムバーンの魔王子でいいの?』
「はい。エルムバーンの魔王子はボクだけです」
「ジュン殿は神獣のドラゴンに知り合いがいるんですか」
「顔が広いんですのねぇ」
「顔が広ければ会えるってものでもないと思うけど…」
普通は神獣のドラゴンに知り合いなんていないよね。
それにしても、ホーリードラゴンの言う知り合いってもしかしてみんな神獣なのかな。
フェンリル一家とも友人だったし。
神獣同士のネットワークでもあるのだろうか。
『それで?何の用なんだい?』
『ドラゴンから頼まれたし、出来る事ならするわよ』
おおっ、有難うホーリードラゴン。
おかげで話がスムーズに進みそうです。
「実はですね…」
ここに来た理由を神獣白猿に説明する。
勇者の遺物の件は伏せておいた。
ダーバ王子に欲を出されたら困るからだ。
『つまり…うちの娘を嫁に欲しいという事だね?』
「はい。そうです」
『う~ん…』
「やはり、難しいですかね」
『う~ん、そうだねぇ…』
『私達は娘が承諾すれば構わないわ。でも…』
『息子が何て言うか…まず間違いなく反対する』
『そうね…娘は前向きに考えると思うけど、息子がねぇ。妹を溺愛してるし』
あー…やっぱり、そんなんか。
神獣までシスコンを患ってるのか。
ダーバ王子の影響じゃないだろうな。
「ん?何です?」
「いえ…神獣までシスコンとか。この国の特徴なのかと」
「兄が妹を愛するのは当たり前なんだよ、お兄ちゃん」
「その通りですよ。ヤーマンだけじゃなく、世界の常識ですよ」
「王子とは暮らしてる世界が違うみたいですねー」
少なくともボクが暮らしてる世界にそんな常識は無い。
無いよね?無いはず…
「とりあえず、娘さんに意思確認をしてもらえませんか。娘さんが嫌がるようなら無理強いはしませんので」
『なら、ここへ連れて来ようか。少し待っててね』
白猿父はサッと消えて一瞬で遠く離れて行った。
そして数分で戻っ来た時には息子と娘を連れていた。
息子の方は父に比べてやや小柄だ。
娘の方は母と同じでエプロンを着けてる。
『という事らしい。どうする?』
『反対!断固反対!』
白猿父の説明に反対したのは予想通り白猿兄。
白猿妹は考えてる風だ。
『貴方が答えてどうするの』
『だって母ちゃん!何でそんな顔も知らない奴に!』
『あら、会ってみたら意外と恋に落ちるかも知れないじゃないの。あたしとお父さんもそうだったのよ?』
『うん。出会ったその日にフォーリンラブだったね』
何だろう、この神獣夫婦。
ほんのり昭和臭が…
『それは何回も聞いたって…大体お前も嫌だよな?兄ちゃんから離れて遠い場所で暮らすなんて』
『私、会ってみたい。会わせて欲しい』
『何で!?』
『だって何か素敵じゃない。大昔の勇者との約束を守って山を守り続けるなんて』
『うちだってそうじゃん!』
『うちはここで暮らしてるからだし。ちょっと違うよね。それにこの機会を逃したら次に結婚のチャンスがいつ来るか、判らないじゃない』
『お前、昔は兄ちゃんと結婚するって…』
『そんなの子供が言った事じゃない。そもそも兄妹で結婚っておかしな事なんだよ?兄ちゃん』
「聞いたかね、ユウ君。神獣白猿様の御言葉を」
「んーん。私にはなーんにも聞こえなかった」
「神獣白猿様は考え方が古いなぁ」
「そうですね、御兄様」
神獣の方が倫理観が正しい気がする。
いや、白猿兄は間違えてるからそうでもないか…
『と・に・か・く!兄ちゃんは反対!妹が嫁に行く事はありません!さぁ帰った帰った!』
『勝手に決めないでよ!私に来た話なんだから!』
『まあ、一度会ってみたらいいじゃないか。結婚するかどうかはそれからで』
「あ、じゃあ明日迎えに来ます。ボクの転移魔法で一瞬で行けますから御家族全員でも大丈夫ですよ」
「あ、今から行くんじゃないんだ?」
「向こうにも都合があるかも知れないし、心構えが必要かと思って」
一番の理由は今からだとダーバ王子達も着いて来るだろうし。
アイシス達も連れて行かなきゃだしね。
『判った。じゃあ、また明日。楽しみにしてるね』
『二度と来んな!』
白猿兄の罵声を聞きつつ、ヤーマンの王宮へ。
白猿兄の反対があるけど、後は当人同士の問題だろう。
お見合い、上手く行くといいんだけど。




