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第182話 ヤーマン王家

「やっと着いたか…」


「長かった~」


「今までで一番遠い国だしね」


レンド魔王国での一件の後は何事も無く、ヤーマンの王都クルートに到着。

ヤーマンの街並みは、西洋風とアラビア風が混ざったような感じだ。


「おお…懐かしの我が故郷!」


「やっと帰って来れたわね」


「…何も変わってない…」


「そうね。皆元気かしら」


「…」


「暫くゆっくりしたいのぅ」


久しぶりの故郷に、ダーバ王子一行も感慨深いらしい。

ブロイドさんも無口だが表情は嬉しそうだ。


「それで、えっと…真っ直ぐ国王陛下に挨拶に行けば?」


「はい。先触れは出してありますから。問題無いはずです」


「マルちゃん達は家に帰らなくていいの?」


「はい。私達は後で構いません。父は王宮に居るはずですし」


アイがいつの間にかマルレーネさんと仲良くなったみたいだ。

カトリーヌさんと同じようにマルちゃんと、愛称で呼んでいる。

その法則で行くと、カトリーヌさんはカトちゃんになるが…それはダメだな。何となく。


王都を馬車で進んでいると気付く。

道を歩いている男性は褐色肌で女性は白い肌だ。

僅かにいる魔族は違うようだが、人族の男女で、肌色は分かれている。

普通なら…現代地球の知識で考えたら、有り得ない話なのだが…


「どうかしました?」


「あ、いえ。大した事じゃないんですが、ヤーマンでは皆、男性は褐色肌。女性は白い肌なのですか?」


「え?」


「あ~言われてみれば」


「…確かに…」


「褐色肌の女性はいないかもしれないわねぇ。ヤーマンでは」


「…見たことが無い」


「わしも無いの。今まで考えた事も無かったわい。当たり前の事じゃしのぅ」


当たり前の事、か。

この国に暮らす人にとってはそうなんだろうな。

でも外国人から見たら直ぐに疑問に思うだろうに。

今まで誰も言わなかったのだろうか?


「確かにジュン様の仰る通りですね」


「気が付かなかったですぅ」


「流石、ジュン様は眼の付け所が違います!」


「あれー?」


ノエラ達は気が付かなかったらしい。

そんなものなのかな…。

そういえば魔族も遺伝子学の常識は通用しないんだし…今更か。


「見えて来ました。あれが王宮です」


「へぇー、あれが」


「アラビア宮殿みたい」


「アラビア?」


「気にしないでください」


アイがうっかり現代地球の知識から出た言葉を漏らしたが…無理もない。

ボクも同じ感想だからだ。


「綺麗な王宮ですね」


「ジュン殿にお褒めの言葉を頂けるとは、光栄ですね」


「ですが…少々戦い難い造りのように見えます。籠城も難しいのではないですか?」


「多分、そういった事は考えられていないんだよ。居住性を重視した造りになってるんじゃないかな」


確か、戦う為の設備がある物を城。住む為の物で戦う為の設備が無い物を宮殿と呼ぶんだったか。


「ジュン殿もクリステア殿も流石ですね。確かに王宮では戦いを考えた造りにはなっていません。王都の手前にあった城を覚えていますか?有事の際はあそこで戦う事になります」


「ですが…それでは城が無い方向、裏の山側から攻められたら防げ無いのでは?」


「それも大丈夫です。その山に、神獣白猿がいるんですよ」


「なるほど、あの山に…」


この国の神獣白猿がどういう存在か知らないが、山の守り神らしいし、軍が入って来たら白猿の怒りを買うだろう。

下手に軍を置いて防衛するより余程安心出来る。


「おっと。止まって下さい、セバスト殿。ここで降りて我々が先に進みますので」


「どうしたのよ。別にこのまま進んでも…」


「ま、確かに問題無いが、これは私達の馬車じゃないからな。私達が先に降りて対応したほうがスムーズに進むだろ。ほら、門番が若干警戒してるし」


「あ、うん。判った」


「それじゃ、ボク達も降りて馬車は片付けようか」


「「はーい」」


馬車を降りて、ダーバ王子達の後ろをついて行く。

門番が急に消えた馬車を見て更に警戒を強めたようだけど、先頭を歩くのがダーバ王子だと気付くと、警戒を解いた。


「お帰りなさいませ、王子!」


「よう、キース!門番が板について来たんじゃないか?」


「はい!有難う御座います!あちらの方々がエルムバーンからのお客様ですか?」


「ああ。先触れで出した通りだ。歓迎の用意は整ってるか?」


「はい!大丈夫です!では、門を開けます!」


王宮へ続く門が開かれる。

門が開くと広い庭園があり、中央に噴水があり、更に奥に王宮内に入る扉がある。


「綺麗…」


「本当、素敵ね…」


確かに綺麗だ。

現代地球では写真でしか見た事の無いような景色だ。

エルムバーンの城もそうだけど、ヤーマンの王宮はまた一味違う。


そして王宮内に入ると、歓迎の式典が始まったようだ。

音楽隊が一斉に歓迎の音楽を奏で出し、踊り子が踊り出す。

騎士達が剣を掲げる。


「ダーバ様の御帰還と!ジュン・エルムバーン様御一行の来訪を祝して!敬礼!」


騎士団長と思しき人の号令で騎士達が一糸乱れぬ動きを見せる。

優美な音楽と踊り子達の踊り、そして騎士達の敬礼。

これがこの国の歓迎なのだろう。


「有難う御座います、皆さん」


こちらもエルムバーン式だが礼を返しておく。

右手を腰の後ろに。左手を胸の上に。

そして、少し腰を曲げて御辞儀。

これがエルムバーン式だ。


「何だか、国賓待遇ですね」


「いやいや、当たり前ですよ。ジュン殿だけでなく、皆さん国賓です。皆さんに失礼があればヤーマンの恥になりますからね。父もさぞかし気合を入れて準備したと思いますよ」


「それがわかっとるなら、もっと早く報せんか」


「あ、父上。只今戻りました」


「「「「只今戻りました、陛下」」」」


「うむ。皆、無事なようで何よりだ。バカ息子のお守り、ご苦労であったな。礼を言う」


「「「「ハッ」」」」


こういう時は声が小さいターニャさんも、無口なブロイドさんもハキハキしてるんだな。

貴族だけあって、その辺りは躾られてるんだろう。

そしてこの人が、ヤーマンの現国王、ヨハン・ノインス・ヤーマン。ダーバ王子の父親か。

ダーバ王子と同じ褐色肌に黒髪。

口髭のあるダンディなおじさんだ。


「ちゃんと報せたろ?二日前には」


「バッカモン!二日で国賓を迎える準備をするのがどれだけ無茶か、わかっとるのか!全く…おっと、失礼した。ヤーマン国王、ヨハン・ノインス・ヤーマンです」


「初めまして。ジュン・エルムバーンです」


「初めまして、ユウ・エルムバーンです」


「初めまして、アイ・ダルムダットです」


「うむ。息子が世話になったとか。礼を言わせて戴きたい。感謝申し上げる。それから、おい」


「はい。私はパトラ・ゼクスト・ヤーマン、ダーバの母で御座います」


パトラさんは、如何にも妃様といった感じの三十代後半くらいの美人だ。ダーバ王子は父親似らしい。

そしてもう一人。


「クレオ・ズィーベン・ヤーマンです。ダーバ王子の妹、オリビアの母です」


クレオさんは三十代前半だろうか。

第二王妃で、緑の眼に金髪の美人だ。パトラさんとクレオさんのミドルネームは実家の性で、王と結婚して新たにヤーマンが性となったので旧姓はミドルネームになるのがヤーマンの方式らしい。

そして最後の人物。


「オリビア・アハトネ・ヤーマンです。私の事は御兄様から聞いていらっしゃるかしら?」


この女の子がダーバ王子ご執心の妹。

確か十五歳。

母親のクレオさんと同じ金髪で緑の眼。

かなりの美人さんだ。


「おお!妹よ!会いたかったぞ!」


「お帰りなさいませ、御兄様!」


挨拶もそこそこに。

ずっと我慢してたのだろう二人が抱きしめ合う。


「直ぐに結婚式の準備をしような!新婚旅行は何処がいい?」


「新婚旅行ならエルムバーンがいいです!」


「エルムバーン?それなら城に泊めてもらおう!転移魔法で送り迎えもしてもらえるぞ!」


「ちょっと?他人の城を親戚の家か何かと勘違いしてませんか?」


「まあ!それなら長くエルムバーンに滞在出来ますね!」


駄目だ。聞いちゃいない。

既に二人の世界に入っている。


「何か、すいません…」


「何時も、あんな感じなので…」


「滞在費はお支払いしますので、少しの間だけお願いします…」


「はぁ…」


変わり者はダーバ王子一行だけでなく妹さんもらしい。

いや、ひょっとしたら王と王妃も…


「んんっ。何時までもここで立ち話も何ですし、昼食にしましょう。従者の方々も御一緒に」


「有難う御座います」


「夜には盛大にパーティーを開きましょう。さ、こちらに」


国王陛下夫妻に案内されて、昼食の会場へ。

ヤーマンの料理は、スパイシーな物が多い。

ダーバ王子達は久しぶりの故郷の味を堪能していた。


話題は王子達がエルムバーンに来るまでの話と剣を譲った経緯。

グンタークの出来事と続き、最後にレンドのイーノさんの話だ。


「相変わらずですね、イーノさんは」


「ああ、相変わらずのバカだった」


「今頃こっちに向かってたりして」


「来るでしょうね。しかし、御安心を。ジュン殿に会いに来ても用事を済ませて帰ったと伝えるように門番に言ってあります」


今一つ安心出来ないけど…なんかあの人、エルムバーンまで来そうだし。


「イーノさんは何故、オリビアさんだけは好きなんです?他の御家族とは仲が良くないのでしょう?」


「あ、そうでした!私ったら、まだジュン様に御挨拶してませんでしたわ!」


「はい?挨拶なら最初に…」


「ジュン様、失礼します」


「あ!待った、オリビア!それは…」


隣の席に座っていたオリビアさんが近づいて来て…え?


「「「え?」」」


「……」


「うふふ。これが先ほどの質問の答えです」


今…ボク…キスされた?

今日、会ったばかりの初対面の女の子に?


「な?え?何で?」


「すみません…オリビアはキス魔なんです…初めに言っておくべきでした」


「まあ!誰とでもするわけではありませんよ?気に入った人だけです」


「そんな問題じゃない!ジュンの唇はウチのなのに!」


「そうよ!お兄ちゃんの唇は私の!」


「ジュン様、大丈夫ですか?ジュン様?」


「あ、うん。大丈夫、大丈夫だよ。そんな、たかがキスくらいで。うん、ビックリ、そうビックリしただけだから」


「ジュン様が動揺してますぅ!」


いや?そう?

そんな、キスくらいで。

ハハハ…はぁ…

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