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第169話 村を救おう 5

侯爵の屋敷が見える宿に部屋を取り、今は一つの部屋に集まっている。

四人部屋なので少々狭い。


「それで、どうする?街に出て情報収集か?余りうろつかない方がよさそうだが」


「うん。フランコ君の言う通りだと思う。そこで久々にアレの出番です」


「アレ?」


召喚魔法でインビジブルバードを一羽喚びだす。

そして鏡と魔法道具を取り出して準備完了。

インビジブルバードを窓から飛ばす。


「で、この鏡にインビジブルバードの視界が映し出されるわけです」


「便利ですな…安全に戦場の偵察も出来ますし」


「そうですね…まぁそんな機会は無い方がいいんですが」


戦場の偵察に使うという事はどこかの国と戦争になったという事。

それは御免こうむる。


「のぅ、ジュンさんや」


「何ですかな、アイシスさんや」


「これ使って、覗きとかしとらんかの」


「しとらん、しとらん」


突然何を言い出すのかと思えば。

アイシスはボクに対して間違ったイメージを持ってるんじゃないだろうか。前々から思ってたけども。


「ジュン様なら見たいなら見せろと言えば済む事ですしね」


「ノエラ、それフォローになってないから」


まるで普段はそうしてるみたいじゃない。


「しかし、そうか。アイシスならそういう使い方するんだね」


「しないよ!」


「いやいや~、ボクには思い付きもしなかったよ?覗きに使うなんて」


まぁ嘘だが。

でも覗きに使った事は無いし。


「アイシスはむっつりスケベ」


「なー!」


「そろそろ静かにしろ。屋敷が見えてきたぞ」


おっと。

偵察しないと。

今、インビジブルバードは屋敷の上空か。

先ずは侯爵を探そう。

屋敷の窓から中が見える高さまで降りてもらって…居た。


「何か食べてる…」


「ていうか、あれ林檎じゃない?村に配ったやつ」


どうやらそうらしい。

林檎を返す気は無いって事だな。


「しかし…周りにいる少年少女はなんだ?下着しか付けてないじゃないか」


あれはあの時、馬車の中に居た少年少女達だ。

あの恰好で居る事を強要されているのか?


「あの子達は…全て同意の上なのかなぁ。何か事情があってイヤイヤあそこに居るならすっごい助けてあげたいんだけど」


「うん、まず間違いなく嫌々でしょ。脅されたとか借金のカタにとか」


「ありそう…あ、誰か入って来たよ」


騎士の恰好をした、それなりに位の高そうな男だ。

何か重要な話が聞けるかも。

上手い具合に窓が開いてるのでインビジブルバードを窓の縁へ。

ここなら何とか会話が拾える筈だ。


「ドゥフ~騎士団長か~出陣の用意は出来たのか~?」


「まだです。内乱が治まってまだ半年。色んな物が不足しているのです。私的に動かす兵の準備には時間が掛かります」


「なら~何しに来た~?」


「王都には確認の使者は送ったので?」


「確認~?な~んの確認だ~?」


「…侯爵様を殴った者がエルムバーンの魔王子を名乗った件についてです」


「そんなもの~嘘に決まっているだろ~確認するまでもない~」


「しかし、部下から聞いたその者の容姿は噂に聞くエルムバーンの魔王子と一致します。更に村人を治癒魔法で癒やしたとか?治癒魔法が使える点でも一致します。確認はすべきです」


この騎士団長はまともな人らしいな。

ぜひ頑張って侯爵を説得して欲しい。


「ドゥフ~仮に~エルムバーンの魔王子だったとしたら~好都合ではないか~」


「はっ?」


好都合?

何言ってんだ、こいつ。


「ドゥフ~捕まえて調教すれば~私に従順な愛玩奴隷(ペット)に~出来る~この者達の~ようにな~そうなれば~エルムバーンを~支配したも~同然ではないか~」


妄言を吐きながら側にいた女の子を弄ぶ侯爵に騎士団長は不快な顔を隠さない。

女の子は眼が死んでるし。

というか皆も凄い顔してる。

ボクもしてると思う。

なんせ不快で仕方ない。


「こいつ、もう殺すしかないんじゃない?」


「だよね。ウチもそう思う」


「だよなぁ。ジュン様にそんな事したら戦争まで一直線だろ。そうなったら今のグンターク王国ならあっという間に滅びるぞ。わかってんのか、こいつ」


分かってないんだろうなぁ。

しかし、こんなのが大臣職に就いてたのか。

内乱が起きなくても遅かれ早かれマズい事になってたんじゃないか、この国。


「ドゥフ~わかったら~さっさと~犯罪者共を~捕まえに行け~村から林檎を回収するのを~忘れるなよ~」


「……失礼します」


騎士団長は何もかも諦めた顔して出て行った。

この短時間でドッと疲れたようだ。

痩せた気さえする。


「で、だ。どうしたらいいと思う?」


「何の反省もしてないようですし、殺してしまいましょう。その方がこの国の為です」


と言うけどノエラ、君も結構引かないよね。


「私も同意見ですな。こいつに領主などという人の上に立つ資格は無い。民の為にも殺すべきです」


バルトハルトさんまで同意しちゃったか…。

でも殺すのはダメ。

裁くのはこの国に任せるべきだ。


「殺すのは最後の手段にしまいましょう。出来るだけこの国に裁いて貰わないと」


「なら、何とか時間を稼ぐしかないんじゃない?」


「そうだな。兵の準備が整うのを何とか遅らせるしかないだろう。あの騎士団長に接触して交渉出来ればいいんだが」


ユウの意見にフランコ君が同意する。

確かにあの騎士団長はまともな人っぽいし。

立場的にも適任だろう。

決まりかな。

問題はどうやって接触するか…


「ボクとノエラで侵入して接触するか」


「侵入って…そんな事出来るの?そんな訓練受けて無いでしょ、ジュンは。ノエラさんはともかく」


「この魔法を使います」


魔法インビジブル。

インビジブルバードのように姿を消す魔法だ。

ノエラのイヤリングにも付与してあるので行ける筈だ。


「ジュン、その魔法を使って女の子の部屋に侵入したりお風呂を覗いたりは…」


「してないしてない。ていうかアイシスはそればっかりだね」


「アイシスはむっつりスケベ」


「違うもん!ジュンに覗かれてないか不安になっただけだもん!」


「失敬な」


そんな事言われるような事した覚えないぞ。

逆に覗かれた事ならあるが。


「兎に角、これなら侵入は容易だろう。ノエラと二人で行ってくるよ」


この世界には監視カメラも無いし、赤外線カメラもない。

よほど勘のいい人物でなければ発見は困難だろう。


「でもさ、それってお互い見えないよね?どうやって一緒に行動するの?」


「……」


確かに。

それは考えて無かった。

まさか声を出して移動するわけにはいかないし、移動中にぶつかったら転んで見つかるかも。

かといってボク一人で行くなんて言ったら止められるのは確実だし…。

ノエラを一人で行かせるのも前回で懲りた。

となると…


「ジュン様。何もジュン様が行かれずとも、私一人で…」


「いや、それはダメだ。仕方ない。ノエラはボクの背におぶさって行こう」


「「「え」」」


「え?ダメ?」


「いやいや、どうしてそうなるの?」


「いや、だって…ボクが一人で行くって言ったら止められるし…ノエラを一人で行かせるのは前回で懲りたし…」


「でも背負って行く必要ある?手を繋ぐだけでよくない?」


「う~ん…それだと前を歩く方が止まったらぶつかって転ぶ危険があるからさ。背負って行けばその点は安全かなって。それに小声で会話出来るし」


「う…う~ん…」


「まぁ早いとこ接触して交渉したいし。ノエラ行こう」


「は、はい…しかし、本当によろしいのですか?私がジュン様を背負って行く方が…」


「いやいや。ボクも男だから。女の子に背負ってもらうとか情けないにも程があるでしょ。でもノエラがどうしても嫌だったら、やっぱりボク一人で…」


「いえ!是非に!」


「そう?じゃあ乗って」


「は、はい。失礼します…」


むにょん、と背中に当たる感触が。

何がとは言わないが。


「お兄ちゃん、だらしない顔してるよ」


「失敬な。兄に向かって」


「ウチもしてると思うな。ノエラさんの顔の方がレアだと思うけど」


「見ないで下さい…」


「え?どんな顔してるの」


「ジュン様は絶対見ないで下さい!」


え~…まさか照れてるの?

全裸で温泉に入って来た事もあるのに?

ノエラの照れるポイントがわからないな。


「真っ赤な顔してニヤけてるぞ。オレもノエラのそんな顔初めて見た」


「兄さん!」


へぇ~いつもお澄まし顔のノエラがねぇ。

ボクも見たかった。


「正直羨ましいです」


「私もです、シャクティ」


「私も正直…」


「ハティはよくしてもらってるよ?」


「「「羨ましい…」」」


「そんないい物じゃなかろうに。じゃあ行って来ます。帰りは転移魔法でこの部屋に帰って来るからね」


「「「は~い」」」


侵入ミッション、スタートってところかな。

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