第168話 村を救おう 4
「というわけです…すいません」
「何を謝る事がある。お前は間違っていない。胸を張れ」
「そうね。むしろ向こうが謝罪すべきよね~」
「そ、そうですかね…」
ボークラン侯爵との一件の後、報告と相談に城に戻って来た。
アイシス達とダーバ王子達にも話に参加してもらっている。
「マルレーネさんは、ボークラン侯爵の情報は何か?」
「はい、大した事は知りませんけど…元々はグンターク王国の財政面の副責任者、財務副大臣です。仕事はちゃんとやってたらしくて、能力はそこそこ。内乱が起こった際は第一王女に味方した貴族の一人です」
「うちで掴んでる情報でも同じだ。付け加えるなら、仕事は意外にも真面目だが基本的には強欲だ。特に性欲と食欲に忠実だって事だな」
「それは見ただけでわかりました」
ある意味では分かりやすい奴だ。
それ故に御しやすいのかもしれないけど…
「ふん。やはり財務大臣なんて職に就いてる奴に碌な奴はいないって事だな」
そう言うフランコ君の父親もヴェルリア王国の財務大臣。
やはり父親との確執は相当根深いらしい。
「それで、あいつはどういう行動に出ると思います?」
「グンターク王国へ通達が行ってる事とお前がエルムバーンの魔王子だって事は伝えてるんだな?」
「ええ。魔王子だって事は侯爵の家臣にですが」
「ふむ…相手がバカなら、報復。普通なら謝罪に来る、だろうが。どっちだと思う?」
「バカだと思います」
少なくとも、謝罪に来るなんて殊勝な性格じゃあない。
そして報復の対象はボク達だけに絞るならまだいいけど…
「兵を使って村を襲われたら厄介だな」
「え?まさか…領主になったばかりとはいえ自分の領地の村でしょ?自分の領地の村を襲うなんて…」
「そうよ。それに兵の中にだって村の出身者が居るだろうし、反発もあるでしょ?」
「そこら辺の常識は期待しない方がいいと思うな」
アイとユウの考えが普通だと思うけど、あいつは普通じゃない。
警戒は必要だろう。
「じゃあ、どうするの?」
「そうだね…グンターク王国の女王様に報せを送るのと…侯爵のとこへ直接乗り込むか」
「え。それ大丈夫?」
「七つの村全てを防衛するのは無理がある。そこまでの兵力は送り込めないし、村を巻き込むのは本意じゃない。村で戦う事は出来ない」
約束もしたしね、村は巻き込まないと。
「マルレーネさん、ボークラン侯爵が持つ兵力、どれくらいあるかわかりますか」
「いえ、流石にそこまでは…ですが大して持ってないはずです。戦争ならともかく内乱後に侯爵が私的に動かせる兵力なんてたかが知れてます」
「そうだな…そうでなくてもグンターク王国はそれほど兵力のある国じゃない。内乱で大きな痛手を受けているし…せいぜい千といったところか」
「千…」
村に来た時に五百。
半数も連れてボク達を捕まえに来たのか。
そんな暇あったら領内の治安安定させろよ…
「なら僕達もいけば普通の兵士千人くらいならなんとか出来るよ。こっちも大勢の兵士を連れて行く必要が無くなるし、僕達に任せてくれれば」
「お、おいアイシス!私達までグンターク王国と問題を起こすわけには…」
「うん、わかってるよ。だから久々に…」
あれは武闘会の時の仮面か。
あれでまた正体を隠して行くって事か。
「ね?これで正体を隠せば大丈夫でしょ。服装も変えるか隠すかすれば…」
「いや、しかしだな…」
「諦めろ、フランコ。アイシスはこういう事では引かん。そして私も、元ヴェルリア王国のノーヴァ領領主としてボークラン侯爵の所業には思う所がある。私もやるつもりだ」
「バルトハルトさんまで…はぁ…わかりましたよ」
「ん。私もやる」
アイシス達勇者パーティーは手伝ってくれるらしい。
ボク達とアイシス達勇者パーティーなら千人の兵士を無力化するくらいわけないだろう。
「なら私達は女王に会いに行きましょう。ボークラン侯爵の悪行をキッチリ伝えてやりますよ」
「ちょっと王子、いいの?それってヤーマンの王子として会いに行くって事でしょ」
「なーに、構わないさ。ジュン殿には、いやエルムバーンには世話になってるんだ。それくらい何てことない。別に悪い事をするわけじゃないんだしな」
「そうねぇ、大丈夫なんじゃない?。私はいいと思うわよ」
「私も異議なし…」
「……」
「ま、構わんじゃろう」
ダーバ王子の提案に従者の人達も同意のようだ。
となると、後は侯爵が行動を起こす前にこちらが行動しないとな。
「じゃあ、行きましょう。侯爵が暴走する前に抑えないと」
「お待ちください。ジュン様はかなり疲労が溜まっている筈です。これ以上無理をなさっては…」
「大丈夫だよ、ノエラ。確かに疲れてはいるけど、魔力はまだまだあるし、転移した後は侯爵のとこまで休ませてもらうからさ」
「しかし…」
「ノエラ、ジュン様が大丈夫だと言ってるんだ。今はまだ止めるべきじゃない。本当にこれ以上は無理だと感じたらオレも止める。だから今はまだ、な」
「……わかりました」
とりあえす納得してくれたかな。
じゃ、早速行こう。
「マルレーネさん、侯爵が居るのはどこかわかりますか?」
「はい。侯爵はグンタークの王都から南のこの街にいます」
マルレーネさんが地図で示した街から一番近い村は四番目に行った村か。
この村から行くとしよう。
「じゃあ行くよ、皆」
「「「はい」」」
転移し、一応村の様子を確認してから侯爵の居る街へ向かう。
村は今のとこ何も無さそうだ。
「じゃあ、行きましょう。先ずは侯爵のいる街まで行って…そこからダーバ王子は女王に会いに行ってもらえますか。この馬車を貸しますんで」
「はい。任せてください。じゃあ、行きましょう」
村から出発して全速力で侯爵のいる街へ。
道中は侯爵が派遣した兵に遭遇する事も無く目的の街についた。
街は一見すると普通の街だが…所々に荒れている様子が見て取れる。
窓や玄関のドアが壊れている家があったり、庭を囲む壁がこわれていたり。
復興が始まっていないのか始まったばかりなのか。
それに街に入ってから視線を感じる。
狙われているような視線だ。
「それじゃ、ジュン殿。私達は王都へ向かいます。必ず女王に会ってきますよ」
「お願いします。ここまで往復で四日ってとこですかね?」
「そうですね…どうなんだマルレーネ」
「ん~…そうですね、それくらいです」
「では、皆さんが戻って来るまでボク達はこの街で待機してます。それまで侯爵が大人しくしていればいいですが…」
「期待は薄いでしょうね。その時はなんとか時間を稼いでください。では」
「ええ。お気をつけて」
ダーバ王子達を見送って改めて街へ。
やっぱり何か狙われている気がする。
「あまり長居したくない街だけど…そうもいかないのが辛いとこだね」
「それでどうするの?ジュン」
「一気に乗り込んで制圧しちゃう?」
「バカを言うなアイシス。それじゃ侵略行為だ。先ずは侯爵の様子を探るべきだ」
「そうだな…予想に反して、反省して村から奪った物を返却し、謝罪に来るかもしれん。それなら大事にする必要も無いからな」
フランコ君とバルトハルトさんの言うように、先ずは侯爵の様子を探るか。
「それじゃ、先ず宿を探そう。出来れば侯爵のいる屋敷が見える宿がいい」
「侯爵のいる屋敷ってアレかな?」
アイが指差した先にあるのは街で一番大きな建物。
門の前に兵が立ってる。
多分あれだけど…
「多分、そうだね。でも一応確認しようか」
街の住人なら誰に聞いても知ってるだろう。
適当に話しかけて…
「ああ、すまない、そこの君。この街の領主である侯爵の屋敷はあれでいいのかな?」
「ああん?人にモノ聞くときゃあ礼儀ってモンがあるだろうが!出すもん出してから聞きやがれ!」
……
たまたま近くを通っただけの十二、三歳の少年に尋ねたのだが…まさかこんな返答が来るとは思わなかった。
さっきから感じる視線といい。
想像以上に治安が悪いんじゃないか、この街は。
「ああ、そうか、すまないね。これでいいかな」
少年に大銅貨を三枚握らせる。
日本円にしておよそ三千円。
モノを尋ねただけで三千円も支払うとか、前世じゃ考えられないな。
「フン。いい身なりしてるくせにシケてんなぁ。まぁいいや。確かにあの屋敷がクソ侯爵の屋敷さ。じゃあな」
「そうか、ありがとう」
あの屋敷であってるなら屋敷が見える宿は…あれがよさそうだ。
セバストに部屋を取って来てもらおう。
「あの宿でいいか。セバスト」
「ああ。えっと…何人分だ?」
「ええと…」
ボク・ユウ・アイ・セバスト・ノエラ・リリー・シャクティ・ハティ・クリステア・ルチーナの何時ものメンバー十人にアイシス達四人。
計十四人か。
「十四人だね」
「そんなにか。最初は六人だったのに増えたもんだよな。じゃあ行ってくる」
「確かにね。いってらっしゃい」
ここにさらにティナ達が加わる時があるしね。
たま~に騒がしいと思うし、ノエラやクリステアの誘惑に困るけど。
それでも皆と一緒がいい。
楽しいからね。
やっぱり人生、楽しいのがいい。
「ジュン様、部屋取れたぜ。ガラガラに空いてるみたいで全員分問題なくとれた」
ほどなくしてセバストが戻って来た。
ま、こんな状態の街じゃ旅商人も留まろうとしないだろうしね。
「じゃ、他人様の人生から楽しみを奪おうとしてる侯爵を懲らしめる為、部屋で作戦会議と行こうか」
「「「おー」」」
本人が反省して謝罪してくれれば一番穏便に片が付くんだけど。
それは期待薄だからなぁ。
ほんと、穏やかに済めばいいんだけど。




