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第160話 もう一人の勇者

誤字脱字報告ありがとうございます。

一括で修正出来る機能があるんですね。

気が付いてませんでした。

「これが【フレイヤ】と【アトロポス】の能力だよ」


「「「おぉー」」」


ダンジョン攻略を終えた翌日。

約束した通りアイシス達に【フレイヤ】と【アトロポス】の能力を教える事になった。


「そっかー。あの植物を操作する能力は神様の祝福の力だったんだ」


「斬る物を選ぶという能力も凄い力ですな。盾や鎧など無意味となるわけですし」


「僕はてっきり、剣がバラバラになって鞭みたいになるのと、魔力の刃が出るのが神様の祝福の力かと思ったんだけど」


「あれはオーダーした際にボクが望んだ能力だから。ステファニアさんの腕があって初めて付与出来る能力だよ」


「あのオカマドワーフ、そんな凄いんだ…」


武道会の時の事、まだ根に持ってるのか。

オカマという点を除けば、案外まともでいい人なんだよ?


「ま、これで極力秘密にしたい理由は分かってもらえたかな?」


「うん。欲しがる人が沢山出て来るだろうね」


「ジュン殿を殺してでも奪おうとする輩も出て来るでしょうな」


「そうですね。特に【フレイヤ】が知られると不味いでしょうね」


「どうして?フランコ。戦闘で怖いのは【アトロポス】の方じゃない?確かに【フレイヤ】も凄いけど」


「【フレイヤ】の本当の凄さは戦闘に置いて発揮される物じゃない。そうだろう?ジュン殿」


「うん。その通りだね」


フランコ君は【フレイヤ】の能力の使い方を正しく理解したらしい。ちょっと考えれば思い付くよね。


「植物を操作する能力…野菜や果物、穀物なんかも操作出来るんだろう?もっと言えば成長を早めて収穫に適した状態にも操作可能なんだろ?」


「え」


「うん。それも結構大量に」


以前試しに林檎の種を城の中庭に十個ほど植えて【フレイヤ】の能力を使ってみた。

種は直ぐに発芽して成長、木になり沢山の実を付けた。

そして、その林檎の美味いこと。

一瞬で成長出来て美味い実を大量に付ける。

間引く必要も無いから掛かる手間は収穫だけ。

世界の食糧事情を一変させてしまう能力なのだ。


「それって世界から飢饉を無くせるんじゃ…」


「そこまで甘くない。能力の使用には魔力がいるからね。だけど食糧難にある国なんかは欲しくて堪らないだろうね。戦争をしてでも欲しがるかもしれない」


「戦争…で、でもさ、沢山の人を救えるのも事実じゃない?使わないのは勿体ないよ」


「そうだね。アイシスの言う事も分かる。だから今は少しずつ備蓄を増やして、いつでも食糧難にある国や村に援助出来るようにしてるよ。【フレイヤ】だけで出来るのはそれが精々だよ」


「そっか…でも、な~んか勿体ない気がするなぁ」


「事の重要性を分かってるか?アイシス」


「分かってるよ、誰にも言わない。でもぉ~ん~…」


アイシスはいまいち納得いかないようだけど納得してもらうしかない。

それに【フレイヤ】を欲しがるのは飢えた人達だけとは限らないのだから。


それから数日後。

エルムバーンに珍客がやって来た。


「ジュン様、お客様がお見えです」


「客?誰が来たの?」


「それが…ダーバ・ヌル・ヤーマンと名乗っておられます」


「え」


ダーバ・ヌル・ヤーマン?

確かヤーマン王国の王子で勇者の紋章を持つ…もう一人の勇者だ。

ヤーマン王国はヴェルリア王国よりも西にある中堅国家だ。


「非公式だよね?」


「はい。事前に連絡はありません。突然です」


「一体何だろう?心当たりは無いんだけど…」


一度も会った事無いし、国家間のやり取りもあまり無いと聞いてる。要件がまるで思い付かない。


「間違いなく本人?」


「はい。ヤーマン王家の紋章が入った短剣を持っていたそうです」


「ん~…今は何処に?」


「応接室でお待ちです」


「お父さんとお母さんは?」


「御二人共に外出されてます」


なら、ボクが相手するしかないか。

しかし、勇者だって事しか知らないなぁ。


「とりあえずもう少し待ってもらって。ボクはアイシス達からダーバ王子について何か知らないか、聞いてくるよ」


「畏まりました」


「セバストはアイシス達を呼んで来て。ボクはアイとユウを呼んで来るよ」


「分かった」


皆にはボクの部屋に集まってもらった。

アイシス達もダーバ王子が来た理由は分からないそうだ。

ただ…


「変わり者だという噂は聞いている。国民からの人気はそこそこあるらしいが」


「変わり者?」


「詳しくは私も知らない。私も会った事は無いしな」


「僕も無い。フランコと同じで変わり者としか…」


「ん~…セバストも聞いてない?」


「すまない、ジュン様。オレも勇者という事しか知らない」


結局変わり者という事しか情報は無しか。

それしか情報が無いってかえって不安だな。


「仕方ない。取りあえず会おう。アイとユウも同席してくれ」


「「は~い」」


「ジュン、僕達は?」


「アイシス達は…悪いけど待機しててくれる?何かあったら呼ぶから」


「うん、分かった」


流石に物騒な用件で来た訳じゃ無いだろうし。

話し合いで済む用件だと思うんだけど。

ダーバ王子がいる部屋に行くと、何だか騒がしい。

廊下まで声が響いてる。

何かあったか?

兎に角、入ろう。


「失礼、お待たせしました。ジュン・エルムバーンで…」


「あ!こら!それは私のだぞ!」


「何言ってんのよ!王子はもう三個は食べたじゃん!ちょっとは遠慮しなさいよ!」


「私、まだ一個…」


「……」


「ブロイド!あんたも黙って黙々と食べてんじゃないわよ!あんたそれ四個目でしょ!数えてんだからね!」


「皆さん、騒がしいですよ。静かに戴きましょう」


「とか言ってカトリーヌ!あんたもそれ四個目でしょ!」


「ほほほ。騒がしくてすまんのう。あ、お嬢ちゃん、お茶のおかわりを貰えると嬉しいんじゃが…」


「爺さん!あんたは五個食ったでしょ!何シレっとお茶のおかわりまで頼んでんのよ!」


……

取りあえず、ドアを閉めた。

何だろう、濃い連中が居たような。

変わり者なのは勇者だけじゃなくてお付きの連中も変わり者のような…。


「何だか凄そうな連中だね」


「うん。でも、まぁ悪い人達じゃないんじゃない?」


「それは確かに…」


悪い人達じゃなさそうだけど…何か部屋に入りにくいな。


「ジュン様」


「あ、ノエラ」


何だか疲れてる?

この短時間で何が…


「部屋にお入り下さい。私の手には負えません」


「一体何があった」


あのノエラが弱音を…恐るべしダーバ王子。


「特に何かあったわけではないのですが…お茶をお出しして、お茶請けにアップルパイを出したらあの有様でして…兎に角疲れました」


「アップルパイって…あの林檎を使った?」


「はい。まさかあんな…失策でした」


あの林檎とは【フレイヤ】の能力で育てた例の林檎だ。

なるほど、さぞかし美味いアップルパイだろう。


「兎に角入ろうよ、お兄ちゃん」


「そだよ。このままここで話ししててもしょうがないし」


「うん…」


覚悟を決めて再びドア開ける。


「お待たせしました。ジュン・エルムバーンで…」


「あ!こら!だからそれは私のだって!」


「だから、あんたも遠慮しろっつってんのよ!」


「私まだ二個…」


「……」


「ほほほ。お嬢ちゃん、このアップルパイ、土産に包んでくれんかのう?」


「ゴードンさん、流石にそれは図々しいですよ。あら?」


「「「ん?」」」


ようやくこちらに気付いてくれたらしい。

ずっとほったらかしにされるのかと思った。


「あ~…ゴホン。お待たせしました。ジュン・エルムバーンです」


「あ!すみません、お見苦しい所を!ほら王子!挨拶して!」


「おふ。はひめまひて。わたひが…」


「食いながら喋んな!」


王子の連れと思われる女性が王子の後頭部を叩いた。

反動で王子の口から食べカスが…汚いなぁ…。


「あああ!すみません!何やってんのよ、もう!」


「お、お前のせいだろう…し、失礼しました。初めまして、ダーバ・ヌル・ヤーマンです」


「は、はい。ジュン・エルムバーンです」


「ユウ・エルムバーンです」


「アイ・ダルムダットです」


互いに挨拶を終えて椅子に座る。

ダーバ王子は見た目は別におかしくない。

褐色肌で黒髪。現代地球で言えばアラブ系だろうか?

二十歳前後の若者に見える。


「ええと…それで他の方々は?」


「はい、紹介しましょう。この者達は私の従者です。右から…」


「マルレーネ・アインバッハです」


マルレーネさんは、さっきダーバ王子の後頭部を叩いた女性。

赤毛のポニーテールで長く鍛えられた脚をしている。

十八歳くらいだろうか。


「ターニャ・ツヴァイグリン…です」


ターニャさんは声が小さくて気弱な印象を受ける女の子だ。

深紫の髪で目が隠れるくらい長い前髪を下ろしてる。

十四歳くらいかな?


「ブロイド・ドライド」


ブロイドさんは筋骨隆々の如何にも戦士といった男性で、ダーバ王子と同じ褐色肌だ。

無口な人なのか、名前以外は何も言わなかった。

二十代後半か三十代前半くらいか。


「カトリーヌ・フィーアレーナです」


カトリーヌさんはプラチナブロンドの長い髪の女性でシスターのような服装をしている。

二十歳前後かな?


「ゴードン・フンフットと申しますじゃ」


ゴードンさんはダーバ王子一行の中では最年長だろう。

七十代前半くらいか。

白髪の長い髪。褐色肌。

飄々とした雰囲気をしているが只者じゃない。

多分バルトハルトさん並だ。


ダーバ王子一行は男性が褐色肌。女性は少々日に焼けてはいるが白い肌だ。

全員人族だろう。


「よろしくお願いします、皆さん。それで今日は何用で?」


「はい。実はですね…」


グウゥと、雷のような獣のうなり声のような。

そんな音が響く。

ダーバ王子のお腹が鳴ったようだ。


「あんたねぇ…少しくらいシリアスで通せないの?」


「ふ…私はシリアスな時間は三分間しか保たないんだ…」


「情けない事を…」


うん。確かに変わり者らしい。

この僅かな時間でも理解出来る。


「あ~…セバスト。食事の用意をお願い。せっかくだし、アイシス達も一緒に」


「食事の用意はいいが…いいのか?アイシス殿達も一緒で」


「大丈夫さ。多分ね。それに二回大量に作りたくないだろう?」


「なるほど。了解」


ダーバ王子も勇者の紋章を持ってるなら、アイシスと同じで大飯喰らいだろう。


「アイシス?ヴェルリア王国の勇者、アイシス・ノーヴァ殿ですか?」


「ええ。彼女とは友人でして。今はこの国に滞在してます」


「そうですか。では私とも友人になっていただけますか?」


「それは…その前に御用件を先にお聞きしても?食事の用意が出来るまでまだ時間がありますし」


「ああ、そうでした。ジュン殿、貴方が持つ二本の剣を譲って戴きたい。その為に来ました」


いや、それは無理だなー。

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