第153話 幽霊とセバスト 2
――セバスト――
「よ、よろしくお願いします!」
「あ、ああ。よろしくな。じゃあ、行くか?」
「はい!」
デートねぇ…まぁそれで満足して成仏出来るならデートくらいかまわないが…。
正直何をどうすればいいのか…わからん!
「と、とりあえず、このマントを付けて全身を隠しな」
「え?でも私は幽霊ですから…」
「大丈夫だ。これは魔法布製のマントだ。問題無く纏えるはずだ」
「は、はい…ほ、本当だ…凄いですね」
「透けた体じゃ目立つだろうからな。ジュン様が用意してくれたんだ」
「はー…本当に凄いんですねえ。ジュン様は」
「まぁな。で…まぁ…えっと…何処へ行く?」
「えっと…じゃあ街を周りましょ!」
「ああ」
街の何処へ行けばいいのか…。
いい食材や美味い飯を出す店なら幾つか案内出来るが、幽霊を連れて行ってもなぁ…。
料理関係を封じられたら女をデートに連れていける場所なんてオレにはないぞ。
いや…というか、そうでなくてもオレ、女とデートなんてした事ないし…あれ?やばい?
オレ、今年二十六だぞ?ずっとジュン様に付きっ切りだったし、女と付き合った事も無いし。
デートって何すればいいんだ?
全くわからん!!
「ん…?」
「どうかしましたか?」
「あ、いや…」
あれはティナ?何やって…花屋に入れってのか?
確かあそこは王都で一番大きな花屋だよな。
「あ、あ~あの花屋にいってみないか?」
「あ、はい!私、お花好きです!」
せ、正解か?
助かったぜ、ティナ。
「綺麗ですねー」
「ああ、そうだな」
花…わからん!
デートで花屋に来たなら花を贈るべきなんだろうが…
「この花、くださいですの」
「はい、ありがとうございます」
ティナ?
花を受け取ってオレに視線を送ってから出てった。
同じ花を贈れってか?
でも幽霊のシンシアに花束なんて贈ってもな…。
マントの胸ポケットに一本刺すくらいならいけるか?
「こ、この花を一本くれ」
「はい、ありがとうございます」
「セバストさん?」
「ほら、やるよ」
「え?でも、私…持てないので…」
「ほら、こうすればいい」
「あ…」
「ど、どうだ?」
「ありがとうございます…とっても嬉しい…でも、これ薔薇ですよ?いいんですか?」
「え?あ、ああ。かまわないぞ?」
「ありがとうございます…エヘヘ」
何だかよくわからんが、喜んでもらえたならよかった…
ティナ、ありがとよ。
でも、何でティナがいるんだ?
――ニィナ――
「ノエラさん、お姉ちゃんは上手くセバストさんを花屋に誘導出来たそうです」
「ご苦労様です。次は薔薇を買って贈るように仕向けてください」
「はい、お姉ちゃんに伝えます」
レヴィちゃんに王都を案内してたら、突然ノエラさんに捕まって…何をやらされるのかと思えば…。
セバストさんのデートの監視と手伝いなんて…。
「ところで今更ですけど…あの…ノエラさん?どうしてこんな事を?」
「そうだぜ、ただのデートなんだろ?」
「尾行して監視なんて。セバストさんにバレたら怒られるんじゃ?せっかくのデートなのに」
ルーちゃんとクーちゃんも同意見みたい。
せっかくの休みで、レヴィちゃんを案内してたとこだもんね。
「貴女達が着けてるイヤリング…魔法通信の機能が必要なのです。兄さんを陰ながらフォローする為に。レヴィさんも、申し訳ありませんがお付き合いください」
「は、はぁ…私は構いませんけど…」
「いや、だからさ。そもそも何でセバストさんのデートをフォローする必要が?セバストさんなら放っておいても大丈夫だろ?」
クーちゃんの疑問は尤もだと思う。
私達がフォローしなくてもセバストさんなら上手くやれると思うんだけど…。
「兄さんのデートの相手が普通の女性なら、私も何もしません。しかし、相手は幽霊なのです。生前の未練を断ち切る為のデートを失敗させるわけにはいきません。それにこれはジュン様の御命令でもあります。何かあった時の為にフォローに入れるようにと。貴女達も巻き込んで悪いとは思いますが、手伝ってください」
「幽霊?え?幽霊とデートしてるんですか?セバストさん」
何で?生前の未練って事はあの女の人がセバストさんを好きだったって事?
「あの女性はシンシアさん。生前、兄さんを好きだという事も伝える事も出来ずに死んでしまった元冒険者の女性です。その未練の為に浮遊霊になってしまったので成仏するためにデートしてるのです」
「そういう事なら…まぁ」
「仕方ない…のかな?」
「仕方ない…かなぁ?」
事情はわかったけど…でも、それでもここまでやる必要があるのかなぁ。
監視はまぁ仕方ないとして、フォローまでする必要があるのかなぁ。
「貴女達は兄さんが今まで誰かとデートしたという話を聞いた事がありますか?」
「え?いえ…無いですけど」
「城の女にはそこそこ人気あるみたいだけど、誰かと付き合ってるとかも聞いた事ないぜ」
「そだね。ジュン様が圧倒的人気過ぎて埋もれてるけど、セバストさんも人気あるよね。でも誰もアタックしてないみたいだけど」
「私の知る限り、兄さんは一度も恋人を作った事はありません。デートをしたことも無いはず。つまり兄さんにとっても今回が初デートなのです。恐らく何をどうすればいいのか全くわかってません、兄さんは」
「「「え」」」
あれあれ?
セバストさんて確か…二十五歳くらいだったはず。
その歳でデートした事が無いの?
あ、長寿の魔族なら大した問題でもないのかな。
「相手が普通の女性で普通にデートするだけなら問題無いのですが…デートの内容が酷いとシンシアさんは成仏出来ないかもしれません。最悪の場合、兄さんに取り憑くかもしれません。それは避けなければなりません。ですから協力してください」
「わ、わかりました」
そういう事なら仕方ないか。
でも、執事として有能なセバストさんの意外な弱点を見た気分かも。
「つまり、ノエラさんはセバストさんが心配なんですね」
「ち、違います。私は兄さんが心配なんじゃなくて、兄さんが失敗する事でシンシアさんが成仏出来なくなる事を危惧してるだけです。勘違いしないで下さい、レヴィさん」
「照れる事ないじゃないですか~。私には兄妹はいないけど、家族が心配なのは当たり前だと思いますよ?」
「て、照れてるわけでは…ま、まぁいいです。ティナが戻ってきたら次はルーが行ってください」
「はい。花屋の次はどこへ?」
「そうですね…相手は何せ幽霊ですから。行けるとこが限られてしまうのが痛いですね…」
「劇場なんてどうですか?確か『魔王子様と女騎士』を題材にした劇をやってるはずですよ」
「劇…いいかもしれませんね。ではそこへ行くよう誘導しましょう」
ん~?
セバストさんのフォローに動くのはもう異存ないけど、少し疑問が。
「あの、ノエラさん。一つ質問が」
「何ですか、ニィナ」
「ノエラさんはデートの経験あるんですか?」
「……」
あ、黙っちゃった。
何だか気まずい空気が…。
「ん、んんっ。コホン。私もデートの経験はありません。ありませんが女性目線で考える事が出来ます。兄さんに任せるよりは上手く行くはずです」
「ええ~…」
セバストさんに結構酷い評価を下してたのに…。
デートの経験無い人が初デートのフォローなんて出来るのかな。
「とにかく!終わったらケーキを御馳走しますから、協力してくださいね」
「「「は~い」」」
と言っても、私達もデートの経験無いんだけど…。
ノエラさん一人に任せるのも何だか不安だし、付き合うしかないか。
「ところで、レヴィちゃんはデートの経験は?私達は無いけど」
「な、無いです!あんな田舎の村じゃデートなんてやりようが無いですよ!」
それもそっか。
レヴィちゃんの村も男の人より女の人の方が多かったし。
「あ、あれは…」
「あ、ステファニアさん?」
セバストさんとシンシアさんに、ステファニアさんが近づいて行く。
何だかイヤな予感が。
「あら、奇遇ねセバストちゃ…んんん!?」
「げっ、ステファニアさん…」
「あ、王都で有名な鍛冶師の方ですよね。お知り合いなんですか?」
「ちょっと!セバストちゃん!あたしというものがありながら!他の女とデート!?」
「え?え?」
いけない。
デートの経験が無くてもわかる。
オカマさんと恋仲にあるなんて誤解を招けばデートどころじゃ…。
「ちょっとアンタ!セバストちゃんはあたしの!…ふ~…」
「あ、あれ?どうしたんですか?」
「お、おい?ステファニアさん?」
急にステファニアさんが倒れちゃった。
いや、寝てる?
「ルー、クー。ステファニアさんを回収して店まで送って来てください。ニィナは劇場へ兄さんを誘導」
「「は、はい」」
「あの、ノエラさん?それは一体…」
「これは強力な睡眠薬を仕込んだ吹き矢です。大丈夫、数時間で眼を覚ますでしょう」
やだ、この人、怖い。
何でそんなの普段から持ち歩いてるの。
しかも、この人込みの中、この距離で当ててるし。
「あ、あーステファニアさんだー。また徹夜続きで倒れちゃったのかなー」
「そ、そうみたいだねー。前にもあったし、きっとそうだよー。仕方ないからお店に送ってあげよー」
ルーちゃん、クーちゃん…。
棒読みすぎるよ…そりゃ演技なんて習った事無いけど…もう少し、何とか…。
「と、とにかく障害は排除しました。ニィナ、誘導を」
「はい…」
大丈夫なのかな、本当に。
凄く不安…。




