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第150話 レヴィとヒーノの物語

――ジュン――


「あー!くそ!逃げられた!」


「クーちゃん!それよりノエラさんとレヴィさんだよ!」


「ノエラ先輩!大丈夫ですか!?」


「おい!ノエラ!おい!」


これは一体…?

レヴィさんが奴を撃退したのか?

何か髪の色も変わってるし雰囲気も違う。

ヒーノは何処に行った?


「ジュン様!ノエラがヤバい!早く治癒魔法を!」


「え!?ノエラ!?」


これは、相当深い…危なかった。

ノエラがここまで…。


「ん…ジュン様…」


「ノエラ、大丈夫?何があったか覚えてる?」


「ジュン様…申し訳ありません…あの男と戦闘になったのですが…レヴィさんを守り切れませんでした…」


「レヴィさんに何が?あの男ってホセって名乗ったあの爺だよね」


「はい…レヴィさんは魔獣の不意打ちを受け重傷を…レヴィさんは無事ですか?」


「レヴィさんは…」


無事…に見えるけど何か違う。

髪の色がまるで…そう、ヒーノの羽毛と同じような…。


「ノエラ、レヴィは無事です。貴女の御かげです」


「はい?レヴィさん、何か変わったような…」


「そうですね。レヴィはもう人族ではありませんから」


「人族ではないって…それって一体どういう?」


「今、喋ってるのはレヴィではありません。ヒーノです。レヴィの命を繋ぎ止める為、私はレヴィと融合しました。これしか方法が無かったのです」


「融合って…二人?は一つになったって事?」


「そうです。その為、レヴィの肉体は人族のソレではなく、全く別の存在へと至ります。ですが、人格までは一つになりません。私の心…精神は切り離し眠りに付きます」


「人族とは別の…寿命とかどうなる?」


「何とも言えません。初めての事ですので。ただ、人族ではないのは確かです。私の能力も使えるようになるでしょうし、身体能力も大幅に上がっています。現に私がさっき使いましたし」


「ヒーノ…君は一体何?幻獣にそんな事が出来るとは思えない。奴が君に執着する事を考えると、答えは一つだと思うけど」


「…はい。私は神獣フェニックスです。いえ、でした」


「やっぱり…」


神獣フェニックスと一つになって別の存在に至る…しかも、神獣の能力を引き継いで。

それって奴の目的その物なんじゃなかろうか。


「貴方の考えてる事はわかります。あの男はこれからレヴィを…うっ…」


「レヴィさん?いや、ヒーノ?どうした?」


「すいません、そろそろ限界のようです。これ以上、私が表面に出ていると人格も一つに…精神の融合も始まってしまいます。ジュン、レヴィを頼みます…」


「あ、ちょっと!」


寝てる?

融合の最終段階に入ったのかな?


「え?ちょっと、どういう事?少し話について行けてないんだけど」


「あ~つまり…今のヒーノの話とノエラの話から考えるに、レヴィさんは致命傷を負った。レヴィさんを救う為にヒーノは融合…合体とも言えるかもしれないけど、レヴィさんと一つになるしか無かった。結果、レヴィさんは神獣フェニックスの力を持った人族ではない別の何かになった。こんな所か」


「お兄ちゃん、それって…」


「ああ。奴の目的、その物かもしれないな。レヴィさんとご家族にはエルムバーンに移ってもらうしか無さそうだな」


さっきの状況から考えるに、奴はレヴィさんとヒーノが一つになったのを目撃してる。

となると、奴の目的を達成するにはレヴィさんを狙うはず。

あの村には置いておけない。

エルムバーンならそうそう攻め入る事は出来ない。守る事も容易だろう。

いや、仮に奴が狙わなくても、もうあの村で普通に暮らす事は難しい。


「とにかく、カイエン達と合流しよう。魔獣がまだ残ってるかもしれないから注意して。ノエラ、立てる?」


「はい、大丈夫です」


「そうか。無理はしないでね。この後の戦闘は皆に任せて休んでいればいいから。レヴィさんはボクが…」


「「「あー!」」」


「え?何」


「ちょっと!サービスしすぎじゃない!?」


「そうだよ、お兄ちゃん!」


「仕方ないだろ、意識が無いんだから。置いて行くわけに行かないんだし」


「ジュ、ジュン様?やはり私も少々歩くのが辛いのですが…」


「え?そうか…傷は治せても失った体力や血までは戻せないからね。じゃあセバスト、ノエラを…」


「いえ!兄さんにはレヴィさんを抱えてもらいます!私はジュン様に!是非!」


「お、おおう?」


めっちゃ元気やん?

まあ、今回は危険な目にあったし、これくらいの我儘ならいいか。

しかし、そんなにいいものかね。

御姫様抱っこ。


「セバスト、頼んだ」


「はいはい。すまないな、ジュン様」


「いいよ、これくらい」


そう、ノエラの事はいいんだ。

レヴィさんの事を御家族にどう説明するか。

しかも、故郷を捨ててエルムバーンに来てもらうなんて。

納得してくれるかなぁ。




――レヴィ――



ここは…何処だろう?

初めて来る場所だと思うけど…でも、知ってる場所のような気も…。


「ここに貴女が来た事は無いと思いますよ。ここは私が以前暮らしていた場所です」


『あ、ヒーノ!ってあれ?何か声がおかしい?』


「レヴィ。今、貴女が見ているのは私の記憶の一部ですが、この世界は貴女の精神世界です。今後、私はこの世界の片隅で眠りに付く事になります」


『え、え?よくわかんないけど、何だかこれじゃ何時もの逆だね』


「ふふ…そうですね。今までは私が貴女の精神に魔法で語り掛けてましたから。今はその逆と言えるかもしれませんね」


『ええ~と、ここは私の精神世界で?今は私がヒーノの精神に語り掛けてるようなもの?という事は今、目の前にいるヒーノは精神体なの?』


「その通りです」


『で、私の精神世界の片隅で眠りにつく?』


「はい。より正確に言えば、ここに私の隔離空間を作って眠りにつく事になります」


んん~?

どういう事?


『そもそも、どうしてそんな事に?』


「ええ、説明します。レヴィ、貴女はどこまで覚えていますか?」


『ええ~と~お爺さんが召喚獣を呼んでノエラさんが大ピンチなとこ?』


「その後、貴女が私を庇って魔獣に致命傷を負わされた事は?」


『え?あ…何となく…』


そうだ、あの時、私…


『魔獣に美味しくモグモグと齧られちゃったんだよね?』


「う…そ、そうです。美味しかったかどうかまではわかりませんが…」


『という事は私…死んじゃったんだよね?』


「いいえ、生きてます。言ったでしょう、ここは貴女の精神世界だと。夢の世界と言い換えてもいいかもしれませんが」


『えっと…?夢?』


「貴女は今、眠っているので。これから先も夢で私と逢う事もあるでしょう」


『んと…どうして?私の精神世界に住んで夢の中に出るようになったの?』


「貴女を助ける為に私は貴女と融合しました。合体と違って一時的な物ではなく、解ける事のない融合です。私の体を用いて貴女の体の欠損部分を修復。体を作り替える事で私の肉体と魂の力に適合。そうする事でしか、貴女を助ける事ができませんでした」


『それって…以前言ってた合体の先にある状態の事だよね』


「少々違います。限界を超えて合体を続けた場合は精神も一つになると言いましたが、今はそうなっていないでしょう?」


『あ、うん』


「それを防ぐために私は貴女の精神世界に自分の精神を隔離して眠りに付くのです。最も…ほんの少し混ざってしまったようで、こうして夢で逢う事が出来るし、私の記憶を貴女が見る事もあるようですが」


えっと…私とヒーノが一つの肉体…私の身体に宿った。

そしてヒーノの力に適合するように体も作り替えられた。

それって…


『私、人じゃ無くなったのかな?』


「…はい。そうです。貴女は今や、人族と呼べる存在ではありません。神獣フェニックスの力を持った人ではない何か、です」


『不老不死になっちゃったの?』


「わかりません。何分前例が無いので…。ですが普通の人族よりはかなり長く生きる事は間違いないでしょう。殺されない限り死ぬ事も無いかもしれません」


『うわぁ…それってさ…』


「はい。あの男の目的その物でしょう。レヴィ、貴女が私と一つになった事はあの男も知っています。貴女がこれからも狙われるかもしれません。ですから、ジュンに貴女の事を頼みました。家族と共に彼の国へ行きなさい。それが一番安全でしょう」


『そっか…村を出ないとダメなんだね…』


私が村に残ってたら、また魔獣に村が襲われるかもしれない。

そしたら今度こそ村の誰かに犠牲が出るかも…。

それにヒーノが不老不死を望む人に狙われたように私も狙われるかも…あのお爺さん以外の人にだって不老不死が欲しい人はいるんだろうから。


「ごめんなさい、レヴィ…」


『え?どうしてヒーノが謝るの?』


「私を庇った為に、こんな…貴女を救う為とはいえ、人ではない存在に変えてしまうなど…。そしてそのせいで故郷を離れる事になってしまい…ましてや貴女が望んでいなかった不老不死に…」


『仕方ないよ。それしか助かる術が無かったんでしょ?それに不老不死になったかはまだわからないんでしょ?』


「はい…融合した時の私の身体も貴女の身体もまだ成長途中。大人の身体になるまでは成長…老いるでしょうが…」


『そっか…大丈夫だよ、ヒーノ。助けてくれて、ありがとう』


「レヴィ…」


『むしろ、ヒーノはよかったの?私の精神世界で眠りにつくなんて…』


「いいのです。貴女が私の記憶を見る事があるように、私も貴女の記憶を見る事があるでしょう。退屈はしないでしょうから。それに不老不死になったとしても、それはフェニックスの不老不死の在り様をなぞった物でしょう。転生を繰り返した時、いつかは私の魂と別れる事になるかもしれませんし。そうなったとしても、貴女はもう人には戻れないでしょうが…」


『そっか…。でも、その時にはヒーノと離れ離れになるのがイヤになってそうだね。大分先の話になるんだろうし』


「そう、ですね…きっとそうなるでしょうね…貴女は私の名付け親で、最も長く一緒に過ごした人ですから」


『過去形にしちゃダメだよ。これからもずっと一緒でしょ?』


「はい…そうですね…これからもずっと一緒です、レヴィ」


『うん。よろしくね、ヒーノ。助けてくれてありがとう』


「はい。レヴィも私を助けてくれました。本当にありがとう。それから、ずっと言えませんでしたが…」


『何?』


「ヒーノという名前…気に入ってます。ありがとう」


『うん、うん…』


「それじゃ、レヴィ。また夢で逢いましょう」


『うん。ヒーノ、またね』


夢が終わり、目が覚める。

ここは私の部屋…私のベッドの上…。

さっきまでのは夢だけど夢じゃない。

だってヒーノはいないけど私の中にヒーノの存在を感じるから。

また逢おうね、ヒーノ。


これが私とヒーノの物語の終わり。

そして新しい私とヒーノの物語の始まり。

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