第148話 レヴィとそれぞれの戦い
――レヴィ――
「一つ、伺いたいたのですが」
「ん?何じゃ?」
ノエラさんがお爺さんに質問があるらしい。
このお爺さん、意外と律儀に質問には答えてくれる。
「昨日、新種の魔獣が出たと噂の出た地域を調査しました。そこで無人となった小さな村があったのですが…あれは貴方が?」
「え…」
「ふむ。そんな事もあったかもしれんのう」
「お、お爺さん!さっき他に捕まってる人は今は居ないって!」
「ああ、嘘はついておらんよ。その連中は既に実験体になった。そして殆どが、あのアイシスとかいうお嬢ちゃんに始末されたわ。よって今はここに捕まってるのはお主だけじゃ」
「そんな…酷い…」
『やはり、普通じゃありませんね』
「お爺さん!誘拐なんてすると騒ぎになって静かに研究出来ないとか言ってたじゃない!」
「じゃから村を丸ごと一つ潰したんじゃ。生き残りが居らねば噂にもならんし、発見が遅れるしの。いい考えじゃろ?まぁ手遅れだったようじゃがの」
「生き残りが居ないって…小さな村って言っても女の人だって子供だっていたでしょう!?」
「それがどうかしたかの?どうせ死んで実験体になるんじゃ。女だろうと子供だろうと何の違いがある。ついでに言うとな、子供の方が実験の素体には向いておる。子供の体のほうが適応力が高いんじゃろうな」
「酷い…酷すぎる…」
今、はっきりとわかった。
この人は生かしておいちゃダメだ。
世に放しちゃいけない人だ。
倒さなきゃ…
『レヴィ、貴女が何を考えているのかわかりますが、今は何も出来る事はありません。こらえてください』
「でも…だって!」
『今は、あのノエラという娘に任せましょう』
「…ノエラさん、頑張って!」
「ええ、お任せください。レヴィさんは少し離れていてくださいね」
何も出来ない自分が情けない。
ううん、何か出来る事を探さなきゃ。
ヒーノを守るって決めたのは私なんだから。
――ノエラ――
と、言ってはみたものの。
少々厳しいかもしれませんね。
守る者が居なくて、完全な一対一、そして相手が魔法使いであるならば大抵の相手には勝てる自身があるのですが…。
レヴィさんとヒーノを守りながらこの男の相手は厳しそうです。
魔法使いである事は…戦士系ではない事は間違いないようですが、まだ何か隠し持っていそうですし、魔法の力量もかなりのモノ。
ロレンタ団長に匹敵するか、それ以上でしょう。
しかし、ジュン様に命令された以上は果たさねばなりません。
「では、始めましょうか」
「うむ、後が支えておるんでな。さっさと終わらせてもらうぞ」
戦闘を開始します。
身体能力は流石に私の方が上のはず。
接近戦に持ち込めば…!
「ふん!甘い甘い!」
「なっ!」
動きが早い?
いえ、完全に読まれている?
「ほれほれ、驚いてる場合か?」
「くっ!」
至近距離からの魔法攻撃!
躱してみせます!
「どっちを見ておる」
「う!」
転移!?背後!?
「…面倒くさい嬢ちゃんじゃ。今ので決まらんとはのう…」
危なかった…。
ジュン様に貸与された魔法道具が無ければ致命傷だったかもしれませんね。
「それは魔力障壁を出す魔法道具か?厄介な」
「私の主は偉大ですので。貴方と戦う時を想定して新たに用意されたのです。それに面倒くさいとか、厄介だとかは私のセリフです」
やはり、想像以上に強敵のようですね。ジュン様のように連続で転移は出来ないようですが転移魔法は非常に厄介です。それに経験から来るのか、それとも何らかの魔法の効果なのかこちらの攻撃も読まれている。出し惜しみをしてる場合では無さそうですね。
「さて、再開と行きましょうか」
「ふん!障壁を突破出来る威力の魔法をぶつければ済む話じゃ!覚悟せいよ!」
再び、攻撃を仕掛けますが、やはり読まれているのか躱されます。
いえ、見てから躱している?何らかの紋章の力でしょうか?
「ほれほれ、どっちを見て…何?」
「ちゃんと見えてますよ」
転移しようとしたのでしょうが、同じ手が二度も通用するとは思わないで頂きたいですね。
「ぐっ!」
「…浅い、ですか」
上手く動揺した隙を突いたと思ったのですが、やはり経験豊富なのか致命傷は避けられてしまいました。
「どういう事じゃ?何をした」
「教える義理など無いのですが…そうですね、先程はこちらの質問に答えて頂きましたし…紋章の力とだけ御答えしておきましょう」
そう、私が持っている紋章は『魔封じの紋章』。
効果範囲内にいる者の魔法の使用を妨害する、魔法使いにとっては天敵とも言える紋章です。
高い力量を持つ魔法使いなら、下位の魔法なら違和感無く使えるかもしれませんが、戦闘中に転移魔法の使用など不可能でしょう。
「全く…本当に厄介な嬢ちゃんじゃ。可愛げも無いしのう」
「それもこっちのセリフです」
これで五分五分といったとこでしょうか。
あとはジュン様達が来るまで粘るか、あわよくば倒してしまいましょうか。
…ジュン様達に何事も無ければいいのですが。
――カイエン――
ジュン様達と別れてすぐ。
最初に入った部屋でキメラとの戦闘に入る。
「大した戦闘能力は持ってないが、全員油断するなよ」
「「「ハッ!」」」
ジュン様の話では村を襲いに来たかなりの数キメラをアイシス殿が全て討ち取ったという話だが、まだそれなりの数がいるようだな。
「ん?今度はちょっと違うタイプの奴が出て来たな」
今までは魔獣の体に人族や魔族の顔を付けたようなキメラばかりだったが、今度は逆。
人族や魔族の体に魔獣の首や鱗、翼といった特徴的な部位を付けたようなキメラで、武器を所持している。
「隊長…」
「ああ。まずは私が様子を見る」
斧を振り回してきたキメラと相対してみる。
パワーはそこそこあるようだが…
「ただ振り回しているだけだな。技術はまるでない」
斧を躱してすり抜けざまに仕留める。
武器を持っただけで今までのキメラと然したる違いは無いな。
「相手はただ魔獣が武器を持っただけの存在だ!恐れる相手では無い!訓練通りにやれ!」
「「「ハッ!」」」
キメラを始末して次の部屋に向かう。
今度はやけに重厚な扉に思える。
鍵も掛かってるようだ。
「リディア。頼む」
「はい!」
しかし、このぐらいの扉ならリディアなら簡単に…
「せえええい!」
ドゴン!
と、派手な音と火花を飛ばし扉どころか扉があった壁ごと吹き飛ばすリディア。
まだ力のコントロ-ルが未熟だな…。
いや、それとも意識してなかったか?
「リディア。頼んだのは私だが、もう少し考えろ。我々の目的は捕らわれているレヴィさんの救出。他にも捕まってる人がいるのならその救出。扉の向こうに居たらどうする。更に言うならここは洞窟の中だ。あまり派手にやると洞窟が崩れかねないぞ」
「す、すみません…」
まぁかなり丈夫に造られた建物のようだから、そう簡単には崩れたりしないだろうが。
そして重厚な扉の先に居たのは、魔獣だった。
「実験用に捕らえていた魔獣か。我々を襲わせるつもりで解放しておいたのだろうな」
部屋の中では魔獣達が乱闘中だった。
部屋に入って来た我々を見て、狙いを我々に変えたようだ。
「やるしかなさそうだな。ユリアはリディアと組め。他の者も二人一組に。数は向こうの方が多い。囲まれるなよ」
「「「ハッ!」」
さてさて。
こちらは問題無さそうだが、ジュン様達は大丈夫だろうか。
ルーとクーが無茶しなければいいのだが。
――ジュン――
「ノエラから、一瞬だけ魔法道具での呼び出しが有った。言葉は無かった事から察するにレヴィさんを見つけたけど、すぐ戦闘になったってとこかな」
「じゃあ、すぐに向かわないとね」
「そうね、向かうべきね」
「「「でも…」」」
カイエン達と別れてから幾つかの部屋を捜索。
ザコキメラを倒しながら進み、地下へ降りるやけに長い階段を降りて辿りついた部屋。
その中には本日一番の大物と思われる存在が複数待ち受けていた。
「火・水・風・土の属性竜。下位のレッサードラゴンだね」
「オマケとしてワイバーンが…五匹ね」
まあ、ドラゴンゾンビとかワイバーンゾンビとか用意出来るんだから、その素体となるドラゴンやワイバーンを捕らえていたって不思議ではないけども。
これだけの数を捕らえるのは奴一人じゃ無理があるだろう。
やはり協力者が…しかも、それなりに強力な力を持った奴がいそうだ。
「お兄ちゃんて、やっぱり大物に縁があるんだね」
「ギルドマスターの言う通りだね」
「やめてくれ…」
本当に止めて欲しい。
まぁ今回に限って言えば、カイエン達やノエラがこのドラゴン達と当たっていればかなりやばかっただろう。
ボク達で良かった、とは言えるかもしれない。
「とにかく、いつまでも睨み合っててもしょうがない。まずワイバーンはボクとリリーで始末する。他の皆はドラゴンの相手だ。ドラゴンブレスには気を付けて。レッサードラゴンとはいえドラゴンブレスは強力だぞ」
「「「はい!」」」
「じゃ、行動開始!」
それぞれに攻撃を開始する。
クリステアとルチーナのコンビは安定している。
クリステアの防御力はドラゴンの攻撃すら防ぎきる。
盾気を使えばもしかたらレッサードラゴンのドラゴンブレスなら防げるかもしれない。
ルチーナの攻撃力もやはり大したモノでレッサードラゴンの外皮くらいは簡単に斬り裂けるようだ。
アイの拳聖の紋章の力はドラゴンにも勿論有効だ。
闘気を叩き込み内部から破壊する技。
レッサードラゴンともなれば瞬殺は出来ないが、あっさりと一匹仕留めてしまった。
ユウはドラゴン相手には武器で戦うのではなく魔法で戦うようだ。
的確に魔法を当て仕留めに掛かっている。
セバストとティナ達は少々苦戦中だ。
セバスト達の得物は短い。
ドラゴンの厚い外皮を貫く事が出来ないでいる。
それでもダメージを与えてないわけではないのだが、致命傷を与えるのは難しそうだ。
今度、その辺りの事も考えよう。
そしてボクとリリーはというと。
「ボクは右の奴を。リリーは左の奴を」
「はいですぅ!」
ボクは魔法で、リリーは魔法の弓矢で仕留めている。
リリーは眼もいいらしく、空中のワイバーンの眼に矢を当てて頭部を貫いて仕留めている。
凄い腕だと思う。
ワイバーンはあっさりと仕留めたので、残ったドラゴンへの攻撃へ参加する。
ノエラとレヴィさんが心配だし、さっさと仕留めて向かうとしよう。




