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第146話 レヴィと救出作戦

――アイシス――


レヴィが攫われて六時間。

ジュン達がフェンリル達に乗って出発してから三時間。

僕達はレヴィの家で待機してる。

まだあの男から連絡は何にも無い。

何にもすることが無くてイライラしてしょうがない!


「あ~もう!」


「アイシス、落ち着く」


「今は何も出来る事は無い。英気を養っておけ」


「その通りだ。落ち着けアイシス」


「とか言って。お祖父ちゃんが一番早く来いって思ってるくせに」


「ふ…当たり前だ。あの屈辱…!しかもレヴィさんの魔法で眼をやられて何も出来なくなるとは…情けないにも程がある…!」


「え。そうだったの?」


うわー。

それはちょっとかっこ悪い…。


「そ、それはバルトハルトさんにしては珍しい失態ですね…」


「かっこ悪い」


「うぐっ!この屈辱…!奴を斬る事で晴らしてくれる!」


「それは可能ならルーとクーに譲るべき」


「ルーとクー?ジュン殿付きの双子のメイドにか?」


「うん、そう」


「どうして?あの娘達とあの男、何か関係があるの?」


「あの二人の両親を殺して魔獣と合成したらしい。以前、変わり果てた両親を奴の研究施設で見つけたって」


「何と…」


そっか、それであの二人…。

なんだかいつもと違うなって思ってたけど。


「ますます許せないね」


「そういう事なら仕方ない。止めはあの二人に譲るとしよう」


「うん。でも可能なら、にすべき」


「そうだな。ここで取り逃がして更なる犠牲を出す訳にも行かないしな」


セリアとフランコの言う通り、ここでまたあの男を逃がしてまた被害者を出すわけにはいかない。


「アイシス」


「うん。わかってる」


「来たか?」


「そうみたい」


外に出ると村の人は誰も気づいてないみたいだ。

でも、僕達を見つけたソレは上空から急降下してくる。


「きゃああ!」「魔獣だ!また魔獣が来たぞ!」


村の人達が大騒ぎになってるけど、こいつは多分ただのメッセンジャー。

攻撃を仕掛けてくる様子はない。

空から降りて来た魔獣はまたしても人と魔獣を合体したあの男の実験体。

ジュン達はキメラって呼んでたっけ。


『こんにちは、お嬢ちゃん。いや、アイシスさん。ちゃんと待っててくれたようで何よりじゃ』


「まぁね。ところで僕の名前はレヴィから聞いたの?」


キメラを通して会話する事も出来るのか。

会話だけじゃなく、キメラが見てる物も見えてる感じだ。


『うむ。ああ、手荒な真似はしておらんよ。人質は無傷で初めて価値があるからの。大人しくしておるうちは何もせんよ。じゃから、お主らもおかしな真似はせんことじゃ』


「それで?用件は何だ。まぁ大体予想は付くがな」


『お主はバルトハルトじゃな?間抜けな護衛は邪魔にならんよう大人しくしておれ』


「ぐっ…殺す、絶対殺す…」


「バルトハルトさん、落ち着いて」


うん、僕も腸が煮えくり返る思いだけど、今は我慢だよ。


「喧嘩を売りに来たのが目的じゃないんでしょ。用件は何」


『うむ。まぁ予想通りだと思うぞ。あの鳥…ヒーノと呼んでいるそうじゃの。ヒーノとあの娘の交換じゃ。場所はこの村の北側の森に小さな泉がある。そこがわかりやすいじゃろう。時間は明日の正午じゃ』


「わかっ…」


「何故、今すぐじゃない?」


「フランコ?」


どうしてそんな事を?

確かに随分時間を開けるなとは思ったけど。


『うん?どういう事じゃ?』


「人質の交換くらい、そんなに準備に時間を掛ける内容でもないだろう。さっさとやればいいじゃないか。わざわざなんでこっちに時間を与えるような真似をする?」


『ふん…こちらにも都合があるんじゃよ。それよりもヒーノは何処じゃ?』


「ちゃんといるよ。あの家の中。窓にから見えるでしょ」


『ふむ。確かに』


「ヒーノには悪いけど、ヒーノに逃げられたらこっちも困るんだよね」


『ああ、ここであの娘を見捨てて逃げられたらわしも困るでな。しっかり捕まえておくんじゃぞ、ではな』


あのヒーノはジュンが造った鳥型ゴーレムだ。

すぐさまあんなの造れるあたり本当に凄いと思う。


「さて…明日の正午か…」


「ああ。我々の出番は無さそうだな」


「「え?」」


「えって…もうすぐジュン殿達が救出作戦を実行する頃だろう。そうなれば奴が来るはずないじゃないか」


「「あ」」


「仮に失敗しても、人質交換どころじゃなくなるだろうしな。それに奴には思ったより余裕は無さそうだ」


「どういう事?」


「バルトハルトさんを挑発したりして余裕のある態度を崩さなかったが、実はそれほどでも余裕があるわけじゃなさそうだ。恐らくアイシスに手駒の魔獣…キメラだったか?キメラを殆ど倒されたんだろう。つまり実力行使でヒーノを奪えない、だから確実に手に入れる為にレヴィさんとの交換を望んでるんだ」


「それじゃ明日の正午なんて時間にしたのは?」


「ジュン殿から聞いた話とこれまでの言動からの推測だが、恐らく拠点を変える準備に時間が必要なんだろう。ヒーノを手に入れたらまたどこかに隠れるつもりなんだろう」


「という事は…」


「ほぼほぼ私達に名誉挽回のチャンスは無いという事か…」


「村の安全が最優先」


「そういう事だ。落ち込むのは間違いだぞ」


「む~!こうなったら今からでもジュンに迎えに来てもらって…」


「駄目だ。レヴィさんを奪還され、追い詰められた奴が暴走しないとも限らん。万一に備えてここの防衛戦力を割く訳にはいかない」


「ジュンの親衛隊の人達がいるじゃない」


「確かにいるが…彼らだけでは昨日と同じだけのキメラが攻めてきた場合、防ぎきれないだろう。そうなった場合、ジュン殿やレヴィさんに顔向け出来ないだろ?」


「うう…」


「仕方あるまい…」


「とにかく、ジュン殿に今の事を伝えよう」


ここで待つしか出来ないのかぁ…。

頼んだよ、ジュン。



――ジュン――



「アイシス達から連絡が有った。奴はヒーノとレヴィさんの交換を明日の正午を指定したらしい。ま、引っ越しの時間稼ぎだろうね」


「そうね。じゃあまだ時間に余裕はあるけど…」


「うん。時間に余裕はあるけど…」


フランコ君の話だと、奴に余裕はあまり無さそうだって事だけども。

果たしてそうかな~。


「また、厄介な…」


ボク達は今、奴の研究所があるという洞窟の前にいる。

そしてその洞窟には奴が配置したのであろう魔獣が三体。


「ドラゴンゾンビが一体。ワイバーンゾンビが二体、か」


「呪怨球だっけ?あれ量産出来るんだね…」


「まあ、製作者なんだから当然ちゃ当然かもね…」


こっちの戦力はいつものメンバーに親衛隊から隊長のカイエンとリディアとユリア、他五名。

あとはフェンリル一家。

戦力は充分。

だけど、あの三体を奴に気づかれずに倒せるだろうか?

いや、攻撃した瞬間に気づかれると思っておくべきか。


「あの三体は瞬殺して速攻で攻め込むぞ」


「え。そんなの出来るの?」


「多分ね。皆で奴らを一ヵ所に纏めて欲しい。ボクは神聖魔法を最大威力で放てるようにしておくから。そしたら一瞬奴らは活動を停止する。その時を狙ってあの球を即破壊。その後、突入する。突入後はボクの班とカイエンの班で二手に別れる。皆、レヴィさんの事を知らないかのように振舞って」


「「「はっ!」」」


「ノエラはヒーノを連れて別行動だ。ヒーノの誘導でレヴィさんを探して欲しい」


「畏まりました。ジュン様」


「ごめんね。危険な任務を任せるけど、頼むよ。何かあったら魔法道具で連絡して」


「大丈夫です。お任せくださいジュン様」


実際、この任務はノエラが最適だ。

不可視化の魔法が施された魔法道具のイヤリングもあるし、技術的にもノエラしかいない。


「マーナさん達はここで待機で。研究所内は狭くて入れないでしょうから」


『ま、仕方あるまい。気を付けてな」


「はい。じゃ、作戦開始!」



――レヴィ――



「ん…?」


揺れた?

それにちょっとだけ騒がしい気がする。

もしかして、助けが来た?


「居たか、お嬢ちゃん」


「あ、何かあったの?」


「何者かが、攻め込んできたようじゃの。アイシスとかいうお嬢ちゃんとその連れは村に居った。という事は全くの別口かの?お主に心当たりは?」


多分、ジュン様だけど…知られると不味いよね?


「え…わかんない。だけど新種の魔獣を最近見たって噂を聞いたよ。お爺さんが造った魔獣の事でしょ?それ関連じゃないの?」


「ふむ…そう言えば前にも似たような事が有ったの。まぁええ。お主はここで大人しくしておれよ。この扉から出たら外の魔獣が襲ってくるぞ」


「うっ…わかったよ…」


「いい子じゃ。ではの」


う~ん。

このまま大人しく助けてもらうのを待つべきか逃げ出すべきか。

ん~…状況が劣勢になれば、あのお爺さんは多分逃げるよね。

その時は当然、私も連れて行こうとするだろうし…転移で逃げられたら追いかけようが無い。

自力で脱出を試みるべきだけど…。


「あ…こんにちは~…アハハ」


扉の外には魔獣が四体。

増えてるし!

扉をちょっと開けて顔を出したくらいじゃ襲ってこないみたいだけど…どうしよう。


そう言えば…あの魔獣…ハルピュイアもどきと同じような存在な筈だよね。

あのお爺さんに造られた魔獣。

それなら扉の外の魔獣も極単純な命令しか聞けない存在で、応用の利いた行動をとれないに違いない。

扉の外の魔獣に与えられた命令は多分…私が部屋から出たら捕まえろ、侵入者を見つけたら攻撃しろとかかな?

だとしたら、部屋の中で暴れたくらいじゃ何にもしないかも。


「試してみるしかないね。どっせーい!」


部屋の中にあった本棚を倒したり椅子を壁にぶつけたりしてみる。

魔獣が入って来る気配は…無い。

という事は、壁に穴を開けて別の扉から出れば行ける?

音が聞こえて来るのは…左。

左の壁は…うん、壊せそう。

火魔法は不味いだろうから氷魔法を数発撃ちこんでみた。


「よっし!開いた!」


魔獣はいないし、入って来る様子もない。

左の部屋はただの空き部屋みたい。

とにかく、この調子で進んでいこう。

お爺さんに見つかるより早く、ジュン様達に見つけてもらわないと。


あ、でもここにジュン様が来たって事はヒーノも来てる筈だよね。

召喚魔法でここへ呼ぶ?

いや、でも向こうの状況が不明だし…下手に召喚してお爺さんに先に見つかったら…。

やっぱり、それは最後の手段にしよう。

今はとにかく脱出しないと!

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