第145話 レヴィと研究所
――レヴィ――
「ここは…?」
「わしの研究所じゃよ」
「研究…何を研究してるの?」
「あの鳥から聞いておらんのか?」
「不老不死の秘密を探ろうとした、としか」
「まぁ、大体それで合っとる。ここはわしが不老不死の存在になるための研究所じゃ。あのフェニックスはその為の要となる存在。いなくなられては困るのでな」
「ヒーノは不老不死の秘密なんて無いって言ってたよ」
「ヒーノと呼んでおるのか?ふむ…確かにフェニックスに纏わる噂や伝承の類はデタラメだった。じゃがフェニックスが不老不死に限りなく近い存在なのは間違いのない事実。わしはその秘密が知りたい。秘密が無いのではなくフェニックス自身も知り得ない秘密があるのでは無いか、そう思えてならんのじゃよ」
「つまりフェニックスと同じ存在になりたいって事?」
「まぁ、極論すればそうじゃ。だがわしは鳥になる気はない。フェニックスの特性だけ取り込むような真似が出来ればいいんじゃがの」
「あ…」
「ん?なんじゃ?」
「あ、ううん、何でもない」
もしも、ヒーノとの合体…アレは限界を超えたらヒーノと融合が始まるって言ってた。
それってつまり、私がフェニックスになるのとほぼ同じ事なんじゃ?
結果どういう存在になるのかはわからないけど、フェニックスの力のみを取り込む事に成功出来たらそれは…。
これ、知られたら不味いよね。
バレないようにしなきゃ。
「何か思いついたのではないか?そういう顔をしとる」
「ち、違うよ。貴方の話を聞いて、あのハルピュイアもどきを思い出しただけ。貴方が追手として放ったんでしょ?」
「ああ、あれか。可愛い奴じゃったろう?…ん?もしやアレを倒したのはお嬢ちゃんなのか?」
「ヒーノの力だよ。私は少し手伝っただけ」
「ふむ、まぁそうじゃろうな。弱体化していても、神獣じゃしな。それくらいは容易いか」
誤魔化せたかな?
とにかく、余計な情報は与えないようにしないと。
「それで、私をどうするつもりなの?」
「勿論、フェニックスと交換じゃ。フェニックスさえ戻ればお嬢ちゃんに用はない。大人しくしておれば怪我も無く帰れるから、大人しくしておるんじゃぞ。さ、この部屋で待っててもらおう」
「うん…」
私じゃ、このお爺さんには勝てそうにないし、今は大人しくしておこう。
大丈夫、ジュン様が明日には戻って来るんだし、きっと助けに来てくれる。
ジュン様の事はバレてないんだし、きっと大丈夫。きっと…
――ヒーノ――
レヴィが攫われてしまった…私のせいで…。
何とか助けなくては。
しかし…今の私では…
「お祖父ちゃん、大丈夫?レヴィは?」
「私は大丈夫だ…だがレヴィさんは攫われてしまった。すまん、私が付いていながら」
「バルトハルトさんを出し抜くなんて…相手はそれほどに?」
「いや、転移魔法で逃げられてしまった。転移魔法で逃げに徹されてはな」
「あの…レヴィは…レヴィはどうなるんですか?」「レヴィを助けてください!お願いします!」
「わかっています。ジュン殿に頼まれ任せろと言ったのにも関わらずこの失態。レヴィ殿を助ける事で償わせてもらう」
この者達に頼るしかありませんか…。
「でも…レヴィがどこに連れ去られたか、わからないんでしょ?」
「ああ。だが奴はレヴィさんの鳥…ヒーノが狙いだと言っていた。ならばレヴィさんは人質。向こうから接触を図って来るだろう」
「しかし、バルトハルトさん。それでは後手に回ってしまう。レヴィさんが助かるかは相手次第になってしまいますよ」
「確かにそうだが…レヴィさんの居場所がわからんことには…」
『私が案内します』
「え?誰?」
「ヒーノ、君か?」
『ええ、私です。あの男の狙いは私です。私はあの男の研究所から逃げ出して、弱っていた所をレヴィに助けられたのです。だから私もレヴィを助けたい。あの男は研究所にいるはずです。そこまで案内します』
「待って欲しい。レヴィは君の為に捕まったのか?君がレヴィを巻き込んだのか?」
「あなた」
『……はい。レヴィは私を助けた為に巻き込まれた。私の責任です』
「そうか…」
「ご主人、お気持ちはわかりますが、今は…」
「わかっています。娘がせっかく助けた命です。親である私が、それを無にするなど…。だがレヴィに何かあったら許しはしない」
『わかっています。さぁ行きましょう、案内します』
「待て。ここの守りも必要だ。相手がまともに交渉するとも限らんのだからな」
それは、確かに…。
少なくともあの男に常識と良識があるとは思えない。
『ですが、急がないとレヴィが…』
「わかっている。だがジュン殿達が戻るまでまて。もう夜明けだ。直ぐに連絡が付く」
『彼らは南の方まで調査に行ってるのでしょう?戻って来るのに時間が…』
「大丈夫だ。ジュン殿も転移魔法が使える。連絡が付けば直ぐに戻ってくれるはずだ」
『……わかりました。人手が多い方がいいのも確かです』
少しだけ待っていてください、レヴィ。
必ず助けます、必ず…
――ジュン――
「そうですか。レヴィさんは奴に…」
「ごめん、ジュン」
「私達が付いていながら、みすみす…申し訳ない」
まさか勇者パーティーがいて守り切れないとはね。
魔法陣無しに転移出来るとは思わなかった。
「それで、ヒーノ。君が奴の居場所まで案内出来るんだね?」
『ええ。直ぐにでも行けます』
「そして此処の守りも必要…か。奴から要求はありましたか?」
「いや、まだ何も」
「ボク達が此処にいる事はバレていませんね?」
「うん。僕達みたいな戦力がここ居る事も想定外だったみたいだし」
となると…此処に残るのは…。
「じゃあアイシス達には引き続き此処に残って欲しい。レヴィを助けに行くのはボク達で」
「やだ!僕も行く!」
「ジュン殿、私も奴に借りを返したいのだが…」
「我慢してください。ボク達がいる事を奴が知らなくて、アイシス達が此処に残っていれば奇襲を受けるとは思わないでしょう。今回、最優先すべき事はレヴィさんの救出です」
「わかった…我慢する」
「…仕方ありませんな」
分かってもらえたようで何より。
あとは此処を守る戦力を増強しとく必要があるかな。
何人か親衛隊を連れて来よう。
あとは…ヒーノの偽物も用意するか。
「ヒーノ、目的の場所まで此処からどのくらいかかる?」
『飛んで行ければそれほど離れていませんが…』
「流石に警戒くらいはしてるだろうから…飛んでいけば目立つか」
となると、フェンリル一家にも協力してもらうか。
よし…待っててくださいレヴィさん。必ず助けます。
――レヴィ――
「退屈だな~」
そりゃ秘密の研究施設に退屈しのぎになるような物あるとは思えないけどさ。
この部屋も資料室?かな?
本はいっぱいあるけど、難しくて何書いてるのかわかんないし…。
部屋には窓が無くて扉が一つだけ。
扉に鍵は掛かってないけど…
「あ…やっぱり?」
「……」
魔獣と合体させられた人っぽい魔獣が二体、見張りにいるし。
多分、これが噂になってた人のような魔獣。
あの人の研究の犠牲者…。
気の毒だけど、きっともうどうしようもない。
少なくとも私には。
「ふむ。大人しくしておるようじゃの」
「あ、お爺さん…」
「これからお嬢ちゃんと交換でフェニックスを渡すように村の連中に伝えてくるんじゃが…あの妙に強いお嬢ちゃん達の名前を教えてくれんか?」
「え?何で?」
「どうせあの連中がフェニックスを守っておるんじゃろう?なら連中に伝えねばなるまいて。なら名前くらい聞いとかんとな」
「あ…うん。大きな剣を持った女の子はアイシスさんで、私の傍にいたのがバルトハルトさんだよ」
「アイシスにバルトハルト?ふむ…どこかで聞いた気がするが、まぁええ。引き続き大人しくしておくんじゃぞ」
「あ、待ってよ。何か退屈しのぎになるもの無い?」
「ん…無いのぉ。食事は後で届けてやる。では大人しくしておれよ」
「…は~い」
はぁ…退屈…。
でも、きっとすぐジュン様が助けてくれる。
きっと…




