第136話 島を調査した結果
「それで、調査ってどうやるの?」
「こうやります」
探査魔法を出来るだけ広範囲に広げて使用する。
流石に小さな島でも一気に探査完了とはいかず移動して探査範囲を変えていかねばならない。
「鉱脈なんかもわかるの?」
「まあね。地下も数百メートルまでなら。それ以上深いところにある鉱脈なんかは現状じゃお手上げ」
「いやぁ流石ですね。私も魔法はそこそこ自信があったのですが、ジュン殿には及びませんね」
「どうも。ロミリオ殿の得意魔法は?」
「私も一応は攻撃魔法・補助魔法・精霊魔法・召喚魔法は一通り使えます。治癒魔法と空間魔法、神聖魔法は使えません。最も得意なのは精神魔法です。幻覚を見せたり、催眠したり」
「お兄ちゃんはブーダンビル始まって以来の天才って言われてるのよ!国民にも慈悲深くて、最高の美男子として大人気なんだから!」
「おい…ミザリア…」
「へぇ~そうなんですか」
「お恥ずかしい。妹の言う事はあまり真に受けないでください」
「いいじゃない。本当の事なんだし」
兄の事を自慢する妹か。
自分達の事じゃなければ、見てて微笑ましいのだけど。
「ふふっ、ミザリア。うちのお兄ちゃんも負けてないわよ。先ずは…」
「はい、次のポイントに行くぞ~」
「あ、ちょっと!?お兄ちゃん!」
ユウが何か言い出す前に移動を開始する。
まともに付き合ってたら時間が掛かりすぎるし、何より恥ずかしい。
「お互い、妹には苦労してるようですね」
「ええ、まぁ。自慢の可愛い妹ではあるんですけどね」
「うちもそうです。国民にも人気で自慢の妹ではあるのですが…」
如何せん、愛情表現がね…
前世でもユウは「お兄ちゃんと結婚する!」と言ってたが、幼児の頃からだったし本気ではないと思ってた。
しかし転生してからも言ってるし、やっぱり本気なのかなぁ。
前々から本気なのかと思った事はあったのだけど。う~む…
「ふふふ…お兄ちゃん、聞こえたよ…」
「私も聞こえたよ。自慢の可愛い妹なんだね…」
「ん?空耳じゃないかな」
「そうですね。そんな自分に都合のいい空耳聞くもんじゃないよ」
「「むむぅ~」」
蛙らしく頬を膨らませるミザリアさんと同じように頬を膨らませるユウ。
どんどん仲良くなっていくね、君達。
「お兄ちゃんはあたしにもっと優しくするべきだと思うの」
「同意だわ。こんな可愛い妹がいたら普通は『恋人にしたい!』とか『嫁にしたい!』とか『押し倒したい!』とか思うものなのよ、お兄ちゃん」
「「いやいやいや」」
思っちゃダメだろう。特に最後。
「じゃ、この場にいるもう一人のお兄ちゃん、セバストの意見を聞いてみよう」
「え?オレ?」
「セバストはノエラと結婚したいとか思う?美人だよね、ノエラは。一般的に見て。中身はアレだけど」
「思うわけないだろ」
「私も兄さんと結婚したいとは思いませんよ」
「ほら、これが普通なんだよ」
「わかったか?ミザリア」
「「他所は他所。うちはうち」」
どんどん仲良くなってるね、君達。
「はぁ…とにかく調査を進めよう」
「ねぇ、ジュン。冒険者ギルドで情報集めて来たんでしょ。この島の魔獣はどんなのがいるの?」
「討伐難度Dまでの魔獣が殆ど。一番強いのが討伐難度Bの『ギガンティックスネーク』だ」
「スネークって事は…」
「蛇だな。ただデカいだけの蛇らしいけど」
「どのくらいデカいの?」
「5mはあるらしい」
「5m?確かに大きいけど、それくらいなら普通の蛇でも…」
「太さが、ね」
「…何で魔獣ってそんなデカいのばっかりなの…」
本当にね。
まあ巨体ってだけで強みだし、強くなるように進化した結果なのだろうけども。
「因みにギガンティックスネークの肉はブーダンビルでも人気の高い高級品だそうな」
「え?蛇を食べるの?蛙人族が?」
「ええ。何か変ですか?」
「美味しいよ?」
アイの疑問はよくわかる。
蛙が蛇を食べるなんて思わないよね。
現代地球の常識で言えば。
「そう言えば蛇は料理に出した事が無かったか?今度出そうか?」
「いや、いい。出さないで」
「ウチも…苦手なの」
ボクもどっちかというと苦手だ。
食べず嫌いかもしれないけど、無理に食べる必要もないと思うんだ。
「他にはどんなのが?」
「他には虫型の魔獣が殆どだってさ。犬並の大きさの芋虫から馬並の大きさのカマキリまで多種多様に」
「ねぇ、ウチ帰っていい?」
「ダメ」
「苦手なの!知ってるでしょ!」
うん。前世からアイは虫が苦手だよね。
天才格闘家の意外な弱点だった。
「アイ殿は虫もダメですか。やはり私とは合いそうにないですね」
「美味しいよ?」
「食べたくないって話じゃないよ!いや、食べたくもないけど!」
「そう言えば虫も出した事が無かったか。今度出そうか?」
「「「それだけは絶対にやめて!」」」
「冗談だって…」
虫は嫌だ。
そんなの出されたらセバストの評価は一気に地に落ちるだろう、間違いなく。
「ジュン殿は虫は御嫌いですか?」
「ええ、まぁ。虫を食べるという習慣は無いですね」
日本ではイナゴの佃煮やら蜂の子を食べる習慣が地方には存在した事は知っている。
TVでも見たし、旅行先で店に並んでいるのを見た事もある。
でも、アレは無理。
全身全霊で御断りしたい。
「ふ~ん。エルムバーンでは虫は食べないの?」
「うん。ブーダンビルでは何でも食べるの?」
「そうね。肉も魚も虫も野菜も果物も食べるよ」
虫以外は普通だね。
いや、あくまでボクの感覚での感想だけども。
それから調査を続け。
全ての島を調査する事一ヵ月。
ダルムダットの城の会議室で再び会議中だ。
ロミリオ殿とミザリアさんも来ている。
「それじゃ問題解決には至らなかったのか?」
「ええ。鉱物資源の不足をある程度解決出来る発見は幾つかありましたが」
まず、小さな鉱脈は幾つかあった。
しかし、全て開発したとしても問題解決に至る量を確保できそうにはない。
次に討伐難度Eの魔獣「メタルワーム」の出す糸。
このメタルワームはブーダンビルではただの食糧の扱いだったのだが、島の調査でメタルワームの繭を発見。繭が金属糸で出来ていた。
これを精製し直せば上質の鉄になると判明。
与えるエサによって吐く糸の種類や質が変わるみたいだ。
これは結構な大発見なんだがブーダンビルでは養蚕業は確立していなかったし、メタルワームは魔獣なので蚕と同じようにはいかないだろう。
参考には出来るだろうけど、ほぼ0からの産業になるのですぐに安定した金属の産出は望めない。
長期的に見れば将来有望の産業になりそうなのだが。
「それで、次はどうするつもりだ?」
「ブーダンビル本島にある魔獣の領域にまだ未調査の場所があるらしいので、そこを調べる事になりました」
「ただ、そこは周辺の島より危険な魔獣が多いので…鉱脈が有っても魔獣の排除もしなければならないのですが…」
「その時はダルムダットの騎士団を派遣しよう。ケロンに…ケロン殿に説明はしなきゃならなくなるだろうが、その時は問題あるまい」
「ボクも手伝います。親衛隊にも手伝ってもらいます」
「ありがとうございます。それで、ガウル様にはまだしばらく時間稼ぎをお願いします」
「ああ。それは問題ない」
「バルサラームとも連絡を取っているのだろう?向こうは何と言ってるのだ?ロミリオ殿」
「向こうも戦争は回避したいので、私に協力的です。出来る限りの時間稼ぎもしてくれるそうです」
「ねぇ、さっきから時間稼ぎって言ってるけど時間制限があるの?」
「具体的に何時までという事は。ただ資源が完全に枯渇するよりも先に父上は強硬策に出るでしょう。いえ、それよりも早く焦れて宣戦布告するかもしれません」
「…結構崖っぷちなのね…」
そう、事態は決して楽観視出来る状況ではない。
メタルワームの産業が確立出来るまで鉱物資源を何とか出来る目処を早く立てないと、戦争が始まったらアイを政略結婚の道具にされるだけじゃすまなくなるかもしれない。
早く解決しないと。




