第135話 借金の返済は計画的に
「そうか、ロミリオはそんな事を…朗報ではあるな」
「はい。問題解決の可能性が見えたのは事実です」
ブーダンビル魔王様一行が帰って直ぐ。
ボク達はもう一度会議室で話をしている。
「そっちの話し合いはどうなったんです?」
「ダメだな、話にならん。向こうはあわよくばエルムバーンも巻き込むつもりだ。こちらも引くつもりはないから、話は平行線で終わったよ」
「そうですか…」
あんな証文一つで戦争に巻き込まれるなんて、御免こうむりたい。
他にもあったりしないだろうな。
「ガウル様」
「な、何だ?」
「もう散々聴かれたでしょうけど、他にはもう借金で書いた証文とかないでしょうね?借金以外の理由で結んだ契約とかも、あるなら今話して下さいね」
「無い!無いぞ!返し忘れていた借金は今回の件が発覚してから全て返した!金貨一枚から銅貨一枚に至るまで!他には今回のような事に成りそうな契約は無い!」
「どれだけ借金してたのパパ…」
「お父さん…情けないです…」
「ううっ…」
ガウル様が子供達に冷たい目で見られて凹んでるけど、それは自業自得だからほっとくとして。
ちょっと気になる発言が。
「ガウル様?」
「何だ?まだ何かあるのか。巻き込んで悪いと思うがもう勘弁してくれ…」
「いえ、あの…更に追い込みを掛けるようで申し訳ないのですが…借金は全て返した?本当に?」
「返したよ!どれだけ信用が無いんだ!」
「自業自得だろうが」
「何の落ち度もないジュンが巻き込まれてるんだ。文句くらい言いたくなるだろう」
「いえ、そうではなくてですね…」
「じゃあ何だ。本当にもう借金は返したし、おかしな契約もしてないぞ」
「あの…もしかして本当に忘れてます?記憶喪失?」
「何なんだ。はっきり言え」
「いいんですか?本当に?」
「いいから!言え!」
「あの…オークションの時の不足分の金貨二百枚、ボクから借金したの忘れてません?神獣のドラゴンの素材を落札した時の…」
少なくともボクは返して貰っていない。
契約を結んだわけではないし、利子をつけるつもりもないから催促する気はない。だからこそ三年も何も言わなかった。だからといって無かった事にするには少し大き過ぎる金額だし。
シ~ンと部屋の会話は止まる。
ガウル様は大粒の汗をダラダラと流し、アリーゼお姉ちゃんは…ちょっと直視出来ない。
怖すぎて。
「ガウル」
「はい…」
「話がある。ちょっと私達の部屋まで行こうか、ん?」
「はい…」
あ、何かもうガウル様に会えなくなる気がする。処刑台に向かう死刑囚のような雰囲気を感じる。
「ジュン」
「は、はい」
「あの場には私も居たのに、今まで忘れていてすまなかったな。後で必ず返そう。今度こそガウルに洗いざらい吐かせてくるから、もう少し待っててくれ」
「あの…お金は何時でもいいんで、ガウル様を殺さないようにお願いしますね…」
「ふっ、ジュンは優しいな。大丈夫だ。ジュンのおかげでこの城にも治癒魔法使いが常駐出来るようになった。死にかけても直ぐに治る」
「それって…つまり…」
殺しはしないが治癒魔法を使って死ぬ寸前までの地獄を何度も味あわせるってことじゃ…。
ガウル様とアリーゼお姉ちゃんが部屋を出て数秒。最初に口を開いたのはジーク君だ。
「大丈夫ですよ、義兄さん。何時もの事ですから」
「そ、そう?それはそれで不安になるけれど…」
「大丈夫です。お母さんの折檻は上手ですから。僕も何度か受けましたけど、だんだん癖に…」
「駄目だ、ジーク君。その先に行ってはいけない。戻って来なさい」
その先にある扉は開いちゃいけない。
ダメ、絶対。
全力でジーク君に言い聞かせた。
まだ八歳なのに、末恐ろしい…。
それから三日後。
ボク達はブーダンビルの東にある島の一つに調査に来ている。
メンバーは何時もの面子にルーとクー。
ブーダンビルはダルムダットと同じく人族とあまりいい関係とは言えないので、ティナとニィナは留守番だ。
それからロミリオ君とミザリアさんが護衛の騎士三名と一緒に同行するみたいだ。
「大丈夫なんですか?出来るだけフォローはしますが…」
「ご心配なく。これでも私は魔王の紋章の所持者です。それに槍使いの紋章を持ってます。自分と妹の身くらいは守ってみせます」
「それにあたしが居れば百人力よ。言葉通りにね」
「というと?」
「あたしは『歌姫の紋章』を持ってるの。その力は歌が聞こえる範囲に居る味方の能力をアップするの」
なるほど。どの程度アップするのかは分からないけど、中々に有用そうだ。
「歌ってる間は無防備なので護衛が必須ですがね。それは私と彼らが担います。紹介します。私の配下の中で最高の騎士で…」
「パワーのガイアス!」
「スキルのトマッシュ!」
「スピードのオルマテガ!」
「「「三人揃って!!!」」」
「「「蒼い三流星!!!」」」
「……それで?必殺技はナントかストームですか?それともナントかアタック?もしくはナントかキックですかね?」
「いえ…そんな技はありませんが…何かすいません…」
「「「ブルーシューティングスターアタックです!!!」」」
「あるのかよ!」
何だろうな。そんな筈無いのに彼らは日本の事を知ってるんじゃないかと疑ってしまいそうだ。それにしてもロミリオ君のツッコミはキレがあるね。
突然自己紹介を始めた三人は蒼い鎧を着た蒼い蛙人族で鎧の胸元には星が三つ並んだマークが入ってる。
そして未だ決めポーズをとる三人に皆、唖然としてる。
だがハティだけは何かツボに入ったのか、興奮した顔で拍手していたが。
「あの…こんなんですが腕は確かですので…」
「はぁ…まぁ行きましょうか…」
何だか気が抜けたな…
まあ事前情報ではこの島はそれ程危険な魔獣はいないし…何とかなるかなぁ。
「クーちゃん、帰ったらティナちゃんとニィナちゃんの四人でポーズ考えよっか」
「マジで!?やだよ!」
おっと、意外にもルーが影響されたか。
ハティは何か歩きながら変なポーズとってるし…。
流行らなきゃいいけど…。
「ジュン、ウチらも三人で必殺技を…」
「アイ、その三人って私入ってないでしょうね」
アイが刺激されたのはそこか…。
必殺技と言わず連携の訓練ならしてもいいけど…。
「やはり、ジュン様に相応しい異名は『美少女キラー』ではないでしょうか」
「でもそれだと美女は範疇から漏れちゃうんじゃない?姉さん」
「では『おっぱい好き』で」
「いや、そんな異名は駄目だろう。情けないにも程が…」
「それでは『女泣かせ』で」
「ノエラ、お前ジュン様嫌いなの?それ悪口だろ?」
「は?何言ってるんです?愛してるに決まってるじゃないですか」
「とてもそうは思えないが…」
「『ダーリン』でいいんじゃないですか?」
「シャクティだけのダーリンとか言うつもりですか?」
「シンプルに『美少年』でいいと思いますぅ」
「う~ん…確かにシンプルでいいかもしれません」
いいえ、何にもよくありません。
恐ろしい、何て恐ろしい会話だ。
何とか止めねば。
「あ~そこの…『ドMのクリステア』と『快活美少女ルチーナ』と『エロスのノエラ』と『イケメン執事のセバスト』と『巨乳美少女リリー』と『南国系美少女シャクティ』行くよ~」
「ドMのクリステア…ふふっ悪くありません…ジュン様の雌奴隷たる私に相応しい…」
「快活美少女…私、美少女…うふふ…」
「エロス…私にエロスを感じてるんですね、ジュン様」
「イケメン執事…フッ、悪くないぜ」
「巨乳美少女…ちょっと恥ずかしいですぅ」
「南国系美少女…よくわかんないけど美少女ならいいです!」
あれあれ?
皆肯定的?相当酷いと思うんだけど?特にクリステア
もういいや、とっとと行こう。とっとと。
まだ一つ目の島なんだし。
調査対象の島はまだまだあるのだから。




