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第133話 ブーダンビル魔王国

神獣白猿の出した、同族を探して連れて来て欲しいという条件。

それを満たす為、探し始めて二ヵ月ちょっと。

冒険者の依頼をこなしつつ、勇者の遺物の情報集めも並行して行っていたが進展はなかった。


「神獣の情報って案外少ないんだね」


「そうね…ねぇ、ユウの賢者の紋章で解らないの?」


「そこまで便利じゃないよ。神獣白猿について情報は出せても住処迄は…」


となると、やはりエルムバーン国内には他の神獣白猿はいないという事かな。

ヴェルリア王国にはアイシス達が情報を集めてもらうよう打診している。


「ジュン様、アイ様。魔王様がお呼びです」


「あ、うん。わかった」


「私は?セバスン」


「ユウ様は呼ばれておりませんが、ユウ様も一緒の方がいいかもしれません」


「そう。わかった」


何かあったのかな?

ボクだけじゃなくアイも呼んだって事はダルムダット絡みだろうか。


「来たか。さっきアリーゼから連絡があった。ダルムダットで何かあったらしい。アイを連れてダルムダットに来て欲しいそうだ。今から行くぞ」


「え…わ、わかりました」


「待って、ママから連絡が来たんですか?パパはどうしたんです?」


「わからん。とにかく準備を急げ」


「は、はい」


今回はいつものメンバーに父アスラッドと母エリザ。

何があったのかわからないので危険が待ってた場合も考えて、カイエン師匠と親衛隊から数名。

それからセバスンも加えて一度に転移出来るギリギリの人数二十名で移動する。


「アイシス達は悪いけど留守番で。ダルムダットには…」


「うん、わかってるよ」


「ダルムダットとヴェルリアは友好国ではありませんからな。敵対国でもありませんが」


「ダルムダットの問題にヴェルリアの勇者が国の許可を得ず関わるわけにもいかない、か。まぁ無理に付いて行く理由も無い。私達は残って情報収集だな」


「行ってらっしゃい。お土産買ってきてね」


「行ってきます。お土産が買えるかわからないけど…」


セリアさんはマイペースだな…。

本当は危険な魔獣とか現れたなら、勇者の力を借りたいのだけどフランコ君の言う通りだし仕方ない。


準備を整えて転移するとアリーゼお姉ちゃんとジーク君が待っていた。


「来たか。お帰り、アイ。久しぶりだな、ジュン。すまないな急に呼び出して。アスラッドにエリザも。ユウも来てくれたか」


「お帰りなさい、姉さん。お久しぶりです、義兄さん」


「あ、うん…ただいまママ、ジーク」


「お久しぶりです、アリーゼお姉ちゃん。ジーク君も久しぶり。ところでその…そこに転がってるのは…」


「ああ、これか。ガウルだ」


やっぱりガウル様なのか。

ボロボロの雑巾のようにズタボロで転がっている。

一体何が…。

というか生きてるのかな、これ。


「あの一体何があったんです?ガウル様は大丈夫なんですか?」


「ああ、説明する。ガウルはこの程度で死にはしない。ここで話すのも何だ。場所を変えよう」


本当に大丈夫かな…ピクリともしないんだけど…。


「実はな…アイに婚約者が出来たんだ」


「「はい?」」


場所をダルムダット城の会議室に変えてアリーゼお姉ちゃんからの口から出た言葉がそれだった。

あれ?婚約者はボクだよね?


「どういう事です?」


「全てはガウルのバカのせいだ。ダルムダットの友好国の一つのブーダンビル魔王国を知ってるか?」


「えっと…ダルムダットの北にある国ですよね」


現代地球で言えばニューギニア島にある国で、周辺の小さな島も国土にしてる国だ。

エルムバーンやダルムダット程の大国ではないが、そこそこの国力を持つ。


「そうだ。そこの国の魔王、ケロン・ブーダンビルは息子のロミリオとアイを結婚させろと要求してきたんだ」


「そんなの、断れば済む話じゃない。何か断れない事情でもあるの?」


「ああ。これを見てくれ」


アリーゼお姉ちゃんが出したのはある証文の写しのようだ。

内容を要約すると『借りた御金を期限内に返せなかった場合は何でも一つ要求を飲みます』だ。


「これは…?」


「ガウルの馬鹿がケロン・ブーダンビルに借りた金を返さなかったんだ。というより忘れてたんだ。で、ケロンの要求がアイを息子の妻に寄越せ、だ」


それは…いつぞやのパパ上と同じ…いや、より性質が悪いな。


「それでガウル様はボロボロなんですね」


「ガウル…お前…」


「あなたは人の事言えないわよ。でも最低ね、ガウル」


「それで、どうするつもりなんですか?」


「それを相談したくて来てもらったんだ。私としてはアイをブーダンビルにやりたくはない。ジュンを気に入ってるし、何よりアイが望まないはずだしな。それにアイが了承したとしても、この結婚を認めるわけにはいかんのだ」


「というと?」


「ブーダンビル魔王国は隣国バルサラーム魔王国と争っているんだ。お互いの国の間にある島々の領土問題を巡ってな。今はまだ戦争にはなってないが、ケロン・ブーダンビルはうちと縁故関係になり、うちの戦力を利用してバルサラームを攻めるつもりなんだ」


バルサラーム魔王国は現代地球で言えばカリマンタン島にある国で、ブーダンビル魔王国と国力に差はない。

もし、ダルムダットの戦力が加わりブーダンビルがバルサラームを吸収したら領土問題も解決。一気に大国の仲間入りを果たせるというわけだ。


「ダルムダットはブーダンビルとバルサラームとの問題に関わるつもりはない。我が国はバルサラームとも友好国だしな。どうか知恵を貸して欲しい」


「その証文ってどこまで有効なんです?破るわけにはいかないんですか?」


「ああ。ガウルのバカが。きっちり自分のサインにダルムダットの紋章で押印してある。国と国の取引が成立した事になってる。これを破ったらダルムダットの信用は地に落ちる事になる」


「そもそもガウルはどうしてそんな事を?何故借金なんて?」


「それはな、エリザ。お前も知ってるだろうがガウルは一時期放浪の旅に出てた事があってな。その時に金が尽きて借金したんだ。放浪の身の癖に魔王子として契約するなど…言語道断だ。まして忘れるなんて」


それは…弁護の余地がないな。

しかし、どうするか。

アイを渡すわけにはいかないし…。

契約を破棄するわけにもいかないとなると…。


「仕方ないね、ママ。ブーダンビルを滅ぼそう。バルサラームと協力して」


「いやいや、姉さん。落ち着いてください。そんなわけにいかないでしょう」


「私も一瞬考えたがな。因みにケロンは娘とジークの婚姻でもいいと言っている」


「滅ぼしましょう、お母さん」


「早い早い。手の平返しが早いよ、ジーク君」


ジーク君は今八歳か。

八歳にしては大人な考えも出来る子なんだけど…。


「やっぱりジーク君もブーダンビルの娘との婚姻はいや?」


「嫌です。無理です。というかお母さんは色々難しい理由を並べてましたけど、それ以前の問題です」


「というと?」


「義兄さんは、ブーダンビルの魔王とその子供達に会った事はありますか?」


「ううん、ないけど…」


「あの人達は…」


「御話し中、失礼します。ブーダンビルの魔王様の一団がお見えになられました」


突然、一人の執事さんが部屋に入って来てブーダンビルの魔王達がやって来たと報告して来た。

今日来る約束だったの?


「何?今日来るなんて話は無かったはずだぞ。…仕方ない応接室で待たせておけ」


「よろしいのですか?玉座の間ではなく、応接室で」


「構わん。事前の約束無く来たんだ。文句は言わんだろう」


「畏まりました」


「さて…おい、そろそろ起きろガウル。おい」


いや…本当に生きてるんですか、それ。

さっきからピクリとも動いてませんけども。


「チッ…情けない。ジュン、治癒魔法を頼む」


「あ、はい」


機嫌悪いな、アリーゼお姉ちゃん。

すっごい怖い。


「あ…ここは…」


治癒魔法で傷を治してようやく目を覚ましたガウル様。

状況を把握出来てないようだ。


「ようやく目覚めたか。ケロンの奴がまた来てるぞ。その恰好じゃ不味いだろう、さっさと着替えろ」


「ケロンが?あ、ジュンじゃないか。いつ来たんだ?アイもいるのか。アスラッドにエリザまで。どういう状況だ?」


「黙れ。さっさとしろ」


状況が理解できないまま、着替えに部屋を出ていくガウル様。

一体どれだけ気絶してたんだろう?


「あの…アリーゼお姉ちゃん。ボク達はどうしたら?ここで待ってればいいんですか?」


「そうだな…お前達も同席してくれ。ジュンにとっても無関係な話ではないしな。アスラッドとエリザも頼む」


「ああ、わかった」「ええ、義姉さん」


準備を整えたガウル様とブーダンビルの魔王様一団がいる部屋へと入る。

護衛はダルムダットの騎士達に任せて、ノエラ達は別室で待機している。


「待たせてすまないな、ケロン殿」


「いやいや、約束も無しに来た私が悪いので気にしないでくだされ。ところで初対面の方がいらっしゃいますな?」


「御初に御目にかかる、ケロン・ブーダンビル殿。わしはアスラッド・エルムバーン。エルムバーンの魔王だ」


「妻のエリザ・エルムバーンです」


「おお、これはこれは。御初に御目にかかります、ケロン・ブーダンビルです」


この人がケロン・ブーダンビル…いや、人って言うか…。

ジーク君の言いたい事が分かった。

確かに無理だわ、この人達との結婚は。

だってこの人達、蛙なんだもん。

ブーダンビルの一団は魔王から護衛の騎士、侍従に至るまで。皆蛙だった。

蛙と結婚は出来ないよね…。


「そちらの黒髪の女性がアイ殿ですかな?」


「はい。ウ…私がアイ・ダルムダットです」


「よろしく、アイ殿。それで、そちらは?」


「あ…ボクは、いや、私はジュン・エルムバーンです。初めまして」


「初めまして、ユウ・エルムバーンです」


「おお、そちらが噂の。ジュン殿の御高名は我が国でも広まっておりますよ。ああ、紹介しましょう。息子のロミリオです。こっちは娘のミザリア」


「初めまして、ロミリオ・ブーダンビルです」


「妹のミザリアです」


ロミリオ君もミザリアさんも蛙だ。

蛙が服を着て喋ってる。

ロミリオ君は緑でミザリアさんピンクの蛙だ。

ボクだって無理だわー。この場合人種差別になるんだろうけど、全く意見を変える気にならない。


「しかし、エルムバーンの方々がいらっしゃるという事は、あの件は前向きに考えてくれているようですね?」


「ああ…まぁその件で来てもらったんだ…」


「そうですか、そうですか。それで結論は出たのですか?」


「いいや、まだだ。前にも言ったようにアイはジュンの婚約者だ。エルムバーンにも関わる問題である以上、そんな簡単に決められん」


「そうでしょうなぁ。ああ、アイ殿をロミリオの妻にして頂けるなら、ミザリアをジュン殿の婚約者にしても構いませんぞ?どうですかな?」


無理だ。無理無理。無理過ぎる。

どうしよう、ブーダンビルを滅ぼすしかないような気がして来た。


「いいや、この件ではエルムバーンは一切、引く気はない。アイはジュンの婚約者だ」


「そうね。私もアイは好きだし、既に娘のように思ってるもの」


「御義父様、御義母様…」


アイが感動してウルウルしてる。

ボクも今回ばっかりは感動した。


「なるほどなるほど。ではジーク殿と…」


「父上、少しアイ殿とジュン殿と話がしたいのですが、退席してもよろしいですか?」


ロミリオ君が父親の言葉を遮ってそんな事を言い出した。

何だろう、何かあるのかな。

表情からは何も察する事が出来ない。

だって蛙なんだもん。


「ん?まぁよかろう。ガウル殿、よろしいですかな?」


「あ、ああ。アイとジュンがいいならな。どうだ?」


アイと目を合わせると、アイは構わないようだ。

ちょうどいい、ボクもロミリオ君の意図が気になる。


「わかりました。ボクの護衛達が待ってる部屋でいいですか?あとユウも一緒でも。ロミリオ殿」


「ええ。ミザリアもおいで。では父上、失礼します」


「義兄さん、ボクも行きます」


ロミリオ君だけでなくミザリアさんも、ジーク君も来ることになった。

さてさて、どんな話があるのやら。

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