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第132話 白猿vs勇者

「さぁ~いよいよ始まります、世紀の対決。神獣白猿VS勇者アイシス!実況は私、ジュン・エルムバーンと」


「アイ・ダルムダット」


「バルトハルト・ノーヴァ」


「「「以上の三人でお送りします」」」


「そのノリ好きだね、お兄ちゃん」


確かに好きだし、お約束は大事だからね。


「バルトハルトさんまで一緒になって…何の茶番何です?」


「まぁそう言うな。偶にはいいじゃないか」


「はぁ…まぁいいですけど…」


フランコ君には理解出来ないらしい。

嘆かわしい事だ。

現在、ボク達は神獣白猿の案内で山脈の合間にある少し開けた場所に来ている。

道中は雪の為、白猿についていけず、ファンリル一家に乗せてもらった。


「はぁ~あったかいですぅ~」


『うん…シャクティちゃんに気に入ってもらえて何よりだけど…どうせならジュンちゃんにしがみついて欲しいなぁ…』


シャクテイはすっかりフェンリル達の虜のようだ。

フェンリル達は狼姿の時に抱き着くと非常にあったかい。

毛もふわふわのサラサラの美しい毛並み。

抜群の抱き心地。ボクも冬は偶に抱き着かせてもらっている。

だって暖かいんだもの。


『騒がしいな…まぁいい。アイシスと言ったか、そろそろ始めるぞ』


「はい。あ、その前に一つ。僕の剣、メーティスは生きてます。実質二対一と言えなくもないと思うんですけど、その点は大丈夫ですか?」


『ふむ…問題無い。確かにその剣は生きているのだろうが、あくまで剣だ。構わぬ』


「はい、ありがとうございます。じゃ…特訓の成果を見せようか、メーティス」


『おう!やったんでぇ!』


アイシスと白猿が睨み合う。

しばらく睨み合って…


ザッ


と、お互い同時に動き出す。

アイシスは最初から全開のようだ。

勇者の紋章を使用、メーティスの補助魔法も掛けて飛行魔法も使用している。


「勇者アイシスは流石の動きです。メーティスの力もあって武闘会の時よりも格段に強くなってるようです。バルトハルトさんから見てどうですか?」


「そうですなぁ、魔法が今一つだったアイシスの弱点がメーティスによって補われた。呼吸もあって来て格段に成長したと言えるでしょう」


「そして、神獣白猿ですが…」


神獣白猿の動きは速い。

しかもボクの韋駄天の紋章と同じように、何も無い空中を蹴って二段ジャンプしたり軌道を変えたり変幻自在の動きを見せる。

パワーもあるようで、空振りした拳が岩に当たると岩は粉々に吹き飛ぶ。

蹴りが空を切ると雪が吹き飛んで、視界が白く染まる。


「神獣白猿の動きはトリッキーでパワー・スピードともに高いバランスで纏まっています。アイさんはどう見ますか?」


「そうですね~…何だかジュンの動きに少し似てる気がします」


「え、そう?まぁそうか、な?」


韋駄天の紋章を持ってからの動きに似ているのは確かか。

武器が剣と拳という違いがあるけど。


『カアッ!!!』


神獣白猿は口から衝撃波を放つ事ができるようだ。

空中高く飛び上がり、上から下にいるアイシスに衝撃波を放つ。

視界が雪で塞がってる中、衝撃波を躱すアイシス。

アイシスは回避に集中、メーティスは魔法で攻撃。風系統の魔法を放っている。


「火じゃなく風なのは視界の悪さを考慮した攻撃なわけですね」


「やっぱり攻守を分担出来るってのは大きいね。しかもメーティス、二つ同時に魔法発動してるんじゃない?」


攻撃魔法とアイシスが避け切れそうにない攻撃を結界魔法や攻撃魔法をぶつける等して防いでいる。

白猿の攻撃力が高すぎて結界魔法は、一瞬攻撃を止めるだけで砕けてしまうのだが。


「一見、五分五分の戦いに見えますけど、バルトハルトさんの意見はどうですか」


「ふむ、そうですな。アイシスには余力が余りないですが、白猿にはまだ余力があるように見えます。アイシスが若干不利でしょう」


「なるほどお…って、あれは~?」


白猿が自分の毛を毟り、辺りに撒く。

すると、大きさは小さいが白猿と同じ姿に変化する。

その数八体。

白猿本体も含めて九体の攻撃を、アイシスは必死に回避し続ける。

メーティスも防御に集中せざるを得ないようだ。


「自分の毛を媒体に分身体を作ったのか」


「あれって魔法なの?」


「いや、魔力は使ってるだろうけど魔法じゃない。何らかの紋章の力でもない。神獣白猿が持つ特殊能力だろうね。だってあの分身体、生きてるし」


「生きてる?それが魔法じゃない証明になるの?」


「魔法で生み出される生命なんて人造生命体…ホムンクルスくらいだし。それも魔法とはちょっと違うしね。ゴーレムなんかも生きてるように見えるかもしれないけど、あれは魔力をエネルギー源に命令通りに動いてるだけだし。でもあれは…」


「自分の意思で動いてる、という事ですかな?」


「ええ。仮初の命だと思いますけどね。ほら」


アイシスが何とか分身体を一体、切り倒す。

が、血が流れる事もなく分身体の体は霧散し、消えてしまう。


「本当だ。ジュンの言う通りみたい」


「一体倒したけど、アイシスが依然不利だね。このままじゃ先に一撃もらうのは…あ」


「当たっ…てない?」


アイシスに白猿の拳が当たったように見えたのだが、空振りだった。

今のは何だろう?


「バルトハルトさん、解説をお願いします」


「あれは勇者の紋章の力で残像を作ったんです。体に纏っているオーラを一瞬体全体から放つ事で残像を残す。緊急回避技です。知っての通り、勇者の紋章の力は消耗が激しい。余り乱発できる技ではありません」


あんな技まで会得していたのか。

でも確かに消耗が激しいようで、明らかにアイシスは息が上がっている。


『やるではないか。ここまで持ちこたえるとはな。だがそろそろ決着と行こうではないか』


いつの間にかアイシスは囲まれていた。

全周囲から一斉に襲い掛かれるアイシス。

絶体絶命かと思った矢先、アイシスは勇者の紋章の力を全開。

激しく輝く聖剣【メーティス】を地面に突き刺す。

すると、アイシスの周りに地面から閃光が広がる。


「オーラバースト!」


『ぬ!』


それは剣に込めた勇者の紋章の力を全周囲にドーム状に放射する攻撃技。

飛ぶ斬撃、オーラフラッシュよりも攻撃範囲は狭いが隙がない。

白猿本体はギリギリで回避したが、分身体は全て吹き飛んだ。

そこへ更に。


「あ!」「剣を投げた!?」


投げた剣は白猿に向かっていたが、回避されてしまう。

それで力尽きたのか、アイシスはその場でへたりこんでしまう。


『今のは危なかった。だがこれまでのようだな』


「さぁ…それはどうでしょうね」


アイシスは今度は自分で魔法を放とうと手を白猿に向ける。

が、それは囮だったようだ。


『ぬう!』


『ワハハハ!やったったでー!』


メーティスは飛行魔法で自身を飛ばし、戻って来た。

まさか剣が飛行出来るとは思わなかったようだ、白猿は回避しきれず脇腹を掠めてしまった。


『ふむ…我の負けのようだな。見事だ』


「はは…ちょっとズルな気もしますけどね…それに実戦ならこのまま続けてれば僕の負けは確実ですし」


『だがこれは実戦ではない。勝負はお主の勝ちだ』


「ありがとうございます。それじゃ勇者の遺物は…」


『それはまだだ。言ったはずだ、条件は二つだと』


「そうでしたね。とりあえず、傷を治します。ちょっとだけじっとしててください」


傷自体、浅く大した傷でもなかったので簡単に治癒出来た。

アイシスには魔法でお湯を出しハチミツと生姜を少々入れた飲み物を渡す。

飲み物は全員欲しがったので、結局全員に渡す事になったのだが。


「それじゃ、落ち着いたところで。二つ目の条件を教えてもらえますか」


『うむ。二つ目の条件は我の同族を見つけて、連れて来て欲しい』


「同族?別の神獣白猿を?」


『うむ。勿論、雌だぞ』


「雌…それはつまり…」


『我もそろそろ番となる者が欲しい、という事だ』


何という事でしょう。

神獣からまさか女を紹介して欲しいと頼まれるとは…


「基本的な事を聞きますけど、自分で探しに行くわけにはいかないんですね?」


『うむ。我はこの地を守るという約束を勇者ランバとしているのでな。離れるわけにはいかん。だが…独りでいるのも飽いた。頼むぞ』


アイシスが皆の顔を見渡すが…皆難しそうな顔をしている。

かくゆうボクも同じような顔してるだろう。

なんせ他の神獣白猿がどこにいるのか、全く知らないのだから。

しかし、引き受けるしかないだろう。

それに…独りが寂しいのはよくわかる。


「わかりました。引き受けますけど…連れて来た雌が貴方を気に入るか迄は責任が持てませんよ?」


『む…ま、まぁそれは仕方あるまい。そこは自力でなんとかしよう』


「それと、貴方が託された勇者の遺物ってどんな物ですか?」


『我も知らん』


「え?それはどういう事です」


フランコ君が真っ先に疑問を口にする。

皆、そう思ったはずだ。


『我が託されたのは一つの箱だ。箱は勇者にしか開けれないように細工してあるらしい。中身が何なのか、我も知らぬ』


「なるほど…」


箱、ね。

遺物をもらうのも遺物が何なのか知るのもしばらくはお預け、か。


『では、よろしく頼むぞ』


こうして、神獣白猿の嫁さん候補を探す事が決まってしまった。

果たして見つかるのはいつになるのやら。

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