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第129話 自称無能

「リュバーンに向かうのか?テオに会いに?」


「うん。今ならまだ行けるし」


ノーヴァ家で歓迎の宴を受けた翌日。

アイシスが言ってたようにノヴァアレクからリュバーンに向かう事になる。


「ま…あいつもお前に会いたがってたしな。その後はどうするんだ?」


「しばらくはここで御休み。遺物の情報も無いし」


新しい勇者の遺物の情報は、結局ノーヴァ家にも無かった。

冬も始まるし、しばらくは休む事になった。


「そうか。ならいい。気を付けて行ってこい」


「うん、行ってきます」


「ジュン殿、アイシスを頼みます」


「はい。大丈夫ですよ」


「まぁ仮にアイシスを傷モノにしても責任を取って頂けるなら…」


「アッハッハッ!ボクは治癒魔法が使えますから!大怪我しても傷跡すら残さず治してみせますよ!行ってきます!」


「ウフフ、行ってらっしゃいませ」


アロイスさんとミハイルさんに混じってフランコ君も凄い顔で睨んでくる。

ボクは悪い事してないよね?

早く離れよう。


ノヴァアレクからリュバーンまでは馬車で約一日。

雪はまだ積もってない。

道程は順調で無事リュバーンに着いた。


「ここで代官をしてる伯父さんに会うんだよね。じゃあ代官の屋敷に行けばいいのかな」


「んん~…伯父さんの事だから街を散歩してれば会えるよ、多分」


「街を散歩してれば会えるって、そんな。犬じゃあるまいし」


「おー!そこに居るのは我が愛しき姪っ子じゃないか!」


「「え?」」


街を歩いて数分で、一人の男性に声を掛けられる。

ボサボサに伸びたアッシュブラウンの髪を一本に結っている、三十代後半と思しき男性。


「テオ伯父さん!」


「よー!アイシス!また少し大きくなったかあ?お袋さんみたいな美人になる日も近いな!いや、もうなってるか?」


「えへへ。でしょー?」


「まぁ胸はまだまだだがな!はっはっは」


「ムカ!胸もすぐに大きくなるもん!」


「はっはっは。そうだといいがな!」


「おい、こらテオ。往来で姪にセクハラをするな」


「あ、なんだ親父もいたの?」


「いちゃ悪いか、バカ息子」


「テオさん、お久しぶり」


「お久しぶりです、テオさん」


「おー!セリアにフランコも!元気そうで何よりだ!」


アイシスとバルトハルトさんだけでなく、フランコ君とセリアさんも笑顔でテオさんに接してる。

二人もテオさんが好きなようだ。

確かにいい人そうではある。


「それで?後ろの美男・美女・美少女の集団は?まさか親父の愛人じゃないよな」


「そんなわけあるか。こちらはジュン・エルムバーン殿と従者の方々だ。妹君のユウ・エルムバーン殿と婚約者のアイ・ダルムダット殿もいらっしゃる」


「あ、どうも。ジュン・エルムバーンです」


「ユウ・エルムバーンです」


「アイ・ダルムダットです」


「どうもどうも!テオ・ノーヴァです。一応、この街の代官やっとります」


何だか貴族っぽくない人だな。

アロイスさんやバルトハルトさんとは全然違うタイプに見える。


「とりあえず近くのカフェにでも入りましょうか。話はそこで」


「はい」


「おい、テオ。ちゃんと屋敷に案内せんか」


「いやいや、親父。ジュン殿はお忍びで来てるんだろ?なら代官の屋敷になんて通せるわけないだろ。あそこには身内以外もいるんだからよ」


「む…それは確かに。しかし、どうしてお忍びだと?」


「正式な訪問なら事前に連絡くらいあるだろ。でも、そんなん無かったし」


「あ、伯父さん、仕事してたんだ。珍しい」


珍しいの?代官が?

それ、ダメじゃね?


「はっはっは!我が姪よ!俺が仕事するわけないだろう!」


「堂々と言い切った!」


「大丈夫なの?そんなんで」


「それが不思議な事に上手くいってるんだよね」


「この街は治安もいいし、活気もある。発展もしてるし、財政も問題ない。文句のつけようが無いんだ」


「ワハハハ!うちの代官補佐が優秀なんですよ!さぁカフェはこっちです!」


カフェまで歩き始めると、テオさんが人気なのがよくわかる。


「よぉテオさん!」「また店に来てよ!」


「テオさん、寄っていきなよ!」「テオさん!今晩呑もうよ!」


といった風にテオさんに住民達が親しげに話かけてくる。

テオさんも、話かけてくる住民の名前は覚えてるようで、にこやかに応対している。


「凄い人気ですね」


「そうですかぁ?まぁ俺は無能なんで、仕事は部下に任せて街で遊び回ってただけですよ。それにジュン殿程ではありませんよ」


「ボクの事を知ってるんですか?」


「そりゃあそうですよ。アイシスから武闘会での話は聞きましたし。それ以前にも治癒魔法で国民を癒して回ったり。ご存知でしょうが、エルムバーンに近い街に住んでるヴェルリア王国の民も治癒を受けに行ってたんですよ」


もちろん知っている。

当時は暗殺未遂事件もあったので外国人は追い出そうという意見もあったのだが、結局は黙認している。


「極め付けはカタリナ殿下への求婚事件ですね。いやぁ、失礼ながら笑わせてもらいました」


「それも知ってるんですね…」


「もちろんです。こういう楽しい話題は広まるのは早いもんです。ああ、この店です」


テオさんに案内された店は結構大きなカフェで、お洒落で老舗といった感じの店だ。


「いらっしゃいませ。あ~テオさん!」


「よっ!マスター。席空いてる?」


「空いてるよ。今日はずいぶん大人数だね、珍しい」


「ハハハ、まあな」


この店のマスターとも知り合いらしい。

それにしても、皆随分とフレンドリーだ。


席について皆好きに注文する。

アイシスは大量に料理を注文してバルトハルトさんは酒を頼んでいた。昼間っからいいのかね。


「それで話を戻しますけど、仕事してたわけじゃないなら、どうしてお忍びだと解ったんです?」


「そりゃ簡単です。エルムバーンの魔王子が来るって事前に連絡があったなら、前日から街はお祭り騒ぎですよ。俺も流石に部下に捕まって仕事させられるでしょうし」


「捕まるって事は、それでも普段通りに街に出るつもりなんですね…」


「当然です!仕事ってのは適材適所。出来る奴が出来る事をやればいい。無能な私は街を見て回るくらいで丁度いいんですよ」


「否定はしませんが…」


だからって仕事をサボるのもどうだろう。

まあ、それでこの街が上手くいってるなら余計な口出しはしないでおこう。


「それじゃアイシス。そろそろ旅の話を聞かせてくれ」


「うん。えっとね~…」


アイシスの旅の話はボクも知らない話から始まる。

遺物があるはずの場所がゴブリンの住処になってたり、地形が変わって湖が無くなってたりと。

空振りも多かったらしい。

それから話はメーティスの話になる。


「ほ~、喋る剣か。初めて見るな。アイシスを頼んだぞ」


『おう!任しとき!』


「…ふと思ったんだがな。他の勇者の遺物の場所、メーティスが知ってたりしないのか?当時の生き証人だろう?」


「あ~なるほど!流石伯父さん!どうなの、メーティス」


『いや、わいは知らんで。わいの以前のマスターはランバだけやし。ただ神様の祝福を受けた武具の存在やったら感知できるで』


「え」


何それ、聞いてない。

という事はボクの剣の事も分かってるのか。

黙っておいてくれないかなぁ。


「ジュン?どうかした?」


「いや、凄い能力だなって」


『…せやろ?まあそんな遠くまで感知出来へんけどな』


黙っておいてくれるのか?

剣だから表情から読むことが出来ない。

今度確認しよう。


「ま、そんなに都合のいい話はないか。それでその服は?中々いい品みたいだが」


「あ、これ?これはね、エルムバーンの初代まお…」


「うちの宝物庫にあったのを貸してるんです」


「あ、そ…そう!借り物なの!これ!」


今、ポロリと言いそうだったな。

以前聞いてた通り、迂闊なとこがあるようだ。


服の後も話は弾み。

その日はアイシス達は代官の屋敷に泊まり、翌朝にボクが迎えに来る事になった。

そして翌朝。

街の中央の噴水前で合流する。


「またいつでも来い。楽しみに待ってるからな」


「うん!また来るよ。ジュンに転移で送ってもらえばすぐだから!」


「ああ。ジュン殿、アイシスを頼みます。ついでに親父も」


「ついでとは何だ、ついでとは」


「ハハハ。分かりました、任せて下さい」


「何なら嫁に貰って下さい。兄貴とミハイルとフランコは反対するでしょうが」


「ちょっと、伯父さん!」


「な、何で私まで…」


「はっはっはっ!じゃあなアイシス。次に来る時も元気でいろよ」


「うん!じゃあね!」


別れの挨拶を済ませ、アイシス達をノヴァアレクの屋敷まで送る。

そしてお茶を頂きながら、アロイスさん達と話をする。


「不思議な人ですね、テオさんは。自分で自分を無能だって言ってましたけど、とてもそんなイメージは受けませんでした」


「ええ。あいつは昔から…仕事はサボる癖に変に要領がいいと言うか…。他人の使い方が上手いと言うか。妙に人に好かれるし」


「他人とは違う視点で物を見てるのか、他人が気付かない事に気が付けるし」


カリスマってやつかな。

街の住民にも好かれているようだったし。

正直羨ましい能力だ。


「でも何でか結婚しないんだよね、伯父さん」


「え?独身なの?」


爵位を継げないとはいえ、代官の職に就いてるのに。

まぁ自称無能で仕事はサボっているが。


「見合いの話は何度も有ったんですがね。全部断ったんです」


「理由は知らないんですか?」


「頑なに言わないんですよね。全く…生涯独身でいるつもりなのか、あいつは」


何だろう、何か理由があるのかな。

ちょっと気になった。

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