第127話 やっぱり権力を持ったバカは性質が悪い
「ここが水の都かぁ」
「水路が沢山あって街の清掃も行き届いてる。綺麗な街ね」
教会はあるけど、神殿はないな。
ヴェルサイユ宮殿…ないなぁ。やっぱり街の名前が同じなだけか。
「先ずは私達ノーヴァ家の屋敷へ行きましょう。こっちです」
「はい。すみません、大勢で」
今回は前回のメンバーに加えてティナ達四人も来ている。
ヴェルリア王国の王都を見学したいと言うので連れてきた。
「わ~」「お姉ちゃん、離れすぎちゃダメだよ」「何かいい匂いがするね」「あっちに出店があるぞ」
ティナ達ももう十三歳。体は大きくなったけど、中身はあまり変わってないな。
小さい頃から苦労してただけあって、元々が同年代に比べて大人っぽいとこもあるんだけど。
「お気になさらず。しかし、女の子ばっかりですな」
「本当にね。ジュン、いい加減にしないと刺されるよ」
「何怒ってるの…」
言いがかりにもほどがある。
周りに女の子が多いのは認めるけども。
「ジュン様。女たらし」
「やっぱり女癖悪いんじゃないか」
「言いがかりだってばさ、それ」
ちょっと周りに女の子が多いだけだ。
誰にも手を出した覚えもないんだしさ。
「兎に角、一度、バルトハルトさんの屋敷に行こう」
王都のノーヴァ家の屋敷はかなり大きい。
出迎えも大勢の使用人が並んでいる。流石伯爵家。
「お帰りなさいませ、バルトハルト様、アイシス様」
「うむ。後ろの方々は客人だ。失礼のないようにな。アロイスは来ているのか?」
「いえ、今は他のノーヴァ家の方々は誰も」
あの人がここの屋敷を管理してる家宰なんだろう。
正に洗練された執事といった感じだ。
セバスンみたいだ。
「そうか。とりあえず、お客を中へ」
「はい。ようこそいらっしいました。どうぞこちらへ」
屋敷内に案内され、御茶を頂く。
とりあえず一息ついたので、予定を決めよう。
「この後、アイシス達は城に向かうんだよね。どれくらい時間かかるの?」
「そうだね…陛下次第だけど…」
「今、先触れを出したので、そうですな…早くて2、3時間といったとこですかな」
2、3時間もあれば王都の見学は少しは出来るか。
「じゃあボク達はその間に王都ヴェルサイユの観光と行こうか」
「うん!」「私、スイーツが食べたい!」
スイーツね。アストラバンからヴェルサイユまでの街にもお店はあったけど、あまり変わり映えしなかったけどな。王都だと流石に違うだろうか。
「あまり目立たないようにな。無理だろうけど」
「うん、まあ一応変装もしてるし、大丈夫だろうと思いたい…」
今回、あくまで僕達はお忍びで来てるので、いつも通りの恰好だと直ぐにバレてしまう。
そこで変装する事になった。
ボクとアイは金髪のカツラを、ユウは青髪のカツラをつけて、冒険者の服ではなく普通の街着を着ている。
他の皆も鎧やメイド服ではなく、普通の街着だ。
いつもは頑なにメイド服を脱がないノエラも今回は折れてもらった。
これで大丈夫だろうと思っていたのだが。
「美女、美少女の集団って普通に目立つな…」
「人数も多いしね。せめて二手に分かれる?」
それもちょっと考えたけど…
「それはそれで問題が起きた時の対処がしづらい。いざという時に転移で逃げるって出来なくなるしね。まぁ治安のいい街らしいから、大人しくしておけば大丈夫さ。多分」
多少目立っても、要はヴェルサイユから離れるまでエルリック殿下に見つからなければいいんだ。
美女・美少女の集団がいるくらいで目をつけられたりしないだろう。
「バルトハルト様、馬車の用意ができました」
「うむ。では行くか」
「うん。ジュン、またあとでね」
「問題は起こさないでくれよ」
アイシス達が出掛けたのでボク達も観光に行くか。
「ところで、セリアさんは行かなくていいの?」
「いい。陛下に謁見、堅苦しい。王都を案内する」
アイシス達も何も言わないで行ったし、いつもの事なのだろう。
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん。任せて」
セリアさんの案内で、ヴェルサイユを歩く。
アイシス達が王城にいる間は大体いつも街を散策してるらしい。
かなり詳しいようだ。
スイーツのお店も魔法道具関連のお店も網羅してるらしい。
知らなきゃ見つけられないような場所のお店も案内してくれた。
二時間くらい周って少し喉も乾いたので、今はオープンカフェで休憩中だ。
「ふ~、結構周ったねえ」
「うん。でもまだ三分の一くらい」
「え。そうなの?」
「うん。王都は広い」
「あ~そりゃそうよね。王都だけあって大きな街だもんね」
「エルムバーンの王都よりも少し大きいかな?」
水の都というだけあって、ヴェルサイユは街中を大きな水路がとおっており、船で街を移動できる。
「ジュン、このあとはどうする?」
「そろそろ戻ろうか。そろそろアイシス達も帰ってるかもしれない」
「おい、お前達」
「ん?」
いきなり、騎士風の男に声を掛けられた。
いや、騎士風ではなく、騎士なのだろう。
なんだか偉そうな感じだ。
「お前達を殿下が思し召しだ。来い」
「殿下?」
「ヴェルリア王国第一王子、エルリック殿下だ。早くしろ」
「「「(げっ)」」」
しまったー。
まさかここでエルリック殿下本人に会う事になろうとは。
何の用だろう、騎士の態度からしてボク達の事がバレたわけではなさそうだけど。
仕方ないので、とりあえず話を聞きにエルリック殿下に近づく。
エルリック殿下は二十代前半といったとこか。
カタリナさんと同じ金髪で男にしては長い髪。
そこそこのイケメンだが、厭らしい笑みを浮かべていて嫌悪感が出てきてしまう。
「私達に何か御用でしょうか?」
「ああ。お前達、中々美しいな。全員私の妾にしてやる。城まで付いて来い。ああ、男はいらんぞ」
何言ってんだ、こいつ。
いきなり初対面の相手を妾に?しかもこの人数を全員?
アイとユウに至ってはまだ子供なのに。
聞いてたよりも下種な人格のようだ。
「せっかくですが、殿下。私達にそのつもりはありません。どうか他を当たってください」
「ほう?私に逆らうか?犯罪奴隷に落としてやろうか?」
どっかで聞いたセリフだな~。
どっかの三男坊と言ってる事が同じだ。
最も、彼は更生して結構まともになったらしいけど。
「私達は観光に来ていただけの者です。ヴェルリア王国の民ですらありません。殿下の命令に従う理由はない筈です。どうかお許しください」
「そんな事は関係ない。私が決めた事が全てだ。大人しく付いて来い」
再度、ノエラが断りを入れるがエルリック殿下は聞き入れない。
権力を持った傲慢なバカって本当に性質が悪いな。
しかし、これじゃ平民として振舞っていたのが裏目に出たな。
さて、どうしようか。転移で逃げてしまうか?
「お待ちを。お久しぶりです、殿下」
「うん?お前は…アイシスの仲間か」
「はい、セリアです。殿下、この者達は旅先でアイシス様達を助けてくれた恩人です。今はノーヴァ家の客人として王都に滞在しています。それなのに無理やり妾にしては、困った事になるのではないですか?」
おお、セリアさんが長文を喋ってる。
しかも、ボク達を守るために。
ちょっと感動。
「ふん。仕方ない。ここは引いてやろう。それよりもだ、お前がここにいるという事はアイシスも王都にいるのだな?」
「はい。今は陛下と謁見中の筈です」
「そうか。ならば急ぎ戻るとしよう。いくぞ」
「「「ハッ」」」
こちらに一言も詫びを入れずに取り巻きと去っていくエルリック殿下。
彼が国民に人気が無いのも道理だな。
「ありがとう、セリアさん」
「いい。気にしないで」
「しっかし、まさかいきなり直接会う事になるとはなぁ。せっかく変装してたのに」
「変装しても、女性は殿下に目を付けられる可能性があった。迂闊」
「そうか…ところでよかったの?アイシスの所に行ったようだけど」
「うん。後で謝る。でもいつもの事だから、きっと大丈夫」
「つまり、殿下はアイシスを狙ってるのね」
「そしていつもフラれてる、と」
「うん。アイシスはエルリック殿下に求婚されてる。でも陛下が許可してないし、アイシスの味方だから」
「冷たくあしらっても問題ないわけだ」
「うん」
アイシスを狙うのは勇者だから、だろうなあ。
あの人に愛とか無さそうだし。
「とにかく戻ろうか。アイシス達が殿下に会わずに戻ってる可能性もあるし」
「「「は~い」」」
少々後味の悪い観光になってしまった。
やはり観光を控えるべきだったかなあ。
「とゆう事があったんだ」
「はぁ…あの人は…」
「全く…ヴェルリア王国の品位を貶めるような真似は謹んでもらいたんだが…」
「無理でしょう。あの人には」
ノーヴァ家の屋敷に戻ると、アイシス達はもう戻っていた。
ちょうどエルリック殿下が出掛けていたので、会わずに済むようにと、国王陛下が気を使って早く済ませてくれたらしい。
「という事は今頃、王城か。エルリック殿下は」
「ここに突撃してこないでしょうね、あの人」
「陛下が足止めしてくれる事になってるから、流石に来れないだろう」
「だといいけど…」
「それで、カタリナさんは来るの?」
「え…ああ、うん。来るよ。来る来る」
「んん?どうかした?」
「いや。別に。何でも」
何か隠してる風だな。何だろう?
「御茶です」
「あ、ありがと…う?」
さっきから部屋にいたメイドさんなんだけど…。
どっかで見たような…。
「て、あれ?カタリナさん?」
「「「え?」」」
「ようやく気付いたか」
御茶を入れてくれたメイドさんはカタリナさんだった。
メイド服のカタリナさん。いい…。
「何見惚れてるの?ジュン」
「メイドなんて見慣れてるでしょ?お兄ちゃん?」
「見惚れてないよ?驚いただけさ~」
でも、普段メイド服の人を見ても驚きはないけど、普段メイド服じゃない人がメイド服になると新鮮でいいよね。お色気二割り増しくらいにはなるよね。
まぁカタリナさんとは久しぶりだから、どちらにせよ見慣れてないのだけど。
「ハハハ。驚いてくれたようで何よりだ。久しぶりだな、ジュン。アイにユウも」
「はい、お久しぶりです」「は~い、カタリナ。元気だった?」「久しぶり」
「うむ。アイシス達と行動を共にするようになったらしいな。大体のあらましは聞いた。君がアイシス達の仲間になってくれたのは私にとっても僥倖だ。いや素晴らしい」
「王位継承絡みですか?」
「うむ。最近特に不穏な空気は広まりつつあるのでな。私を支持してくれている勇者アイシスとエルムバーンの魔王子が仲良くなれば、私に手出ししにくくなるというもの。ましてや二年前のあの件もあるからな。あの件のおかげで私を害すればエルムバーンが黙ってないかもしれないという空気が広まってだな…」
「それ、結局広まったんですね…」
「当たり前だ。言ったろう、無理だと」
デスヨネー。
出来れば広まってほしくなかった…。
「しかし…ジュン。君はいつも、こんなに女の子ばかり連れてるのか?これではフランコでなくても女癖が悪いと疑われても仕方がないじゃないか」
「いや…誰にも手出しはしてないんですよ?いやほんと」
まあ、逆の立場ならボクも同じ感想を持つと思うけど…
「ま、まぁそれは横に置いておいてですね、学校と治癒魔法使いの育成はどうなってますか?順調ですか?」
「うむ。学校は来年には開校できるだろう。いま校舎を建設中だ。治癒魔法使いの育成はまだまだだな。エルムバーンに派遣した者達が中位治癒魔法使いになって戻って来るまでは、育成機関を立ち上げる事は出来んからな。まあ仕事の話はよそう、今日は歓談に来たんだ」
「そうですね」
それからしばらくは歓談に興じ。
カタリナさんが帰る時間まで楽しんだ。
晩餐も一緒に頂き、カタリナさんも少しは羽を伸ばせたようだ。
「今日は楽しかった。皆、ありがとう」
「ううん。カタリナも大変だろうけど、頑張って」
「アイシスもな。ジュンもアイシスを頼むぞ」
「はい。カタリナさんもお気をつけて」
「大丈夫だ。城には私の味方も多い。おいそれとおかしな事はできないさ。ではな」
カタリナはそう言って城に帰っていった。
メイド服のままで。
いいのかな?
「誰も送って行かなくていいんですか?」
「大丈夫。ほら」
「あら、ほんと」
ノーヴァ家の屋敷の外にはカタリナさんの護衛が待機していた。
姿を見せるまで気配に気づかなかった。
かなりの手練れらしい。
「お祖父ちゃんが鍛えた剣士なんだ。その中でも指折りの剣士達だよ」
「ふうん…一度手合わせしてみたいかも」
アイってばどこかの戦闘種族みたいな事を。
まぁボクもちょっと思ったから、大分染まって来たのかもしれない。
「さ、今日はもう遅い。このまま泊まって頂きたい所ですが、そうもいかんでしょうな」
「ええ。朝までエルリック殿下が大人しくしてるとも限りませんし、エルムバーンに戻りましょう」
転移で城に戻る事にする。
実際に会ってやはり、エルリック殿下にはもう会いたくないと思った。
そうはいかないのだろうけど…。




