第124話 メーティスの話
『ほほう、転移魔法とは。珍しいやん』
目的を果たして、ボク達は転移魔法でアストラバンに戻って来た。
冒険者ギルドでベヒモス達の素材を出すと、アストラバンの冒険者ギルドでは久しぶりに出た大物の素材らしく、ちょっとした騒ぎになってしまった。
オークションに掛けるそうなので換金はまた後日だ。
今は全員宿に戻ってきている。
「メーティスがあの神殿に安置される前から、転移魔法を使える人は少なかったのか?」
『おう。使えてもこんだけの人数を、これ程の距離を転移出来る奴はわいが知る限り、おらんかったで』
「メーティスはどのくらいあの神殿にいたんだ?」
『さぁなぁ。ぽっくりわからんわ。殆ど寝とったからなぁ』
「寝れるのか。剣が」
何て斬新な。
「じゃあ、メーティスの前のマスター…勇者の名前を聞いてもいいか?」
『おう。ランバってオッサンや。ガチムチのハゲで剣より土木工事が似合いそうなオッサンやったで』
「勇者のイメージが音を立てて崩れていくようだ」
嫌だな、そんな勇者。
必ずしも勇者はイケメン、もしくは美少女である必要はないのだが。
『でもまあ、人格は勇者に相応しい人格やったんとちゃうか。多くの人を助け、慕われとった。ランバの死後はランバの遺言に従って、恩がある人々があの神殿を作って、わいを安置したんや』
「どうしてそんな?」
『勇者の紋章は血縁で継承されんからなぁ。将来の勇者の為に残す事になったんや』
「あの場所を選んだ理由は?」
『え?なんやったかな~…ああ、そやそや。ランバにはセリアっつう仲間が居ったんや。セリアは預言者の紋章を持っててな。その予言に従って--』
「はい、ストップ」
『ん?何や?』
「預言者の紋章を持ってたセリア?」
『せや。紫の髪の魔法使いでな。中々別嬪やったで』
「それって、もしかして。こんな感じの子じゃなかった?」
皆の注目がセリアに集まる。
本人はノエラが淹れたお茶を飲みながらお菓子を食べている。
その様子は、やっぱり小動物をイメージさせる。
『ん~?おおっ。そういやあ似てるなあ。最初見た時も誰かに似てる思てたんや。あんた、ランバの仲間やったセリアにそっくりやで』
「という事は、やっぱりそうなのかな」
『何がや?』
「この娘は僕の幼馴染で、預言者の紋章を持つセリア。君の前マスターの仲間セリアの生まれ変わりなんじゃないかって事」
『何やて?ほんまかいな』
「うん。ほんま」
肯定の意を示してから額の髪を上げ、紋章を出すセリア。
そこにあったんだね。
『おお~、ほんまやな。これはまた、ごっつい偶然。いや運命か?そういやぁセリアは最後に「また会おう」とか言ってたわ。まさかこの再会も預言しとったんかなぁ』
生まれ変わって再会か。
何か物語にありそうっちゃありそうやね。
「前世の私、美人だった?」
『おう、別嬪さんやったでぇ。胸が小さいのをよう嘆いとったけどな』
「むぅ。それは一大事」
一大事なのか。
女の子にとってはそうなのか。
「ジュン様」
「な、何かな?」
「胸はどうすれば大きくなる?」
「何故それをボクに聞く」
ボクは男だし、女性の胸を大きくした実績もないよ?
「ジュン様、博識だから」
「博識だから何でも知ってるわけではないんだけども。とりあえず、そこに胸のおっきい人がいるから、その人達に聞きなさい」
今度はリリーとクリステアに注目が集まる。
日本だと、これもセクハラになりそうだな。
「り、リリーですか?」「私ですか」
「うん。教えて」
「えぇ…う~ん…リリーは特に何かしたわけじゃ…」
「私も特には…」
「「「ケッ」」」
二人の言葉は女性陣の反感を買ったようだ。
アイシスもそっち側なんだね。
「あ~、ところで。これからどうするの?アイシス達は次の遺物を探しに行くの?」
「そうだな。我々は次の遺物の在処の情報を受け取りに王都ヴェルサイユに戻る。報告も兼ねて」
「「「ヴェルサイユ?」」」
「うん?どうかしたか?」
「いや、何でも…」
ヴェルリア王国の王都はヴェルサイユって名前だったのか…。
他国の街の名前とか調べて無かったけど、何で現代地球で言えばロシアに位置するヴェルリア王国の王都がフランスのヴェルサイユになるのか。
パラレルワールドらしいっちゃらしいのか?
「それじゃ、ここでお別れって事になるんだろうけど、その前に一緒に来て欲しいとこが…」
「お別れ?何言ってるの?」
「うん?」
「依頼はまだ終わってないよ?それにジュンはヴェルサイユに来た事ないでしょ?転移出来るようになる為にも来てもらわないと」
「はい?遺物は見つかったやん?遺物が見つかるまでって依頼内容やったやん?」
「せやね。でも依頼内容は『遺物を見つける迄の護衛』やん?これからも遺物を探す旅は続くんやで?」
「「「えええ」」」
確かに、その内容だと今回限りと決めたわけじゃないけど…
もしかして嵌められた?
「アイシス、流石。これで旅が楽になる」
「い、いやいや。まてまて。相手はエルムバーンの魔王子だぞ?ずっと私達の旅に同行する訳にはいかないだろう」
「それはそうだね。でも僕達の旅もそれほど急いでるわけじゃないし、ジュン達の都合に合わせても、ジュン達が居た方がよっぽど時間を短縮できるよ。転移で移動する時間だけ考えてもね」
「それは…しかし…」
「それにジュン達について行って、色んな場所で遺物の情報を集めた方がいいと思わない?エルムバーンにも遺物の情報があるかもしれないし」
「しかし、彼らとずっと一緒に行動するとなると、エルムバーンの事情に巻き込まれるかもしれないぞ」
「その時は冒険者として手伝えばいいじゃない。それに僕達の事情に巻き込んで手伝ってもらうんだし、僕達も手伝って当たり前だよね」
「う…」
ちょっとは考えてるみたいだ。確かに移動時間が大幅に短縮されるのは間違いない。
お互いの手伝いをするのは、内容によっては自粛しなくてはいけないだろうけど。
「バルトハルトさんは、どう思いますか?不味いですよね?」
「いや、お互いに関わる問題を選べば問題なかろう。ヴェルリアとエルムバーンは友好国。お互い冒険者登録もしてるし、パーティーを組んだ事にすればいい。だがなアイシス」
「何?」
「この話、我々にはメリットが大きい。だがジュン殿達にメリットがあるか?」
「それは…ほら私達もジュン達に協力するし。依頼だし」
「そんな詐欺のような依頼で縛った関係など…ましてや相手は魔王子だぞ?王国に抗議されたら問題になる。そこまでいかなくても、依頼を破棄されたらそれで終わりではないか」
確かに。それに今現在、こちらには勇者パーティーの協力が必要な案件はない。
「う…じゃあどうしたらいいの?」
「依頼内容を変えて契約しなおせ。今のままなら、ただ普通にお願いしたほうがマシだ」
「う、うん。えっとジュン、それでいいかな?」
「ふぅ…わかったよ。それにまぁ約束もしたしね」
「「「約束?」」」
「気にしないで」
まぁボク達も世界の異変を探って世界の要を見つける目的もある。
そのついでに勇者の遺物を探すのもいいだろう。
それにいざという時、勇者の力を借りれるのは大きい。
「それで、さっき何か言いかけて無かった?」
「ああ。うん。アイシスに一緒に来て欲しい所があるんだ。転移で直ぐにいけるから」
「何処に行くの?」
「エルムバーンの南の島なんだけど…」
「ちょっと、お兄ちゃん」
「何?」
「一応、お父さんに許可を貰ってからの方がいいよ。勇者以外の人も連れてく事になりそうだし」
それもそうか。
一応、あの場所は重要機密って程ではないけど、大っぴらにするなとは言われてるし。
「じゃあ、まずはお父さんに会ってもらうか」
「お父さん?エルムバーンの魔王様?もしかしてお母さんにも会う?」
「うん?まあ多分、会う事になるかな」
「えええ…いきなり?御両親に紹介?ドレスとか持って来てないよ?」
「落ち着け、アイシス。そういう話じゃなかったろう」
「ええ、でもさ~普通に考えても一国の王に会うのに、こんな格好じゃ不味いんじゃない?」
「む…」
「心配しないで。うちはそんなの気にしないから。それに非公式だしね」
「そ、そう?それならいいけどさ」
まぁあんな感じの両親だしね。じゃ、エルムバーンに戻るとしよう。




