第122話 ベヒモス 2
再び谷底へ降り、岩の裏に潜んで確認する。
ベヒモスは谷の奥で横になって眠っているようだ。
レッサーベヒモスは手前で固まっている。
「(ベヒモスとレッサーベヒモスの間に、ギガントロックゴーレムを出す。壁にしかならないだろうけど、ベヒモス達を分断出来るだろう)」
「「「(了解)」」」
ギガントロックゴーレムは岩で出来た通常のゴーレムよりも巨大なゴーレムだ。
動きは鈍いが頑丈でパワーはある。
「(じゃあいくよ!)」
合図と共にギガントロックゴーレムを出し、攻撃を開始する。
突然現れたゴーレムにベヒモス達の意識は集中されボク達に気が付いていないようだ。
すり抜けざまにレッサーベヒモスに攻撃を加え、ベヒモスの前に出る。
アイ達の戦闘は既に始まっている。
早くも二頭、仕留めたようだ。
「ガアア!」
ハティは狼の姿に戻り戦っている。
ベヒモスを相手にするには流石にまだ力不足だが、レッサーベヒモス相手なら劣る事はない。
体格こそ負けるものの、パワーはほぼ互角。
スピードはハティの方が遥か上をいっている。
「ほほう、アレがハティ殿の本来の姿…流石神獣フェンリルですな。私も負けてはおれんな」
バルトハルトさんにレッサーベヒモスが襲いかかる。
ほんの一瞬、バルトハルトさんが霞んだように見えた。と、思ったら。
「フッ」
次の瞬間にはレッサーベヒモスの首がするりと落ちた。
流石だ。
「セリア、次は右奥の奴だ」
「うん」
フランコ君とセリアさんの二人は一斉に襲えないように、魔法でレッサーベヒモスを牽制している。
セリアさんの実力は武闘会で見ていたが、フランコ君も中々のようだ。
「ワハハハ!ウチのこの手が光って燃える!敵を倒せと---」
「アイ!そんな事言ってる暇ないって!」
全くだね。
それにそのセリフは危険だ。
「チェ。じゃあ以下省略!波ぁぁぁぁ!」
わー。
何あれ。まるでかめは〇波。
前口上と違う必殺技が飛び出し、直撃を受けたレッサーベヒモスが吹っ飛んだ。
拳聖の紋章を得て、人外の存在になりつつあるな…。
いや、堕天使なんだから元より人外なんだけども。
「じゃあ、私も!はぁぁぁ!」
アイに続いてユウまでもが!
君達、そんな技を会得してたの?
アイは闘気。ユウは魔力という違いはあるものの、二人揃ってかめは〇波のような技を披露。
威力もそこそこあるようだ。
流石に月を吹っ飛ばしたり、地形を変える程の威力はないようだが。
「ルチーナ!」「任せて!」
一頭、リリー達に向かっていったが問題無いようだ。
クリステアが抑えている間に、ルチーナが仕留める。
そういう形が出来上がってきている。
クリステアは防御力は親衛隊では随一。
ルチーナの攻撃力もかなりのモノだ。
伊達に実力で親衛隊の中からボクの護衛として来ているわけではないのだ。
「ジュン!よそ見してないで!」
「おっと」
アイ達の様子を見守っていたら、ベヒモスが襲いかかってきた。
流石に討伐難度Sの魔獣。
中々の威圧感だ。
牙、爪、体当たり。
尻尾にも棘があるのか?岩を砕いて石つぶてのように飛ばしたりもしてくる。
結構多彩な攻撃だ。
巨体だがスピードもある。
この谷はベヒモスにとって決して広くない場所だろうに、あろうことかボクの魔法を躱しよった。
魔力を帯びた霧を主食にして、長らく狩をまともにしてないだろうに。
流石に強いな。
しかし、こちらも勇者アイシスと二人掛かりだ。
徐々にダメージを与えていく。
アリの時は簡単に斬り裂けたけど、ベヒモスは堅い。
ロックバードの羽毛程ではないが毛も硬いし、皮も硬く厚い。
「ならば、狙うは防御の薄い箇所!アイシス!この剣の能力を見せてやる!」
「え?おお!」
【フレイヤ】の蛇腹剣モードをアイシスに披露する。
剣が伸び、ベヒモスの右眼に突き刺さる。
「グギャオオオオオ!!!!」
「そこから更にー…おっと」
剣先から剣気を伸ばして止めを刺すつもりだったのだが。
野生の勘か?すぐさま引き抜いて躱されてしまった。
「ナニそれ、凄いね!」
「まぁね。でも止めの一撃は躱されちゃったな…って何か仕掛けてくるぞ!」
ベヒモスの二本ある角と角の間に光る球が出てる。
あれは---
「ライトニングブラストだ!皆、気をつけろ!」
ベヒモスが持つ、必殺の特殊能力。
強力な電撃を放射する技だ。
何とか避けたが射線上にいたギカントロックゴーレムは一撃で爆砕されてしまった。
御かげでアイ達も無事ではあるようだが。
「しょえー。凄い威力だな」
「次は撃たせる訳にはいかないね」
流石にあの黒いドラゴンのドラゴンブレス程ではないがかなりの威力だ。
範囲も広い。それなりに広い谷ではあるが、避け切れない者が出るかもしれない。
「ジュン!ごめん、抜かれた!」
ゴーレムという壁が無くなった事で、ターゲットをこっちに切り替えた奴がいたようだ。
一頭のレッサーベヒモスが背後から迫ってくるのがわかる。
「ジュン!」
「大丈夫」
ザシュ
と、【アトロポス】の魔力の剣を形成する能力で柄頭から剣を伸ばし、レッサーベヒモスの眉間を貫く。我ながらよく出来たと思う。
「そっちはそういう能力かぁ。凄いね」
「ふふん。自慢の剣ですからっ」
「さて、と。じゃあ決着をつけますか」
「うん。ボクは奴の死角になってる右側から攻める。隙を作るから、止めは任せた」
「うん、任された」
ベヒモスの右目は潰してあるので、右から攻める。
そして二年の訓練で獲得した紋章を使う。
「え、はやっ」
強脚の紋章は変化し、韋駄天の紋章になった。
韋駄天の紋章は結構珍しい紋章らしく、上位に位置する紋章だ。
脚が強くなり移動速度も大幅に上がり、天井に逆さに立ったり、何もない空中を蹴ったりも出来る。
まぁ空中を蹴る能力は飛行魔法が使えるので、あまり出番はないかもしれないが。
「フウウウ、フッ」
高速で移動しつつ、すり抜けざまにベヒモスの右前脚を斬りつける。
続けて、下に潜り込み胴体を斬り付ける。
「グォォオオオ!!!」
痛みでのけ反ったのを見てベヒモスの下から出て、ベヒモスの脚全てに斬り付けダメージを与える。
そして【フレイヤ】を蛇腹状にして右前脚を抑え、【アトロポス】の魔力剣を伸ばし左前脚を貫き抑える。
「アイシス、今!」
「うん!」
ベヒモスの頭上高くに飛び上がったアイシスはそのまま、まるでギロチンのように剣を振り下ろし、ベヒモスの首を刎ねる。
決着だ。
断末魔の声も無くベヒモスは倒れた。
「やったね、ジュン」
「うん。さて、向こうはどうなったかな」
向こうも決着がついたようだ。
最後の一頭をハティが仕留め、谷底のベヒモス達は一掃出来た。
「皆、お疲れ。怪我をした人は?」
「皆、大した傷はありません。大丈夫です」
皆、かすり傷で済んだようだけど、治癒魔法で治しておく。
ボクが治癒魔法で治すのを見てるフランコ君の目が少し気になった。
「じゃあ、ベヒモス達の死体を回収したら、遺物を探そうか。神殿があるんだっけ?」
「…ああ。何処かに神殿の入り口がある筈だ」
やっぱり何か不満そうだ。
何だろう?
「(気にしないで、ジュン。フランコは君が自分より上位の治癒魔法が使えるから、悔しいんだよ)」
そういう事か。わからないでもないが、今はどうしようもない。
今は遺物のある神殿の入り口を探すとしよう。
「じゃ、手分けして探そう。正し、単独行動は禁止」
ベヒモス達は倒したけど、新たな脅威がやってこないとも限らない。
何せ、この霧は魔獣のエサになるのだから。
それから探索を続け、セバストが神殿の入り口を発見する。
「ジュン様、この亀裂の向こうに下に降りる洞窟の入り口がある。霧もそこから出て来てるみたいだし、多分そこだ」
「それは、つまり…この霧は遺物が関係してるかもしれないって事か」
「ねぇ、フランコ。その遺物【メーティス】ってどんな能力なの?」
「能力までは伝わっていない。だが状況から考えて【メーティス】がこの霧に関わってるんだろうな」
どういう事なのかしらん。
まあ、見つければわかるか。
「じゃあ、その洞窟に入るとしますか」
いよいよ、勇者の遺物を目にする時が来たようだ。
厭らしい罠とか無ければいいけど。




