第120話 遺物眠る谷の底へ
「遂に勇者の遺物が眠る地へと辿り着いた一行。この先に何が待ち受けるのか、彼らはまだ知らない」
「突然どうしたんですか?ジュン様」
「誰に言ってるの?ご主人様」
「気にしないで」
リリーとハティには理解出来ないだろうと思ってた。
いや、二人だけじゃなくユウとアイ以外は誰も理解出来ないだろうな。
故に二人からのツッコミを期待したのだが。
「ツッコミ辛いよ、ジュン」
「私も」
「なんと」
考えて見れば現代地球のネタを出しても皆の前ではツッコメないか。迂闊だった。
「何だ?今の、何かのジョークだったのか?」
「申し訳ありません、ジュン様。理解が及ばず…」
「うん、気にしないで。お願いだから」
謝られると逆につらい。
「え、え~と…わ、わ~ジュン様、おもしろ~い」
「シャクティの反応が一番つらいかな!無理しなくていいから!」
前世で校長が笑えないジョークを言った時に無理矢理愛想笑いしてたのを思い出した。
実は校長も今のボクみたいに辛かったのだろうか。
「ごめんね、ジュン。僕にもわかんないや」
「今のは何処が笑うとこだったんだ?」
「ジュン様、センスない」
「ジョークは分かり易いのが一番ですぞ」
「ほんっともう、すみませんでした!」
勇者様御一行からもきつい御言葉。
特にセリアさん、きついっスね。
涙がこぼれました。
「ジュン様。辛い時はどうぞ、私の胸で泣いて下さい」
「そこまで大袈裟な事でもないでしょ、姉さん」
いや、そうでもないっスよ、ルチーナさん。
今回は胸を借りたい気分です。
ややこしい事になるから我慢するけど。
「さ、何事も無かったかのように先に進もう」
「自分で言っちゃうんだね、お兄ちゃん」
「まぁ実際に何かあったわけじゃないけど…」
兎に角、先に進もう。
「えっと、この山の何処にあるとか具体的なとこまでわかってるの?」
「えっと…何処だっけ、フランコ」
「説明したろう、全く…この山の何処かに深く広い谷がある。その谷の奥に神殿があって、そこに安置されているはずだ」
「何が安置されてるか、までわかってるの?」
「ああ。剣だ。聖剣【メーティス】。神に祝福された最強の剣だ」
剣?
あれ、でも…過去の勇者が使ってた剣は今はボクの剣に生まれ変わってるし…。
「あの…過去の勇者が使ってた剣って何本あるの?」
「うん?さぁな。大昔は勇者が生まれるたびに、その勇者に相応しい武器を新たに生み出したらしいが、いつしかされなくなった。今じゃ現存してる遺物を使いまわしてる」
「あれ?じゃあ何でアイシスは遺物を探す旅を?」
「勇者の遺物は勇者が生まれた国で保管されてるのが普通だ。国が用意した物が殆どだから当然だな。だが我が国にはかつて勇者が生まれた事はない。アイシスが初の勇者だ。故に国が持つ勇者の遺物は無い」
「そうなると、今探してる遺物は?」
「過去全ての勇者の武具が遺物として国に保管されてるわけではない。滅んだ国に保管されてた物もあるし、国に所属してなかった勇者もいる。そういった勇者が残した遺物の記録が発見されたんだ」
「なるほど。誰の物でもない遺物。なら見つけた者が自分の物に出来る、つまり早い者勝ちだと」
「そういう事だ。って、まさかエルムバーンで確保するつもりか?」
「いやいや、まさか。でも、他の国も探してそうだし、大昔の物ならとっくに別の誰かが見つけ出してる可能性もあるんじゃない?」
「ああ。無論そういった、既に誰かに持ち去られた物もあるだろうし、現在も他の誰かが探してるかもな。だが今回は大丈夫のはずだ。セリアの預言の紋章によれば、な」
「なるほど、協力者を得れば探し物が手に入るって預言されたんだっけ」
「うん、そう」
「それにアイシスにはまだ、ちゃんとした武器がない。アイシスの力に耐えれるだけの武器が。だから、ここに眠る聖剣【メーティス】は是が非でも手に入れたい」
【メーティス】…確か、現代地球の神話に出て来てたような…。
うろ覚えだから自信は無いけど、これも神に祝福された剣なら特殊な力が備わってるはず。
アイシスが持てば鬼に金棒だろう。
「剣と言えば、ジュンが持ってる剣。相当な力を持ってるでしょ。それこそ勇者の聖剣と言われても信じられそうなくらいに」
するどい。
流石にいい勘してる。
ここは、ある程度真実を教えて肝心なとこはボカす方向で…。
「よくわかったね。これオリハルコン製の一品だよ」
「オリハルコン製?なるほどぉ。でも、それだけじゃないよね?まだ何かあるでしょ」
本当にいい勘してる。
まだ一度も使ってみせてないのに。
「まぁね。ボクの要望通りのオーダーメイド品で、ステファニアさんの最高傑作と言わしめる出来の剣だから」
「ステファニアさん?また女?」
また女?って…なんかちょっと引っ掛かるけど…。
「違うよ。覚えてない?武闘会の時、アイシスの可愛い御尻をさらけ出したドワーフのオカマさん」
「ちょー!見てたの!?やっぱり見えてたの!?」
「そりゃあもう、バッチリと。ねぇ、フランコ君」
「わ、私に振るな!試合中だったんだから試合を見てたら自然に目に入るだろう!」
「そうだけど!うぅ~!思い出したら腹立って来た!あんのオカマドワーフ!」
話を逸らす事に成功したかな?
まだ【フレイヤ】と【アトロポス】の事は知られない方がいい。
とはいえ、使わないと勿体無いから、バレないように使おう。
「ジュン様、谷だ」
「大きな谷です。恐らくここがそうでしょう」
前方を歩いてるセバストとノエラが谷を見つけたようだ。
目的の場所は近いらしい。
「なら飛行魔法使える人は飛んで降りよう。使えない人はここで待機。ボクが一度降りて転移魔法で迎えにくるよ」
「いや、そうもいかないらしい、ジュン様」
「あれを見てください」
ノエラに言われて谷を見る。
「何にも見えない…」
「はい。谷の底が見えない状況で飛行魔法で降りるのは危険かと」
谷の底は霧で覆われてよく見えない。
深さもわからないし、これで飛行魔法で降りるのは少々危険か。
それに…何かイヤな感じがする。
「ねぇ、ご主人様」
「何?ハティ。どうかした?」
「谷の底から、魔獣の匂いがするの。強い魔獣の匂い」
神獣フェンリルとしてかなり成長したハティをして強いと感じる魔獣か。
相当な存在がいるようだ。
「なら、やっぱり飛行魔法で降りるのは危険だな」
「何処かに谷底に降りれる道があるはずだ。それを探そう」
フランコ君の言に従い谷底へ降りる道を探し、見つけ。
谷底へ近づくに連れて、イヤな気配が強くなる。
「こりゃ相当な存在がいそうだな。どうする?ジュン様」
「兎に角、進もう。何がいるのか確認しなきゃ進むか撤退するかも決められないし」
「了解だ」
「隊列を変えよう。先頭はクリステア。次にセバストとノエラだ。ハティとリリーは中央で周囲の気配を探って。殿はバルトハルトさん、お願いします」
「はい。お任せください」「はいですぅ」「わかったー」「任されたぞ、ジュン殿」
ボクが指示する事に勇者パーティーから不満が出る事も無く、指示通りに動いてくれる。
こういう危険が迫ってる時に言い争いをしてる場合じゃないってわかってるのだろう。
「ねぇ、ジュン。いつも見たいに探査魔法で探れないの?」
「それが…あの霧のせいなのかな。探査魔法で探れないんだ。あの霧が魔法に対する壁になってるような…」
「何それ。普通の霧じゃないの?あれ」
「どうもそうみたいだ。益々注意が必要って事だな」
そして谷底へ辿り着き。
想像以上に厄介な存在を目にする事になる。




