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第118話 便利な方がいい

アイシス達の依頼を受けた翌日。

今、ボク達は馬車で移動中だ。


「……」


「何をそんな不満そうな顔してるんだ?」


「変な顔」


「だって!最初っからこれ!?」


今乗ってる馬車は二十人くらい乗れる大型馬車で。

ボク達の自慢の馬車だ。

引いてる馬は魔法で生み出した馬型ゴーレムが三体。

スレイプニルよりスピードは劣るが、疲れない。餌も不要。解除すれば消える。

馬車は魔法の袋に収納可能なので持ち運びできる馬車なのだ。


「それに、この馬車…普通の馬車より揺れないし…」


この馬車は実はオリジナル…というわけではないが現代地球にあった技術を少し再現した物となってる。

実はユウの賢者の紋章の検索範囲が現代地球にあった知識にまで検索可能になったのだ。

知りたい事全てが知れるわけではないけど、便利な能力だ。

そこで馬車の揺れを抑えるためにサスペンションやスプリングの知識を得てステファニアさんに再現をお願いして試行錯誤の結果出来た馬車がこれだ。

知識はあっても再現する技術がないのが難点か。


「楽でいいじゃないか。馬車は揺れるから苦手だったけど、これはいいな」


「うん。快適」


「私も腰が楽でいい。馬車に長時間乗ると腰が痛くなるが、この馬車ならかなり長時間でも平気そうだ。フカフカのクッションまであるし」


「ああ、もう!こんな楽な旅してたら普通の旅に戻れなくなっちゃうじゃない!」


「それは確かに」


「うん。一理ある」


「そうでしょ!?」


「しかし、その理論で行くとずっとこういう旅をしてた彼らに、私達の旅と同じようにやらせるのは酷だということになる。そもそも私達も便乗させてもらってるし、問題もない以上文句を言うのはお門違いだな」


「う…」


セリアさん、フランコ君、バルトハルトさんの言葉に反論出来なくなったらしい。

アイシスは未だ不満そうな顔のままボクに話かけて来る。


「のぉ、ジュンさんや」


「なんですかな、アイシスさんや」


「この馬車、譲ってくれんかの?」


「ほっほっほ。それは無理じゃな。無理無理じゃ」


「ぶぅー!ケチ!」


「そんな理不尽な」


この馬車、相当高価なんだよ?

庭付き一戸建てが余裕で帰るくらいの値段はするんだから。


「アイシスは交渉が下手」


「その前に今のは交渉だったのか?なんだ今の小芝居」


「なら二人が交渉してみなよ」


「私はやめておく。喧嘩になるのがオチだ」


あ、まだボクに隔意があるんですね、フランコ君。

何かしたっけなあ…


「任せて」


今度の交渉役はセリアさんらしい。

トコトコと歩いて来た。

やっぱり何か小動物みたいだな。


「ジュン様」


「何でしょう」


「この馬車、譲ってくれたら…」


「くれたら?」


「ヴェルリア王国の重要国家機密を教える」


「おいおいおい、こらこらこら」


凄い交渉術だな。

ちょっと心動かされそうになった。

そして勇者様御一行のツッコミ役はフランコ君なんですね。

気が合いそうなんだけどなあ、彼とは。


「セリア、お前は突然何を言うんだ」


「ダメ?」


「ダメに決まってるだろう。いや…そもそも君、国家機密を知る立場にないだろう。どんな情報を教える気だったんだ」


「カタリナ様のスリーサイズ」


「「「……」」」


うん、さっきよりグラっと来たね。

物によってはその交渉に乗ってもいいと思えるくらいには。


「まぁ…あいつ…いや、ジュン殿には有効そうだな。よし許可する」


「うん。行ってくる」


「いやいや!ダメだから!問題になるからダメだよセリア!」


「じゃあ、アイシスのスリーサイズ」


「ダメ!」「それはダメだな」


フランコ君にとって第三王女のカタリナさんよりアイシスの方が重要らしい。

薄々思ってたけど、フランコ君はアイシスが好きなのかな。

それで彼女と親し気にするボクが気に入らない、と。

なるほど。


「仲いいね。ちょっと騒がしいけど」


「まぁ、それはウチらも同じでしょ」


「そうだね」


「ところで、ジュンさんや」


「何ですかな、アイさんや」


「今ちょっとだけ交渉に乗りかけなかったかの」


「ほっほっほ。そんな事あるわけなかろうが」


ちょっと、おってなっただけだ。

乗らない乗らない。

それに、馬型ゴーレムが出せないと譲ってもあまり意味がない。


「本当かなあ。まぁいいけど。ところで何処まで行くの?」


「南の山だってさ」


「それって山賊が出る?」


「そこからもうちょい南」


「それってドラゴンが住む山って話のとこなんじゃない?」


「そこの手前。境界線になってるような山があるんだってさ」


「じゃあ山賊の出る山を越えて行くんだね?」


「そうなるね」


「…大丈夫なの?」


「追加で山賊の情報は集めたけど、まぁ大丈夫そうだよ」


山賊の規模は五十名ほど。

山賊の癖に装備は整っていて統率もとれているとか。

恐らく傭兵団崩れの山賊だそうだ。

どっか聞いた話だな…


「山賊に負ける心配なんてしてないよ。そっちじゃなくてさ、わかってるでしょう?」


「…大丈夫だよ。覚悟は決めてる。アイとユウは?」


「ウチも大丈夫」「私も大丈夫だよ」


「何の話?」


馬車の件で不満な顔してたアイシスがようやく落ち着いたのか、話に入って来た。


「山賊を殺せるかどうかって話だよ」


「え?何?殺しがしたいの?」


「まさか。そうじゃない。むしろ逆かな」


「ウチらはまだ、人殺しをした事がないの。盗賊や山賊相手でも」


冒険者になってから三年。

何度か盗賊や山賊、海賊を相手にする事もあった。

冒険者になる前に暗殺者に襲われた事もあったけれど、未だ殺人はした事がない。

殺さずとも何とかなっていたからだ。


「今までは無力化する事で殺さずに済んでた。ボク達自身の手では、ね。殺さなきゃいけない時は殺すつもりではいる。覚悟はしてる。でも出来るだけ殺しはしたくないって話だよ」


「それで問題無いだろう」


意外にもボクの考えを肯定したのはフランコ君だった。

てっきり彼は批判すると思ったけど。


「いざという時に迷わずに後悔しないように出来るのであれば、何も問題ないだろう。人殺しなんてしないで済むに越した事はない。少なくとも人殺しに慣れる必要なんてないからな。戦争中でもないんだから」


「魔獣は殺すのに?」


「そうだな。魔獣の中でもゴブリンのような人に近い姿をした人語を解する魔獣は殺せるのに、人は殺せない。なんとも矛盾してるように思える。だが人とはそんなモノだ。心の中に棚を作って見えない所に置く。そうしないと前に進めない者もいるという事だ」


とても十五歳の少年の言葉とは思えないな。

フランコ君は思ったより成熟した人格の持ち主みたいだ。


「それにジュン殿は将来魔王になって国を率いる身だろう。そんな人物は人殺しを躊躇する人格の方がいいに決まってる。それに、嫌な言い方になるが嫌な事は部下にやらせたっていいんだ。無理をして人殺しをする必要はない…なんだ、その眼は」


「いや、フランコ君だっけ?意外とまともな事も言えるんだなって」


「うん。お兄ちゃんには無条件で反対意見しか述べないのかと思った」


「…私は確かにジュン殿を好意的に見てはいないが、物事の正邪まで歪めて見るつもりはない」


「大丈夫だよ、フランコは何でかジュンの事気に入らないみたいだけど、真っ直ぐな性格な子だから。その内打ち解けて仲良くなれるよ!」


まあ、その理由はフランコ君がアイシスを好きだからだと思われるが、アイシスはそれに気が付いていない、と。


「ジュン様、そろそろ昼だ。昼食にするか?」


「そうしようか。適当なとこに停めて」


「了解だ」


ゴーレム馬車とはいえ御者は必要なのでセバストに御者をしてもらっていた。


「さ、食事の用意をしようか」


「「「は~い」」」


今日の昼食のメニューはセバスト作のベーグルサンドとスープ。それにカットフルーツだ。

まだ十一月だが、外で食べるには少々寒いので、魔法で風を遮断して少し暖かくしておく。


「ん?何かやった?」


「魔法で風を遮断して少しこの場を暖めただけだよ」


「そんな事も出来るんだ。僕も魔法は多少は使えるけど、魔法じゃジュンには勝てないね」


まあ魔王の紋章の持ち主ですから。

魔法はちょっと自信あるよ。


「ジュン、水お願い」


「はいはい」


何時ものようにピッチャーに水を注いであとは皆で自分で入れてもらう。


「水はジュンが出す事になってるの?」


「持って来てない?」


「ジュンが出す魔法の水は最高に美味しいの」


「飲んでみれば納得するよ」


一応、皆の魔法の袋の中には水が常備してあるけど、それは非常時用になっている。

食事時に出す水はボクが用意する事が当たり前になっていた。


「じゃあ、食べよう。いただきます」


うん、今日もセバストの料理は美味しい。

ボクもそこそこ出来るけど、セバストには敵わない。


「うん、美味しい」「美味しい」「美味いな」「うむ。美味」


勇者様御一行にも好評のようだ。

ムスっとした表情しか見せてなかったフランコ君も笑顔になる。

美味しい物食べると笑顔になるよね。


「勇者パーティーは普段誰が料理を?」


「フランコだよ」


「へえ~こりゃまた意外」


「私が一番まともだからというだけだ。他の三人のは料理と呼べない」


その言葉に反論の余地がないのだろう。

テヘヘとバツが悪そうに笑うアイシス達。

まぁ女なら料理出来ないとダメ、なんて言うつもりはない。

出来た方がいいとは思うけどね。


それから水を飲んだ勇者様御一行から「んまぁ~い!」を頂いて、昼食を終えて移動を再開する。


「今日は何処まで行くんだ?ジュン様」


「そうだね…山賊が出る山の手前に森がある。今日はそこで野営しよう。そちらもそれでいい?」


「いいけど、わざわざ森の中で野営するの?森の手前の方がいいんじゃない?」


「大丈夫、心配いらない」


「山賊対策か?まぁいいんじゃないか、アイシス」


「う、うん。な~んか引っ掛かるけど」


それから2.3時間後。

森についてから馬車を降りて、徒歩で森を進み。

暗くなってきた所で野営の準備を始め、アッと言う間に完了した所でアイシスが文句を言う。


「何よ、これ!」


「見ての通り、野営の準備だけど?」


「何処が!?いきなり森の中に立派な家が出来ちゃってますけど!?」


「家というか、もうちょっとした屋敷だね。凄いでしょ」


ボクも初めて使った時は驚いた。

父アスラッドも冒険者時代に使ってたというエルムバーン魔王家に伝わる魔法道具。

『マジックハウス』だ。

普段はミニチュアのような家の形をした置物だが、使用時には大きくなり人が寝泊まり出来るようになる。

料理も出来るし風呂もある。

トイレも驚きの水洗だ。


「何なのこれ!」


「魔法道具の『マジックハウス』だよ。便利でしょ」


「便利なんてもんじゃないでしょ、これ…。せいぜい出て来るとしても高性能なテントくらいかと思えば…」


ただある程度開けた場所が必要なので、以前までは森の中では使えずにいたのだが。


「それに、あの木が移動するアレ。アレも魔法道具?」


「まぁ、そんなとこ」


【フレイヤ】の能力のおかげで森の中の木も自由に移動可能。

マジックハウスをしまった後に元に戻しておけば問題ない。


「家の前のゴーレムは門番?」


「うん。結界も張ってあるから、ちょっとやそっとじゃ侵入されないよ」


マジックハウスの前にはストーンゴーレムやウッドゴーレム、マッドゴーレムを配置。

一体だけ地中から砂鉄等を集めて作ったアイアンゴーレムを配置。

それからガーゴイル型ゴーレムも屋根に配置して空の警戒も完璧。

結界も張ってるので森の中でも安心して眠れる。


「ハ、ハハハ。もう乾いた笑いしか出ないよ…」


「ベッドで眠れる。素敵」


「虫の心配もしなくていいし、見張りもゴーレムがしてくれる。言う事ないな」


「これなら少々酒を飲んでも問題あるまい」


アイシス以外の勇者様御一行は満足してくれてる様子。

旅とはいえ便利に越したことはないよね。

しっかり休んで、明日の旅に備えよう。

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